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レポート
2010.11.26
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<テン年代のメディア人たち>シリーズ

第1回「.review(ドット・レビュー)」発行人:西田亮介さん

1)概要

——2号を作っているんですよね。1号目はどんな反響でしたか。

 大学院生や、物を書きたいと思っている人、メディア作りに関心がある人を中心に、幅広い人たちに買っていただいているようです。1号にあたる.revierw 001(ドットレビュー)』は合計800部刷りました。最初500部作ったのですがあっという間に足りなくなって、追加で300部刷りました。.review 001のときには、ノウハウがなくて300ページ超にもかかわらず、実質10日くらいで作りました。最初は誤字脱字、誤植も多かったのが本当のところです。増刷した300部はそれらを直して、コンテンツを追加しています。それを.review 001ver1.3として、今書店や大学生協さんで販売していただいています。それだけではなく、直販や一部のコンテンツは電子書籍化してダウンロード販売も行っています(dotreview.jp/premium/)。今思えば最初のものは0.9くらいでしたね。それを買っていただいたのですからありがたいと思うのと同時に、関心を持っていただくことができたと思っています。

 

 ——そもそもどんなきっかけで「.review」を始めたんでしょうか。

 .reviewの構想は元を辿ると、2009年の秋に遡ります。ぼくは哲学者・小説家の東浩紀さんらが主催されていた『思想地図 vol.2books/nhk_books/shisou/)での原稿執筆をきっかけに、いろいろな大学の勉強会に呼ばれる機会が増えました。その結果、分野を問わず同年代の大学院生の知り合いが増えました。特に一橋大学の勉強会に呼ばれたときに、盛り上がって「一緒に、何かやろう」という話になりました。

 

このように、たまたま原稿執筆の良い機会をいただくことができて、「何かやろう。勉強会をやろうか」という話になったのだけど、ぼくは「アウトプットがないただの勉強はつまらない、なにかアウトプットにも取り組もう」と思った次第です。それで、「メディアを作ってみよう」という話になったわけです。

 

 昔はフォーマルな学会に限らず、インフォーマルな研究会がいろいろな所であったようです。今から思えば、ぼくが長い間お世話になっている宮台真司先生のゼミもそうでしたね。でも今そういう動きはかなりなくなっているように思えます。大学や研究科に閉じがちで、若手たちの独自な取組みはやりにくくなっているように思えます。実際、ぼくも当時は宮台ゼミを除くと、緩く、広く、さまざまな背景をもった人間が集まる研究会にはほとんど参加したことがありませんでした。

 

もしかすると、大学院重点化も影響しているのかもしれません。いま、博士院生には「とにかく早く博士号を取れ」、という高い圧力がかかっている。結果的に、院生も近視眼的になって、博士論文に直結しない「余計なこと」を避けたがる傾向があるようにも見えます。この先何十年も研究者としてやっていくことを目指す駆け出しの時期にそういうことでいいのか、ぼくにはよくわかりません。引き出しを広くしたり、既存のものの見方にとらわれない他分野の人たちと交流することも重要な気がしますが・・・

 

 話を戻します。メディアを作ろうとなったときに、そのコンセプトやミッションを練っていくことになるわけですが、そもそも「物を書く場所」を見渡すと、出版業界の厳しい現状がありました。昔は若手の登竜門的媒体がいくつもありました。ぼくの記憶では、InterCommunication『論座』あたりはそういう機能をもっていたのではないでしょうか。企業の文化活動の一環でも企業広報誌などがあって、そのような役割を果たしてたようにも思います。『未来心理』や、かつてのACROSSさんもそうだったのではないでしょうか。ぼくたちはそういう媒体で、少し年上の先輩たちが仕事をしているのをみて、「いつかは」と刺激を受けたものです。ですが、今ではこれらの媒体はすべてなくなってしまいました。紙面の数が減ると、若い実力が未知数の人間をこっそり忍び込ませるような「あそびの部分」が失われていきます。結果として「実績」のある書き手に、仕事が集中しているのではないでしょうか。教育から旅行記、脳の問題、政治まで一人の書き手が論じる時代ですから。また、若い書き手をさがす余裕もないように見えます。どこに若い人間がいて、何をやっているのか、よくわかっていらっしゃらないように見える。

ですが、ただこの現状をして、「出版社が悪い」とか、「ぼくらの世代は探されていない」などといってもしょうがないわけです。おそらく「めんどくさいやつがいる」くらいのレッテルをはられて終わってしまうでしょう。ぼくらにとっては「自分たちがこういうことをやっている」認知させることのほうが重要だと思います。「相手が探せないのなら、自分たちからアピールしてみよう」ということです。同時に、それが学術的価値とは別の社会的価値を持つ言説や収益に繋がったらおもしろいなとも思ったわけです。このようなミッションのもと、若い院生と、少し範囲を拡大して書き手を目指している人間の情報発信を自分たちの手でやっていこうということで始まったのが.reviewです。.reviewという名称は、「見直す」という意味のreview、インターネットを意味する.(ドット)」からつけました。

 

——そういうことは、西田さんより少し上の、30代の学者はやってこなかったんですか?院生だった人も多いと思うんですが。

 不勉強ながら、ぼくはあまり知りません。POSSEさん(www.npoposse.jp/)などでしょうか。むしろ最近になってそういった動きが盛んになってきた気がします。

たとえば前述の東浩紀さんは、『思想地図』の続編を自ら「コンテクチュアズ」(http://contectures.jp/)という会社を立ち上げて出版しようされていますね。社会学者の芹沢一也さんと荻上チキさんの「シノドス」http://synodos.jp/)もありますね。批評家宇野常寛さんPLANETSwakusei2nd.com/)もあります。また、charlieこと社会学者の鈴木謙介さんがメインパーソナリティをつとめるTBS「文化系トークラジオLIFEwww.tbsradio.jp/life/index.html)も、既存メディアで「自分たちが聴きたい番組を、自分たちの手でつくる」というコンセプトは変わりません。今、このような媒体をあげてきましたが、実は「.review」の立ち上げ前にぼくが仕事をさせていただいたメディアでもあります。共通することは既存メディアや組織にとらわれず、自分たちがやりたいことのために、その枠組みも作っていることです。仕事をさせていただいたことや、インフォーマルなお付き合いのなかで、ぼくにもそのような問題意識が自然に醸成されるきっかけになったのだと思います。

 あとぼくらの世代の博士院生になると、全員がちゃんと仕事に就けるとは思っていないですからね。学術的価値に限らず、もう少し一般的な社会的価値を生み出しておくことはキャリア形成の観点でも重要になる可能性があります。ぼくも、独立行政法人中小企業基盤整備機構や自治体、NPOなどと調査や企画の仕事を手掛けています。ぼくらはさすがに昔ながらのやり方でだけではヤバいとわかっている。でも、未だ正解や正攻法は定まっていないようにみえます。ということは、いろいろと試行錯誤することに価値があるといえるのではないでしょうか。.reviewもその一環です。

 

——研究者の道に進もうとしていても、仕事をしようと思うわけですか。

 院に行ったからといって、海外とことなり生活費が支給されたり、給料が出たりする身分の博士院生はきわめて少数です。食い扶持はなんとか稼がないとまずいですよね。それから研究にはお金がかかります。専門書は高額ですし、人文社会科学系は理系と比べて資金が必要ないと思われがちですが、それは「相対的に」です。調査に移動するには費用がかかるし、研究成果を報告するにも、学術キャリアを積むために学会に参加したり、学術誌に論文を掲載してもらうためにも数万円単位の資金がかかることが一般的です。本は図書館で借りればいいではないかという意見もあるかもしれませんが、趣味の読書のようにさらっと読み流すわけではありません。何度も読み返しますし、折り目をつけたり、書きこんだりする。やはり、研究で使うためには自分で購入する必要があります。博士院生ならみんな苦しい生活のなかで、なんとかやりくりしながら本を買っているはずです。そんな現状を『中央公論』2010年2月号の大学特集の「見えない将来の生活像…… ある若手研究者の悩み多き日常」というエッセイに、一般の人にもわかりやすいように記したことがありますので、気になる人は読んでみてください。

水月昭道さんの一連の著作のように、「大学院重点化や国が悪い」ということばかり言ってい人もいますけど、ぼくら下の世代が知りたいのはそんなことじゃありません。そんなことは分かりきっています。科学技術基本計画のなかで「科学技術創造立国」という政策目標を掲げていて、人材育成をうたっているのにこの現状はなんだ、と。分からなくはないけど、博士課程に進んだ人なら大抵は知っていることです。それから、どこの業界においても、自分のキャリアは少なからず自分で考えるしかないという側面もあります。国への文句をひたすら本にするのもいいですが、その解決策か、せめて方向性を示してほしい。むしろ、ぼくたちが知りたいのは文句ではなくて、上の世代の人たちがどうやって「生計を立てているのか」「キャリア構築しているのか」という成功例やノウハウです。文句はなんの参考にもならない。

2)「.review」制作関連

——掲載原稿は、アブストラクトをインターネットで募集するという方式ですね。すぐに集まりましたか。

 Twitterで呼びかけて、140人が「書く」と言ってくれました。けれども10000字、4000字の分量を書くことは容易ではありません。最終的に集まったのが35本で、それを全部載せました。当然、玉石混合です。.review 001は「書き手が読み手」となって規模を拡大していきたいということを考えていました。なので、全部入れてみました。この.reviewのロゴは、玉石混合をイメージして、学部4年生の子が作ってくれました。

 

——読み手が書き手、なるほど。そのときに、「.review」のブランディングはどういうことになるわけですか。これは、0号ということ?

 

 いえ、1号です。0号はwebですね。

 

——1号目は、これからメディアとしてやっていくうえで方向性を決める大事だと思うんですが、精査したりせずに始めたわけですね。

 1号目のコンセプトが、読み手と書き手を区別しないということです。何が玉で何が石かは、読み手が判断してください、と。

 

——テーマのばらけ方は面白いですよね。批評誌や文芸誌だとそれに興味がある人しか読まないけど、モンテッソーリから「小悪魔Ageha」、希少生物まで幅が広い。

 ウェブの誤配性みたいなものを紙面に落とし込んだということではないでしょうか。ウェブではタグでたどっていくと、全然予想の付かなかった所にたどりつくことがありますよね。そういう誤配の可能性をオフラインにも仕掛けてみたということではないでしょうか。またウェブポータルのニューサイトでもさまざまなテーマが一覧できますよね。でも、もともとは雑誌にもそういった側面があったと思いますし、情報のハブになるところに存在価値があったのではないでしょうか。ひとつの主題しか取り扱わないなら、もはや雑誌ってあんまり必要ないですよね。それから、やはりぼくも含め「これから」の人たちが多数紹介されているということに意味があるのではないでしょうか。何人かから、雑誌やウェブメディアの仕事に繋がったという、「我が意を得たり」という嬉しい声をいただきましたし、メンバーで一橋大学博士課程の塚越健司も、『エコノミスト』さんやラジオで仕事をしたりする機会に恵まれました。

 

 ——上がってきた原稿は、編集の手を加えたんですよね。

 編集はぼくらが手掛けました。とはいえ、とはいえ、出来ることはアドバイスくらいなんですが、今集まっているメンバーで、商業系の媒体で仕事をしたことがあるのはぼくしかいませんでしたので。表現面中心にガイドラインというほどの大げさなものでもないですが基準をつくって直しました。とはいえ、直しの量は、大量でそれはやはり大きな負担でしたね。ぼくは博士1年目のときに.review」の立ち上げをやっていたので、あまり研究や学術論文執筆ができていなかった時期があります。最近になってようやく、商業系の仕事と、学術研究の両立が少しずつできてくるようになりました。当時の指導教員には「そんなことをやっていてもアカデミックな業績にならない」とすごく怒られましたね(笑)

 

——そうまでしながらこれを出すというのは、使命感ですか。

 使命感という言葉には違和感があります。前述したように、2008年、2009年頃には、たくさん「新しいメディアを自分たちで作ろう」という試みがいろいろとありました。ただ、全部上の人たちがやっていたんですね。戦術的には宇野常寛さんたちのPLANETSwakusei2nd.com/)を、ぼくは一番参考にしましたけど、宇野さんとぼくでも多分5歳くらいは離れているような気がします。「ひとつくらい若いやつがやってもいいだろう」と思ったということはあります。たまたま、ぼくは若い世代の中では比較的早い時期に商業系の仕事を始めて、少し他の人よりは知られていた。それを最初の初動に使うことができたということです。それから、ミッションはありますけど、こういう新しい試みをやることは、ちゃんとぼくの社会的評価に繋がるというメリットもありますので、「使命感」という言葉だけでは語りきれない気がします。こうやって「ACROSS」さんも取材してくださるわけですから。

 

——1号目が玉石混合で、2号目のコンセプトは?

 次は「質」の向上と、さらなる実験です。.review 001にはいろいろと課題がありますが、あれでよかったと思っています。むしろ、予想を大きく越える反響をいただきました。.review 001のときは完成度よりも、先につながるプロトタイプを見せることはできなのかな、と思いました。ですが、次はそうはいかない。.review 002は、セレクション方式をとっています。Webでインタラクションできるコミュニティサイト(dotreview.jp/abst/)を作りました。執筆中の原稿を載せておいて、コメントをつけられるようになっています。書き手と読み手が相互作用のなかで、原稿を作ることができる環境です。書き手にとっては、前提条件を共有しない読み手のコメントは最初から貰えますし、読み手にとっては書き手にコミットメントした実感がある、というわけです。テーマは「場を作る」「書物の未来/未来の書物」自由テーマ、この3つで、あとは依頼原稿と、対談コンテンツを入れています。ちなみに、.revierw」の各種サイトやDTPは、小野塚亮という一橋大の4年生がほぼ一人で実装しています。外注しているわけではありません。高いクオリティでしょう?

 

——執筆中に公開して、意見を募集するということですね。拝見しましたが、コメントがちょっと書きにくいような…

 そうですね、登録しないといけない、固定ハンドルネームというハードルはあります。でも、ある程度のスクリーニングを設けておかないと、それこそウェブ炎上になりかねない。本当は実名かtwitterのアカウントも貼付けたいななどと思ったんですが、それはやりすぎでは、という意見もあったので、とりあえず登録すれば誰でもコメントできるようにはしています。

 

——同じ関心を持つ人がすごく書き込むかというと、そうでもないかんじですよね。どうやってコミュニティ化していくんでしょう。

 それは継続していくことでしょう。ぼくは結構ニッチなテーマや原稿でもいいと思っています。10万人に届ける雑誌だと、5人しか読まないコンテンツは載せることはできないけれど、.reviewはそうではない。ニッチなテーマが入ってもいいのかなと。それにウェブにはそんな情報もたくさんありますよね。そういう環境を再現してみたい。

それからそもそも大学院生や、300ページのボリュームを持つ活字媒体に関心を持つ層はさほど多くはないでしょう。そのなかであえてメジャーなコンテンツとニッチなコンテンツを共存することで、ニッチな関心を持っている人が自分の他にもいるのだなというきっかけづくりになればいいのかな、と思っています。少ないとはいえそういう人たちがいるということを、.review」をブリッジにしてもらえればいいのかなと思っています。いずれにせよ、あんまり細かいことを厳しく規定しないでやっていきたいですね。

 

——1人のものを、2人、3人にというと、やはり広げていきたいということですね。

 広げていく方が、プレゼンスを持つことができるということとも関係します。陣取りゲームのようなものですからね。今は800部だけど、これが8000部になったら、いろいろな人たちもただ横目で見ているだけというわけにもいかないでしょう。8万部になったらえらいことだし。とはいえ紙はやりたくなかったんですけどね、やたらとお金がかかります。

 

——これはいくらくらいかかったんですか。

 1号目の印刷費は確か23万円ほどです。これはぼくが出しました。あとはAdobeInDesign(インデザイン)Illustlator(イラストレター)を買って、サーバー借りてドメイン契約してもう数万円くらいかかったという感じでしょうか。あと、2冊目を出していくためには繋ぎの資金も必要ですね。でもただ1冊出すだけなら、総額30万円ほどできるんだから安いものですよね。大学生でも「やろう」と思えば、2月くらい本気でバイトすれば貯まる額です。

3)「.review」コンセプト、世代観

——.review」は、西田さんの中でどれくらいの比重を占めているんですか。

 きわめて戦術的な要素を含みます。なぜかというと、新しいことだからですね。「新しいことをやっている若い人間」は、注目されやすい。ぼくにとって十分メリットがあることなので、重要な意味を持っています。

 

——注目されていることを実感しているわけですね。

 そうですね、こうやって取材していただく機会も2ケタくらいはあります。ただ思った程、ぼくらと同じ世代の巻き込みはうまくいっているとはいえません。みんな「面白く読みました」とは言ってくれるんだけど、一緒になにかやろうというところまで行く人は多くはないですね。書き手ももっといるのかなと思ってましたし。

 

——物を書きたい人はもっといるかと。

 書きたい人もさることながら、.reviewを一緒に作っていきたいという人がなかなか増えない。「きっと連絡します」みたいな声はもらうけど、その後連絡が来ることはまずない(笑) 「おもしろそう」「メディアに興味がある」とがいって顔を出してみたものの、いざとなると面倒くさいことはやらない、とか。

 

——物をつくりあげるのは大変だし、スキルも必要だと思うので、それを面倒に思うんでしょうか。 

 そうかもしれませんね。

 

——先ほど、上の世代がぼくらの感覚と違う、と仰っていましたが具体的にはどんなところでしょう。

 難しいけど、上の世代はすでに名前のある人たとがやっているというところもあるのかもしれません。そうすると人脈や編集者、読者など使えるリソースも豊富ですし。ぼくたちはそういった「名前」がないので、プロジェクト自体の面白さをアピールしていくしかないわけですね。

 

——コンテンツ自体も上の世代とは違いますか。

 参加している人たちがそこまで意識しているかはわからないですが、コンテンツとメディアの領域の区分が曖昧になっている点をあげることができるかもしれません。少なくともぼくはそう思っています。名前のある書き手が少ないということは、.reviewの取組み自体が面白くなりと成り立ちませせん。未完成で常に更新していく、というコンテンツのありかたや、若手中心でというコンセプトさえも、メディアとしての機能を果たすということではないかと思っています。

 とはいえ、さして自分たちのことを「新しい」と見ているわけでもありません。コンセプト自体はアメリカのブログジャーナリズムの10年遅れに近いものがありますし、日本でいろいろインディペントなメディアブームもありました。結局、うちもクラウドソーシングのひとつなのですが、思えば国内で実際にやった例はが少なかった印象はあります。

 

——なんでもいいんだ、おもしろいことをやろうぜ、といって面白い企画がバンバン出てくるものなんですか。

 .reviewが、「プロジェクト」と呼んでいるのは、ひとつの「実験」だと思っているからです。面白くなかったらたためばいいでしょう。仮にぼくが面白いと思っても、世の中の人が面白くないと思うのだったら、それを無理に続ける必要はありません。

 

——.review」に集まってくる人たちは、西田さんに憧れてくるのでは?ここで書くことによって、西田さんのようになりたい、とか。

 どうでしょう。いまのところ聞いたことがありません(笑)そもそも、ぼくはミニコミを作ったり、そういう文化が好きな人たちには、「資本主義に魂を売ったやつ」みたいに見られている(笑)  

それから、このプロジェクトはぼくだけでは成り立ちません。小野塚のように技術に強いメンバーや、MBAコースにいて経営や販路開拓に強い羽山のようなメンバーも不可欠ですし、淵田、塚越、鈴木、いまのメンバーそれぞれに役割があります。その役割さえ、自生的に定着していったものですが。先にもいいましたが、ロゴは知り合いでデザインをやっている荒牧さんという子がつくってくれました。書き手の人もそうですし、東さん宇野さん「Life」charlieさん長谷川さん、数え上げればキリがないくらい多くの人が手助けしてくれています。「編集長」がメディアの固有名詞になる、それは何というか、ぼくの中では20世紀カルチャーの名残のように感じてしまいます。すくなくとも、.reviewからは早く消し去りたい。ぼくの予期しないものになっていってほしいですよ。

 

——西田さんと同世代の、20代後半の世代は、アグレッシブな人が多いですね。私たちは「スイスイ世代」って呼んでいるんですが、スイスイやりたいことをやっているし、メディアの使い方がうまい。上の世代が反応するのを知っていて、戦略的にやっている。物心ついた時からIT化していたからでしょうか。

 いや、ぼくらは最初からIT機器があたりまえにあった「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代ではありません。ぼくは83年生まれで、確か高校に入ったとき携帯電話を持ちました。でもそれはショートメッセージだけが送れるだけのものです。高校2、3年でモノクロのi-mode、大学に入ったときにカラーのi-modeになった記憶があります。カメラが付いたのも、大学に入ってからのことではないでしょうか。PCは早くから使っていましたがネットに繋がったのは中学生くらいのころ。定額のブロードバンドにいたっては大学に入ってからのことです。

でも、過渡期の世代だからこそ敏感なのだと思います。過渡期ゆえに次から次へといろいろな機能やサービスが出てきて、それを使いこなしてきた経験を持つ世代ではないでしょうか。70年代から80年代中ごろ生まれの世代特有のメディア経験に思えます。

もう少し上の世代はモバイルやソーシャルメディアに関心はあるけれど、多くの人は実際にはあまり手を出さない。下の世代は、ぼくの授業を履修している子たちをみてても、逆にモバイル一辺倒です。テレビも見ないし本も読まない。ぼくらは携帯もPCも使うし、狭間の世代ゆえの何かはあるのかななどと思ったりもします。いつかきちんと研究してみたいテーマですね。

 

——なるほど、使いこなす世代なんですね。

 最初から快適な環境はなかったことが大きいのではないでしょうか。安定したコミュニケーションの形式も定まってなくて、次から次へと変わっていく。モバイルのコミュニケーションも音声からテキストへ、モノクロからカラー、そして画像、今では動画へと変わっていった。常に変化がありましたね。なので、「新しいものやサービスをとりあえず試して使ってみる」、というエートスがあるのではないでしょうか。ぼくなんかもKindleiPadも即座に入手してみた口です。活用しているかどうかは別として(笑)

幸か不幸かぼくらは本も読みます。本も雑誌も、「紙の書籍」で読んできましたから。ただ、それが、電子書籍においては弱みになっているような気もしています。少なくともぼくの感受性なんですが、電子書籍は馴染みづらい。ガジェット好きなほうだと思いますけど、やっぱり仕事や研究の資料としてはいまのところ電子書籍を使えていません。小説を読むならいいかもしれないけど。どこか馴染まない。やはり紙の本を買います。「紙の書籍」という形態に、身体が馴染みすぎていて、電子書籍を馴染まそうと思うと相当な時間が必要な気がします。研究者の間でも紙の本をばらして電子書籍にする「自炊」が流行ったりしましたが、ぼくは「身体になじます」コストが面倒で完全移行できずにいますね。

4)同人誌との違い

——若い人のメディアは少しずつ増えてますよね。「ZINES MATE」などは行かれましたか。

 行ってないです。ぼくは同人誌コミュニティと相性がよくないので(笑) 

ぼくは趣味で物を書いたり、友人同士でそれを交換したりすることを否定しているわけでは一切ありません。全然ありだと思います。人には自由に趣味を楽しむ権利があると思いますから。

なのに、イベントに呼ばれていったりすると、「金にうるさい」だとか「同人誌コミュニティにリスペクトを示していない」などといって、いつも必ず怒られます。。そもそも、ぼくは同人誌をつくりたいといっているわけでさえないにもかかわらずです。お互い別々に生きていけばいいと思いますけどね。

 でも、ぼくからいえば、同人誌界隈は、商業出版の世界の縮小再生産にみえます。原稿料の話をしないことやルーズな締切、そういうところが草の根でかっこいいと思っているのかもしれませんが、それは商業系出版と同じ問題を抱えている。草の根の対抗勢力どころか、意図せず構造的な補完物になっている。

 

——一般の人からすると.reviewも他の同人誌も同じ土壌にあるように見えますが、大きな差があるわけですね。

 今はまだその段階に達していないですけど、ぼくらはアマチュアだけど、プロ並みのクオリティを目指してやっていきたいですよ。

 

——例えば書き手が育って、内容が充実してきて、出版社がこれを出したい、と言ってきたら?

 ああ、実は何度かそういう話はいただきました。ある学術系の出版社さんからは、「シリーズで、1冊当ててくれればい」と言っていただいたこともありました。ただ、そのときはぼくも大変さがわかっていなくて、セルフマネジメントみたいな理想にちょっと酔っていたこともあったので、即座にお断りしていまいました(笑) 振り返ると「もう少し交渉してみてもよかったかな」などと思ったりすることもあったりなかったり(笑)

 

——その蹴飛ばしたときと、受けてもいいという今の変化というのは、どんな風に自分で解析していますか。

 出版の過程がすべて一つ回ったことが大きいですね。つまり、「モノ」をつくって、流通させて、そこでかかる手間を頭ではなく、経験として理解できたということです。話をいただいた段階では、頭ではわかっていたけど、経験的には理解していませんでした。いわゆる、バックオフィスやマネジメントに相当する部分だけを外注できるのであれば、そしてそれによってもっと大きな価値を生み出せるのであればやってもよかったかなと思ったりすることもあったりするということです。

 

——そういうところは同人誌との決定的な違いかも知れませんね。

 そもそも同人誌は、他人が読むことを想定していません。高度に文脈を共有している仲間が読むことを想定しているものです。.reviewは、少なくとも文脈を共有しない人が読んでも、それなりにわかることを目指しています。

5)目指すもの

——結局「.review」はどこを目指しているんでしょう。

 繰り返しですが、「若い書き手の社会的認知を獲得していく」ということです。これに尽きます。先にも塚越の例をあげたりもしましたが、こういった実績は集積すればするほど効果があるはずです、もっと若い人にも参加してほしいですね。

 

——商業誌の仕事というのは、どんな位置づけですか。「.review」はそこに行くための手段?

 いえ違います。音楽の世界では、豊かで多様な関わり方ができるインディーズの世界があって、厳しいプロの世界がありますよね。インディーズとプロの両方で活動する人も少なくありません。そういう関係でありたいですね。もう少し現実的な話をすれば、専門価値だけでは生計を立てられない可能性がある。だけど商業系の仕事 によって社会的価値を生み出していれば、そちらが評価されたり、別の収入に繋がる可能性もあります。社会的価値と専門的価値、両方持つことが重要ではない かと思います。

 

——「生計を立てる」という意味では、「.review」もその手段を目指しているわけですか。

 そういう回路を作ることができればいいなと思っています。収益構造も、雑誌とは違うし、そこで要求するリクエストも、商業的な媒体とは違います。企画の持ち込みもいつでも受けつけていますし、やり方次第ではかなりいろいろなことを試してみることができるのではないかと思っています。

 現時点では無理ですが、今用意しているダウンロードサイト(dotreview.jp/premium/)も、コンテンツが増えて、面白いお金が回るサイクルができればいいなと。よく笑われるんだけど、ぼくまず3000万円くらい売り上げたいと思っているんです。中小企業の世界では、従業員を雇う目安といわれます。そういう規模で、資金的にも独立しインデペンデント・メディアに関心があります。その意味では、ジャーナリスト神保哲生さん「ビデオニュース・ドットコム」www.videonews.com/)はすごいですよね。

 

——売上で3000万円というのは、どういうイメージなんでしょう。

 今までの出版業とは違うモデルを考えなければいけないということではないでしょうか。書店で「紙の書籍」を売るという方法だけでは、この売上額はいつまでたっても実現できないと思います。なんらかのイノベーションが必要です。ひとつ念頭においているのは、greenz.jpgreenz.jp/というサイトなんですが、あそこもメディアビジネスですよね。webで情報提供しながら売上があがればいいなと。

 

——greenz.jp」はソーシャルとかエコロジーなどがテーマで、今旬というか、お金を引っ張りやすいですよね。モノや空間があるから目に見えやすい。「.review」はどういうジャンルになるんでしょう。

 コミュニティや知的なものに関心がある人たちも潜在的には少なくないと思います。緩やかで、広範な繋がりを作って、そこから収益をあげることを漠然と考えています。高齢化が進むということは、若手は相対的に価値を持つはずなんです。希少材だから。このあたりもキーワードではないかと考えています。

 

——それは集まった書き手次第ですよね。いい書き手がたくさん生まれれば、おのずと人も集まってくる。

 どうでしょうか。「先天的にいい書き手」 という人はそれほど多くないのではないでしょうか。ぼくもあまり器用な方ではありません。とても苦労しました。多くの書き手にとっては、何回も訓練する場、練習する場所が必要だと思いますよ。やはり商業誌で書く文体と、学術系で書く文体とでは全然違う。ぼくも慣れるのにすごく時間がかかりました。ぼくが 恵まれていたのは、何度も書く場があったことだと思います。今でも自分の文章が絶対的にうまいとはとても思いませんが、以前の自分と比較すると相対的には格段にうまくなったと思います。そういった人の目にふれながら、書く場所がいまは少ない。

 

——書く場といえば、ブログなど以前より格段に増えていると思いますが。

 いや、ブログは編集する人もいませんし、一文一文、あるいは表現技法に具体的にコメントをもらえるわけではありません。それから、ブログブームが一巡して、ブログが増えすぎました。ブログにエントリを書くだけで世の中に認知されることは最近では難しいでしょう。

 

——古いメディアとの一番の違いはなんでしょうか。

 既存メディアとの最も大きな違いは、「本を出すことを目的にしているわけではないこと」、「新しいメディアとも、既存メディアとも対立する気がないこと」でしょう。新しいメディアと組み合わせて面白いことをやりたい。それから、「おもしろいことをやりたい」と思う若い世代で何かやりたいですね。「.review」はそのためのプラットフォームとして使っていきたいと思っています。


聞き手/文:神谷巻尾(フリーエディター)+「アクロス」編集部


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