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レポート
2003.03.01
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相原博之/AIHARA HIROYUKI インタビュー

バンダイキャラクター研究所 所長

PROFILE:
1961年10月1日仙台市生まれ。血液型AB型。1986年に早稲田大学第一文学部を卒業後、調査会社を経て大手広告代理店に入社。マーケティングプランナーとして、キリンビールのキャンペーンを手がける一方、時代評論、トレンド分析等で活躍。97年に100%ORANGE、カンバラクニエ、山本祐布子、櫛永晴美など、現在注目の新進女性アーティストが多くデビューした幻のインディーズマガジン『Girlie』を創刊。2000年4月に出版した『Girlie's Cafe』はアーティストをめざす若い女の子たちのバイブルとなった。
その後2000年7月に(株)バンダイに入社。キャラクター研究所の主任研究員として、キャラクターと現代社会に関する調査研究を行い、精神科医香山リカ氏との共著『87%の日本人がキャラクターを好きな理由』を発表。また2000年10月には新しい時代の「ニュースタンダード」なキャラクターの開発をめざし、絵本レーベル「Pict.Book」を立ち上げる。人気イラストレーター長崎訓子初の絵本をプロデュース。そして、2002年8月「Pict.Book」第3弾として発売した「くまのがっこう」では自らストーリーを担当。発売半年で6万部の大ヒット。
その後、2005年、株式会社キャラ研設立。代表取締役社長に就任。2007年、『キャラ化するニッポン』(講談社新書)上梓。

とっても広いキャラクターの定義

もともと、うちの会社は、あまりマーケティングとかトレンド分析などをしてから商品を開発するという習性がなかったようで、なんか面白そうなものを出しちゃえ、という勢いが先行していたようですね。

ヒットしたものもあれば、しなかったものもある。昔はそれでもよかったんですが、21世紀になり、業界のトップ企業らしく、キャラクターについて科学的にアプローチしよう、と、シンクタンクといいますか、研究機関というのを設けるべきだろうと、いうことでできたのが、バンダイキャラクター研究所です。

キャラクターのシンクタンクは日本初。当然社内の人間だけではできません。ということで、僕らのような人間が外から呼ばれて寄せ集め部隊が完成しました。ですから、今だに社内事情がよくわからない人がほとんど(笑)。社内ではちょっと異質のセクションだと思いますね。

守備範囲としては、マーケティングとか社会学的な調査研究、なぜ世の中にはキャラクターがこんなに広がっているのかとか、キャラクターは世の中の企業とどのように関係してくるかなど。トレンド分析は一応専門家でもありますが、まずは基礎研究から。どういうキャラクターが世の中に受け入れられるのか。それを明らかにする、ビジネスの前段階です。

僕自身は、バンダイが得意とするTV系のキャラクターなど、ぜんぜん興味がありませんでした。というより、どちらかというとああいう男玩(男児玩具のこと)は苦手な方でしたね(笑)。でも、広い意味でのキャラクター、と考えるとけっこう面白い。タレントさんはもちろんのこと、政治家も弁護士もキャラクターの時代です。さらにアートの世界、たとえば、村上隆さんとか奈良美智さんなどが描くものもキャラクターのひとつです。

「ジャパニーズ・ガーリー・ムーブメント」と『Girlie』

僕が学生生活を送った80年代は、広告がものすごい力を持っていた時代でした。糸井さんとか中畑さんとかが確実に新しい時代をつくっていったわけですが、僕らが一線に出る90年代になると、それらはすべて停滞しはじめていたんです。どちらかというとマーケティング・オリエンテッドな時代に変わっていましたね。文化想像力がすっかりなくなってしまっていた。

それでも、僕は、ビールメーカーさんで60億円のキャンペーンをやってます、と肩で風きってた時もありましたけどね(苦笑)。でもいくらバジェットが大きくても、社会的な影響力は皆無に等しい。それより、売れないインディーズ雑誌をやる方が、ある種の力を持っていたりする90年代のカルチャーにとても衝撃を受けたんです。

彼らは、僕らが飲み食いしてしまうようなお金で雑誌をつくる。そういうエネルギーを持つ若者がいっぱいるわけです。いい悪い、うまいヘタは別にして、とにかくものすごいパワーがあった。そういうエネルギーと毎日接触しているうちに、実際に彼等と何かをつくり出せないかなあ、という思いが強くなっていきました。

やっぱり小さくてもなんらかの動きを起こさないと面白くない。パロトンじゃないですが、そういうまだ無名のクリエイターをバックアップしたいと思い、スポンサーを見つけては、いろんなイベントで起用したりというようなことをやってました。そんなクリエイターの発掘とネットワークの形成のために、雑誌『Girlie』が生まれたわけです。97年のことでした。

村上隆さんがヒロポンファクトリーなんかでやられていたのと同じような流れだと思いますね。ちょうど「東京ガールズブラボー」の1回目。当時は男の子よりも女の子の方がパワーがありましたね。『Girlie』編集部に寄せられる作品も女の子たちのものが多かったですし、実際に女性のアーティストもいっぱい出てきた。

その背景には、90年代半ばにアメリカで起こったガーリー・ムーブメントを受けての日本でのガーリー・カルチャーだったと思うのですが、アメリカと日本では実はその中身がぜんぜん違います。

アメリカのガーリー・ムーブメントは、カウンターカルチャーの匂いがとても強くて、どちらかというと、大人たちが子供というカルチャーを利用して、子ども的な価値観を政治に利用するような感じがあったんですが、日本の場合は、もっと緩くて何も考えてないガーリー。若者というか子どものカルチャーで、なんだかわかんないけど好きだから描いてます、っていう子がほとんどでしたね。だからインタビューしても原稿にならない(笑)。「どういうふうにかわいいの?」って言うだけなんんです。「どういうふうに?」て聞いても、「ただかわいいの」。でも、それが当時の東京のストリートだったんです。

「ど真ん中の時代」の到来

97、98年くらいからでしょうか。「大人コドモカルチャー」といわれるように、サブカルチャーが失速。かわりにもっと整理されて一般化したものがオモテに出てきました。経済状況の変化がもっとも大きな要因だと思いますが、インディーズマガジンも終息気味になっていった。しかし、そんな動きと入れ代わるように、キャラクターが面白くなっていったんです。ギリギリのところで、非常に力をもってきたような気がします。そんなことを意識してバンダイに来たわけではないんですが、結果的には面白いポジションに座っているなあ、と感じますね。

つい先日、あの別冊宝島が『ハイジ』を取り上げた、っていうのを知り、ああ、サブカルチャーは終わったな、とつくづく思いました。いわゆる、きれい対かわいい、という構図があって、それと対抗する形で「ブスかわいい」カルチャーというのが出てきた。昔だったらJUDY & MARYのYUKIちゃんが好き、っていう方がかっこいい、っていうのがあったじゃないですか。そこには、こっちの方がカルチャー度が高くてカッコイイというイメージがあった。でも、今はYUKIちゃんよりもハイジの方がかわいいんですよ。ヒネリもなにもない、「ど真ん中の時代」の到来です。NHKが「ひょっこりひょうたん島」をやる時代なんです(笑)。

村上隆さんは「スーパーフラット」といういい方をしましたけど、全部均質になっちゃったから、ハイジの方が力をもっているのは当然のことです。もちろん、個々は多様化しているんですが、その昔は、個々の差異のようなものが重要な意味を持っていて、こっちはサブカルチャー、こっちはメジャーという壁がちゃんとあったと思うんです。そういう屈折がすっかりとっぱらわれた。それをつきつめていったら「子ども」になっちゃった、というわけです。

最近、「トムとジェリー」とかの話もすごく盛り上がるんです。5人に「昨日トムとジェリーのDVDを観た」と言うと、「実は僕も大好きなんですよ!」って4人が言う。トムとジェリーとYUKIちゃんを比べても、今はみんなトムとジェリーの方が好きなんです。若者たちも好きだし、僕ら世代も好き。おそらく、90年代後半にアメリカで起こったノスタルジック・コンザンプションという流れだと思うのですが、日本においても、2世代、3世代に支持されるものが圧倒的に強い時代なんだと思います。

「記憶の装置化」としての絵本

子どもの頃の幸せな記憶ってあるじゃないですか。たとえばディズニーランドに行ったという記憶。実際にミッキーとかミニーとかに抱き締められたかどうか別にして、一般化された記憶とでもいうのでしょうか。「記憶の装置化」っていってるんですが、絵本は、リアルな記憶ではなく、いくつもの断片的な幸せの記憶を内包するメディアなんです。TVと絵本を比べると絵本の方があったかそうに感じる、というのは、みんなのそういう記憶がいっぱい詰まっているものだからだと思います。

また、親世代からすると、親が子に絵本を読み聞かせるという行為は理想のファミリー像のイメージ。そういう中から生まれてくるキャラクターの方が、テレビやマンガから生まれるものよりも力を持つ時代になってきたのです。

そんな価値観の変化を受け、2001年10月に「Pict. books」という絵本のレーベルをつくりました。絵は『Girlie』の時から交流のあった長崎訓子さんと池田まりこさんにお願いし、編集は『Girlie』のスタッフが担当しました。

コンセプトは「若い女の子たちのための絵本シリーズ」。けっこう話題にはなりましたが、改めて店頭で見てみると、商品としての完成度がちょっと気になった。オシャレでエッジーでいいんですが、どこかシロウトっぽさが僕自身ちょっと時代とのズレを感じたのです。作品は文句ないんですけどね。

その後、一部の若者に絶大な支持を受けている長崎さんの本よりも、どちらかというとベタな池田さんの絵本の方がじわじわ、じわじわと、ゆっくり売れ続けていることにとても驚きましたね。買っていくのは20代後半のママ。よく考えたら、感覚的には「若い女の子たち」とぜんぜん変わらない。その時です。ああ、やっぱり「ど真ん中」なんだな、と思いました。

「ニュースタンダード」

それから模索すること約半年。第2弾は思いきって「ど真ん中」を狙いました。それがこの「くまさんシリーズ」です。

編集はブロンズ新社という絵本を手掛ける新しい出版社にお願いしました。イラストを描いてくれたのは、これも『Girlie』つながりのあだちなみさんです。

彼女はもともとナショナルスタンダードにいたデザイナーさんで、ある日「くまさん描いてよ」とお願いしたら、いっぱいいっぱい描いてきたんです。なるほど、ピンだとキャラが弱いけど、集団になるとさり気ない個性の違いが見えて面白い。なにより、服のデザインや小物のセンス、背景の家など、ディテールへのこだわりが今っぽい仕上がりになっているのがポイントです。

第1弾のときはフレーム自体を新しいところに置いたんですが、第2弾は、くまとか学校とかという定番の枠組みはきちっとつくってあげて、ぎりぎりのところで遊ぶ。そのバランス感覚がポイントなのです。

最初は本当にこんなタイトルでいいのかな、と悩みましたけどね(苦笑)。僕ひとりだったら、きっと見本が刷り上がってきたらやり直していたかもしれませんね。ブロンズ新社の女性社長さんのおかげです。「相原さん、ニュースタンダートやりたいっていったじゃない?」って(笑)。

おかげさまで2冊合わせて6万部。絵本でキャラクターが浸透したら、ここから映像化をしたり、玩具やグッズを展開していく予定です。

ど真ん中を突きつつ、微妙に新しい。そういう微妙な形こそが、ニュースタンダードなんだと思いますね。


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