ACROSS Street Fashion Marketing

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レポート
2003.04.04
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安岡洋一/YASUOKA YOICHI インタビュー

「hacknet」代表/memex社長

一見関係ないようなものを定期的にリサーチすることが大切なんです。

緊張感のある店にしたかったんです。ロンドンとかパリにあるような、洗練されていて、そこに行くといろんな情報を吸収することができる本屋さん。併設する部分にはコレットのようなオシャレな路面店が入っていたりと、街の景観にも一役かっているような店。そんな思いで大阪の船場に築35年の木材倉庫を改装し「ハックネット」をオープンしたのが今から7年前。1996年のことでした。

テーマは「アタマの散歩」。本もスーパーマーケットのような業態の店で消費されるなか、あえてクリエイターの方々に使って頂けるような品揃えのプロショップをめざしました。当時の船場は本当に何もないところで、あんな場所に突然書店をオープンしたのも大胆だったと思いますが、事業のスタートの仕方もかなり無謀でしたね(苦笑)。

書店をやろうと思ったのは、ちょうど人生の目標を見失っていた頃。再びNYに戻り、お気に入りだった書店「リッツォーリ」を訪れ、「こういう書店って日本にないよねー」という、ある種の閃きのようなものからなんです。思い立ったらテンションの高いうちに直ぐに行動したくなるタイプなので、即行で帰国。親の会社に頼み、銀行からお金を借り、まず株式会社をつくった。社名は(株)メメックスです。まずは形から(笑)。というわけではなく、有限会社では海外で信用されないかもしれないと思ったんです。そして、再びリッツォーリに行き、ぴったり100万円分の本を仕入れました。といっても、仕入れのイロハを知らないので、半ばカンでしたけどね。卸し価格でも1冊平均すると5000円くらいはしましたから、全部でたったの200冊程度。オープン当初は、商品がぜんぜん足りなくて、ほとんど本棚に面出ししてました(笑)。

そんな無謀な仕入れをしつつもリサーチは忘れません。書店はもちろんのこと、マンハッタン中の人気のカフェやレストラン、雑貨店など、業態にこだわらずいろんな店を見てまわりました。当時は、「ニューズバー」が出店ラッシュだった時で、これも日本にはない業態だなあ、このコンセプトって何なんだろう、などとずっと考えていました。

今でも年に6回以上は海外に行きます。一部仕入れも兼ねていますが、メインの目的はリサーチ。主要なブックフェアや専門店をチェックするのはもちろんのこと、ファッションやカフェ、レストランなど、いろんな業態のショップや旬な場所をくまなく視察するんです。この一見本業とは関係なさそうなものをコンスタントに観察するという作業が大切なんです。このスタンスは、ハックネットを始めてからずっとやっていますが、これは日本に入っていない、これは受けるだろう、これはダメだな、というのが見えてくるから面白いですね。

出版界の抱えている問題を解決していこう!

日本はまだまだ情報の鎖国のようなところがあって、洋書などはその最たるもの。日本に入るべきはずの本が入ってきていない。そういうものが世界中にいっぱいあるんです。まあ、取次さんはマスに効率よく売りたいわけですから、「いい本」よりボリュームゾーンで売れるものが優先されてしまうのは当然のこと。版元との条件が合わなかったりもするでしょう。だったら、仕入れも小売りも小回りのきく僕らのようなものが、直接仕入れて直接販売しよう。販売するのも、書店に限らず、さまざまな業態と共存するスペースを提案しよう、と発展していきました。出版界が抱えている問題を解決していこう、という使命感のような熱い思いもありましたね。

そう決心してからは、片っ端からファックスや電話をしまくり、取引先としての契約を取っていきました。と同時に、ネットでそれぞれの商品のマーケットプライスも確認するなど、自分たちで拾える情報はじゃんじゃんリサーチしましたね。おかげさまで、現在、取扱出版社及び仕入れ先は世界16カ国、約300社以上にまで増えました。

僕は、本屋は情報集積産業であるべきだと思っていますから、いってみれば僕らスタッフはそのナビゲーターです。今は、アマゾンなどワールドワイドで展開するネット書店もたくさんあるので、より他店と差別化を図っていかないといけない。となると、常に鮮度の高い世界の情報をお届けできるよう、ますますリサーチが重要な意味を持ってくると思いますね。

ハイテンションと高い志

実は、ハックネットのオープンと同時に、会員制のネット書店事業も行っていました。年会費2000円で1册購入ごとに20%オフ。さらにメールマガジンなどによる情報も定期的に提供する、というものでしたが、手間がかかるわりにはあまりうまくいかず約2年で終了。そのとき、本というものは、価格が安いからといって売れるわけではないんだな、ということに気づきました。それ以来、ホームページでは、徹底した在庫管理や入荷予定などの書籍情報を積極的に公開。更新もきちんと行い、常にプロの方々の「知」のニーズに訴求するものへと変えていきました。うち、在庫管理は細かいですよ。毎月末、関連店舗での売れ筋動向がわかるシステムになっているんです。エリアによって売れるものが異なるじゃないですか。在庫のダブつきや品切れなどがないよう、商品を上手にまわします。もちろん、為替とも連動していますし、売れ筋を予測して増減をかけたりもします。まさにマーケティングです。

ハックネットは、その後もしばらくは模索期が続きました。事業としてはずっと赤字続き。とにかく、「やりたい!」という思いだけで突っ走っていたような気もします(笑)。それでも雑誌やTVなどからの取材は最初の2年だけで200件以上きました。「続けた方がいいよー」「必要だよね、こういう書店」といった励ましのような他人事のようなコメントもたくさん寄せられるようになり、存在としての評価はされているんだな、という確信のようなものは感じていました。まあ、自分自身でも絶対に無理だとは思っていなかったですけどね(笑)。

そんなハイテンションだったからこそ、いろんな人との出会いもあったように思います。ミラノ・サローネという家具の見本市に行ったのも大きかったと思います。ちょうど日本でもインテリアがムーブメントになりつつあった頃ですから、もう5〜6年にもなるでしょうか。そこで出会った人たちの繋がりで、
書籍を含む商業空間のプロデュースやリーシングの企画などの仕事も手掛けるようになりました。家具と本、カフェと本、ファッションと本など、複合ショップが急増した時期でもあったので、MD(マーチャンダイジング)がらみの仕事も多かったですね。

今でも、インテリア、カフェ、アパレルショップ、などに書籍を卸販売しています。比較的元気な企業さんが多いようです。つい最近までは、某アパレルさんと組んで某セレクトショップのMDも手掛けていましたが、書籍は全体の品揃えのひとつとしてあればいい、というスタンスが強くなり、手間がかかる割には面白みに欠けてしまったので、今春からは辞退してしまいました。やっぱり志の高い人と仕事がしたいじゃないですか。

メイド・イン・ジャパンのカルチャーを海外に輸出したい

98年の春だったでしょうか。ヨーロッパにリサーチに行ったときに、オランダの『FRAME』という、これまで見たことのないインテリア雑誌と出会いました。ちょうど創刊2号目という新しい雑誌だったんですが、妙に惹かれて、さっそく国内販売権を獲得。他にもロシアのインテリア雑誌『モニター』の国内販売権も取得したり、水をテーマにしたアートカタログ『WATER PLANET』などは、国内だけでなく、世界8ヵ国に輸出・販売しています。

その後、『FRAME』に関しては、国際的活躍が期待される日本のクリエイターを海外に紹介するという特集号の企画・プロデュースも手がけるようになりました。『Powershop』がそれです。東京を拠点に物販店のインテリアデザインを手掛けるAZB,Curiosity,EXIT,FumitaDesign,Yasuo Kondo design,OUT Design,SEI,Wonderwall,Hideo yasui Atelier, Tokujin Yoshioka Designなど10名のインテリアデザイナーの特集号。イッセイ・ミヤケ、日産、タグホイヤー、ソニーなどのプロジェクトを海外に紹介するというもので、欧米でもなかなかの評判になっています。今は、6月発売予定の片山正通氏をフィーチャーした単行のプロデュースしているところです。実は、日本には、まだまだオモテに出ていないクリエイターの方々がたくさんいるんです。そんな日本のクリエイターやカルチャーをきちんと海外に紹介していく作業は、昔から手がけたかったことのひとつなので、とてもやりがいがあります。

再び、本業。

結局、最初の2年間に出したハックネットの赤字を、ハックネット以外の売上げで回収してきた、ということになります。約2年間くらいかかったでしょうか。本当はもう少し早く、東京店をオープンする予定だったんですが、予定より1〜2年ほど遅れてしまいました。

でも、これもタイミングで、去年ではなく今、こうやって東京で再スタートしていることには、なんらかの意味があってのことなんだと思うのです。僕は、昔からそうやって、いろんなアゲインストな状況も「きっとなにかのシグナル」と関連づけることで前に進んできたような気がしますね。そうそう、実は、某著名人と3人で「SPA会/スーパーポジティブ・アソシエーション」というのを立ち上げたんです。といっても、何かをするわけじゃなくて、ユニット名(笑)。

まあ、そういう意味でも、今回の東京進出は、自分の中では本業回帰、原点回帰の意味が強いかもしれません。場所も、当初は青山とか千駄ヶ谷、六本木などいろいろな候補もありましたが、代官山という立地でよかったと思っています。

街の発展していく過程において、本屋さんが登場する時期というのがあって、まさにこのあたりの雰囲気は、6年前に船場に出店した頃と似ているような気がします。これからの街としての成熟化の役割が担えたら嬉しいなと思っています。

まだまだ未完成ですが、これから予想しないようなことが起こりそうで、ワクワクしますね。将来は、パリやロンドンに自分の店を持ちたい。まだもう少し、踏ん張らなくちゃいけない時期だな、と思っています。また、僕らのやってることを見て、社会に対してチャレンジする若い人が増えてくれたら嬉しいですね。


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