ACROSS Street Fashion Marketing

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レポート
2003.08.08
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柏木篤/KASHIWAGI ATUSHI インタビュー

ワーカホリックス株式会社 代表取締役
代々木上原のショップ。1/4ほどのスペー
スが小山登美夫ディレクションの「TKGY
at lammfromm」。
奈良美智さんのTシャツはオバサマたち
にも大人気。

アートマーケットはそれほど大きくない

7月16日から8月5日まで、新宿伊勢丹で「ラムフロム・ザ・コンセプトストア」の催事をやったんです。そうしたら予想以上に売れ行きがよくて驚きました。伊勢丹の人もびっくりしていたくらいです(笑)。おそらく、インターナショナル・デザイナーズというフロアがよかったんだと思いますね。プラダとかギャルソンとか、ブルガリとかが置いてあるフロアなので、お客様にとっては、催事だとしてもそれなりのステイタスのある商品だと思うじゃないですか。安心感というか。そのわりには価格的には高くない。それが割安感として写ったのかもしれません。

百貨店に出店した約3週間はとても勉強になりました。たとえば、村上隆さんが、ルイ・ヴィトンとのコラボレーションでものすごく有名になったといっても、それはある特定の人々の間のこと。国民的レベルでみると、まだまだ知られていない、ということが分かり驚きました。「あら、ヴィトンと同じ絵柄だわ」「六本木ヒルズのね」。オジサン、オバサンの間では、「ああ、あれね」というくらいの感覚でしかないんです。

そういう意味では、モノを見て、気に入ってくれるかどうかがすべてということになります。Tシャツひとつ取ってみても、たかがTシャツですが、されどTシャツ。ただアメリカのでっかいTシャツの前面にバーンって無造作にプリントされてるだけでは、コアなファンかファッションに無頓着な人にしか売れないでしょう。いや、今の若い人たちだったら、いくらファンでも買わないかもしれない。うちは、そういうディテールにとにかくこだわりたかったんです。Tシャツなら、素材やサイジング、パターン、モチーフの入り方などにもこだわったモノづくりをしているつもりです。

もともと、アートマーケット自体はそれほど大きくない。アーティストグッズよりはキャラクターグッズを買う人の方が圧倒的に多いでしょう。うちがつくっているのは、キャラクターグッズではなく、アート作品そのものでもない。強いていうなら「アート・イコン商品」でしょうかね。
村上さんの初のグッズとなったDOB君時計。
スペシャルケース入りで18,800円はかなり
おトク。これは幻の1996年モデル。
奈良さんの時計も大人気。これは復刻
モデル。

きっかけは、世界初の「DOB君時計」

96年頃だったでしょうか。僕たちは、モノ雑誌を中心に、時計を紹介する仕事を多く手がけていました。広告だったり、編集ページだったりといろいろ。ちょうどGショックが流行っていた頃で、各社、それに対抗するような商品企画が盛んに行われていた時期でもありました。

そんなある日、シチズンさんから、なんか面白い企画はないでしょうかと相談を持ちかけられたんです。じゃあ、こんな現代アートの作家がいるからアートウォッチはどうでしょう、と提案したのが最初です。村上さんの作品にしようと思ったのは、個人的な好みもありますが、現実的に時計という商品に落としこんだ時のイメージがしやすかった、というのもあったかもしれません。作風が漠然としたものだと、時計というモノにしてもその良さが伝わらないですから。

村上さんも、まだ今ほど忙しい方じゃなかったので、「いいですよ、やりましょう」と軽い感じでスタートした。もともと村上さんは、作品の発表の場として媒体戦略のようなものがあるので、そのひとつとして面白がってくれたのかもしれません。

とはいえ、ゼロからではコストが莫大にかかってしまうので、ベースに「インディペンデント」という既存のモデルに手を入れることになった。ただし、単にベルトにプリントをするといったレベルのものではなく、ちゃんと商品化したいと思っていましたから、ディテールの部分で、どこで納得することができるかというのがたいへんでした。実際につくってみないと全体的なニュアンスはなかなかわからない。たとえばDOB君の眼などは、実はものすごく繊細な線で描かれているんですが、その作品のニュアンスを消してしまっては商品としての価値もゼロになってしまう。

実は、ウラ蓋のところに、一筆書きのようなDOB君がいるんですが、これは、村上さんが「こんな感じで」と打合せの時にサラサラっと描いたもの。すごく雰囲気があってよかったので、刻印っぽく使おうということになった。デザイナーに「これをウラ蓋に入れてください」とお願いをしたら、デザイナーさん、フリーハンドの緩やかな線をキレイに直しちゃったんですよ。「いや、これは直さなくていいから、このまま、入れてください」。そういうやり取りが何度もありましたね(笑)。

そうしてコレが完成した。村上さん初のグッズです。18,800円で999本の限定ものとして発売したところ、1〜2ヵ月もしないうちに完売。特に、「ここまで変えられるんだ!」と、一般の人たちよりも、業者の人たちがびっくりして、シチズンの方にものすごく問い合わせが入ったそうです。もちろん、村上さんも、「おお、こんなふうになったんだ」と面白がってくれて、もっといろいろつくりましょう、ということになりました。

98年には奈良美智さんの時計をつくりました。これも予想以上に評判がよくて、2〜3ヵ月で完売。ますます、こういうマーケットがあるんだな、と確信しました。
奥はパートナーの椎名氏。
ダグ・エイケンの写真やブライアン・
カルビンの珍しいドローイングなど、
実は柏木さんのオフィスは宝の山。

もともとアート好きのモノ好きだったんです。

昔からデザインものが非常に好きで、モノ好きだったことは確かですね。アートも見るのも好きで、ギャラリーなどにもよく出かけていました。特に80年代は、デザインものがもてはやされていた時代。ポストモダニズムとかいわれて、エットーレ・ソットサスとか、アレッサンドロ・メンディーニとか、日本だと倉俣史朗とか。家具や明かり、ステーショナリーなど、いろんな面白いデザインのモノが市場にも溢れていました。仕事柄、そういうモノに接する機会も多く、また買う機会も多かった。

その流れを受けて、Tシャツやカレダー、ノートはもちろんのこと、お皿とかマグカップとか、掛け時計とか、とにかくいろんなアーティストのグッズもたくさん買った。スウィッド・パウエルというアメリカのセラミックメーカーがあるんですが、そこの企画もので、マイケル・グレイブスとか磯崎新とかの建築家やアーティストをフィーチャーした食器のシリーズが当時はけっこう人気だったんです。これもそのひひとつ。メイプルソープの絵皿です。たしか、3種類あって、その収益の一部をエイズの基金に寄付する、というような企画商品でした。このお皿で、当時3万円くらいしたでしょうか。ちょっとバブってた時期でしたが、今思うと全体的にコストパフォーマンスが悪かったと思います。

自分たちがフツウに買える金額の商品がつくりたかった

もちろん、時計もありましたよ。アートウォッチはけっこう流行っていました。でも、当時は、もっとオモチャっぽくてチープなものが多かった。唯一時計としていいな、と思ったのは、モバードというスイスの時計メーカーがつくったアンディーウォーホールのものです。ものすごくかっこいい。でも値段もいい(笑)。最初に発売された時は240万円だったんですが、最終的には500万円くらいになったんじゃなかったかな。それはそれで一般の消費者には手が出ない。アーティスト・グッズというカテゴリーからも外れてしまいます。アーティスト・グッズ自体はちょっと流行ってましたし、いっぱい出ているんですが、実は消費者が満足するモノがなかったというのが現状だったように思います。

そういう状況をずっと見てきた蓄積があるじゃないですか。広告や編集ページを制作し、雑誌で紹介したりしているうちに、こんなものをつくってみたいとか、ここがこうだったらいいのにね、こんなのがあったらいいよね、価格はこれくらいでね、というようなことを現場ではよく話していました。
イギリス、フランス、ドイツ、台湾など
海外への輸出も増えている。今秋には銀
座に2号店を出店する予定だ。

アートとプロダクツのコラボレーションの意味

90年代の後半は、現代アートのギャラリストがたくさん出てきた時代でした。小山
登美夫ギャラリーの小山さんもそうですし、オオタファインアーツの大田さん、タカイシイギャラリーの石井さん、レントゲン藝術研究所の池内さんなど、現代アートを取扱う9カ所のギャラリーを総称して「G9」と呼ばれたり。一般の人が現代アートに触れる機会も増えていった。もちろん、新しい現代アートの作家もどんどん出てきて、人々のアートへの意識も少しずつ変わりはじめた時代だったように思います。そういう時代の流れの中で、たまたま各々のギャラリーのオープン当初から出入りしていた僕らは、いろいろな意味で動きやすい環境にあったというのはあるかもしれません。

広告の仕事をしてきたので特に感じるんですが、絵にしても立体にしても、作品にはコンセプトがある。コマーシャルアートとは違って、その作品を売らんがためのコンセプトではなく、何かをどう表現するのかっていうコンセプト。それが何を言っているのかはわからなくても、そのアプローチの仕方は伝わってくる。

それに我々は感動したり共鳴して、今度は、売ろうとするためのモノづくりと結び付ける。アートとプロダクツは、ある意味、相反するものなんですが、そこをどういうふうに作家の意図をくみ取りつつ商品化していくかが、この仕事の醍醐味です。この作家はここが面白いんだよ、ということを、プロダクツを通して訴えかけたい。僕らは僕らなりのやり方で、アートを身近にしていきたいと思っています。

「よくわからないけど、なんかこれいいなあ」と買ってってくれるのが、今はいちばん嬉しいですね。昔からなんとなくアートは敷居が高いという感覚があるじゃないですか。けっしてそんなことはない。アートはたいしたもんなんだけど、たいしたもんじゃないんです(笑)。


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