ACROSS Street Fashion Marketing

コンテンツメニュー
Across the Book Review Vol.07
レポート
2008.03.05
この記事のカテゴリー |  カルチャー |   行政 | 

Across the Book Review Vol.07

『ふつうの家族がいちばん怖い 〜徹底調査!破滅する日本の食卓』アサツー・ディ・ケイ200Xファミリーデザイン室・岩村暢子(新潮社)

「私中心」の親に、まだ誰も気づいていない

 筆者は現在23区の西のはずれに住んでいる。畑や、古く広い家屋が、区画整理でいつのまにか新しい戸建て住宅群になっているようなところだが、その近所に通称「クリスマス通り」と呼ばれている一画がある。路地の両側10軒以上の家が、残らずクリスマスイルミネーションを施しているのである。

 たぶん5年前くらいからだろうが、年々装飾も参加する家も増え、車の見物渋滞もあったりする。クリスマスイブに、住民の人たちが庭に集まってパーティーらしきことをしているのを見かけたこともある。町自体も地味、そのエリアも駅から遠く、周りに店もほとんどないのだが、その一画だけは、その時期大変盛り上がっている。

 この本を読んで、その「クリスマス通り」を真っ先に思い浮かべた。

 プロローグ、クリスマス前に窓辺にツリーやサンタ人形をたくさん飾る主婦が出てくる。サンタ人形の袋の中には、子供たちが欲しいものを書いた手紙。「サンタさんが手紙に気づいてくれるように、人形は窓辺のカーテンの外側に飾ることにしているんです」と、子供たちへの「細かい心遣い」をしている。しかしその「子供」とは、18歳の高校生と14歳の中学生の兄弟なのだ。思春期の男子がサンタさんに手紙を書いてるって? 

 調査を見ても、サンタさんからプレゼントをもらう中高生はもはや普通だ。1999年には2.6%しかいなかったのに、2004年には47.8%と、この5年で急増している。それはしかし、子供が望んでいるというより、母親がそうさせたいという欲求から。「子供には夢を持っていて欲しいですから(サンタを)信じさせておきたいです」(46歳主婦)と言うのだから。

 たった5年で、クリスマスイルミネーションが定着し、中高生が子供扱いされている。そんな「普通の家族」像を、あぶり出している。

 本書は、著者が室長を務める広告会社アサツー ディ・ケイの200Xファミリーデザイン室で行った「フツウの家族の実態調査(クリスマス・お正月編)」をまとめたものである。1999年12月〜2000年1月の第一次調査と、2004年12月〜1月の第二次調査の二回にわたって行われた、首都圏在住の子供を持つ主婦223人の「写真・日記調査」と、それぞれの調査数ヵ月後に行われた「グループインタビュー調査」からなっている。データを見ると、半数以上が世帯年収800万円以上、四分の一が大学卒以上と、上流といえるくらいの主婦が、対象者である、ということを踏まえて、彼女たちの発言を見ていこう。

 クリスマスの飾りつけは、1軒あたり平均5〜6カ所。「あの雰囲気は自分がワクワクするんで、大好きだからです」(44歳)。しかし料理は「実際にやると楽しくないから」(42歳)鶏もも焼きやピザなどを出来合いのもの。お正月は「私が面倒くさくてやりたい気分にならない」(40歳)「御節を作るとイライラするから」家ではやらないが、夫や自分の実家に行って御馳走になるのはいいけど、洗い物などは「お客さんじゃなくてお手伝いさんみたい」(42歳)「女って辛いなあって涙が出そうになります」(32歳)。

 そんな嫌なお正月を子供には、「『とりあえず見せておこう』という目的でお餅(お供え)のちっちゃいの1個だけ」(38歳)買ったりはするが、「何とな〜くわかってもらえばいいかなと思って」(49歳)「見せておけば、やがて娘(9歳)もするようになると思う」と、言葉で伝えることはしない。

 等々等々、引用が止まらない。「破滅する日本の食卓」との副題から想像されるのは、子供の食事がわびしいものになって、夕食がメロンパン、朝はチョコを一人で食べる、みたいな「孤食」「崩食」のたぐいである。それはどちらかというと育児放棄の面から問題視されていた。が、この本に登場するのは、家庭も子供も大事にしている、まっとうな主婦である。わざわざ年齢を入れたが、登場するのは30代、40代とヤンママではないし、首都圏に住み子供がいる、相当な勝ち犬だ。勝ったはいいが、気持ちは独身時代と変わらない。むしろ、子供を持った分、欲望の対象が増え、その行き先が混迷していることがよくわかる。いわゆる共通一次世代、雇用機会均等法世代で、「じぶん大好き」「私中心」の女性がたどる道は、ここしかないのか。

 帯で養老孟司氏は「S.キングよりも怖かった」上野千鶴子氏は「『崩食』の現実に仰天」と驚愕したり震撼したりしているが、対象者と全く同じ範疇に属する自分は、恐ろしいと思いつつ実は理解できる部分もあるので、大変に始末が悪い。しかし、現実を突きつけられてしまった以上、クリスマスイルミネーションワールドに安寧としないようにしよう、とだけは思う(イルミ、やってませんよ)。

[神谷巻尾(フリーエディター)]

読みたくなった本 + 思いだした本




▪読みたくなった本
『変わる家族 変わる食卓—真実に破壊されるマーケティング常識』岩村暢子(勁草書房)
『子どもが忌避される時代—なぜ子どもは生まれにくくなったのか 』本田和子(新曜社)
『地球の食卓』ピーター・メンツェル他(TOTO出版)


▪思いだした本
『知っていますか子どもたちの食卓』足立己幸他(日本放送出版協会)
『負け犬の遠吠え』酒井順子(講談社)


同じカテゴリの記事
同じキーワードの記事