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Across the Book Review Vol.08
レポート
2008.03.28
この記事のカテゴリー |  カルチャー | 

Across the Book Review Vol.08

『座右の日本』アプラープダー・ユン (タイフーンブックスジャパン)

ドラえもん=グロバール・スタンダード

表紙装画は伊藤桂司氏(UFG)
著者のプラプダー・ユンは高校卒業後に渡
米。ニューヨークのCooper Union for the
Advancement of Science and Artsで美術を
学ぶ。卒業後はタイに帰国し、作家としてデ
ビュー。編集者でもあり脚本家、評論家、グ
ラフィック・デザイナー、イラストレター、
フォトグラファーとしても活躍している。
これは、彼のメモ。
 「日本はぼくの恋人である」と宣言するタイ人作家の、日本論である。
「日本論」といっても、日本の武士道や、経済システムや、官僚政治について、その独特さを外から見て論じているのではない。物心ついたときから「ドラえもん」を見て日本に憧れ、やがて日本と深く関わるようになったアーティストが、もはや自分の生活の一部となっている日本について語った本だ。

著者は1973年生まれだが、「この時代の世界中の子どもたちと同じように、ものごころつく前から「日本らしさ」というものを知っていた」そうである。「人生最初の想像力の扉」が、日本の本や歌、テレビなど「ぜいたくな娯楽」によって開かれたのだとか。あまりにさらりと述べられているが、あらためて聞くと、衝撃的である。そりゃあもちろん、ドラえもんやアラレちゃんやガンダムや、松田聖子やインベーダーゲームが、日本の私たちに与えた影響は計り知れないと自覚しているが、それは世界標準であったというのか。

確かに子ども時代の刷り込みがなければ、今こんなに世界中で日本のオタク文化が花開いていないだろう。考えればわかることだが、こうやって著者の言葉を読み、amazon.comに「YAOI」というジャンルを見つけ、漫画家の知人がファンの外国人を渋谷に案内したときの興奮ぶりを聞いて、はじめて実感するわけだ。まったく未だに、はっと気づくことが多いものである。

それにしても、なぜみんなそこまで日本が好きなのか。新たな疑問がわくところだが、この本にはその答えが見え隠れしている。

著者は、龍安寺の石庭に悟りを感じ、手を洗う機能が一体になった日本の水洗トイレに感激し、「アイボ」を作る日本は「子どもらしさを捨てようとしない」国であり、そこが愛するゆえんである、という。なるほど。日本人でも全く同感だ。日本人が感じる(知っている、ではなく)日本と、日本に惹かれる外国人のそれとは、変わらないということなのか。無意識に過ごしている日本人を代弁してくれている気がしてくる。

そして、タイとの比較により、日本の性質がより鮮明になる。映画「フラガール」は、“他国の文化に挑戦し成功させる”ことへの感動が非常に日本的で、異国の文化を流行としか捉えないタイではありえない。タイでは芸術性よりもそこからどのような感情が呼び起こされるか、が重要であるため、“憂鬱”なものが嫌われ「楽しいかどうか」「気分爽快かどうか」などが問われる結果、韓国の恋愛小説が大人気。デザインにしても、無印良品やユニクロのシンプルさはデザインされていないとみなされる。あくまで「Less is Less」だとか。

そのような感覚よりも、情緒的で、無駄があり、意味のないものが受け入れられる日本の方が共感できるというわけだ。そしてそれは一部の知識層だけでなく、ドラえもん文化に浸ってきた著者世代以降の若者の多くに共通しているのだろう。最近は「誰も知らない」や「DEATH NOTE」が口コミでヒットし、漫画喫茶ができはじめた、というタイもしかり。そうえいばタイの文化についてあまりイメージはないが、ウィンスット・ポンニミットの漫画「タムくん」や、以前「横浜ビエンナーレ」で見たタイのコミカルなアーティスト集団の作品から感じるのは、異国文化やオリエンタリズムではなく、単に「かわいさ」や「おかしみ」であったと思う。それが無意識の日本感覚なのかもしれないけれど。

さて、最後に著者について。バンコクで生まれ、中学卒業後渡米しクーパーユニオン大学で美術を専攻。在学中に上智大学の夏期講座に通ったり、禅寺にこもったり、裏千家のバンコク支部会員になるなど、日本との絆を深めていた。帰国後発表した小説がベストセラーになり、東南アジア文学賞を受賞、脚本を手がけた「地球で最後のふたり」は浅野忠信主演。タイカルチャーの担い手として、また日本との関係においても注目の存在である。

インディペンデント系らしいカタカナ名の発行元、伊藤桂司装画のカラフルな表紙や軽い手触り。見つけたのはリブロのサブカルコーナーだし、おしゃれな文化系日本紀行?との第一印象を覆す、なかなか感慨深い一冊だった。


[神谷巻尾(フリーエディター)]

読みたくなった本 + 思いだした本




▪読みたくなった本
『地球で最後のふたり』プラープダー・ユン(ソニーマガジンズ)
『鏡の中を数える』プラープダー・ユン(タイフーン・ブックス・ジャパン)
『表徴の帝国』ロラン・バルト(ちくま学芸文庫)


▪思いだした本
『菊と刀』ルース・ベネディクト、長谷川松治訳(社会思想社)
『菊と刀』ルース・ベネディクト、長谷川松治訳(講談社学術文庫)
『タムくんとイープン』ウィスット・ポンニミット(新潮社)
『人間を幸福にしない日本というシステム 』カレル ヴァン・ウォルフレン、鈴木主税 訳(新潮OH!文庫)
『人間を幸福にしない日本というシステム 』カレル・ヴァン ウォルフレン、篠原勝訳(毎日新聞社)


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