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代官山 暮らす。
レポート
2008.06.17
この記事のカテゴリー |  インテリア・雑貨 | 

代官山 暮らす。

手仕事の良さを大切にした 「いまどきのうつわ」を扱う和食器店

食器を使うシーンをイメージした遊び心
あるディスプレイ。アパートの部屋を
そのまま活かした店舗はイマジネーション
の宝庫だ。
モダンな和の文様が独特のオリジナル商品
「和のかたち・豆角皿5枚セット」3,150円。
商品にはそれぞれに作り手や産地を記載
したカードが添えられている。
ふだん使う食器類も、その背景を知ること
でさらに愛着が沸く一品に。
棚中段にある松葉模様の器も
はるやまさんのデザインによるもの。
波佐見(長崎)・光春窯との
コラボレーションから生まれた
「モダン松葉・六角取皿」など1,575円。
オーナーでありデザイナーでもある
はるやまさん。ディスプレイも
全てはるやまさんの手によるもの。
この立看板が目印。
八幡通りから「ボンジュールレコード」
の通りを入り「okura(オクラ)」を
過ぎてすぐという好立地。
代官山・八幡通りを一本入り、洋服屋が並ぶ路地を進むと、手作りの立看板に出会う。「和食器」「雑貨」−−−そんな手書き文字と矢印に導かれるように建物の脇道を奥へと進むと、まるで住居の玄関のような店舗入口が現れる。そこは07年12月に移転オープンした和食器店「代官山 暮らす。」である。

店内は、2Kの和室を改装した6.5坪の空間。皿、碗物、カップなどの和食器、鉄器や箸、布を使った雑貨などの商品が、アンティークの箪笥や棚、文机(ふづくえ)を使い、モダンなセンスでディスプレイされている。なかでも目を引くのが、玄関やキッチンなど、もともとのアパートの間取りを残した空間使い。キッチンスペースにはなんと小さなガスコンロもあり、その上には鉄瓶が置かれている。

「あえて部屋のつくりをそのまま生かして、日常の生活感を演出しました。ディスプレイを通して、お客さまのイマジネーションの手助けをしたいと思ったんです」 そう語るのは、同店のオーナーで和食器デザイナーでもある、はるやまひろたかさん。内装は彼と友人たちの手によるもので、商品が引き立つよう壁を白く塗り、床は板張りで仕上げている。

「和食器はシンメトリーなフォルムの洋食器とは異なり、わずかなゆがみから生まれるあたたかみ、やさしさがある」とその魅力を語るはるやまさん。だからこそ、日本には”自分のお気に入りの茶碗や箸を持つ”という独自の感覚があり、それは家族個々で器を決める”めいめい持ち”という日本語にも現れている。

そんな彼が目指すのは”日々の暮らしを楽しむ”ための和食器店。商品は「重ねやすく、持ちやすく、家庭でふだん使いができること。そして、食べ物を盛った時に美味しそうにみえること」(はるやまさん)を重視して選んでいるのだという。

同店では、はるやまさんが企画・デザインしたオリジナル商品と、全国の作家作品をセレクトして販売している。オリジナル商品と作家作品の割合は約4:6。オリジナル商品は、日本の伝統模様や技法を使いながら、現代的なセンスを生かしたデザインが特徴だ。はるやまさんがイメージしたデザインに最適な素材や技法を持った窯元を選び、全国の職人の元に出向き相談しながら作っていくという。
作家作品は、柔軟な感性を持つ若手〜中堅のものが中心で、産地は滋賀の信楽、長崎の波佐見、栃木の益子など。店の一角では、器にこだわらず、注目の若手作家の作品を定期的に展示・紹介するスペースも設置している。

はるやまさんは、グラフィックデザインの専門学校を卒業後、大手百貨店に就職。4年間を食品部門で過ごした後、”和のリビング”がテーマの雑貨部門で器の企画・開発を担当した。そこでは、独学で和食器の基礎を勉強しながら、全国の窯元に足を運び、オリジナル商品の企画・デザインも手掛けるようになった。前部門で得た食の知識とデザインで培った美的感覚を、和食器の分野で開花させたというわけだ。はるやまさんがバイイングからディスプレイ、販売までを一括して担当することで、作り手やお客さまの声を効果的に商品に反映できたこともあり、和食器のコーナーは好評を博したという。

そんなはるやまさんが独立を意識したのは雑貨部門6年目の35歳の時。「”和ブーム”と呼ばれる時期を過ぎたことで、かえって腰を据えてスタンダードとしての和食器に取り組みたいと思ったんです。また、百貨店以外のお客さまに挑戦してみたいという気持ちもありました」(はるやまさん)。

そして06年3月独立。百貨店時代に培った知識やネットワークを生かし、同店の前身となる「ルーム・ジェイ代官山」を恵比寿と代官山の間にオープン。07年末には、和食器の企画・デザインなどの業務をおこなう「ルーム・ジェイ デザインオフィス」と、小売店舗としての「代官山 暮らす。」に名称を改め、移転オープンした。

移転の理由には、とりわけ20代の若い人達に和食器を伝えたいという想いがあったという。
「若い人は作家やブランドにこだわる傾向が強く、ご年配の方よりむしろ考え方や感性が硬直しているように感じます。でも、有名ではなくても良いものはたくさんある。和食器には”こう使わないと恥ずかしい”なんて決まり事はないので、自分自身がいいと感じるものをもっと自由な発想と若い感性で使ってほしいと思っています」(はるやまさん)。

移転先に代官山・猿楽町を選んだ理由には、
「代官山の中心部は“消費者の交差点”。比較的30代以上の女性や主婦層が多い恵比寿方面と比べ、若者、子連れの主婦、中高年…全ての層を網羅できると考え、この場所を選びました。休日は20代前半〜30代前半の男女が中心ですが、文化施設も多いせいか、平日は主婦や年配のお客さまが増えますね」(はるやまさん)。

幅広い層が使いやすいよう、クオリティはもちろん価格帯にも気を配り、皿でも1,200円〜とできるだけ価格を抑えるよう努力している。さらに、「“○○さんが作った有機野菜”というような感覚で作り手の顔が見えるものを提供し、一つ一つ対話をして売りたい」との思いから、商品には窯元や作家の名前などをわかりやすく表示。自身が接客をすることで得られるお客さまのニーズをデザインにも反映している。

「小売部門の“代官山 暮らす。”では代官山という街のローカル性を大事にしていくつもりですが、“ルーム・ジェイ デザインオフィス”としては、今後、すずやうるし、切子ガラス、鉄瓶など、あらゆる素材のデザインに挑戦したいですね。よりソフト面(商品企画力)を強化し、販路を拡大して、オリジナルデザインの商品が多くの方の目に触れる機会を増やしたい。」と語るはるやまさん。商品企画で提携している長崎県・波佐見の陶器商社「堀江陶器」を通し、すでにロフト等大手の雑貨店を含めた全国の小売店にもオリジナル商品の提供を始めている。

東京の開発に伴う画一化・平均化の波は代官山にも訪れ、個性的であたたかみある店舗が集ったこの街にも、ここ数年は大型商業施設や路面店が増加した。そんななか、同店にはどこか、かつての代官山を彷彿とさせる冒険や発見に満ちた魅力がある。同店を訪れるお客さまの約半数が、手書きの小さな立看板を見て路地を入ってくる—という話にも垣間見られるように、“どこにでもある店”ではなく、小さいながらも店主の趣味趣向が反映された“ここにしかない店”が、今また求められているのかもしれない。


[取材・文/渡辺満樹子(フリーライター/エディター)+『ACROSS』編集部]


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