ドキュメンタリー映画「おいしいコーヒーの真実」上陸!
レポート
2008.06.24
カルチャー|CULTURE

ドキュメンタリー映画「おいしいコーヒーの真実」上陸!

中国言語と文化を学んだマークとジャーナリストコースを専攻していたニック。ロンドン生まれの2人のフランシス兄弟が共同で製作した初のドキュメンタリー『おいしいコーヒーの真実』がいよいよ日本でも公開に。

その上映会とエクアドルのコーヒー産地のリーダー、カルロス・ソリージャを招き、環境運動家/文化人類学者の辻信一氏とアップリンク代表の浅井隆氏とのトークショーが開催されたので取材した。

会場となる「アップリンク」の
エントランス
老若男女問わず、小さな映画館は大盛況
.コーヒー農家の人々、優雅なコーヒー
タイムを楽しむ先進国の人々、コーヒー
豆を一粒ずつ選別する女性たち。映画の
中で、生産と消費の現場が交互に画面に
現れる
トークイベントの様子。左から辻信一氏、
カルロス・ソリージャ氏、通訳、浅井隆氏
勝ち組と負け組、都市と地方、作る人と飲む人……世界はすべて二極化されていくのだろうか?映画『おいしいコーヒーの真実』に映し出される映像は、コーヒー農家の過酷な現実と、消費者である先進国の華やかなコーヒービジネスの世界を、交互に映し出していく。

カフェで一杯「330円」のコーヒーを頼む。友人や恋人と語らったり、仕事の合間にちょっと一息入れたり……そんなささやかな幸せを演出してくれる一杯のコーヒーは、我々の日常に欠かせない存在だ。思わずおいしいコーヒーを生産してくれる農家の方々にお礼を言いたくなる。「コーヒーで稼いだお金でおいしいものでも食べてください」と。ところが、おいしいものを食べるどころか、彼らは日々の食事にも困り、子どもたちを満足に学校へも行かせることができない生活を送っている。「3円〜9円」。330円のコーヒーのうち、彼らの手元に入るお金はわずかそれだけだ。

映画『おいしいコーヒーの真実』の舞台は、コーヒー発祥の地であるエチオピア、そして我々が属する先進国である。小さくて無力なコーヒー生産の現場と、石油に次ぐ世界第2位の規模を誇る巨大ビジネスの現場の隔絶は、あまりにも大きい。しかし、そのような状況の下、ひとりの男がコーヒーの公正な取引(フェアトレード)を求めて立ち上がった。エチオピアの74,000人以上のコーヒー農家を束ねるオロミア州コーヒー農協連合会の代表、タデッセ・メスケラ。タデッセの戦いを通じて、我々は、今手元にあるコーヒーをめぐる世界の現実を知ることになる……。

まるでエスプレッソのように濃厚な78分の上映が終わった。エンドロールを放心しながら眺めていて、ふと後ろを振り返ると、小さな映画館の中は、安易にノビでもしようものなら、何人かの頭を小突いてしまいそうなほどの大盛況。若いカップルからご年配の方まで、幅広い層の方が訪れている。渋谷という土地柄、若い人が中心と思っていたし、正直、ここまで盛況だとは思っていなかった。

10分の休憩の間、来場者は、今日のイベントのために用意してくれたコーヒーやチョコレートを楽しんでいた。多くの人がマイカップを持参しているのも心地いい。見て、味わって、そして休憩の後は、聞いて、楽しむことができるイベントである。

トークイベントが始まった。ゲストは、「100万人のキャンドルナイト」呼びかけ人代表、NGOナマケモノ倶楽部の世話人などを務める、環境運動家で文化人類学者の辻信一氏、インタグ地域住民のリーダーとして、有機コーヒー栽培、エコ・ツーリズムなどに取り組まれている、南米エクアドルからのゲスト、カルロス・ソリージャ氏、そして、今日のイベントの主催者で映画配給会社アップリンク社長の浅井隆氏の3人。

最初に、カルロスさんが暮らすコタカチ郡インタグ地方にある、雲霧林地帯の「ラ・フロリダ」と呼ばれる保護区の風景がスクリーンに映された。雲霧林とは名前の通り、常に雲が森の中を流れ、霧が立ち込めている場所で、生物多様性が豊かな森。たとえば、鳥は1,600種類、ランの花に至ってはアメリカ合衆国の20倍以上にあたる4,000種類以上が自生している。これらの自然を守るために、カルロスさんと仲間たちは戦っている。

まず、鉱山開発との戦いがあった。先進国が、“途上国を助ける”という名目で侵入してくる。実際、南(途上国)の多くの国々で鉱山開発は行われた。しかし、20年から30年後、散々掘り返された挙句、残ったものは荒涼とした土地だけ。鉱山開発により破壊されるのは環境だけではない。反対者を脅迫したり、お金で買収したりすることで、友人同士やときには家族間でも意見が対立し、コミュニティをも分断してしまうこともある。もちろん、それらの背後には先進国の巨大な資本が見え隠れしている。それに対して、カルロスさんたちは「コーヒー」を武器に立ち上がったというわけだ。

1997年、ひとまず鉱山開発の危機が去った後、開発の代わりに共同体にどのようにして収入をもたらすことができるか、を考えたとき、カルロスさんが会長を務める環境保護団体DECOIN(デコイン)が選択したのが、「日陰農法」によるフェアトレードのコーヒーだった。日陰農法によるコーヒーについて、「オーガニックコーヒー」との比較で考えてみると、オーガニックコーヒーは農薬こそ使っていないが、人為的に開発されたコーヒー畑で作られているのに対し、日陰農法は森に極力手を加えることなく、つまり動植物たちが住む森を破壊することなく、共存しながら栽培されているのが特徴だ。

「『日陰のコーヒー』はイメージが少し暗いけど、『森のコーヒー』にしたら、日本でも知名度が上がり、今よりもっと売れるかもしれないね(現在、アップリンクでは、カルロスさんのコーヒーを販売している)」という浅井さんの意見は、言い得て妙だと思う。コーヒーは暑い国、場所で作られているというイメージを持っていた僕のような人間にとって、「森のコーヒー」というネーミングはまずそのギャップに惹かれるし、そして手に取る人が増えれば、それは同時に環境への関心を持つ人々が増えることに繋がるに違いない。

「フェアトレード」とは何だろう?たしかに、映画の中で訴えているように、生産者が「フェア=公平」な報酬を得られることが大きな第一歩となるだろう。だが、正当な報酬が得られさえすれば、際限なく森林を開墾して、コーヒー畑を拡大してもいいのだろうか? たとえば、人間のみならず、動物、植物とも、「フェア=公平」に環境を共有しなければならないのではないだろうか?

また、現在の我々が恩恵を受けている環境を、未来に生きる者にも「フェア=公平」に残さなければならないのではないだろうか? もっと、途上国を含めた世界の現状を知り、しばしば経済活動を最優先に考え、自分たちの論理を押し付けてしまう、我々先進国のライフスタイルを見直す必要があるのではないだろうか?
辻さんからの問いかけが、今も僕の中でリフレインしている。まだ、明確な結論は出ていない……。


[取材/文:萩原健太郎(フリーライター・フォトグラファー)]

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