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「家事とは、生きること」を伝えるビジネス
レポート
2009.06.24
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「家事とは、生きること」を伝えるビジネス

『捨てる!技術』でおなじみの辰巳氏による、
家の仕事からみた、ワークライフバランスの提案

食卓の準備をする「お母さん役」をする子ども
たち。立場を交換するロールプレイイングでお
互いを理解する
ブレストから出たキーワードを分類。
まるでかつての『アクロス』編集会議のよう!
家事塾を支える優秀なメンバーたち。

「家の中での生き方」を考える、

 家事、とはなかなか表舞台に登場しないことばである。企業社会とは最も遠いもののようだし、ビジネスに関わるとしたら“家事短縮”や“家事代行”など、その存在を小さくしていくことが現代社会の流れのように思う。ワークライフバランスにしても、仕事と個人の生活のバランスをとることに着目はしているが、家の仕事の部分については、さほど踏み込まれずグレーゾーンの印象もある。

 そんななか、家事そのものがテーマという、新しい視点の「株式会社家事塾」が誕生した。代表は、文筆家、消費行動研究家の辰巳渚氏。『捨てる!技術』でおなじみの辰巳氏だが、このベストセラー以降『子どもを伸ばすお片づけ』『家はこんなに変えられる』『母の作法』の刊行など、“家の中での生き方”に、一貫して注目してきたことが伺える。生きづらい世の中で、基本となる家庭生活自体を見直したいという主張に共感したスタッフが集まり、その提言を実体化したのが「家事塾」である。

 2008年11月に任意団体として発足後、予想以上に反響が大きく、2009年1月に予定より1年早く株式会社化した。親子向けの家事講座の開催や、学校や地方自治体での家事関連の講演活動、さらには企業とタイアップして家事ビジネスに取り組み、人々の家事能力を高め、子どもの社会性を養うことを活動の目的としている。

 今なぜ家事が注目されるのか。家事をどのようにビジネス化するのか。企業・ビジネスパーソン向けのセミナーを取材した。

 「家事塾」の基本事業は、小学生やその親に家事全般を体験してもらう「お手伝い塾」「お片づけ塾」である。伝統的な日本家屋を会場に、掃除、片付け、食事の作法などを学び、家事やお手伝いのありかたを考えるプログラムで、一泊二日と日帰りのコースが設定されている。

 累計100名程の参加者の特徴は、裕福な核家族、習い事や塾を掛け持つ子ども、趣味が多い40代専業主婦の母親、といった親子だそうだ。参加の動機に「子どもは忙しく、お手伝いを頼むのは「なんで僕が?」という子どもの気持ちと戦わなくてはいけない」「自分も家事が嫌いで子どもにもっともらしく言えない」といった声があったという。子どもへも自分へも惜しみなく投資してきたが、“何かが違う”と思い始めてきた、ということか。

 そんな親子が、旅館の30メートルの廊下のぞうきんがけレースや、和室の所作、親子の役割を変えたロールプレイング等々で、頭と体をフルに使って終日過ごす。「座布団を踏まない!」「肘をついて食べない!」と辰巳塾長以下スタッフはビシビシ叱りながら教えるというが、子どもが怒られて、お母さんたちはうれしそうにしているのだそうだ。核家族で祖父母もおらず、よその人から叱られたり教えられたりする機会が、子どもも親自身もなく、「垂直(親子)でも、水平(友達)でもなく、ななめの関係、昔で言えばうるさいおばさんのように接する人」(辰巳氏)が、新鮮に感じられるのだろう。親子関係を見直し、生き方そのものを見直す機会として、家事の役割に気づくというのがまさに「家事塾」の成果なのだろう。

 基本事業以外の部分は、現在種まきをしながらビジネスモデルを模索中とのことだが、存続の危機といわれる家庭科を見直す「家庭科ムーブメント」の発足、無印良品+OZONE共催「理想の住まいを考える」連続講座の開催など、タイアップ事業も着々と進んでいる。

 「家事は、生きていることを実感する時間。個人としてだけではなく、家族がうまくいく、という関係性も感じられること」という辰巳氏。家事そのものを受け継いでこなかった戦後3世代目が親となった現在、その気づきを与える役目として、ビジネスとなりえる予感がする。


[取材・文/神谷巻尾(フリーライター/エディター)+『ACROSS』編集]


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