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神保町に現れた雑誌バックナンバーの古書店
レポート
2009.11.19
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神保町に現れた雑誌バックナンバーの古書店

古書店magnif(マグニフ)

実は古書マニアの筆者。棚を見る目は真剣
そのもの
休刊してしまった『流行通信』は80年代
から揃う。
トレードマークのパンダが記載されている
時代の『an・an』は3,500円。『MEN'S CLUB
男の服飾』のモデルが履いているブーツ、
先日のバナルシックビザールのショーで
提案されていたのに似ている!?
古書店といえば定番の店頭ワゴンセール。
この日は70年代のインテリア雑誌『nob』や
仏版『ELLE』など掘り出しものに出会える?!
『暮らしの手帖』は季刊だったころのものも
揃う。デザインは違っても雑誌のポリシーは
今もきちんと受け継がれていることを確認。
そんなことがわかるのも、古書が文化的な資
料であることの証拠。
店主の中武さん。内装はすべてご夫婦
で手がけたのだそう。
 古本の街・神保町に、若手オーナーが営む雑誌バックナンバー専門ショップ「古書店magnif(マグニフ)」がある。オープンは2009年8月という、まだ新しいショップだ。

場所は靖国通りから一本南側にあるすずらん通り。白とイエローのペンキで塗られた内外装は、周囲の古書店とは趣が異なり、むしろ雑貨店のような佇まいである。

 既存の古書店にも雑誌を多く取り扱うショップはもちろんある。とくに映画/音楽/芸能/サブカルなどを中心に取り扱う古書店では雑誌の占める位置は重要である。

 しかし、同店が取り扱う雑誌の主軸となるのは、ファッション。それも雑誌のバックナンバーを主役とした品揃えは、既存の古書店とはスタンスを異にしている。ファッションを中心にデザイン、インテリア、アート、サブカルチャー系などをカバーしている。

 同店の店主、中武康法さんは1976年生まれ。明治大学在学中から学校に近かった神保町の古書店でアルバイトとして働き、大学卒業後もそのまま働いて10年強を過ごした。独立するまで中武さんが勤めていた古書店は、映画、芸能、サブカルチャー全般などを得意とするお店だった。店員として働きながら、やがて中武さんは自分の店を持ちたいと考えるようになったという。

 「情報量という点ではインターネットの方が優れている面もありますが、本の魅力は、本というひとつの形あるものにまとまっていることだと思います。モノとしての存在感を考えたときに、ファッション関連の雑誌を中心に扱ってみたら面白いのではないかと思うようになったんです」(中武さん)。

 本は情報の集積であると同時にモノでもあり、本を求める気持ちには情報へのニーズだけではなく、物欲という面もある。なかでもファッション雑誌は物欲を刺激するメディアであり、情報とモノの価値を考えるうえで最も象徴的なジャンルだといえるだろう。

 自分の店を持つにあたり、中武さんは京都の恵文社を見に行ったり、ファッション雑誌を中心にするということもあって渋谷/原宿などの物件も検討してみたそうだ。しかし最終的には自分がよく知っていて、お客さんの顔も見える古書店が集積している神保町で開いてみたいと思うようになったと話してくれた。

 「神保町のお客さんは本を探すという目的を持ってやってくる方が多いですし、しかも本の扱い方をよく分かっていらっしゃる方が多いので、安心感はありましたね。こちらが勉強させていただくことも多くあります。

 店構えは神保町でほかにない面白い形にしたいなと思って、ペンキも自分で塗りました。建物が古かったので、改装もOKという物件でしたから、あらかた自分と家族だけで手作りで作ったんです。床板も自分たちで貼ったんですよ」(中武さん)
 
 個人経営のネット古書店が増えているが、そういうウェブ古書店の中には、女性好みの綺麗なデザインの本を雑貨感覚で集めているような、既存の古書店とは異なる品揃えのショップもある。同店が雑貨店を思わせる可愛い店構えにしているのも、神保町という古書店街での差別化以上に、そういう古書マニア層以外の新しい客層を意識している部分もあるようだ。
 
 「装丁がキレイ、というような本の“モノとしての価値”と繋がるのかもしれませんが、ビジュアル的な美しさやデザインの素晴らしさなどに惹かれて本を買い求める方も増えています。実際、そういう感度の高いお客さんが増えているように思いますね。それに、最近、神保町の街自体に女性の方が増えています」(中武さん)

 商品は、これまで中武さんが仕入れた在庫に加え、店頭/ウェブサイトでの買い取りを行っている。雑誌は一般の古書店ではなかなか売りにくい面もあり、ウェブサイト経由で買い取りについて相談されることも多いという。保管ができずに維持できなくなり、まとめて売却を希望するケースが多い。

「お客様からの持ち込み以外にも、知人からまとめて買い入れすることもあります。僕自身、本を集めること自体が趣味になっているようなところがあるので、自分が見たいと思った本だとつい店頭での売値よりも高い価格で仕入れてしまうこともあります(笑)」

 一方、雑誌を買う方は、特定の特集を探すだけでなく、タレントのグラビアを集めるケースや同じ雑誌をコンプリートするなど、コレクションの仕方もさまざまだ。

 雑誌はその発行当時のタイムリーな情報が詰まっているので、その時々の時代を見る面白さがある。これはやはり情報ごとに分類/整理されたアーカイブにはない、雑誌ならではの楽しみ方だといえるだろう。

 オープンから日も浅いため、中心となる客層を絞り込むのはまだ先にはなりそうだが、特にメンズクラブなどのアイビー/アメカジ系の品揃えは強い。このジャンルにも人気の商品はある。

 「例えば田中凛太郎さんの本などはとても人気があって、お店で待っていてもほとんど入ってこないんです。とくに『My Freedamn!』(注:田中凛太郎の自費出版によるアメリカン・カジュアルの写真集シリーズ)などはもう全然入ってこなくなりましたね」(中武さん)
 
 ネット検索が普及したことで、古書の価格は全国で平準化が進行した。今やお宝を掘り出すのは難しくなったといえる。しかしファッション雑誌は既存の古書店でもまだ価値のつけづらいジャンルである。

「ファッション雑誌に特化する、というのは一つの冒険でした。以前勤めていた古書店でもファッション雑誌の扱いは多くありませんでしたし、正直、商売になるのかどうか、というのは賭けでした。ただ、自分自身では面白さを感じていましたし、そういった本を探している方が喜んでくれるような品揃えと店構えにすれば、商売としても成り立つのではないかとは考えていました。スタートして数ヶ月ですが、やっていけるのではないかという手応えが出てきたところです」(中武さん)
 
 今後への課題として、同店が強化したいのはモード系雑誌の取り扱いだという。
さらに、ファッションの分野で同店が注目しているものが“ルックブック”といわれるファッションブランドのカタログである。

「ルックブックには面白いものが多く、もっと評価されてもいいジャンルなのではないかと思っています。既存の古書店にはほとんど流通していませんが、ネットオークションを見ていると、ものによっては高額になったりしています。例えばブルース・ウェーバーが撮ったアバクロのカタログなどは昔から写真集としても価値を認められていて取引相場もありますが、評価の定まっていないものがまだまだ沢山あると思います。商品として流通していたものではありませんし、フォトグラファーのクレジットや、制作された年などの表記がないものも多いんです。そのあたりの評価を作りながら、今後市場を作っていくことができればいいですね」(中武さん)

 ルックブックは、シーズンごとにそのブランドのエッセンスを顧客やプレスなどに伝えるための重要なメディアである。表現としても力を入れて作られ、なおかつ商品としては既存のチャネルではほとんど流通されていない。今後モノとしての価値を認められるのなら、現在眠っているものが日の目を浴びるところに出てくるだろう。カレンダーやノベルティといった関連ジャンルも存在するし、まだまだ眠っている鉱脈は大きいのではないだろうか。

 松浦弥太郎氏(現「暮らしの手帳」編集長)がアメリカで買い付けたビンテージマガジンを販売する「エムアンドカンパニー・ブックセラーズ」をスタートしたのが1992年のこと。トラックに書架を搭載した移動式古書店「エムアンドカンパニー・トラベリング・ブックセラーズ」を経て、2002年オープンの「COW BOOKS」へと発展していった。

 さらに遡れば、グラフィック誌、ファッション誌などのビュアルブックをアイデアソースとすて求めるユーザーは、「ブックブラザー源貴堂」や、その半地下にあった「武村書店」に山積みされていた輸入ファッション雑誌の古本の中から、思い思いにお宝を掘り出していた。

 00年代も終わろうという現在、ファッション媒体に特化した古書店が再び古本の街・神保町に出現したことはいちユーザーとしても嬉しいかぎりだ。おじさん的なイメージがまだまだ強い神保町だが、こうした新しい感覚の店主やユーザーが現れれば、街の活性化にもつながるはずだ。

 きっちり品揃えされた雑誌を実物でレファレンスでき、気に入れば購入もできる。そんな古書店が果たすことのできる役割はまだまだ多い。既存の古書店にはとはまた違った“本の価値”がここから発信されることを期待していきたい。

取材/文:本橋康治(フリーライター)


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