サードプレイスコレクション2010
レポート
2010.02.25
カルチャー|CULTURE

サードプレイスコレクション2010

イベントはワークショップ部による
イントロでスタート。ラーニングナンパ
を異なる背景・価値観を持つ他者に
話しかけ、新しいアイデアを得たり、
内省する行為として推奨した。
トップバッターは同志社大学の上田信行
教授。ビートルズのHello Goodbye
(ハローグッバイ)を熱唱し、会場は
オールスタンディングの熱気に包まれた。
greenz.jp編集長の鈴木菜央さん。毎月
実施しているネットワーキングパーティー
Green Drinks(グリーンドリンクス)の
活動を紹介した。
リクルートエージェントの中村繁さん。
社内サードプレイス的な拠点「ちゑや」
の活動を行っている。
ラストは自由大学を主宰する黒崎輝男さん
によるプレゼンテーション。
会場は超満員。Twitterとメルマガのみの
告知にもかかわらず、200名の定員に対し
400名を超える応募があったそうだ。
 2010年1月23日、六本木superdeluxe(スーパーデラックス)で、「学びのサードプレイス」の可能性を考える「サードプレイスコレクション2010」というイベントが開催された。「サードプレイス」とは、家庭でも職場でもない「第3の場」が人々の憩いの場になっているというアメリカの社会学者レイ・オルデンバーグの指摘に由来する概念である。今回のイベントは「対話・創造・学びの場」としてこの「サードプレイス」を捉え、これまで1つにまとめられることのなかった様々な活動を「サードプレイス」として括ることで、その可能性を参加者で体感してみようという試みである。

 イベントを主催したのは東京大学大学院の中原淳准教授が副代表理事を勤めるNPO法人EduceTechnologies(エデュース・テクノロジーズ)。企画・ディレクションは東京大学の大学院生を中心とするワークショップ部が行った。ワークショップ部は、中原淳研究室の舘野泰一さん(現在博士課程)と学習環境デザインの研究をしている山内祐平研究室に在籍していた牧村真帆さん(現在株式会社リサ・パートナーズ勤務)の2人が2008年に立ち上げたもので、2009年からは山内研究室の安斎勇樹さん(現在修士課程)を加え、3人で活動している。学内の様々な研究室の院生とお酒を飲みながら対話を楽しむ場「ハッピーアワー」を2008年5月から始め、現在は2カ月に1回ペースで開催。そのほか、ワークショップについての勉強会やワークショップの実践、カフェイベントの開催などを行っている。2009年3月に「学びと創造の場としてのカフェ」という研究会(通称カフェ研)で行ったワークショップが好評だったことから、今回のイベントをワークショップ部が企画し、開催することになった。

 これまで大学内を会場として、学生や教育関係者を対象とする活動が主であったが、今回、さらに広く一般にも参加して欲しいという思いから、新しい試みとして会場を学外に移して開催した。
「東大で開催しても人は集まりますが、学外のインパクトのあるところでやりたかったので、superdeluxe(スーパーデラックス)を選びました。教育関係者や研究者が六本木のクラブにいたら、意外性があって面白いので」と安斎さんは話す。

 イベントのプロモーションは、主にtwitter(ツイッター)とメールマガジンを使って実施。twitter(ツイッター)では、10月にアカウントを取得し、イベントの企画や進行状況を随時つぶやいたり、ゲストスピーカーのフォロアーをさらにフォローするなどして、「サードプレイス」に関心が高いと思われる人々に対して集中的にPRを行った。また、中原淳先生のインタビュー記事をメールマガジンで配信し、登録者にイベントの情報を告知。その結果、200名の定員に対して400名の応募があり、当日も約250名の来場者で会場は大盛況となった。

 イベントは、ワークショップ部によるイントロでスタート。その後14名のゲストスピーカーによって3分間のショートプレゼンテーションがなされた。プレゼンは「新しい場のスタイル」、「カフェの可能性」、「企業の未来を切り拓く第3の道」、「創発的な場のデザイン」、「地域と社会を場が変える」の5つのパートに分けられており、パート間には10分の休憩時間が設けられ、名刺交換やゲストの話について来場者同士で対話が出来る構成。プレゼンテーションの合間にはDJやVJが入り、音楽ユニットvividblaze(ヴィヴィッドブレイズ)によるライブも行われた。

 ゲストスピーカーには、「サードプレイス」にかかわる実践や研究を行っている人が招かれた。まず初めは、同志社大学の上田信行教授によるビートルズの‘Hello Goodbye(ハローグッバイ)’の熱唱でスタート。その後、『greenz.jp(グリーンズ)』編集長の鈴木菜央さんによる「green drinks(グリーンドリンクス)」活動の紹介、慶応大学の熊倉敬聡教授による「三田の家」プロジェクトの概説、リクルートエージェントの中村繁さんによる部署を越えた社員同士の交流の場を作る「ちゑや」の活動の説明など、ゲスト自身が行っている「サードプレイス」の実践が紹介された。また、カフェ文化研究家の飯田美樹さんによるカフェの歴史の説明や産業能率大学の長岡健教授からの「サードプレイス」概念についての問題提起など、学術的なプレゼンも行われた。
プレゼンテーションの後には、来場者同士の「フリーダイアローグ(歓談)」の時間を挟み、ワークショップ部による「ラップアップ(まとめ)」でイベントは終了したが、その後も会場の熱気は冷めやらず、参加者同士の対話は続いていたようだ。

 参加費は社会人が6,000円 、学生は4,000円で、ビールやソフトドリンク、フードつき。男女比は6:4ほどで、年齢は20代から60代までと幅広かった。来場者は研究者や学生、社会人などが中心で、会社や学校の内外で新たな人間関係をどう作っていくかに関心の高い層が来場していたようだ。
また今回、「あなたの考えるスーパーデラックスなものを身につけて来て下さい」というドレスコードが設けられており、ワークショップ部の3人はネクタイをモチーフとしたおそろいの衣裳を着用。安斎さんと舘野さんは捲き方を変えたネクタイ、牧村さんはネクタイで作られたベストを着ていたが、この衣裳には、フォーマルなものをカジュアルに遊びたいという思いが込められているそうだ。会場では、アラレちゃんの帽子や羽織、着物、m-floをイメージしたコーディネートなど思い思いの衣裳を身につけた参加者の姿がみられ、和やかな雰囲気が会場全体に溢れていた。
 さらに、会場ではスタッフが「あなたが思う『サードプレイス』のかたちにして、体のどこかにつけてください」と呼びかけながらモールを配布しており、参加者同士がそれをきっかけに会話をするという仕掛けも。
参加者たちは食事やお酒を楽しみながら
プレゼンテーションを観覧。終始和やか
な雰囲気でイベントが進んだ。
会場ではカラフルなモールを配布。
参加者が自由に形作り身につける
ことでコミュニケーションツール
になる。
音楽ユニット『vivid braze(ヴィヴィッド
ブレイズ)
』のライブ。
参加者は会場に設置されたパソコンを
使いtwitter(ツイッター)につぶやく
ことができる。ハッシュタグを使った
リアルタイム実況中継が行われた。
ワークショップ部の3人。左から
舘野泰一さん、牧村真帆さん、
安斎勇樹さん。
 今回のイベントはワークショップ部の3人にとって新しい「学びのかたち」をつくるチャレンジでもあったという。
「今回のイベントでは、これまでの学びのかたちである『講義型』、『ディスカッション型』を超えた、新しいかたちを作りたいと考えていました。その一つの方法として、今回は『サードプレイス』について頭でわかるだけではなく、体で感じながら考えて欲しいと思い、『Feel and Think』をイベントの裏テーマにしました」(舘野さん)。

 また同時に「場作り」の方法に関する課題を持っていたという。
「これまでは目的に合わせてかっちりデザインする方法が求められていたと思いますが、これからはゆるやかにデザインしていく方法も求められていると思います。その方法はまだ確立されていないので、そこにチャレンジしていきたいと思っていました」(舘野さん)。
「たとえば接待などの飲みの場がアイデアを交換する対話の場として機能していたように、もともと『サードプレイス的な場』というのは自然発生的な場でした。しかし、そうした場が少なくなってしまった今では、意図的なんだけれど、自然に近いかたちで『サードプレイス』をデザインしていく必要があると考えています」(安斎さん)。

 そこで彼らが試みたのは、イベントをデザインする際に、「場作り」を重視しながらも、「作りこみ」にならないようにするというものであった。具体的には、参加者同士の会話やコミュニケーションを促すための仕掛けが多数用意された。パート間の休憩時間やドレスコード、会場で配られたモールやドリンクは参加者同士の対話のきっかけとなる「場作り」の一環としてなされたものだが、それらをどのように利用するかは参加者に一任されていた。休憩時間には、参加者がワークショップ部の提案したこれらの仕掛けをきっかけとして話をしており、さらに時間がたってくると、プレゼン中でも会話をしている様子があちこちに見られた。彼らの「ゆるやかなデザイン」の試みは成功していたように感じられる。

 来場者に今回のイベントと「サードプレイス」に関するインタビューを行ったところ、次のような意見が聞かれた。
「僕たちの仕事はパソコンがあればどこでも出来るので、会社に来なくてはいけないということではありません。でも会社を行きたくなる場所に出来ないかと思っていて、ヒントを求めて今回のイベントに来ました」(会社経営・男性)。
「今日は知り合いに誘われてきました。「サードプレイス」という言葉は初めて聞きましたが、09年ごろから2〜3ヶ月に1回、社外の人との勉強会を居酒屋などで行っています。勉強会に参加すると今の仕事場がすべてではないと感じられて、仕事でも会社の枠から離れて考えることが出来るようになりました」(会社員・女性)
今いる場を変えるのか、新しい場を求めるのかという違いはあるものの、「サードプレイス」や勉強会に対して期待感を持ち、また「気づき」を求めて来場しているように感じられた。

 ワークショップ部の3人は「サードプレイス」について「そこに行ったら何かが起きるかも、という期待感が共有された場」と説明していたが、新しい知識や仕事の方法を身につけたいという知的好奇心を持っている人、当たり前と思っていたことを相対化する「気づき」を求めている人も多く、「サードプレイス」はこのようなニーズに応える場となっている。Learning bar(ラーニングバー)シブヤ大学三田の家中目黒サロンなど「サードプレイス」の実践といえる活動は徐々に増えつつあるが、呑みの席や喫煙所など身の周りにもあふれる「サードプレイス」はその機能を果たしていないことも多い。このような状況の中で、先に挙げた活動や今回のイベントのように、場をデザインしていく活動は重要な実践となっているといえるだろう。

[取材・文/式守装猿(アクロス編集)]


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