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リクルートエージェント【ちゑや】
レポート
2010.03.09
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リクルートエージェント【ちゑや】

リクルートエージェント内に設けられた
【ちゑや】のスペース。「江戸の茶店」を
イメージし、親しみやすさを演出している。
「スペシャルライブ」では社外の著名人
がゲストスピーカーとして講演。
参加者の視野を拡大することを目的に
している。
よろず茶屋は同じ趣味をもつ人々が集まる
コミュニティ。部署を超えたカジュアルな
コミュニケーションの場となっている。
「海老原塾&無手勝塾」では、漫画
『エンゼルバンク』のカリスマ転職
エージェント「海老沢」のモデルとなった
海老原嗣生氏をスピーカーに招き、ケース
スタディごとにテクニックを学ぶ。
「心がけているのは楽しくて怪しい
イベントです」(中村さん)。講師と
受講生という関係ではなく、みんなが
参加者になってもらうことを目指して
いる。
社内のスペシャリストのノウハウを学ぶ
「実践匠道場!」や、偉い地位にある社員
が新人時代の失敗談を話す『ようこそ先輩』
など、多彩なプログラムがある。
社会的な役割に縛られないニュートラルな状態で、人に出会ったり情報交換できたりする、家(第1)でも職場・学校(第2)でもない第3の場所「サードプレイス」という概念が注目を集めている。最近では、弊誌で紹介した「シブヤ大学」や、NPO法人Educe Technologiesと東京大学大学院学際情報学府中原研究室が共催する「Learning bar(ラーニングバー)」等、学べるサードプレイスが増加。そんななか、転職エージェントの株式会社リクルートエージェントでは、同様の場を会社組織として設置し、ユニークな活動を行っている。

 同社の「ちゑや」は、社内の部署や役職の垣根を越えてイベントや勉強会等を楽しんだり、コミュニケーションを図ったりできる場。2006年8月に、同社で営業企画をしていた中村繁さん(48歳)を中心とした有志による活動としてスタートしたが、2007年10月には業務として認められ、2008年4月に会社組織の1つとなった。現在は専任スタッフ2名で運営し、東京本社だけでなく各県の事業拠点を奔走している。

 活動を始めたきっかけは、仕事がしやすい居心地がいい環境をつくりたかったから。市場の成長と共に年間約300人のペースで社員が増えるようになった 2004年頃から、中村さんは社内でのコミュニケーションの図り方に違和感をおぼえるようになったという。

 「仲間が増えるのはうれしいですが、顔を見てもわからない、名前もわからない社員が増えたことによって、廊下ですれ違って挨拶するにもぎこちない。社歴が長い私が違和感を持っているくらいだから、社歴が短い人や新しく入ってきたばかりの人は、もっと居心地が良くないだろうと思ったんです。この状況が続けば必ず仕事にも影響が出るだろうという危機感もあり、まずは自分の周りから、知り合いを増やせる機会をつくることにしました」(株式会社リクルートエージェント「ちゑや」店主兼つなぎビルダー/中村繁さん)

 当初は10人程度の規模で昼や夜に食事会をしたり、お茶をしたりという活動を通して、ざっくばらんに話せる機会を増やしていった。口コミで広がり参加者の規模も大きくなっていった結果、組織の活力を上げることや人材育成にも効果があると経営陣からも認められたことで、組織化。
「非公式な場が公式に認められたことによって認知度が上がり、社内の反響も増えました。2008年の1年間で、ライブ(イベントや勉強会のこと)を63回行いましたが、延べ1,300人を動員することができました」(中村さん)

 具体的な活動は、部長等の現在は偉い地位にある社員をスピーカーに招き、新人時代や失敗談を話してもらう『ようこそ先輩』。人気漫画でドラマ化もされた「エンゼルバンク」の登場人物で、転職エージェントで働く「海老沢」のモデルである海老原嗣生さんに業務ノウハウを話してもらったり、実践に役立つロープレを行ったりする『海老原流・無手勝塾』。『スペシャルライブ』は、社外の著名人等を招いて仕事のノウハウを語ってもらうもので、過去にはザ・リッツカールトンの日本支社長や、宝島社の広報課長等が講師を務めた。他にも、『夜会』と称した飲み会等、多彩な活動がある。規模も、数人から100人程度までとさまざま。また、参加者として一体感を持ってもらいたいため、イベント等は「ライブ」と呼ぶそうだ。

 企画は、社員に抱えている課題や問題点等を尋ねると共に、楽しめることを大切にしながら内容を練っていくという。中村さんは、「この人とこの人が出会ったらおもしろそうだ」というネットワークも考慮しており、さらに、例えば『ようこそ先輩』は、“入社半年〜2年目直前までの社員で次の飛躍のためにもがいている人”というように、ターゲットもライブ毎に設定している。

 参加者層は、20代が特に多い。営業職やキャリアアドバイザー職の社員が半数以上で、課長等の組織長も2割を占めるそうだ。

 「入社2年目ぐらいまでは、わからないことは「わからない」と言えますが、中堅になるとそれがしづらいので、ちゑやの場が役立っているのでしょう。遠慮し合っている20代と40代を会わせたり、接点を持たないライバル同士を交流させたり等、人を繋げるのが、名刺にもある“つなぎビルダー”の仕事。人が繋がれるように、会場には必ず席の島を設けます」(中村さん)。

 また、HPやブログで情報発信する他、参加できなかったり地方にいたり、自分の職場の仲間にも見せたい等に応えるために、ライブを収録したDVDを貸し出している。DVDを借りた人にはブログに感想を書いてもらい、そこからもコミュニケーションが発生するように仕掛けている。

 特筆すべきなのは、新聞で「ちゑや」が紹介された際に、10を超える企業から「コミュニケーションや人材教育の課題を抱えているので話を聞きたい」等の問い合わせがあったことである。同社の状況と共通することに、「ITツールの発展で、生身のコミュニケーションができる場が減り、関わる人の幅も狭まったため、雑談できない、困っても相談できないという状況が生まれた。加えて、成果主義が求められ、会社に利益が出ても社員はギスギスしてしまうのではないか」と中村さんは分析する。

 職場ではメール等を使えばコミュニケーションが円滑にでき、インターネットを開けば新しい情報を簡単に浴びることができる。しかし、いずれも五感を使うライブ感はないため、コミュニケーションの実感を満たすことができず、新たな「気づき」に結びつきにくい。それが、こういった「学び」「気づき」のサードプレイスが増え、そこに足を運ぶ人が増えている背景なのではないないだろうか。今後、「ちゑや」のような「社内サードプレイス」ともいえる組織を導入する企業が増えてもおかしくないだろう。

 将来的には「ちゑや」がなくなること=社員の自発的な行動によりコミュニケーションが日常になること、が目標だそうだ。

[取材・文/緒方麻希子(フリーライター/エディター)]


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