ドリパス
レポート
2010.09.08
カルチャー|CULTURE

ドリパス

チケットの共同購入を軸とする映画館とユーザーの新しい関係性を提案

ドリパスを展開する
(株)ブルームの五十嵐さん。
ドリパスのロゴ
「観たい映画を通じて人々がつながっていく
関係性をパズルのピースで表現しました」
(五十嵐さん)
通常の映画鑑賞券と違い、ドリパスの
チケットの価格設定は作品ごとに異なる。
「作品ごとに配給会社や劇場と交渉してい
ます」と、五十嵐さん。

<○○人集まれば上映!>

 

映画館と消費者を橋渡しするユニークな新サービス「ドリパス」がスタートした。「ドリパス」は映画館に特化したチケット共同購入システムで、映画館がオンラインサイト上で上映プログラムを提案し、期間中に一定の人数がチケットを購入した時点で劇場上映が決定するというもの。2010年9月現在、新宿バルト9と提携してサービスを展開している。早速同サービスを展開する株式会社ブルームの代表取締役五十嵐壮太郎(28歳)さんにお話を伺った。

 

「僕自身、映画館というリアルの場が好きです。自宅でDVDを観ながらどっぷり一人きりの世界に浸るのもいいですが、やっぱり映画館の迫力は他では味わえないと思います。体感値が全然違う。赤の他人と同じ場所で同じ体験を共有するということもリアルの場ならではの魅力です。実はそれが映画の本質ではないかという気がしています。『ドリパス』を通じて映画館で観ることの楽しさを伝えることが出来れば、と考えています」(五十嵐さん)。

 

映画業界ではビデオオンデマンドやキャラクタービジネス等、スクリーン上映後の権利ビジネスの深耕が進むが、五十嵐さんはあえて業界の大きなトレンドとは逆方向の映画「館」で勝負したいと語る。

 

学生時代、音楽活動や映画製作に打ち込んでいたという五十嵐さんは、コンテンツビジネスを学ぶために2006年に博報堂に入社。コンテンツプロデュースの部署で、多様なクライアント、メディアを巻き込んだ企画、イベントをプロデュースした。同社での経験を通じて、無名アーティストや未公開映画等、脚光を浴びる機会の少ない優良コンテンツの流通を支援したいと考えるようになったという。
 

一方で、2010年7月、かねてから構想していたコンテンツ流通支援を実現するために株式会社ブルームを設立し、「ドリパス」の展開を開始した。

 

これまでのところ、「ドリパス」企画第1弾の『ダークナイト』はチケット購入者282人で成立、第2弾は上映最低人数に届かず不成立、第3弾『ガメラ』は92人で成立、次回上映の第4弾『地獄の黙示録』は73人で成立している。上映時間はいずれも土曜日の深夜枠。『ダークナイト』上映時には学生から50代まで幅広い客層が訪れたという。

 

 「マニアックな作品を提案した第2弾は不成立でした。『ダークナイト』のように確実に集客が見込める作品を用意することも出来たのですが、今は作品規模やジャンルに拘らず様々な作品を提案してお客様のニーズを探っている状況です。今回は不成立となりましたが、マイナー作品や日本未公開作品等、いわゆるメジャー映画以外の作品も紹介出来る様な仕組みを引き続き検討したい。未公開映画署名運動との連携等を考えています」(五十嵐さん)。

 

こうした取り組みを後押しするのがTwitter(ツイッター)等のソーシャルメディアの浸透である。「共同購入」や「期間限定販売」等の手法自体は以前から存在したが、ソーシャルメディアの登場によって低コストかつタイムリーな情報の受発信が可能になり、消費者のニーズを集約し易くなった。五十嵐さん自身、「ドリパス」を通じてソーシャルメディアの効果を改めて実感したそうだ。

 

「『ガメラ』のチケット購入期間中、企画成立の80人を前にしてチケット売れ行きが鈍ったんです。そうすると、既に購入なさった方が『絶対観たいから、みんなもチケットを購入して欲しい』という内容をTwitter(ツイッター)でつぶやいて下さって、それが企画成立に結びつきました。ある意味自分たち運営者よりもお客様の方が一生懸命宣伝してくれる。嬉しい驚きでした」(五十嵐さん)。

 

「ドリパス」ではTwitter(ツイッター)で上映作品のリクエストも受け付けており、9月初頭現在、同サイトでは、リクエストの多い作品として、『ダークナイト』や『ニューシネマパラダイス』といった新旧の名作と並んで、懐かしの『ガメラシリーズ』や日本未公開の『アパルーサの決闘』等、バラエティ豊かな作品が紹介されている。このうち『ダークナイト』と『ガメラシリーズ』は「ドリパス」を通じて同劇場での上映が決定している。

 

 今後は、新宿バルト9以外にも業務提携先を増やして、全国規模で新しい映画チケット購入のプラットフォームを構築したいと考えているそうだ。さらに音楽業界等他分野への進出、海外進出も視野に入れているという。

「小学生の時、フランスで過ごしたことが、現在の活動の原体験になっているという気がします。人種の壁や言葉の壁があって、登校初日にトイレの上の隙間からバケツで水をかけられました。でも時間をかけて話し合うことでお互いを理解することが出来た。『ドリパス』のような新しいサービスを展開することも、ある意味で業界の壁にぶつかっていくという側面がありますが、しっかり話し合って壁を越えていけばいい。そうやって興業とユーザーの新しい関係の橋渡しをしていきたい。」(五十嵐さん)。


「みんなとつながると夢に届く」という
「ドリパス」のキャッチコピーが示しているように、

自分達の行動が劇場上映の決定を左右する、あるいは購買行動を通じて他者とつながるというイベント感覚が映画をめぐる消費者主導の新しい楽しみ方として定着するのか。「ドリパス」の展開に注目したい。



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