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残響ショップ・残響塾
レポート
2011.09.30
この記事のカテゴリー |  カルチャー | 

残響ショップ・残響塾

音楽レーベルが展開する、渋谷の音楽や雑貨のセレクトショップ&セミナー運営

国内最大のエフェクターショップ、ナインボルトのコーナー。すべて試すことができる。
9mm Parabellum Bulletモデルのギター。いずれも試奏可能。
段ボールを積み重ねての営業からスタートし、徐々に什器を入れて作り上げた。店が作られる過程をオープンにしようという思いからである。
一般的なヘッドホン付き試聴機ではなく、スピーカーから試聴するスタイルを採用。音楽がBGMとして流れることでコミニュケーションがうまれる。
こちらはtop10ランキング。インディーズデビューしていないアーティストの自主制作版がランクインしているというのも同店ならでは。
本物のろうそくをLEDで内部から発光させるフローシーキャンドル。音楽レーベルRicco Labelによる特許取得作品。
塾長の虎岩正樹さん(左)、
店長の田畑猛さん(右)。

 東京・渋谷の公園通りから神南へと路地を入った、「ビームス」近くのビルに、音楽レーベル・残響レコードが運営する「残響ショップ/残響塾」がある。オープンは201153日。CDや雑貨、楽器などを扱うセレクトショップであり、セミナーなどを行うスペースでもある同店にコアな音楽ファンが集っているというので、早速取材した。


 運営元の残響レコード2004年設立の音楽レーベル。ロックやエレクトロニカなどのタイトルを中心に発信するほか、映画『彼岸島』の主題歌を手掛けた「9mm Parabellum Bullet(9ミリパラベラムバレット)」などのマネジメントも行っている。

 店長は田畑猛さん(29歳)。田畑さんは大阪出身で、アルバイトやライター、イベント企画運営などをしながら、mixi(ミクシィ)上で音楽コミュニティをつくっていた。そのコミュニティ上で残響の社長・河野章宏さんと知り合い、大阪での残響主催ライブなどで交流を重ねるなかで、音楽業界への視点や意見を共感、評価されたことから今回、店長に抜擢された。


   塾長は虎岩正樹さんが務める。虎岩さんは、ミュージシャンとして活動した後、イギリスの音大への留学を経て、アメリカの音楽学校「MI Hollywood GIT」(以下、MI)へ留学。卒業後は同校のギターインストラクターや学科長を務め、数多くの若手アーティストのキャリア育成に携わった。帰国後から2010年までは、MIの日本校である「MI Japan」の校長を務めた。


 オープンのきっかけは、もともとショップ運営をしたいと考えていた河野さんと、ワークショップができる場を求めていた虎岩さんが201010月に出会ったことから。何かをしながらついでに音楽が“聞かれる”状況が一般的になり、音楽や趣味が細分化されているのに流通形態が一向に変化しないためにCDが売れない状況などがあるなか、「もっと音楽というカルチャーを活性化させたい、自立したミュージシャンを育てなければいけない」という思いで2人は意気投合した。

 「メディア主体だったり、試聴機で流れるCDショップが選んだものであったりと、現在得られる音楽の情報は実は限られています。そういう状況ですから、大手CDショッ プに行ってもどこから手をつけていいかわからないという人もいるでしょうし、音楽をよく聴くという人のなかでも、自分で音楽を探し出せる人は少ないのでは ないかと思います。当店や当塾が、音楽を自発的に探すきっかけになってほしい。さらには音楽をきっかけに、他ジャンルのカルチャーにも興味が広がったらう れしいです」(店長/田畑猛さん)

 場所はライブハウスが多く、10代から大人まで幅広い層へのアプローチができる渋谷を選んだ。店内は約90平米。出店当初は段ボールを積んだまま営業していたが、日を重ねるごとに棚やテーブルなどを入れて変化させてきた。これは、客やスタッフの思いが詰まっている空間にしたいという狙いからで、はじめから完成させずに進行形で店舗づくりをしているという。


 取扱うCDは、 残響レーベルに加え、その他の邦楽・洋楽も揃う。セレクトは田畑さんで、ジャンルにはとらわれず、残響レーベルファンもそうでない人も楽しめて、ネット上 のセレクトショップなどとも異なる楽曲・アーティストを選んでいる。アーティストに直接打診することもあり、取材時の9月に人気1位だった「TOROLL(トロール)」は、インディーズとしてのデビューもしていないバンドの自主制作CDだそうだ。CD以外の商品も音楽を基本軸にしており、Tシャツ、本、LEDで発光するフローシー・キャンドル、ギターのほか、「ナインボルト」のエフェクターも扱う。「ナインボルト」のエフェクターは、他の楽器屋などでは類を見ないかなりの種類を取り揃えているという。

 

 同店の特徴がCDの試聴方法である。一般的に、ヘッドホン付き試聴機にあらかじめCDがセットされているのが主流だが、同店ではお客さん自身が試聴したいCDを店内のCDプレイヤーにセット。その曲がBGMとして店内に流れるシステムになっている。店内にいる他のお客さんやスタッフと音楽を共有しながら聴くことができ、会話が生まれるきっかけになっているという。

 

 「ぼくらが若い頃、ウォークマンが登場する前は、同じような光景がありました。ですからこの方法は新しい取組みであり、音楽の聴き方の原点回帰とも言えます。ヘッドホンをつけて音楽を「1人で聴く」ことや「何かをしながら聞く」ことは、道端でもできるし、そういう行為にそろそろ飽きているのではないかと思います。日本にはBGMがどこでも流れ過ぎていて、それが逆に音楽が意識に残らないことに繋がっています」(虎岩さん)。

残響塾では、音楽以外にも経営、 「今までの学校じゃない学校」をコンセプトに、参加体験型のセミナーを開催している。
音楽関連の技術書の他、ビジネス、教育、経営まで発想のヒントになるような書籍をセレクトしている。
来店客のコメントをファイリング。
渋谷区神南のBEAMS近く。ガラス張りのファサードが目印。
  「残響塾」では、音楽のほか、他ジャンルのセミナーやワークショップも開催一方的に発信するのではなく、参加者みんなでつくっていくというコンセプトで行っている。特筆すべきは、お金に余裕が無い人でも参加できるように、一部のセミナーなどはオープンプライスに設定し、参加者に金額を決めてもらっているこ と。これまで、「バンドで生かす!アクセス解析・ツール」「オヤイデ電気のシールドを自作しよう」、現役音楽ライターが教える「ライター入門講座」などが 開催された。813日からスタートした「ライブイベント一緒にやろうぜ!」では、ショップ・塾・参加者が一体となって企画内容から日時や場所設定などを話し合い、実際にライブを開催するという。

 また、58日の初回セミナーでは、河野さんと虎岩さんが対談。例えば印税の話など、他のレーベルなどが語りたがらないような、音楽業界やレーベルビジネスの構造について語られた。また、年間約250本 もの世界公演をしているベーシストの今沢カゲロウさんには、セルフマネジメントとライブを自分自身で行っている今沢さんのビジネススタイルなどを語ってもらったそうだ。このような類を見ないセミナーを企画するのも、音楽業界・ビジネスのすべてをオープンにすることが未来の音楽ビジネスに繋がる、職業として音楽を選ぶ若者を増やすには、音楽を仕事にするまでの道筋などを明らかにすることが不可欠、という思いがあるから。音楽業界・ビジネスの仕組みや良し悪し を語ることこそ、業界全体の活性化に繋がるという。さらに今後は、IT、マーケティング、ファッションなど様々な分野のゲストスピーカーを迎える予定だ。


日本社会はタテ割りになりがちですが、ヨコ軸で繋がって話すと、どの業界も抱えている問題やポテンシャルも同じだったりします。ものづくりをするのに、 同じ業界である必要はありません。ですが、日本には横に繋がれる場所が少なくて、いま新しいことを考えている人たちの議論の場はネット上になっています。です が、どんなにネットが主流になっても音楽をライブで感じることは普遍的ですし、ツイッターなどが発達しても相手の目を見て話すことの価値には代えられない と思います」(虎岩さん)


 客層は、ショップが10代〜20代の女性が中心で、残響レーベルのファンが多いという。塾は10代〜40代と幅広い年代が参加している。メディアを使った大々的な告知はせず、口コミでリアルな感想が広まっていくのを期待しているそうだ。

 

 弊誌で取上げた、「サードプレイスコレクション」や、「ドリフのファッション研究室」、またフリーペーパー「dictionary」を発行するクラブキングが“学ぶ遊ぶ”をテーマにオープンスペースを開設するなど、「参加体験型の学びの場」ともいうべきワークショップやイベントなどが、ここ数年増えている

  ネットの普及で、情報の発信受信の手軽さや便利さ、いつでも繋がっている感覚を享受できた反面、主催者側も訪れる客もリアルで集うことを求めているのかも しれない。同時に、新たな発想のヒントとなるような学びや知への欲求が高まっているとも言えるだろう。肩書きなどにとらわれず、様々なジャンルの個人対個人が繋がれる場所・機会が求められるこの動きは、今後も続きそうだ。

取材・文 緒方麻希子(フリーライター)


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