ニューヨークのハイラインの様子。
撮影:高橋ユリカ(トップページ写真含む)
「下北沢フォーラム」は、2007年の準備期間を経て、2008年に「小田急線あとちを考える会」として、小田急線あとち(上部利用)についての提案を主軸にした市民グループに生まれ変わった。専門家と協働するという路線は変えずに、ワークショップやセミナーを重ね、世田谷区が募集した跡地利用の区民アイデアに応募するなど、積極的な活動を展開。そして今夏、より広がりのある場をつくろうと、団体名を「グリーンライン下北沢」へと名称を変更。さらに地域の多くの人たちと一緒に活動をしたいと進化した姿を見せる。
「”グリーンライン”というと、”緑道”?と聞かれますが、公園の中には大きくない商業施設や文化施設も可能ですし、それらも含めてグリーンな公共空間と捉えています。英語では“グリーン”すなわち“エコ”の意味で使われることが多く、地下化した線路の上部空間を、エコロジカルで広がりある、いろんな人が集って活動ができる場所にしていけたらと思っています。”ライン“はニューヨークで鉄道跡地を利用した公園”ハイライン“の成功もあっての言葉です」(高橋さん)
今春の統一地方選で、市民活動に理解ある保坂展人さんが世田谷区長に就任したことで弾みもつき、10月より3回連続セミナーが企画され、その第1回が下北沢の北沢タウンホール12階スカイサロンにて10月30日に開催された。
2.2キロの連続したランドスケープをテーマにしたこのセミナーでは、ランドスケープ・アーキテクトの井上洋司さん(背景計画研究所)により自身が手がけるランドスケープデザインやまちづくりについての事例紹介がされた。そして、ジャーナリストでもある高橋ユリカさんは、市民発の提案により放置されていた高架鉄道の跡地を緑溢れる公共空間を生まれ変わらせた実例として、ニューヨークの「ハイライン」を取材したレポートを紹介(当日発表のパワーポイントはこちら)。この「ハイライン」は、地元住民の憩いの場としてはもちろん、世界中から観光客を集客するニューヨークの新たな観光スポットとしても成功を収めて世界的に注目されている。
会場には、小田急線跡地の利用に高い関心を寄せる周辺住民の人たちを中心に約70名参加。会の後半には公務の合間を縫って世田谷の保坂展人区長が駆けつけるなど、この事業に対する関心の高さと熱意を伺わせた。その後、11月10日に開催された第2回のセミナーでは、都市交通の専門家中村文彦さん(横浜国立大学教授)と今は「グリーンライン下北沢」顧問の小林正美さん(明治大学教授)が、交通の観点から跡地利用を考える講演を行った。
セミナーでは、住民らによる積極的な意見交換もなされ、中には『ニューヨークのハイラインを見てきた、園芸のボランティアに参加したい』という地元の女性や、『実現のために、我々住民が具体的にお手伝いすべきことは?』といった質問などがあがった。
「このセミナー開催して再確認できたのは、下北沢がメディアで喧伝されるような若者文化のまちというだけでなく、文化レベルが高くグローバルな意識があるクリエイティブな人たちが住んでいるまちだということ。今後は、そんな住民の方たちにも参加していただき、世田谷区、鉄道会社と一緒にまちをつくっていく、新しい市民活動のスタイルや仕組みをつくりたい。グリーンラインで、まちが結び直されれば」と、高橋さんはビジョンを語る。
12月4日(日)には、連続セミナー第3回が代沢小学校で開催されるが、いよいよ保坂区長も参加して、地域の人たち、専門家たちとのパネルディスカッションも予定されている。(詳細は、HPを参照)
東京都内のみならず世界からも注目が集まる、小田急線地下化後の景色。そして上部利用の仕方次第で変わるであろう下北沢の未来。「グリーンライン下北沢」のキャッチコピーのように線路のあとちが「地域の宝」となるかどうか。緑豊かで賑わいある光景が創出されるまでも大仕事だが、実際にその空間ができたときに、どのようにマネジメントしていくかなどソフト面での課題も多い。みんなが幸せに使える公共空間として育てていくためには、新しい市民グループやルールづくりが必要だ。そうした担い手としても「グリーンライン下北沢」には期待がかかる。
小田急線の複々線化および地下化の工事は2013年度をメドに完了するという。いままさに、刻一刻と姿を変えようとしている下北沢。その先の未来に、無関心ではいられない。
【取材・文:尾内志帆(ライター)】