■ ナカメキノ(旧:中目黒シネマズ)
レポート
2013.05.11
カルチャー|CULTURE

■ ナカメキノ(旧:中目黒シネマズ)

映画と中目黒をもっと好きになってもらうために毎月開催される
無料映画上映&トークイベント「ナカメキノ」

映画館の無い街「中目黒」の初回上映会場には、65名の枠に400名もの人が集まった。メインの層は20〜30代だったが、50〜60代もちらほらいたという。(撮影/堀場俊孝)
上映前には松崎健夫さん(映画文筆家)と中井圭さん(映画解説者)による作品解説のトークショーが行われている。(撮影/堀場俊孝)
プレ上映会で選ばれた作品は、ウディ・アレン監督による名作『アニー・ホール』。(撮影/堀場俊孝)
目黒駅前にあるレンタルスタジオの運営などを行う『EASE』から、家具の無償提供も継続して行われている。(撮影/堀場俊孝)
川沿いを中心にライフスタイル系セレクトショップやデザイン関係の事務所などが設立され、クリエイティブ色が強まった東京・中目黒。通年、人気を集める成熟した街という印象があるが、かしその実情は、なかなか厳しいようだ。近年の地価高騰により個人オーナーの店のスタミナが続かず、閉店を余儀なくされる店も少なくない。桜の季節に毎年開催される「桜まつり」にかけて盛り上がりを見せるものの、それ以外の時期に目立ったイベントが行われていない。
 
そこで、そんな中目黒を盛り上げようと立ち上がったのが、中目黒駅前ナカメアルカスでマルシェを開催する「中目黒村」という地域コミュニティを運営する団体。その一環として、「映画と中目黒を好きになってもらおう」というコンセプトのもと、無料の映画上映イベント「ナカメキノ(旧:中目黒シネマズ)」が誕生した(プレ開催は2012年11月)。主要メンバーは中目黒で飲食店を経営し、ナカメキノの代表を務める須藤晋次朗さん、雑誌編集者の山﨑真理子さん、そして会社員でありながら映画解説者として活躍する中井圭さんの同世代の3名だ。
 
以前、中目黒はもっと挨拶が飛び交う昔ながらの下町だったというお話を地元の方から何度か伺いました。でも、いまはここ15年内に中目黒に集まってきた20〜40代と地元に先代の時代から住む50代以上の世代の方々が気軽に交流する場が少なく、会話を交わす機会も少ない。混沌とした雰囲気も中目黒の良さなのですが、「中目黒が好き」、「中目黒を盛り上げたい」という気持ちは世代や環境を問わず共通していることや、地元の方たちが若い個人店を応援したいと思っていることも知りました。らば地縁を通して同じ方向を向いているこの縁を、ひとつのコミュニティとして繋ぐことができれば、中目黒はもっといい街になるんじゃないかと思ったのが始まりです」(山﨑さん)
 
そこでまず持ち上がった企画が、フランス・パリの街角にあるようなマルシェを中目黒の駅前広場ナカメアルカスで開催すること。きっかけは山﨑さんがご近所付き合いを通じて、中目黒の商店街、飲食店、町内会の関係者と交流する機会が増えたことだという。
 
そこから、仕事柄、広いネットワークを通じて数年前に知り合っていた須藤さんにマルシェ計画の相談を持ちかけた。須藤さんはかつて「中目卓球ラウンジ」の店長を務めていた人物。その須藤さんが、2010年に独立し、自身の店「ビストロオランチョ」を構えたことも、中目黒村を始動させる後押しとなった。
 
「山手通りと駒沢通りが交差していて、日比谷線も乗り入れているし、3月には副都心線も延長したばかりといろんな街の狭間にあるわけです。そんな中目黒で、目黒区の顔になるようなイベントをやりたいと長年、思っていました。でもなかなかチャンスもないし、実現できなかったんです。個々に独立したお店を経営することも手ですが、それぞれがつながれば、面白いことができる。そういう場所や機会が中目黒にあればいいなと考えていました」(須藤さん)。
 
そしてそこへ、当時卓球ラウンジの常連で須藤さんと10年来の付き合いであった映画解説者の中井さんが合流するかたちで、「ナカメキノ」の計画が立ち上がったという。
 
もともと10年前に知り合ってから、2人で何かをやりたいという構想はありました。でもそれまでは、何ができるわけでもなかったので、酒飲み場の会話に留まっていましたけど…」(中井さん)。
 
「中目黒」をキーワードに、同じ思いを抱える30代の3人がつながったというわけだ。
さらに中井さんは続ける。
 
「今回の話が持ち上がったとき、中目黒で映画イベントを開催することは意味があると考えました。中目黒は、昔、映画館があったという歴史を持つんです」(中井さん)。
 
「ナカメキノ」の根本的な狙いとしては、劇場体験の面白さを実感してもらうこと。ここ数年、映画業界は右肩下がりという実情があり、一時期は年間興行収入が2000億円を超えていたが、近年は1800億円までに落ち込んでいる。それはソフト化へのサイクルが早くなったことと、ホームシアターの普及など要因は様々あるが、まずは観賞チケットが高いというハードルがある。
 
たとえばデートで映画館に行って、1人1800円の観賞代に加えてジュースやポップコーンなどを購入すれば、2人で5,000円くらいかかってしまう。若い世代にとっては辛いんです。からまずは無料で、気軽に劇場体験をしてもらうことに重点をおきました。これは今後も変わらないスタンスです」(中井さん)。
 
(※野外での映画上映シーン:撮影/相良博昭)
 
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左から映画解説者の中井圭さん、中目黒「ビストロオランチョ」の須藤晋次朗さん、フリーランス編集者の山﨑真理子さん(撮影/アクロス編集部)
 
第3回目3月30日(土)の上映会は、中目黒が桜で彩られる春に、舞台を野外へ移しての開催となった。(撮影/相良博昭)
第3回に野外上映した『サニー 永遠の仲間たち』のゲストには、本編のファンである花くまゆうさくさん(漫画家)と松崎まことさん(放送作家)に加え、サプライズゲストには無類の映画好きとして知られる俳優の斎藤工さんが登壇した。(撮影/相良博昭)
この日の都内では最低気温が7℃と冬物のアウターが手放せない中、100名を超える人が上映会場の「目黒川 船入場公園」に集まった。(撮影/相良博昭)
当日は中目黒の飲食店をはじめとする、イベント、ワークショップのブースを会場内に多数併設した。(撮影/相良博昭)
 「記憶や経験をバトンしていくことが大事」と須藤さんは言う。
TwitterをはじめとしたSNSが普及した現代では、「ケータイが気になって2時間、映画を観られない」という若者の声も聞かれる。だが映画を劇場で観賞した記憶は、その後も鮮明に残る。その体験を知らなければ、本当に面白い映画に出会うこともできない。昨年11月に行われたプレ開催では、ウッディ・アレンの名作『アニー・ホール』を上映したが、その前後には中井さんを中心としたトークショーが行われた。
 
「映画の紹介をするだけでなく、作品の時代背景やその時代におけるウッディ・アレンの存在、活動を解説することで、理解を深めてほしいと思ったんです。劇場体験の面白さをまず知ってもらって、それが記憶として残れば、次のデートで映画館に行くという選択肢がプラスされるはずと中井さんは言う。
 
ここ数年の映画業界の不況を脱却するイベント開催地として、中目黒はシンボリックな街だったということ。
 
そんな無料上映イベントが実現したのは、地域の協力があったからこそでもある。協力といっても金銭的な援助ではなく、同じ目黒区内・中目黒内に本社を置く企業によるスペースや物品の無料貸し出し、人脈をつないでもらうという資金提供以外のこと。(空間演出は「EASE」、機材協力は「アートレンタル」、機材/会場協力は「バンタンデザイン研究所 映画映像学部」、制作/イベント協力は「日本デザイン株式会社」など)3人から派生して、地域全体の抱える「中目黒を盛り上げたい」という想いがつながった、という。
 
「これは、日本に昔からある地域コミュニティのひとつの形なんですよね。いまは労働の対価は貨幣が基本になっている社会ですが、たとえば子育てにしても昔は近所のおばあちゃんやおじいちゃんが子どもの面倒を看てくれた。でも東日本大震災後に日本各地で起きたボランティア活動には新しい都市型コミュニティのヒントがあると思いました。コミュニティや地域の再生は、元気な団塊の世代と手を組み、世代間のギャップを埋めることも大切なのでは、と。『私はこういうことがしたい』『じゃあ僕はこれができる』という協力関係は、いい意味での、本来の村社会の原点だと思うんです」(山﨑さん)。
 
昨年11月のプレ・イベントの開催場所は、区の教育委員会が管理している目黒区青少年プラザの会議室。ここに、目黒駅前にある家具やスタジオのレンタル会社「EASE」の全面協力により映画作品の世界観を表現した家具を配置し、1970年代のアメリカ仕様にスタイリングを施した。このようなローカルな場所で開催したのにも理由がある。
 
「中目黒=お洒落といったイメージでアート作品の映像を流したり、あるいはコアな映画好きだけが集まるようなイベントにはしたくなかったんです。ターゲットは本当に幅広く、地元のおじいちゃんから家族でも入れるような、マス層に向けたものでありたいと思っています」(中井さん)。
 
本プロジェクトが異例のスピードで注目を集め、順調に始動したのは、企画・運営する側が同世代であうんの呼吸で理解しあえたことにある。しかし、何よりも仲間うちのイベントにとどまらず、あえて同じ言語をもたない異なる世代や地元住民、企業などを巻き込み、目的意識を共有することができたことが大きい
 
記念すべき第1回は、1月26日(土)に、中目黒バンタンゲームアカデミーのデッサン教室で開催された。上映作品は、ミシェル・ゴンドリー監督の「エターナル・サンシャイン」。会場の外には400名の行列ができるほど、注目を集めた。 第2回は、日本アカデミー賞では最優秀作品賞を含む3冠に輝いた「桐島、部活やめるってよ」。そして第3回はナカメキノ創業当時からの目標だったという野外上映を実現。中目黒が1年で最も盛り上がる桜の季節、「サニー 永遠の仲間たち」の映画上映の他、中目黒の所縁のある飲食店やイベント、ワークショップのブースを会場内に併設し、100名を超える観客と共に“桜祭り”らしい賑わいをみせた。

第4回は初の未公開作品「建築学概論」を上映。トークショーにはナカメキノではおなじみの放送作家でおっサニーの松崎“A”まことさん、映画文筆家の松崎“B”健夫さんの他、「フラッシュバックメモリーズ 3D」が若者を中心に大ヒットした松江哲明監督も同席、笑いと鋭い批評を交えた興味深いトークショーとなった。
 
「ナカメキノはまだまだ課題も多いのですが、期待を寄せて頂ける方が本当に多く、感謝しています。みんな面白いことを純粋に楽しみたいんですよね。今は月に1回というペースで続けていくことが大事だと思っています。中目黒はちょっと下町だけど、クリエイティブな街。だから誰もが積極的に楽しめる街でもある。そんな街に、小さなきっかけを作れたら、少しでも地域活性の役に立てればと考えています」(須藤さん)

ナカメキノ

HP:http://nakamekino.jp/
 
空間演出:EASE
機材協力:アートレンタル
機材/会場協力:バンタンデザイン研究所 映画映像学部
制作/イベント協力:日本デザイン株式会社


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