Kurara Audio Arts

Kurara Audio Arts

レポート
2003.09.18
カルチャー|CULTURE

見たこともないようなレコード、書籍が並ぶ
店内。一見無秩序にも見えるが、商品全てに
オーナーのこだわりが込められている。
貴重な本の上にぬいぐるみが置かれて
いたりと、インスタレーション感覚溢れる
ディスプレイも魅力。
本棚にはアートブックから絵本、
カタログ、哲学書まで幅広い
ジャンルの書籍がぎっしり。
渋谷公園通り、山手教会が入っているビルの一室に『Kurara Audio Arts(クララ・オーディオアーツ)』がある。8畳ほどの店内には、膨大な数のレコードやCD、ビデオ、アートブックなどが無造作に並べられており、まるでマニアックなコレクターの部屋に居るかのような錯覚にとらわれる。

「もともと僕の個人的なコレクションを通して、お客さんとその面白さを共有したいと思ったのがきっかけです。不思議なことに、ナディッフやワタリウムに通っているようなアート好きの人たちって全く音楽に興味を示さなくて、むしろアンチな態度を取っていることが多いんです。だから、その垣根を取っ払いたいという気持ちもありましたね」と語るのはオーナーの野界典靖さん(31)。

野界さんは、大学中退後の93年、21歳という若さで西新宿に同店をオープン。知り合いだった山辺圭一さんがレコードショップ『ロス・アプソン』を出店したことも大きなきっかけになったのだそうだ。96年、音楽評論家の佐々木敦さんが率いるHEADZの事務所オープンをきっかけに渋谷に移転。その一室を間借りし営業している。

同店で扱うレコードとCDは、そのほとんどがいわゆるアバンギャルド・ミュージック。一口にアバンギャルド・ミュージックといっても、ノイズやローファイからジャズ、ブルース、フレンチ、効果音レコード、漫画映画のサウンドトラックに至るまで、そのジャンルは多岐にわたる。また、アートブックも独特のセンスで選ばれたものばかり。写真集や絵画集はもちろん、美術館のカタログから絵本、ミュージカルに関するものまで、年代も国籍もジャンルもバラバラだ。しかし、例えばロシア構成主義の書籍とディズニーの絵本というような、一見無関係とも思えるセレクトには、野界さん独自の論理が成立しているのである。

「コンセプトは100円から100万円まで。レアで入手困難なレコードと超ローファイなCDが全く同じレベルで並んでいるのがうちの面白さです。ここは店自体がファンタジー。分かりにくいものやムダな行為を重んじる場所が、世界にひとつぐらいあってもいいんじゃないかなと思うんです」(野界さん)。

これまでほとんど口コミだけで営業を行い、知る人ぞ知る存在だった同店。しかし、ここのところ変化が起きているという。

「音楽誌や美術専門誌に取り上げられる事はごくたまにありましたが、口コミでこういうものが好きな人だけ来てくれるだけで充分だと思っていたんです。それが、最近はどこで聞いたのか、『spring』などのファッション誌からオシャレ本屋特集ということで、取材の申し込みが増えて驚いています。客層も変わりましたね。これまではアーティストや音楽を作っている人達がほとんどでしたが、女の子が1人で来ることも珍しくなくなりました」(野界さん)。

このところ、渋谷、代官山、中目黒など、既存の枠組みにとらわれない「新しいタイプの書店」が相次いでオープン。本のセレクトショップやオンライン古書店などの業態も定着するなど、「本」をめぐるビジネスはちょっとしたブームになっている。アンダーグラウンドの極みともいえる同店にも、そういった「ちょっとした知のブーム」が波及しているといえそうだ。

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