渋谷パルコの「インキュベーションスペース(仮)」

渋谷パルコの「インキュベーションスペース(仮)」

レポート
2006.11.08
ファッション|FASHION

「次世代デザイナー・ブーム」を掴まえろ! 

きっかけとなったのは、05年12月の
東京デザイナーズブランド「ミント
デザインズ(http://www.mint-designs.com/)」
メルボルン発の「P.A.M.(パム)」の
初ショップ
P.A.M.の出店を記念し、デザイナーを
はじめとするDJイベントも催された
(ラ・ファブリック)
アルゼンチンの「ホォアナ デ アルコ
 アッシュ・ペー・フランス
http://www.hpgrp.com/hpgrp/
http://www.juanadearco.net
)」はその後渋谷パルコ パート3に
正規出店している
東京の人気アクセサリーブランド
「e.m.(http://www.em-grp.com/)」
南米や豪州などの世界のアバンギャルド
なブランドを多く扱うセレクトショップ
「dual(デュアル/
http://www.dualtokyo.com/)」
インキュベーション=育成。この新しい「卵」を育成することで、渋谷パルコに新しい風が吹いてきた。

渋谷パルコの「インキュベーションスペース(仮)」が今秋、本格的に展開している。一般的にはまだ認知度が低く取扱店舗も少ない、なかなかビルインに成りにくい感度の高い新進気鋭のブランドをピックアップ。リスクの軽い小さい坪数ながらも、1階のエントランスの近くや3階のエスカレーター横など、動線に重要なスペースを「ショップ」として提供している。短期間でショップが入れ替わることで、顧客のトレンドに対する興味を喚起させ、昨今のモード回帰に対して新鮮な情報を発信するのがその狙いである。

出店期間は1週間から1ヶ月程度。内装はもちろんのこと、什器やポスター、ショップカードといった細かいものまですべてブランドに任されている。壁や床にガムテープをストライプ状に張ったり、アンティークのドアを巡らせた部屋にするなど、従来の新規出店の内装とは異なり、いかに費用をかけずに自分たちの世界観を表現するかという、クリエーターならではのこだわりも興味深い。

11月12日まで1階で展開しているのは2001年に代官山をはじめ、名古屋、大阪、福岡の「サイラス&マリア」でのみ(しかも少量)の取り扱いだった、メルボルン発の「P.A.M.(パム)」の初ショップ。シンプルな中にも凝ったデザインやメッセージ性のある柄、靴やバッグのなかには、渋谷パルコ限定のものも。モノクロで印刷(コピー?)されたVサインやグラフィックが壁や鏡、什器にまで貼りめぐらされており、個性的な「眼」のモティーフはエスカレーター側にもびっしりと圧巻。一見ダークな印象だが、よく見るとピースを表すマークが上手く毒をもって表現され、ブランドの指向性が濃く表現されている。タッセルや牙などエッジィなディテールを甘すぎないようデザインに落とし込んだ服は、20代後半になった元ストリート系の女の子たちからのレスポンスがかなり高い。

また、11月19日まで3階エスカレーター横で展開しているのが東京発の「Ideot(イディオット/http://www.ideot.jp/)」。凝った素材に対する思い入れと、プリントのクオリティが極めて高く、海外からも注目されている新進気鋭のブランドである。一面に散らばった一見ファンタジックに見えるプリントも、よく見るとマザーグースにインスパイアされたユニークな登場人物たちが独自のストーリーを展開していたりなど、こだわりと遊びが上手く融合されていてどんどん世界に引き込まれていく独特のニュアンスが観じられる。暖かみのある素材群は、限界まで洗いをかけたジャージィ、毛羽でデザインされたジャカード、つまむことで表面感を出しているパッチワークなど、カジュアルウェアながらも技術の錘を集めた、ものづくりに対する真摯な姿勢は、デザイナーの西澤さんがズッカ出身という話を聞くと納得させられる。

「きっかけは05年12月にパート1の地下1階にある洋書店ロゴスの脇で実験的に取り組んだ東京デザイナーズブランドの『ミントデザインズ』(http://www.mint-designs.com/ )からです」と言うのは渋谷店営業課の平松さん。

実は、当初は単なる「催事」としてのスタートだったのだが、ファッション・マスコミの反響が大きく、売上も好調だったことから、パート1の4.54坪と6.99坪の2ヵ所で展開していく「企画」として始動に。

「正式な出店という形だと断られることが多かったのですが、こういう形でのプレゼンテーションならぜひ、と言ってくれるブランドは多いんです。そのためにも、フレキシブルに展開することができるスペースの確保が重要でした。とはいえ、多少アバンギャルドでも売れるものでなければ意味がないのでブランドのセレクションにもこだわりました」(平松さん)。

これまでに展開したブランドは、東京の人気アクセサリーブランド「e.m.(http://www.em-grp.com/)」、南米や豪州などの世界のアバンギャルドなブランドを多く扱っているセレクトショップの「dual(デュアル/http://www.dualtokyo.com/)」、アルゼンチンの「ホォアナ デ アルコ アッシュ・ペー・フランス」、独ベルリンのセレクトショップ「Wut Berlin(ヴット ベルリン)」、L.A.のセレブ系ブランドの「kitson(キットソン)」など幅広い。いずれも反響が良く、これをきっかけに正式に出店を希望するブランドも出てきているという。

ブランド側の声としては、資本力が不足していたり、ビルインへの抵抗を感じていたりなど、正規出店するにはマイナス要素が大きいが、このようなインスタレーション感覚のスペースを与えてもらうことによって、軽い経費負担でこれまでに出会わなかった顧客に対して、自分たちのブランドのプレゼンテーションができるメリットは大きいと言う。

一方、パルコ側としては売り場が固定しがちなファッションビルでありながらも、短期間で変わっていくが印象に残るスペースを顧客に見せていくことで、トレンドに迅速に対応しようとする姿勢やお店としての新鮮さを感じてもらうことができる。
「これは渋谷パルコじゃないとできないブランド情報型SP、新しいプロモーションの形なんです」と渋谷パルコの泉水店長は話す。

「通常、百貨店やSCにある催事場という集客スペースが渋谷パルコにはないんです。渋谷という高感度の人々が集まる店だからこそ、ファッション情報そのものによるSPがその役割としてフィットしているんだと思います」(泉水店長)。

現在、渋谷パルコのコアターゲットは28歳前後の『アラウンド30』としているが、平日の夕方などは感度の高い30代や40代の方も少なくない。このインキュベーションスペースに関しては、雑誌編集者やスタイリスト、プレス、デザイナーといったファッション関係者の間での評判も良く、展示会の季節の今、平日の集客に繋がっているようだ。ちなみに、アジアからの来店客もかなり増えている。

セレクトショップ全盛の今、カジュアルファッションは真のトレンドを見失い、膠着状態に入りつつある。となると、通り一遍のトレンドに飽きた感度の高い顧客やファッション関係者の意識は、新しいブランドやクリエーションを探し求めて、国内外のコレクションや合同展示会などへと向けられるようになるのは当然のことだろう。

今、東京はモード回帰が始まっている。「次世代デザイナー・ブーム」ともいえるこの流れをいかに掴まえていくかが今後のファッションビジネスの鍵になってくると言えそうだ。


[取材・文/武藤孝子(ファッションライター)+『WEBアクロス』編集室]


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