ACROSS Street Fashion Marketing

コンテンツメニュー
さくらん

さくらん

レポート
カルチャー
2007.04.27
この記事のカテゴリー |  カルチャー | 

安野モヨコ原作の漫画『さくらん』が、写真家の
蜷川実花初監督による土屋アンナ主演で映画化!

安野モヨコさんの漫画を、蜷川実花監督が映画化した『さくらん』。2月24日に渋谷シネクイントで先行上映された直後から連日立ち見が出るほどの大ヒットとなり、その後全国公開され、現在の興行収入は7億円を突破。総動員数は53万人を上回る大ヒット上映中である。そんな話題の映画『さくらん』誕生までの経緯と大ヒットの要因を、同作品のプロデューサーの宇田充さんに伺った。

まず、02年に蜷川実花監督で映画を作りたいという宇田さんの企画で、製作はスタートしたという。

「蜷川さんの写真で表現されているような、一見すると“ヴィヴィッド”“カラフル”“かわいい”“元気”な世界観なのに、実は“残酷”で“人間の暗部をえぐるような”テーマ性をもった映画ができないかと相談しました」(宇田さん)。

共通の友人を介して、顔を合わせる機会を作り、映画の企画を進めることになった宇田さんと蜷川さん。1年ほどかけて、映画の“物語探し”を続け、当初は青春映画、現代の学園ものなども候補にあがったという。後に、蜷川さんの方から『さくらん』が提案された。

「『さくらん』しかないんじゃない?と蜷川さんから電話があったんです。確かに、吉原の世界は華やかで美しく、安野モヨコさんの物語らしい、ポップでかわいい元気なモチーフは、蜷川監督の写真の世界観とも共通します。遊郭という過酷な環境の中で、時代を超えた“自分らしくある女性の魅力”をテーマに描くことになりました」(宇田さん)。

こうして、漫画『さくらん』の映画化が決まり、脚本は監督業も務めるタナダユキさんに依頼。タナダさんの起用は、蜷川さんの初監督にあたって、相談にのれる商業映画の監督経験者であること、さらにタナダさんが蜷川さんと同世代で、感覚が共有できることなどにより決定した。もちろん、タナダさんが自身の映画作品『モル』『月とチェリー』等において、性に関する題材をモチーフにしながらも、ピュアで自分らしくあろうとする女性の姿は、『さくらん』にも通ずるものがあり、それも大きな理由となった。

蜷川さんの世界観を、映像として『さくらん』で表現するために、技術や美術面でもスペシャリトが集結した。撮影は、アメリカで活躍する気鋭の石坂拓郎さんが担当し、日本映画界的な撮影手法にこだわらないカメラワークが実現。照明は日本映画界の重鎮・熊谷秀夫さん。リアルにろうそくの灯りしかない時代劇のライティングに慣れていること、70年代のチャレンジングな作品でも大胆に活躍されてきた経験が活かされたという。また、蜷川作品の独特な色使いを再現すべく、イマジカ×コダックの最新ラボ技術を用いて、今までの邦画にない斬新な色味が映像化された。カメラ撮影やプリント焼のテストも通常よりも多く行ったそうだ。美術は、これが初となるデザイナー岩城南海子さんを起用し、同世代の女性の感覚、チャレンジングスピリッツを取り入れた。

そして、スクリーンで花魁たちを美しく着飾る衣装を担当したのは、スタイリストの伊賀大介さんと杉山優子さん。伊賀さんは、『ジョゼと虎と魚たち』や『真夜中の弥次さん喜多さん 』等でのクリエイティブに信頼感があり、蜷川さんにとっても特別なスタイリストであるという理由で選ばれた。その伊賀さんの提案で、着物のイロハがわかり、チャレンジ精神を持つ杉山さんもチームに加わることに。蜷川さんと杉山さんが相談して、衣装の着物は実際にある伝統的な柄を使うことになったが、浮世絵のように柄を過度に大きくしたり、ハレーションをおこしそうなくらい派手な色彩で作ったりと、デフォルメなアレンジを加えたという。

「まったくの嘘の世界ではなく、ちゃんと本物を知った上で遊びを入れていくという、杉山さんのこだわりを感じました。蜷川さんの花や金魚の写真をプリントした着物もありますが、あれも“友禅グラフィックス"なので、ちゃんと絹を染料でちゃんと染めたものです」(宇田さん)

『さくらん』の衣装には、蜷川氏の美学とそれを着る花魁のキャラクター、心境の変化まで表現されている。主人公のきよ葉が見習いの時代にはパステル調の着物、花魁の日暮となると、黒・赤・シルバーと大人の色調に変わる。これらの衣装は、呉服会社の協力を得て、コンピューターで作成したデザインを布地に直接、インクジェットで印刷するという最新技術を駆使して作られた。物語、映像、衣装と同様、音楽についても当初からこだわりがあったという。

「『さくらん』の原作を手にして、方向性を蜷川さんと相談していた頃から、音楽は椎名林檎さんしか思いつかない、やってもらえたならば最高だと考えていました。この原作、この監督に、他の音楽はありえないと。やっていただけることが決まった時、音楽が完成した際は感動的でした」(宇田さん)。

こうして、蜷川氏の世界観を完璧に表現した『さくらん』は、出演者の個性や様々なエッセンスが注ぎ込まれたことで、独自の世界観を出すことに成功した。映画自体のエンターテイメント性とアート性が両立され、“時代劇なのにロック”、“花魁の世界なのに爽快な物語”というのも、『さくらん』の魅力のひとつだろう。

また、都会的な作品ということもあり、上映は、首都圏で1週間先行上映(渋谷シネクイント)した後、全国での公開となったが、この提案は、営業サイドや地方の映画館からの提案によるもので、首都圏でのヒットを受けてから地方にアピールするという戦略の実験でもあったのだそうだ。

渋谷シネクイントで『さくらん』鑑賞後の数名に映画館に足を運んだ理由をインタビューしたところ、「安藤政信が好きだったから」、「椎名林檎が好きだったら」、「漫画はよく知らないけれど面白そうだから」など、きっかけがとても幅広いジャンルに渡っていたのに驚いた。なかには、テレビの特集番組を見て、興味を持ったという声も。
漫画や写真、アート、ファッション、音楽など、異なるジャンルのテイストが絶妙にミックスされた映画だったからこそ、異なるジャンルからのさまざまなファンの心をつかんだともいえそうだ。

宇田さんは『さくらん』の大ヒットを次のように語った。
「大変ありがたいことです。誰のファンというコアなものに依存するより、何より映画として『見たい!』と思っていただけるレベルに到達できたことが、ヒットの勝因、チームの勝因ではないでしょうか」。


[取材・文/本田亜友子+『WEBアクロス』編集室]

全文を読む
同じカテゴリの記事