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■都市のコード論:NYC編  vol.06
テーマ:HOTEL
レポート
2018.03.08
この記事のカテゴリー |   |   カルチャー | 

■都市のコード論:NYC編 vol.06
テーマ:HOTEL

在NYC17年の日本人ビジネスコンサルタント、Yoshiさんによるまち・ひと・ものとビジネスの考察を「都市のコード論:NYC編」と題し、不定期連載しています。

1年半ぶりの起稿。テーマは“HOTELと都市“です。日本でも異業種からの参入が増え、新しい展開をみせていますが、NYでは? データとともに解析します。


ニューヨーク市内で新しいホテルのオープンが相次いでいる。


2015年時点で市内には696件のホテル (107,000室) が営業していたとされているが、その後新規オープンが続き、2017年10月時点では、ホテル数はおよそ785件、 部屋数は115,000室に達したと考えられている。

ニューヨーク市のマーケティングを担うニューヨーク・シティ・アンド・カンパニーが2017年に発表したレポートによると、2017年末から2019年までに、おおよそ40-50件の新しいホテルのオープンがさらに予定されていて、27,000室が追加されることになり、その結果2019年末には900件近くのホテルが市内に存在することになる。

新しいホテルの業態はさまざまで、部屋数をみても14室のみの小規模なものから600室を超える大型のものまでそのバラエティは幅広く、ターゲットとする市場のセグメントもさまざまだ。とはいうものの、そこには共通する傾向もあり、そして新しい試みも散見される。

ということで、今回はNYマンハッタンのホテルの変化についてデータとともに解析してみることにした。



2015年以降オープンした (そして今後予定されている) ホテルの数を、ボロウ (区) ごとにみてみよう。

ニューヨーク市の中心であるマンハッタンでは、1年に20−30件のホテルが継続してオープンしていることがわかる。少し前に話題になったブルックリンも毎年5-10件ほどオープンしているもののすでにピークアウトしている。

一方、クイーンズでは2017年と2018年にそれぞれ10件前後、2019年には15件のホテルのオープンが予定されており、そのペースはブルックリンを上回っている。


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ボロウ別でなにより注目すべきことは、2017年からブロンクスにもホテルがオープンしていることだ

1980年代の犯罪のイメージから観光とは縁遠かったブロンクスが、いよいよ市内のホテル戦線に参入したことになる。確かに地下鉄に乗ればブロンクスからマンハッタンの中心部まで30分ほどで着くことができるし、近年はブロンクスの南端に位置するサウス・ブロンクスの開発も進んでいて、2017年に市内で家賃の大きな上昇率を示した地区の上位はブロンクスが占めていると報告されている。

ビジネスやエンターテイメントが圧倒的にマンハッタンに集中していた状態から、近年その重心は少しずつ隣接する他のボロウへと分散傾向にある。ブルックリンからクイーンズ、さらにはブロンクスへと、オープンするホテルのロケーションの移動は、人々の注目の移り変わりをも反映しているといえる。

ホテルの新規オープン (2015-2019年)を、マップにしたのが下のリンクである。
バブルの大きさはそれぞれのホテルの部屋数を示し、それぞれのホテル名と部屋数をインタラクティヴにみることができる。

fafsp.carto.com/viz/4a4b3f4f-2011-4e7f-8e51-46956fcf2581/public_map


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2017年11月に東京は錦糸町、大阪は本町にオープンしたマリオット・インターナショナルが20〜30代のミレニアル世代を対象とした家具や内装にこだわったデザイナーズホテルブランド「モクシー・ホテル」。ウエブサイトもポップで従来のホテルのイメージとは異なる。

マンハッタンをみてみると、伝統的に観光客とホテルが多いミッドタウンにひき続き新しいホテルが多くオープンしていることがわかる。

たとえば、マリオットが手がける、612室のモキシーNYCタイムズ・スクエア (http://moxy-hotels.marriott.com/en) が2017年にオープンした。

やはりミッドタウンのハドソン川近く、ハイラインの北端に位置するハドソン・ヤーズでは大規模な開発が進んでいる。最新のインフラを備えた大型オフィス・スペースが建設中で、完成と共に多くの企業がミッドタウンからハドソン・ヤーズへと移転することが予想されている。企業が移転する先にホテルができるのは当然なのだろう。ハドソン・ヤーズの隣には巨大なコンヴェンション・センターであるジャヴィッツ・センターもある。部屋数の多い大型ホテルが多いのもミッドタウンの特徴といえる。

マンハッタンの南端に近いファイナンシャル・ディストリクト (旧金融街) からバッテリー・パークにかけても新しいホテルが増えている。グラウンド・ゼロ1ワールド・トレード・センターが完成したことで、コンデナストやデイリー・ニュースなど、多くのメデイア企業がタイムズ・スクエアからダウンタウンへと移転している。そうしたビジネス向けの需要はもちろんのこと、ロウワー・マンハッタンはかつての金融街から比較的若年層の人たちが住む地区へと急速に変化している。伝統的な観光地のミッドタウンを敬遠してロウワー・マンハッタンに宿泊することを選ぶ観光客も増えているということなのだろう。


 
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ハドソンヤードの開発のようす(2018年1月撮影)


ブルックリン
はというと、ダウンタウンウィリアムズバーグからグリーンポイントにかけて、そしてクイーンズではロング・アイランド・シティのほかにジャマイカでもホテルがオープンしている。

ロング・アイランド・シティは、マンハッタンのミッドタウンまでイースト・リバーを超えてすぐの場所にあり、マンハッタンよりも手頃な宿泊料金に設定されている。さらには部屋から川の向こうにマンハッタンの眺めを楽しむことができる。マンハッタンに滞在していたら目にすることができない贅沢だ。JFK空港行きのエアトレインが発着するジャマイカは、空港と市街地との両方へのアクセスの良さからホテルができているようだ。

ホテル数が急速に増えていることから、ニューヨークのホテル需給は緩和すると予想されている。激化する競争に生き残るためのカギは、差別化にあるようだ。

ニューヨーク市シティ・プランニングのレポート
によると、市内のホテルの部屋数のおよそ38%は独立系のホテルだという。チェルシーにあるハイライン・ホテル (http://thehighlinehotel.com/)、ミッドタウンのルーズヴェルト・ホテ (http://www.theroosevelthotel.com/)ロジャー・スミ (https://www.rogersmith.com)、ブルックリンのウィリアムズバーグのウィリアム・ヴェイル (https://www.thewilliamvale.com/) などが独立系に相当する。

これらのホテルは全国展開する大手ブランドとは提携していない。戦略的な選択だ。

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市内に43,600室あるとされる独立系ホテルの部屋のうち、49%は広義のハイエンドに属し、エコノミーのセグメントに相当する部屋数はその28%にすぎない。独立系のホテルがハイエンドをターゲットとしていて、独立系
であること (大手ブランドの一部ではないこと) を高付加価値化に利用していることがわかる。実際に、大手を避けて、独立系のホテルでの宿泊を選ぶ人は増えている。


独立系のホテルは、マンハッタンではダウンタウンブルックリンの一部クイーンズのロング・アイランド・シティなどでオープンしている。典型的な観光地ではない場所の選定がその価値の欠かせない一部であり、ハイエンドのイメージとロケーションが分かちがたく結びついていることがわかる。ロケーションはそのブランドの一部といってもいい。

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トリップ・アドバイザーが買収した現地ツアーの予約ができるプラットフォーム「ヴィアター(www.viator.com)」。

興味深いのは、大手ブランドもニューヨークでは独立系のアプローチを模索していることだ。

テキサスを拠点とするあるデベロッパーは、通常マリオットやヒルトンと提携してホテルを展開するものの、ニューヨーク市内では大手ブランドと提携せずに運営している。

なかには大手ブランドの傘下であることを隠して、独立系にみせて運営する覆面独立系ホテルもあるという。そのため、市内のホテルを独立系と非独立系にホテルに分けることは容易ではない。少なくともニューヨークに関する限り、ハイエンド市場は、独立系としての独自性を提供することが条件となっているようだ。

同時にヒルトンマリオットも、別名を用いたソフト・ブランドのホテルをオープンし、より小規模で、標準化されていない部屋を提供しようとしている。

日本でも2018年の春に軽井沢にオープンする予定のキュリオ・コレクション・バイ・ヒルトン
(http://curiocollection3.hilton.com/en/index.html) や、タイムズ・スクエアとミッドタウンの2カ所にあるマリオットのオートグラフ・コレクション (https://autograph-hotels.marriott.com/) などがその例であり、既存のブランドとは距離を置く位置づけになっている。

ソフト・ブランドはブティック・ホテルとして運営しつつ、同時に大手ブランドの一部として、予約やリウォードのシステムにアクセスできる利点もある。

 
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2017年、マンハッタン31丁目にオープンしたライフ・ホテルは、かつて雑誌『ライフ・マガジン』の本社だった建物を改修したものだ。

ホスピタリティのビジネスにもテクノロジーとデータは欠かせない。
ニューヨークのホテルでは、自分でチェックインを済ませるところが増えているiPadに接続された端末を利用してチェックインする。わからなければ、必要に応じてスタッフが助けてくれる。テクノロジーの利用でコストを抑えるホテルは多い。


ホテル各社はゲストに関する大量の情報を有している。そのデータをもとに、それぞれのゲストにどんなサービスを提案するのかがビジネスを左右することから、ホテル・テクノロジーのスタートアップ企業の買収も活発になっている。

現地ツアーを予約するサイトのヴィアター (https://www.viator.com) を買収したことで、ホテルやレストランの予約サービスを提供するトリップ・アドバイザー (https://www.tripadvisor.com/) では、ホテル以外の売上が31%増加した。マリオットは、データに基づいて、それぞれのゲストが気に入りそうな体験を個別に提案している。


ローカルな体験を提案するホテルは多い。マリオットが最近買収したアロフト・ホテル (https://aloft-hotels.starwoodhotels.com/) は、ローカルのアーチストによる音楽の演奏をスポンサーしている。ホステル感覚のブティック・ホテルを謳うモキシーは、部屋は狭くそれ自体がニューヨークの経験だという。

こうした動向の背景には、ホテルの競合はairbnbだという認識がある。airbnbがマーケットする、これまでのような観光客ではないローカルとしての体験をとりこむべく、宿泊に付随するローカル性をホテルが重視し始めていることが、現地ツアーやアクティビティの予約サイトの買収を後押ししている。ホテル周りのビジネスをいかにして取り込むのかは、これからも大きな課題だ。

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アーチ状の構造を多く手がけた建築家、エーロ・サーリネンによって1962年にTWA航空のターミナル4をホテルに改修したTWAホテル。
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TWAホテルのHPより。独特のレトロモダンな内装はある層にとっては宿泊することが目的となりそう。


新しいホテルを見て回ることで気づくことのひとつは、かつてのように、入口を入ると目の前に巨大なレセプションが広がっているという光景を目にすることはないということだ。ハイエンドのホテルにその傾向が強く、大きなデスクの背後に何人ものスタッフが立って待ち構えているという光景は過去のものになりつつある。

自分でチェックインするためのiPadが並んでいる以外には、入口のフロアにはソファが並ぶくつろぐ場所があったり、レストランがあったりする。2017年にマンハッタンの31丁目にオープンしたライフ・ホテル (https://lifehotel.com/
) のように、入口を入ってもどこにレセプションがあるのかすぐにはわからない、むしろレセプションをできるだけ見せないようしているようにさえ思えるところもある。

ライフ・ホテルはかつての雑誌の『ライフ・マガジン』本社だった建物をホテルに改修している。商品をマーケットする際に、それにまつわる物語を付加する物語マーケティングが一般化しつつあるが、ライフ・ホテルは既にそこにあるライフ・マガジンのレガシーの周りにホテルというビジネスを構築したのが興味深いところだ。

他の場所で再現不可能なプロジェクトには、他にはない固有性がある。オーセンティックなトーンを前面に出している内装にもそれは見てとれる。新しいコンセプトやデザインを考えたところで、ひとたび注目されたらそれはすぐに模倣され、あっという間に世界中でコピーされる。模倣されることを避けるためには、他にないユニークな場所を開発するしかないということなのかもしれない。

他にはないホテルといえば、JFK空港内で工事が進んでいるTWAホテル (https://www.twahotel.com) は、かつてのTWA航空のターミナル4をホテルに改修するものだ。 エーロ・サーリネンの手によって1962年にオープンしたターミナルで、トランス・ワールド航空 (TWA) はもちろんもう存在しないが、
その歴史とアイコニックなターミナルを利用したホテルとして復活する。
 
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1980年代にブティック・ホテルのコンセプトを導入したイアン・シュレージャーが手がけるPUBLIC HOTEL。冒頭のソファーの部屋の写真もここ。日本だと結婚式の会場としてのニーズは必須だが、NYの場合はアートイベントや音楽イベントが開催できるようなスペースを設けるところが多いよう。(https://www.publichotels.com/)
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日本における近年のデザインホテル、ブティックホテルのトレンドは、2012年にブルックリンに暮らす3人のオーナーの手によって開業したこのWHYTHE HOTELが有名だ。1901年に建てられた、精糖所に納める木樽を製造する工場をリノベートしたインダストリアルな意匠は、その後の日本における“ブルックリン・ブーム”や“ポートランド・ブーム”を後押ししたが、そういった表面的なことに留まらず、小資本(インディペンデント)であることをはじめ、レストランのメニュー、バー、パブリックスペース、ジムなど、従来の都市のホテルユーザーとは異なる“新しいラグジュアリー”なライフスタイルを提案していた点こそが新しい(写真は2013年8月に撮影したもの)。
 
ホテル・ビジネスの競争の中心は、部屋よりも宿泊の周辺へと移動している。

昨今の宿泊客の半分はレストランでホテルを選ぶというデータもある。ライフ・ホテルのロビーはレストランをフィーチャーしていて、近所の人たちが立ち寄るような場所を目指しているという。同レストランは、レストラン起業家のステファン・ハンソンが所有・経営している。

ホテルの中のレストランの多くは第三者の業者が経営し、ホテルとのシナジーが欠けていることが多い。ライフ・ホテルではハンソン自身が同ホテルに投資をしており、レストランの売上の一定の率を家賃としてホテルに払う仕組みになっている。

一般的に、レストランをオープンした後、その周辺が人気の地区になったら、家賃が上がり今度は追い出されることになりかねない。不動産価格の高騰に終わりの見えないニューヨークでは頻繁に耳にする話だ。ビジネス面での新しい取り組みは、その防止策でもある。

2017年にロウワー・イースト・サイドにオープンしたパブリック (https://www.publichotels.com/) は、1980年代にブティック・ホテルのコンセプトを導入したイアン・シュレージャーが手がけるホテルだ。

その名が示す通り、誰もが立ち寄ることができるように、コワーキング・スペースパブリックの場所があり、仕事をしたり、打ち合わせをしたりしている人たちが多い。上層階にはフード・ホールバーがあり、地下にはコンサート・ホールもある。エンターテイメントは利益が出せるものの、ホテル産業にノウハウがない部分でもある。その開発の意図がある。

こうしてみると、新しいホテルにはいくつかの傾向がある。宿泊周りの体験をとりこむこと。他にない固有性を求めるところもある。そしてテクノロジーとデータがホテル産業の未来に欠かせないコアであることも間違いのだろう。

[取材・データ/文:Yoshi(在NY・コンサルタント)]

 

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入口を抜けて奥へと進み、照明を落とし気味の人のいないレセプションに設置されたiPadでセルフのチェックインを済ませると、エレベーターで上階へと移動して部屋に入る。部屋はもちろん清掃済み。誰が掃除したのかはどうでもいい。大事なことは清掃が予定通り終わっているかどうかであって、清掃員の姿は客の目に入らない方がむしろ望ましい。部屋に足りないものがあれば、下に電話するだけで朝食でも夜食でも部屋に届けてくれる。今夜この近辺で予定されているエンターテイメントのリストも昨日のうちに届いていたはずだが、多すぎる情報に目を通すのも面倒だから、おそらく一番上に表示されていたおすすめのものに足を運んでみることになるだろう。 ホテルの人と電話で話すのが煩わしければ、アプリを立ち上げてホテルの外からピザやタコスのデリバリーを頼んでもいい。いまやレストランからホテルの部屋にデリバリーを頼むのは当たり前。スクリーンに表示されたメニューからレストランと食べ物を選び、「はい」か「いいえ」をタップしていけばオーダーは完了。すべてはスムースでシームレスに進み、午前3時でも4時でも、雨だろうが吹雪だろうが、30分後には暖かい食べ物が部屋に届く。もちろん部屋から一歩も外に出る必要はないし、人と顔を合わせるのは、雪の中を自転車でデリバリーにかけつけた人がドアをノックした時だけで済むというわけだ。 部屋の状態は万全のはずだが、もしも不備があればすぐに苦情を言おう。たちまちホテルの人がとんできて不具合のイスを交換し、エアコンを修理してくれる。すべて問題なく機能し、快適に過ごせて当たり前。それに苦情に対応するのも料金のうちなのだ。仮に問題が解決しなければ返金を要求すればいいし、別のホテルをみつければいいだけのこと。なにしろ私はお金を払ったのだ。 1. 自宅の部屋で眠っていると、なにやら大声で騒いでいる人たちの声で午前4時に目が覚める。深夜まで営業する向かいのレストランの従業員が外に出て騒いでいるらしい。ニューヨーク市が運営する、苦情を報告できるアプリのNYC311をタップしよう。こうした苦情が度重なるレストランは営業停止になることもあるから、住民にとっては便利なツールなのだ。近所の建設現場の騒音など、苦情を報告するために一日に何度もそのアプリを立ち上げることもある。家の前の歩道のゴミが回収されていなかったり、大雪の翌朝に除雪が終わっていなければ、市に電話すればゴミ回収車も除雪車もやってくる。 騒音や除雪は迷わずすぐに苦情を訴える。自分の生活に支障が出るわけだから当然だ。実際NYC311に寄せられる苦情の件数は年々増えている。それなら、市が提案している数ブロック先のパブリック・ハウジングの取壊しと、その跡地に予定されている超高層コンドミニアムの建設計画について、市に意見した人はどれだけいるだろう。 自分はパブリック・ハウジングに住んでいるわけではないし、高級コンドミニアムにも縁がない、それにそんな問題をどう考えればいいのか、まして解決法などもち合わせてはいないというところなのかもしれない。それに言うだろう。そんなことは市長とそのスタッフの仕事であって、そのために彼らは雇われているのだと。なにしろ私たちは税金を払っているのだ。 市のテクノクラートが準備したメニューから気に入ったものをタップし、料金を支払い、不備があれば後から文句を言う。文句をいうのも面倒、苦情を伝えても改善しないというなら、より望ましい別の都市に引っ越そう。多くの人が集まるような魅力的な都市にすることが市長の仕事ではないのか。お金を払っている限り市はニコニコといい顔をしてくれるはずだし、さらに奮発する上客には満面の笑みで応えてくれるのだ。 住民にとって何が重要で、最善の方策は何なのか。それを決めるのは市で、住民は「はい」か「いいえ」で選択する。もはや市民参加は限界まで稀薄化された住民投票以上のものではありえず、住民はお客様、市政府はカスタマー・サービスとして振る舞うことが求められるとするなら、両者の関係をとり結ぶものはマネー以外には何もなく、お客様とカスタマー・サービスの間に「市民」が占める場所はどこにもない。 アパートから一歩も出ることなく苦情をタップすれば誰かがそれに対応してくれるNYC311のようなツールは便利には違いないのだが、いや便利だからこそ、住民のお客様化を嫌でも露呈せざるを得ないし、それを助長してもいるだろう。といっても、それはテクノロジーのせいではないし、そもそもテクノロジーの問題でもない。 向かいのレストランの従業員がうるさければ、NYC311を立ち上げる前に、その人たちのところに行って、小声で話すよう促してみることもできるはずだ。見ず知らずの人たちにいきなり意見するのは億劫なことだが、レストランの人たちだけでなく、近所の人たちと多少顔見知りでありさえすれば、それはそんなに難しいことでもない。あらゆることを市に頼る必要はなく、当事者間で解決できることは少なくないはずだ。 いやいや、そんな面倒なことを誰がするものか。人に解決してもらい、誰かに決めてもらった方が楽だし、責任を負うこともない。議論や意思決定に参加するなど厄介なだけ。考えて決める自由から解放された不自由の方が楽に決まっている。政策から隣人の騒音まで、ありとあらゆる判断と対応を市政府に預けることで、市に私たちの生活を監視し、取り締まる口実を与えるばかりか、一元的な管理による集権化をも招いているはずなのだが、それはそっと見ないふりをしておけばいい。それに中央によるトップダウンはきわめて効率的なのだ。 2. 複雑な都市に現れる複雑な問題に、「はい」か「いいえ」の極端に単純な二択を迫るソリューションには、どの選択肢に対しても「違う」と拒否することや、選択することそのものを拒否すること、その問題について自分たちで解決法を模索し、調整する余地は予め排除されている。 スクリーンをタップすることで様々な問題が解決するシームレスな世界のファンタジーとは違って、現実の都市はでこぼこしていて、あちこち衝突ばかり起きている。多くの人たちが狭い場所に他人と背中合わせで暮らし、限られた資源を共有するのだから、利害がぶつかり合うのは必然なのだ。 一歩外に出れば、850万人の住民だけでなく、一年に6500万人訪れる観光客とたちまち歩道を共有することになる。向こうからやってくる人とぶつからないように互いによけ合うことが必要だ。ニューヨークの歩道は自動車が普及する以前はいまよりもずっと広かったのだが、20世紀を通して車道が歩道を奪うことになった。21世紀に入りようやくその流れは押し戻されつつあり、今度は自動車から歩行者へと場所が与えられようとしている。深夜の騒音も利害の不一致によるものだ。同じ場所を共有しながら同じ生活時間帯を共有しないときにそれは騒音として現れる。 何かをすれば必ず他の人たちに影響を与えることになる都市はコンフリクトに満ちている。アパートに閉じこもりデリバリーだけで生活していても、間接的に他の人たちと常に関係していて、その先にはコンフリトが現れる。シームレスな世界をスクリーンに立ち上げることはできたとしても、アプリはコンフリクトを解決しはしない。お客様の目に入らないように隠すだけだ。 特定の目的を効果的に達成するために、チームのメンバーに異なる背景をもつ人たちを集めることがある。企業はそれを多様性と呼んでいるようだが、それは都市の多様性とはおよそ異なるものだ。そもそも都市には目的がないばかりか、そこに住む不特定多数の人たちがそれぞれ異なる目的をもちこむことで、無数の相反する目的が競合し、ぶつかり合い、衝突をあちこちでつくり出すことになる。 「オープンな場所」といえばたいそう聞こえはいいけれど、それは少しも愉快なものではない。それどころか、考えや言語、習慣を共有しない人たちと一緒に暮らすことはむしろ不愉快で、ありがたくない摩擦やストレスが生活にのしかかってくる。ホームレスの権利を擁護するのは簡単だが、ホームレスの隣の席に座ってコーヒーを飲むことはずっと難しい。多元文化主義などと説教臭いことをわざわざ主張するまでもなく、都市は日夜さまざまな差異と矛盾を息づき、コンフリクトを生み出し続けている。 利害の調整を求めて住民がそれぞれ折衝し、一時的な同意を取りつけ妥協を受け入れつつも、ご都合主義的な結合や不和を繰り返すことで、都市は動き続けることを止めない。あらゆるところで起きる衝突は厄介なことには違いないのだが、それは都市を動的にしている大きな可能性でもある。衝突や摩擦をインタラクションと言い換えてみればいい。実際そこで起きていることはそんなに変わりはしない。 利害の不一致があるからこそ都市であり、そこにこそ都市の都市性が存在する。都市はシームレスとはほど遠い厄介で面倒な場所なのだ。その当たり前のことをもう一度確認しておこう。必要なことは、それを取り除くべき問題と捉えて隠してしまうことではなく、それを都市に本来的なコアと認めたうえで、あらためて導入することなのだ。 3. ニューヨークでは常に多くのことが起きていると言われる。とはいえ、実際に起きていることが、他の都市と比べてことさら多いわけではないはずだ。多くのことが起きているようにみえるとすれば、それはこの都市に起きている些細なことを見つけては伝えようとする人たちが多く存在するからに違いない。 誰かに頼まれたわけでもないのに、毎日歩くネイバーフッドのほんのわずかな変化に注意を払い、歩道に現れたおかしな落書きをみつけてはポストしている人がいたり、研究者でもないのにニューヨークにこれまで存在したLGBTの場所を全て調べ上げてマップを作っている人がいる。8000マイルにおよぶ市内全てのブロックを数年間かけて毎日歩いている人もいる。 個人的な関心や自分の利害のために彼らが続けていることは、いかにも役に立ちそうにないことばかりなのだが、シームレスに閉じようとする世界に綻びを見つけては伝えてくれる彼らの役割は計り知れず、それだからこそ多くの人たちが彼らに反応し、さらに多くの人たちの関心を集めることになる。自分が住んでいるところで起きていることを知ること。まずはそこからなのだ。 Advertisements

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