■都市のコード論:NYC編  vol.06
テーマ:HOTEL
レポート
2018.03.08
カルチャー|CULTURE

■都市のコード論:NYC編 vol.06
テーマ:HOTEL

在NYC17年の日本人ビジネスコンサルタント、Yoshiさんによるまち・ひと・ものとビジネスの考察を「都市のコード論:NYC編」と題し、不定期連載しています。

1年半ぶりの起稿。テーマは“HOTELと都市“です。日本でも異業種からの参入が増え、新しい展開をみせていますが、NYでは? データとともに解析します。


ニューヨーク市内で新しいホテルのオープンが相次いでいる。


2015年時点で市内には696件のホテル (107,000室) が営業していたとされているが、その後新規オープンが続き、2017年10月時点では、ホテル数はおよそ785件、 部屋数は115,000室に達したと考えられている。

ニューヨーク市のマーケティングを担うニューヨーク・シティ・アンド・カンパニーが2017年に発表したレポートによると、2017年末から2019年までに、おおよそ40-50件の新しいホテルのオープンがさらに予定されていて、27,000室が追加されることになり、その結果2019年末には900件近くのホテルが市内に存在することになる。

新しいホテルの業態はさまざまで、部屋数をみても14室のみの小規模なものから600室を超える大型のものまでそのバラエティは幅広く、ターゲットとする市場のセグメントもさまざまだ。とはいうものの、そこには共通する傾向もあり、そして新しい試みも散見される。

ということで、今回はNYマンハッタンのホテルの変化についてデータとともに解析してみることにした。



2015年以降オープンした (そして今後予定されている) ホテルの数を、ボロウ (区) ごとにみてみよう。

ニューヨーク市の中心であるマンハッタンでは、1年に20−30件のホテルが継続してオープンしていることがわかる。少し前に話題になったブルックリンも毎年5-10件ほどオープンしているもののすでにピークアウトしている。

一方、クイーンズでは2017年と2018年にそれぞれ10件前後、2019年には15件のホテルのオープンが予定されており、そのペースはブルックリンを上回っている。


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ボロウ別でなにより注目すべきことは、2017年からブロンクスにもホテルがオープンしていることだ

1980年代の犯罪のイメージから観光とは縁遠かったブロンクスが、いよいよ市内のホテル戦線に参入したことになる。確かに地下鉄に乗ればブロンクスからマンハッタンの中心部まで30分ほどで着くことができるし、近年はブロンクスの南端に位置するサウス・ブロンクスの開発も進んでいて、2017年に市内で家賃の大きな上昇率を示した地区の上位はブロンクスが占めていると報告されている。

ビジネスやエンターテイメントが圧倒的にマンハッタンに集中していた状態から、近年その重心は少しずつ隣接する他のボロウへと分散傾向にある。ブルックリンからクイーンズ、さらにはブロンクスへと、オープンするホテルのロケーションの移動は、人々の注目の移り変わりをも反映しているといえる。

ホテルの新規オープン (2015-2019年)を、マップにしたのが下のリンクである。
バブルの大きさはそれぞれのホテルの部屋数を示し、それぞれのホテル名と部屋数をインタラクティヴにみることができる。

fafsp.carto.com/viz/4a4b3f4f-2011-4e7f-8e51-46956fcf2581/public_map


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2017年11月に東京は錦糸町、大阪は本町にオープンしたマリオット・インターナショナルが20〜30代のミレニアル世代を対象とした家具や内装にこだわったデザイナーズホテルブランド「モクシー・ホテル」。ウエブサイトもポップで従来のホテルのイメージとは異なる。

マンハッタンをみてみると、伝統的に観光客とホテルが多いミッドタウンにひき続き新しいホテルが多くオープンしていることがわかる。

たとえば、マリオットが手がける、612室のモキシーNYCタイムズ・スクエア (http://moxy-hotels.marriott.com/en) が2017年にオープンした。

やはりミッドタウンのハドソン川近く、ハイラインの北端に位置するハドソン・ヤーズでは大規模な開発が進んでいる。最新のインフラを備えた大型オフィス・スペースが建設中で、完成と共に多くの企業がミッドタウンからハドソン・ヤーズへと移転することが予想されている。企業が移転する先にホテルができるのは当然なのだろう。ハドソン・ヤーズの隣には巨大なコンヴェンション・センターであるジャヴィッツ・センターもある。部屋数の多い大型ホテルが多いのもミッドタウンの特徴といえる。

マンハッタンの南端に近いファイナンシャル・ディストリクト (旧金融街) からバッテリー・パークにかけても新しいホテルが増えている。グラウンド・ゼロ1ワールド・トレード・センターが完成したことで、コンデナストやデイリー・ニュースなど、多くのメデイア企業がタイムズ・スクエアからダウンタウンへと移転している。そうしたビジネス向けの需要はもちろんのこと、ロウワー・マンハッタンはかつての金融街から比較的若年層の人たちが住む地区へと急速に変化している。伝統的な観光地のミッドタウンを敬遠してロウワー・マンハッタンに宿泊することを選ぶ観光客も増えているということなのだろう。


 
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ハドソンヤードの開発のようす(2018年1月撮影)


ブルックリン
はというと、ダウンタウンウィリアムズバーグからグリーンポイントにかけて、そしてクイーンズではロング・アイランド・シティのほかにジャマイカでもホテルがオープンしている。

ロング・アイランド・シティは、マンハッタンのミッドタウンまでイースト・リバーを超えてすぐの場所にあり、マンハッタンよりも手頃な宿泊料金に設定されている。さらには部屋から川の向こうにマンハッタンの眺めを楽しむことができる。マンハッタンに滞在していたら目にすることができない贅沢だ。JFK空港行きのエアトレインが発着するジャマイカは、空港と市街地との両方へのアクセスの良さからホテルができているようだ。

ホテル数が急速に増えていることから、ニューヨークのホテル需給は緩和すると予想されている。激化する競争に生き残るためのカギは、差別化にあるようだ。

ニューヨーク市シティ・プランニングのレポート
によると、市内のホテルの部屋数のおよそ38%は独立系のホテルだという。チェルシーにあるハイライン・ホテル (http://thehighlinehotel.com/)、ミッドタウンのルーズヴェルト・ホテ (http://www.theroosevelthotel.com/)ロジャー・スミ (https://www.rogersmith.com)、ブルックリンのウィリアムズバーグのウィリアム・ヴェイル (https://www.thewilliamvale.com/) などが独立系に相当する。

これらのホテルは全国展開する大手ブランドとは提携していない。戦略的な選択だ。

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市内に43,600室あるとされる独立系ホテルの部屋のうち、49%は広義のハイエンドに属し、エコノミーのセグメントに相当する部屋数はその28%にすぎない。独立系のホテルがハイエンドをターゲットとしていて、独立系
であること (大手ブランドの一部ではないこと) を高付加価値化に利用していることがわかる。実際に、大手を避けて、独立系のホテルでの宿泊を選ぶ人は増えている。


独立系のホテルは、マンハッタンではダウンタウンブルックリンの一部クイーンズのロング・アイランド・シティなどでオープンしている。典型的な観光地ではない場所の選定がその価値の欠かせない一部であり、ハイエンドのイメージとロケーションが分かちがたく結びついていることがわかる。ロケーションはそのブランドの一部といってもいい。

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トリップ・アドバイザーが買収した現地ツアーの予約ができるプラットフォーム「ヴィアター(www.viator.com)」。

興味深いのは、大手ブランドもニューヨークでは独立系のアプローチを模索していることだ。

テキサスを拠点とするあるデベロッパーは、通常マリオットやヒルトンと提携してホテルを展開するものの、ニューヨーク市内では大手ブランドと提携せずに運営している。

なかには大手ブランドの傘下であることを隠して、独立系にみせて運営する覆面独立系ホテルもあるという。そのため、市内のホテルを独立系と非独立系にホテルに分けることは容易ではない。少なくともニューヨークに関する限り、ハイエンド市場は、独立系としての独自性を提供することが条件となっているようだ。

同時にヒルトンマリオットも、別名を用いたソフト・ブランドのホテルをオープンし、より小規模で、標準化されていない部屋を提供しようとしている。

日本でも2018年の春に軽井沢にオープンする予定のキュリオ・コレクション・バイ・ヒルトン
(http://curiocollection3.hilton.com/en/index.html) や、タイムズ・スクエアとミッドタウンの2カ所にあるマリオットのオートグラフ・コレクション (https://autograph-hotels.marriott.com/) などがその例であり、既存のブランドとは距離を置く位置づけになっている。

ソフト・ブランドはブティック・ホテルとして運営しつつ、同時に大手ブランドの一部として、予約やリウォードのシステムにアクセスできる利点もある。

 
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2017年、マンハッタン31丁目にオープンしたライフ・ホテルは、かつて雑誌『ライフ・マガジン』の本社だった建物を改修したものだ。

ホスピタリティのビジネスにもテクノロジーとデータは欠かせない。
ニューヨークのホテルでは、自分でチェックインを済ませるところが増えているiPadに接続された端末を利用してチェックインする。わからなければ、必要に応じてスタッフが助けてくれる。テクノロジーの利用でコストを抑えるホテルは多い。


ホテル各社はゲストに関する大量の情報を有している。そのデータをもとに、それぞれのゲストにどんなサービスを提案するのかがビジネスを左右することから、ホテル・テクノロジーのスタートアップ企業の買収も活発になっている。

現地ツアーを予約するサイトのヴィアター (https://www.viator.com) を買収したことで、ホテルやレストランの予約サービスを提供するトリップ・アドバイザー (https://www.tripadvisor.com/) では、ホテル以外の売上が31%増加した。マリオットは、データに基づいて、それぞれのゲストが気に入りそうな体験を個別に提案している。


ローカルな体験を提案するホテルは多い。マリオットが最近買収したアロフト・ホテル (https://aloft-hotels.starwoodhotels.com/) は、ローカルのアーチストによる音楽の演奏をスポンサーしている。ホステル感覚のブティック・ホテルを謳うモキシーは、部屋は狭くそれ自体がニューヨークの経験だという。

こうした動向の背景には、ホテルの競合はairbnbだという認識がある。airbnbがマーケットする、これまでのような観光客ではないローカルとしての体験をとりこむべく、宿泊に付随するローカル性をホテルが重視し始めていることが、現地ツアーやアクティビティの予約サイトの買収を後押ししている。ホテル周りのビジネスをいかにして取り込むのかは、これからも大きな課題だ。

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アーチ状の構造を多く手がけた建築家、エーロ・サーリネンによって1962年にTWA航空のターミナル4をホテルに改修したTWAホテル。
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TWAホテルのHPより。独特のレトロモダンな内装はある層にとっては宿泊することが目的となりそう。


新しいホテルを見て回ることで気づくことのひとつは、かつてのように、入口を入ると目の前に巨大なレセプションが広がっているという光景を目にすることはないということだ。ハイエンドのホテルにその傾向が強く、大きなデスクの背後に何人ものスタッフが立って待ち構えているという光景は過去のものになりつつある。

自分でチェックインするためのiPadが並んでいる以外には、入口のフロアにはソファが並ぶくつろぐ場所があったり、レストランがあったりする。2017年にマンハッタンの31丁目にオープンしたライフ・ホテル (https://lifehotel.com/
) のように、入口を入ってもどこにレセプションがあるのかすぐにはわからない、むしろレセプションをできるだけ見せないようしているようにさえ思えるところもある。

ライフ・ホテルはかつての雑誌の『ライフ・マガジン』本社だった建物をホテルに改修している。商品をマーケットする際に、それにまつわる物語を付加する物語マーケティングが一般化しつつあるが、ライフ・ホテルは既にそこにあるライフ・マガジンのレガシーの周りにホテルというビジネスを構築したのが興味深いところだ。

他の場所で再現不可能なプロジェクトには、他にはない固有性がある。オーセンティックなトーンを前面に出している内装にもそれは見てとれる。新しいコンセプトやデザインを考えたところで、ひとたび注目されたらそれはすぐに模倣され、あっという間に世界中でコピーされる。模倣されることを避けるためには、他にないユニークな場所を開発するしかないということなのかもしれない。

他にはないホテルといえば、JFK空港内で工事が進んでいるTWAホテル (https://www.twahotel.com) は、かつてのTWA航空のターミナル4をホテルに改修するものだ。 エーロ・サーリネンの手によって1962年にオープンしたターミナルで、トランス・ワールド航空 (TWA) はもちろんもう存在しないが、
その歴史とアイコニックなターミナルを利用したホテルとして復活する。
 
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1980年代にブティック・ホテルのコンセプトを導入したイアン・シュレージャーが手がけるPUBLIC HOTEL。冒頭のソファーの部屋の写真もここ。日本だと結婚式の会場としてのニーズは必須だが、NYの場合はアートイベントや音楽イベントが開催できるようなスペースを設けるところが多いよう。(https://www.publichotels.com/)
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日本における近年のデザインホテル、ブティックホテルのトレンドは、2012年にブルックリンに暮らす3人のオーナーの手によって開業したこのWHYTHE HOTELが有名だ。1901年に建てられた、精糖所に納める木樽を製造する工場をリノベートしたインダストリアルな意匠は、その後の日本における“ブルックリン・ブーム”や“ポートランド・ブーム”を後押ししたが、そういった表面的なことに留まらず、小資本(インディペンデント)であることをはじめ、レストランのメニュー、バー、パブリックスペース、ジムなど、従来の都市のホテルユーザーとは異なる“新しいラグジュアリー”なライフスタイルを提案していた点こそが新しい(写真は2013年8月に撮影したもの)。
 
ホテル・ビジネスの競争の中心は、部屋よりも宿泊の周辺へと移動している。

昨今の宿泊客の半分はレストランでホテルを選ぶというデータもある。ライフ・ホテルのロビーはレストランをフィーチャーしていて、近所の人たちが立ち寄るような場所を目指しているという。同レストランは、レストラン起業家のステファン・ハンソンが所有・経営している。

ホテルの中のレストランの多くは第三者の業者が経営し、ホテルとのシナジーが欠けていることが多い。ライフ・ホテルではハンソン自身が同ホテルに投資をしており、レストランの売上の一定の率を家賃としてホテルに払う仕組みになっている。

一般的に、レストランをオープンした後、その周辺が人気の地区になったら、家賃が上がり今度は追い出されることになりかねない。不動産価格の高騰に終わりの見えないニューヨークでは頻繁に耳にする話だ。ビジネス面での新しい取り組みは、その防止策でもある。

2017年にロウワー・イースト・サイドにオープンしたパブリック (https://www.publichotels.com/) は、1980年代にブティック・ホテルのコンセプトを導入したイアン・シュレージャーが手がけるホテルだ。

その名が示す通り、誰もが立ち寄ることができるように、コワーキング・スペースパブリックの場所があり、仕事をしたり、打ち合わせをしたりしている人たちが多い。上層階にはフード・ホールバーがあり、地下にはコンサート・ホールもある。エンターテイメントは利益が出せるものの、ホテル産業にノウハウがない部分でもある。その開発の意図がある。

こうしてみると、新しいホテルにはいくつかの傾向がある。宿泊周りの体験をとりこむこと。他にない固有性を求めるところもある。そしてテクノロジーとデータがホテル産業の未来に欠かせないコアであることも間違いのだろう。

[取材・データ/文:Yoshi(在NY・コンサルタント)]

 

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束の間の逸脱
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束の間の逸脱

多くの人が歩いてできた道がいい道だとする説がある。不特定多数の人たちが踏みしめて自ずと現れた道こそが、優れた経路だというものである。 マンハッタンを南北に20km縦断するブロードウェイは、ニューヨーク市のみならず全米で最も古くからある通りとされている。17世紀初めにオランダ人が入植するその前に、先住民のレナペ族が集住地間を移動する際に踏みしめた獣道に由来するためである。「ウィクカスゲック・トレイル」として知られたその先住民の小径は、オランダ人が入植後にその幅を広げて正式な通りになり、その後ブロードウェイとして知られるようになった。 ニューヨーク市が土地の開発と販売を企図して街路網のデザインを提案した「1811年委員会計画」は、マンハッタンにグリッドを敷設することを求めたが、先住民の獣道はその1811年計画を生き延びたばかりか、グリッドをあからさまに無視するように上書きして今日に至る。明らかにほかの通りとは性格を異にするその往来は、あたかも公式計画と多くの無名者の足跡から生まれる経路とは相容れないのだと誇示しているようでもある。 実は当初の1811年計画にはブロードウェイは存在しなかったが、グリッド状の街路網の建設が進むなかでも人びとは獣道の痕跡を歩き続けたため、後から計画に追加せざるをえなかった経緯がある。新たな通りが与えられても、人の歩き方は変わらなかった。人の足跡を消すのは難しい。そこには独特のしつこさがある。それを惰性と済ませてしまっていいものか。 先住民には島の地理地形だけではなく、その土地に根づいた土着の深い理解と知識が備わっていたことが知られている。後にブロードウェイと呼ばれることになる獣道が斜めに走っているのは、当時点在していた湿地帯や地面の高低差をよけて歩いたためだろう。先住民の間では島の土地は共同所有で、農耕目的の制御された野焼きを行い、また選択的な収穫を行うなど、生態系の再生が可能なプラクティスが受け継がれていたという。 ニューヨークの地下鉄は雨に弱い。大雨のたびに地下鉄の運行は支障をきたし、特に近年は短時間に集中する豪雨が増えている。なかでも地下鉄1/2番線が走る28丁目駅は、大雨が降ると地下の構内に鉄砲水のような大洪水が流れ込むことがある。今日の28丁目の通りは数百年前の森林地帯にあたり、その駅は近隣から水が流れこむかつての湿地帯の上にあることから、大雨が降るとネイティヴの生態がにわかに蘇ってくるのである。以前は樹木や泥が雨水を吸収したが、舗装されたことで下水の容量を超えた雨水は地下鉄の構内以外に行き場を失った。 ブロードウェイのことが念頭にあったのかどうかはわからないが、1856年のセントラル・パーク計画では、その公園内に歩行者向けの小径を計画する際に、専門家がデザインするよりも、多くの人たちが歩くことで歩行経路が浮かび上がるまで待とうとする提案が出されたことがある。人びとの慣習の上に歩道を決めようというものだが、その案が実現することはなかった。 ブロードウェイは特殊な例ではない。そこに通りがあっても、その通りからはずれたところをわざわざ人が歩くのはよくあることだ。近道をするために、また急な坂を避けて傾斜の緩いところを選んで、道なき道に人が歩く痕跡が現れる。こうした経路は英語圏ではdesire pathまたはdesire lineなどと呼ばれている。言葉で説明するよりも実例を見る方が早い。 ミシガン州立大学では1960年代にアーキテクトの手による歩道がキャンパスに敷設されたが、間もなく学生たちはその与えられた歩道を無視して、歩道ではないところを歩くようになった。歩道を歩かせようと大学は指定した経路以外にフェンスを建てたりもしたが、それでも学生たちは歩道に従うことはなく、最終的に大学側が折れて学生が歩く経路を受け入れるようになるには数年もの時間を要したという。教室から教室へと移動する学生たちによる「足の投票」は、集団性のしつこく変わらない行動の一例である。 ミシガン州立大学の教訓から学んだのか、ヴァージニア工科大学やカリフォルニア大学バークレー校は、キャンパスに小径を新たに追加する場合には、学生や教員が歩いて経路が現れるのを待つのだという。 カリフォルニア大学アーヴァイン校ではプランナーが実験を行った。芝生を植えた後に歩道はあえてつくらず、何が起きるのかを一年間観察するというものだった。そこに浮かび上がった足跡は、校舎と校舎を最短距離で結ぶ直線などの予想された経路以外に、日陰に沿って歩いたり、風が強いところを避けて蛇行する足跡が現れた。プランナーは直線の道をつくりたがるものだが、人は必ずしもそう歩くわけではない。それを矯正するのは至難の技である。 大勢の人が通るところにはたいてい理由がある。与えられた公式の通りよりも便利で早く近道になる場合には、人は公式デザインの上書きを試みる。物理学者のダーク・ヘルビングが行ったスタディによると、人は与えられた道よりも20-30%距離を短縮できるなら、別の経路をつくりだすのだという。ヘルビングによると20-30%は定数で、10メートル程度の短距離でも同じことが起きるというから、繰り返し蘇えるそのしつこさには規則性さえ観察されることになる。 こうした経路の存在を説明する際には、人は与えられた道を拒み、自分で切り開く習性があるのだと市民的不服従がもちだされることが多いことも、その真偽は別にしても興味深いことではある。 人が道なき道を歩くのはプランナーへのダメ出しだとする見方もある。自動車の交通量が多い横断歩道のない大通りを横切る人が絶えないとしたら、間違っているのは道路を横切る人ではなく、そこに道路をつくったことだというわけだ。ネイバーフッドの真ん中に幹線道路を走らせて、地区を真っぷたつに分断した場合でも、住民はひき続きその道路を横切ろうとする。新たな道路ができても、住民にはそこにネイバーフッドが残っている。 プランナーの名誉のためにつけ加えておくと、特定の経路を通行禁止にしたり、ある区域を立ち入りができないようにするのにはたいてい理由がある。安全の確保であったり、野生保護地区に人が近づくのを禁止する場合もある。 アーキテクトのリッカルド・マリーニは、ロンドンのリージェント・ストリートのゴミ箱設置場所を決定する際に助言を求められて、その通りを自分で実際に歩き、煙草の吸殻とガムがどこに落ちているのかを調べてマップを作成した。吸殻やガムが多いのは人がそこに立ち止まっている徴であり、そうした人が集まるインフォーマルな場所は人のニーズを満たしていない可能性が高い。技術的な専門知識よりも、人の慣習に耳を傾けるアプローチとして注目された。 フィンランドでは積雪によりその年初めて銀世界になると、公園内に残された足跡を探し、人がどこを歩いているのかを調査して記録するのだという。雪により公式の歩道が隠された白紙状態で、人がどこをどのように歩くのかを参考にして歩行経路に活かすためのものだ。プランナーと市井の人は、同じ場所に異なるものを見るらしい。 ペンシルベニア駅の構内でダンスをしている人たちがいる。マンハッタンのミッドタウンにある通称ペン駅は、地下鉄のほかに長距離列車アムトラックなど多くの路線が乗り入れる一大ハブ駅だが、ロング・アイランド鉄道の乗車口からモイニハン・ホールへと至る、通勤客が多く行き交うそのコンコースで踊っている人たちがいる。アトラクションではなく、駅のホールを即席のダンス・スタジオに見立てて、ヒップホップ、K-pop、サルサ、ズークなどをグループで練習する人たちである。 たしかに踊るにはお誂え向きである。広々としていて、滑らかな床があり、主要駅だけにメンバーが集まるには都合がよい。反射するガラス窓は鏡にもなり、公共のトイレがあり、なにより無料である。ダンスを観て喜ぶ聴衆=通勤客・観光客の波が絶えることもない。そのホールにダンサーたちが集まり、数時間踊り、その日の練習が終わると、片付けてそれぞれ家路に着く。ニューヨーク都市圏交通公社によると、「ペン駅はまず何よりも移動のハブ。しかしそのスペース利用のルールと規制を守り、プラットフォームを塞いだり、乗客の流れを邪魔しない限り、そこで行われていることに問題はない」という。 これはリパーパスや近年よくいうアダプティヴ・ユースではない。市や施設所有者がその利用方法を正式に変更するものではなく、利用方法の変更を求めるのでもなく、そこにある場所を、一時的に、意図されたこととは別のことに人が利用し始めるものだ。ダンサーたちが駅のホールで踊り始めたことは、交通公社の意図を超えた一種のハプニングである。 駅のホールがある時間帯に別の場所になり、また元に戻る。それは当初意図した用途からの解放である。解放といっても好き勝手な「なんでもアリ」とは違い、そこにはルールと秩序がある。日常のルールや秩序とは異なるだけだ。与えられた規範を一歩踏み出して、それ独自の規律やルールのあり方を探るものである。 ニューヨークには食料品やトイレットペーパーなどの日用品を売る「ボデガ」と呼ばれる小さな小売店があちこちにある。24時間営業で家族経営のところが多く、近所の住民には頼もしい存在である。たいていの人には毎日のように立ち寄る馴染みの「自分のボデガ」があるはずだ。そのボデガをある夜突然クラブにするインフォーマルな集まりがある。踊り明かしたその翌朝そこはまたボデガに戻る。クラブに化けるボデガは毎回変わり、一夜限りの間に合わせのヴェニューは参加者に直前に通知される仕組みだ。 与えられた規範をとびこえる点において、こうしたハプニングには災害時と似たところがある。突然襲いかかる災害は、否応なく即興的に対応することを強いる。見通しがきかないところで自分の判断と責任において、自分にできることをするしかない。 今年の4月28日にスペイン全土におよぶ大規模な停電があった。10時間電話もインターネットも使えず、移動手段には大きな混乱が生じたものの、世の中が不安定化することはなかった。むしろ人は助け合い、立ち往生した電車の乗客に近くの住民たちが水や食料を自発的に届けたりしたことが伝えられた。 ハリケーン、山火事、疫病といった不幸な出来事に、日常とは異なる光景が立ち現れることが頻繁に記録されている。世の中の当たり前とされるあり方が機能不全に陥り、その代わりに人びとの草の根のネットワークが立ち上がり、人は助け合い、利他的な行動が前景化するのが常である。繰り返し現れるそのパターンは、世の中の規範は人が思っている以上に変わりうるし、しかも素早く移行が可能なことを教えてくれる。人は本来的に利己的で、個人主義的な競争によって世界は進歩すると日常では教えているのだが、他人や周囲のことを考えることが災害時にしか通用しないというなら、日常こそ継続的惨事というべきではないか。 スペインの大停電のさなかにユーモアが散見されて、その危機に喜びさえ見出したと記した人がいたことは記憶しておきたい。災害はもちろん惨事だが、そこに解放や希望、さらには世直しさえ見る人が多いのも事実である。 ある精神科医によると、統合失調症のなによりの特徴は生活におけるハプニングの無さにあるという。クリスマスや祝日といったものは偶発事が起きるためのものだ。偶発事ばかりでも困るが、必然だけではやっていけない。そう考えると、災害は文字通りハプニングであるし、たとえば祭りなども、変わらぬ日常のなかで同様の役目を担うものかもしれない。世の中の規律やルールが一時的に入れ替わり、人は事もなく対応して、何もなかったようにまた元に戻る。気をつけてみてみると、私たちは束の間の逸脱を当たり前のように繰り返し、日常とは異質な秩序を行きつ戻りつしながら暮らしている。 パンデミック期にニューヨークを含む諸都市で、一部の通りの自動車通行を禁止する取り組みが広がった。十分な距離を保ちつつ人が行き交うことができるよう道路を開放しようと、住民が通行止めにする場所を決めて、自ら実行管理を担った。その地区のニーズや慣習を最もよく知っているのは住民である。週末だけ歩行者専用になった通りも多く、人は自動車が消えた通りの真ん中に椅子をもち出して座り、路上で誕生日パーティーを開いたりし始めた。しかし疫病のトンネルを後にするにつれて、そうした取り組みへの風当たりは次第に強くなり、早く終結させようとする声が各方面で大きくなっている。「ノーマルに戻ろう」というかけ声が示す通り、早く日常へと戻し、鍵をかけようとする力は常に働く。 大雪の日には日常の交通ルールが停止する。信号は平常通り動き続けていても、公式のルールは事実上停止して、雪で埋れた歩道を避ける歩行者たちが車道の真ん中をわが者顔で歩くことになっても、自動車もそれを受け入れて、車道の人をよけて徐行する。文句を言う人はまずいない。ルールが変わるわけでも政府が通達を出すわけでもなく、自主的に日常のルールを上書きし、それぞれの安全性を確保する。それでたいてい問題はない。逆にそうした状況でルールを厳守しようとすると問題が起きやすい。そして大雪の夜にはどこか愉快な楽しさがつきものである。大雪の夜にはバーはたいてい近所の人たちで朝方まで大賑わいになるものだ。 問題はむしろルールそのものにあるとさえいえる。信号や一時停止などの交通標識に満ちた道路よりも、信号も標識も何もない道路の方が安全になりうることを示したのはハンス・モンデルマンである。1980-90年代にオランダで行われた一連の実験で、信号や制限速度などの標識をすべてとり去ることで、事故が減り、交通渋滞も減ることを示した。信号や指示標識がないと人は注意深く運転するようになり、周囲の状況に気を配るようになる。信号を守ってさえいればいいというわけにはいかない。 ルールの不在によって、人は常識を使い、当たり前のことに注意を払うようになる。日常と異なる状況になって初めて常識が発動するのもおかしなことだが、そのおかしさが私たちの日常のありようを示しているというべきかもしれない。公式のルールが存在しなくても、常識という異質のルールが存在する。ルールさえ守っていれば「なんでもアリ」の日常とは異なる規範である。 それにしても、駅のホールで踊ったり、ボデガが神出鬼没のクラブになったり、車道で誕生日パーティーをしたりすることの愉快な面白さはどこからくるものだろう。そこには混濁した意識に清涼な感覚が戻るようなところがある。 ペン駅で踊っているのはアマチュアのダンサーたちだ。技量の水準のことではなく、専門化していないという意味である。そもそもプロのダンサーには練習場所があり、それは踊ることを目的につくられた専用の場所である。プロにとって踊ることは遊びではない。 厳格なルールや組織的な訓練の下で競うところに、遊びの要素は失われる。プロとはその練習の周りに生活を再編成した人のことであり、可能な限り効果的なメニューをこなし、その目的に合わないものを取り去ろうとするだろう。 遊びは記録や勝敗よりも、むしろ新たなルールを考え出したり、境界をおしやり、別の遊びをつくり出すところに本領がある。駅で踊るダンサーたちは意図しない目的に場所を使う一種の遊びであり、ボデガのクラブも同様だ。1970年代の南カルフォルニアでは、旱魃の水不足により水を抜いたプールの壁を垂直に滑ったことからスケートボードが爆発的に広がった。そこにあるありふれた場所を利用する遊びが制度の溝に繁茂する。与えられたものへの人びとの応答に都市的なものは現れるものだ。 遊びは二次的なもので娯楽のことだと思いがちな昨今だが、各種道具や実用的なものなど、たいていのものはもともと遊びから生まれたといわれる。遊びが先にあった。遊びこそ根源的で、様々なものを生み出す有用なものだ。 幸いなことに、今日でもハプニングはまだあちこちにある。クリスマスでは日常の利己主義をその日だけ棚上げして、別人のように他人にプレゼントを配ってみたりする。今日の祭りは華やかな見せ物的非日常だが、それは日頃蔑まれた者をも含む有象無象の者が表に出てくる日ではなかったか。寺院に足を踏み入れると人はおのずと面もちが改まる。そこに外界と異なる原則が働いていることは、知識よりも生活に埋め込まれた習慣である。異質な世界はあちこちに繰り返し現れる。ペン駅で踊る人たちは一時的な領域のドアを開ける人たちである。 (おわり)

yoshiさん


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