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■都市のコード論:NYC編  vol.06
テーマ:HOTEL
レポート
2018.03.08
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■都市のコード論:NYC編 vol.06
テーマ:HOTEL

在NYC17年の日本人ビジネスコンサルタント、Yoshiさんによるまち・ひと・ものとビジネスの考察を「都市のコード論:NYC編」と題し、不定期連載しています。

1年半ぶりの起稿。テーマは“HOTELと都市“です。日本でも異業種からの参入が増え、新しい展開をみせていますが、NYでは? データとともに解析します。


ニューヨーク市内で新しいホテルのオープンが相次いでいる。


2015年時点で市内には696件のホテル (107,000室) が営業していたとされているが、その後新規オープンが続き、2017年10月時点では、ホテル数はおよそ785件、 部屋数は115,000室に達したと考えられている。

ニューヨーク市のマーケティングを担うニューヨーク・シティ・アンド・カンパニーが2017年に発表したレポートによると、2017年末から2019年までに、おおよそ40-50件の新しいホテルのオープンがさらに予定されていて、27,000室が追加されることになり、その結果2019年末には900件近くのホテルが市内に存在することになる。

新しいホテルの業態はさまざまで、部屋数をみても14室のみの小規模なものから600室を超える大型のものまでそのバラエティは幅広く、ターゲットとする市場のセグメントもさまざまだ。とはいうものの、そこには共通する傾向もあり、そして新しい試みも散見される。

ということで、今回はNYマンハッタンのホテルの変化についてデータとともに解析してみることにした。



2015年以降オープンした (そして今後予定されている) ホテルの数を、ボロウ (区) ごとにみてみよう。

ニューヨーク市の中心であるマンハッタンでは、1年に20−30件のホテルが継続してオープンしていることがわかる。少し前に話題になったブルックリンも毎年5-10件ほどオープンしているもののすでにピークアウトしている。

一方、クイーンズでは2017年と2018年にそれぞれ10件前後、2019年には15件のホテルのオープンが予定されており、そのペースはブルックリンを上回っている。


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ボロウ別でなにより注目すべきことは、2017年からブロンクスにもホテルがオープンしていることだ

1980年代の犯罪のイメージから観光とは縁遠かったブロンクスが、いよいよ市内のホテル戦線に参入したことになる。確かに地下鉄に乗ればブロンクスからマンハッタンの中心部まで30分ほどで着くことができるし、近年はブロンクスの南端に位置するサウス・ブロンクスの開発も進んでいて、2017年に市内で家賃の大きな上昇率を示した地区の上位はブロンクスが占めていると報告されている。

ビジネスやエンターテイメントが圧倒的にマンハッタンに集中していた状態から、近年その重心は少しずつ隣接する他のボロウへと分散傾向にある。ブルックリンからクイーンズ、さらにはブロンクスへと、オープンするホテルのロケーションの移動は、人々の注目の移り変わりをも反映しているといえる。

ホテルの新規オープン (2015-2019年)を、マップにしたのが下のリンクである。
バブルの大きさはそれぞれのホテルの部屋数を示し、それぞれのホテル名と部屋数をインタラクティヴにみることができる。

fafsp.carto.com/viz/4a4b3f4f-2011-4e7f-8e51-46956fcf2581/public_map


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2017年11月に東京は錦糸町、大阪は本町にオープンしたマリオット・インターナショナルが20〜30代のミレニアル世代を対象とした家具や内装にこだわったデザイナーズホテルブランド「モクシー・ホテル」。ウエブサイトもポップで従来のホテルのイメージとは異なる。

マンハッタンをみてみると、伝統的に観光客とホテルが多いミッドタウンにひき続き新しいホテルが多くオープンしていることがわかる。

たとえば、マリオットが手がける、612室のモキシーNYCタイムズ・スクエア (http://moxy-hotels.marriott.com/en) が2017年にオープンした。

やはりミッドタウンのハドソン川近く、ハイラインの北端に位置するハドソン・ヤーズでは大規模な開発が進んでいる。最新のインフラを備えた大型オフィス・スペースが建設中で、完成と共に多くの企業がミッドタウンからハドソン・ヤーズへと移転することが予想されている。企業が移転する先にホテルができるのは当然なのだろう。ハドソン・ヤーズの隣には巨大なコンヴェンション・センターであるジャヴィッツ・センターもある。部屋数の多い大型ホテルが多いのもミッドタウンの特徴といえる。

マンハッタンの南端に近いファイナンシャル・ディストリクト (旧金融街) からバッテリー・パークにかけても新しいホテルが増えている。グラウンド・ゼロ1ワールド・トレード・センターが完成したことで、コンデナストやデイリー・ニュースなど、多くのメデイア企業がタイムズ・スクエアからダウンタウンへと移転している。そうしたビジネス向けの需要はもちろんのこと、ロウワー・マンハッタンはかつての金融街から比較的若年層の人たちが住む地区へと急速に変化している。伝統的な観光地のミッドタウンを敬遠してロウワー・マンハッタンに宿泊することを選ぶ観光客も増えているということなのだろう。


 
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ハドソンヤードの開発のようす(2018年1月撮影)


ブルックリン
はというと、ダウンタウンウィリアムズバーグからグリーンポイントにかけて、そしてクイーンズではロング・アイランド・シティのほかにジャマイカでもホテルがオープンしている。

ロング・アイランド・シティは、マンハッタンのミッドタウンまでイースト・リバーを超えてすぐの場所にあり、マンハッタンよりも手頃な宿泊料金に設定されている。さらには部屋から川の向こうにマンハッタンの眺めを楽しむことができる。マンハッタンに滞在していたら目にすることができない贅沢だ。JFK空港行きのエアトレインが発着するジャマイカは、空港と市街地との両方へのアクセスの良さからホテルができているようだ。

ホテル数が急速に増えていることから、ニューヨークのホテル需給は緩和すると予想されている。激化する競争に生き残るためのカギは、差別化にあるようだ。

ニューヨーク市シティ・プランニングのレポート
によると、市内のホテルの部屋数のおよそ38%は独立系のホテルだという。チェルシーにあるハイライン・ホテル (http://thehighlinehotel.com/)、ミッドタウンのルーズヴェルト・ホテ (http://www.theroosevelthotel.com/)ロジャー・スミ (https://www.rogersmith.com)、ブルックリンのウィリアムズバーグのウィリアム・ヴェイル (https://www.thewilliamvale.com/) などが独立系に相当する。

これらのホテルは全国展開する大手ブランドとは提携していない。戦略的な選択だ。

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市内に43,600室あるとされる独立系ホテルの部屋のうち、49%は広義のハイエンドに属し、エコノミーのセグメントに相当する部屋数はその28%にすぎない。独立系のホテルがハイエンドをターゲットとしていて、独立系
であること (大手ブランドの一部ではないこと) を高付加価値化に利用していることがわかる。実際に、大手を避けて、独立系のホテルでの宿泊を選ぶ人は増えている。


独立系のホテルは、マンハッタンではダウンタウンブルックリンの一部クイーンズのロング・アイランド・シティなどでオープンしている。典型的な観光地ではない場所の選定がその価値の欠かせない一部であり、ハイエンドのイメージとロケーションが分かちがたく結びついていることがわかる。ロケーションはそのブランドの一部といってもいい。

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トリップ・アドバイザーが買収した現地ツアーの予約ができるプラットフォーム「ヴィアター(www.viator.com)」。

興味深いのは、大手ブランドもニューヨークでは独立系のアプローチを模索していることだ。

テキサスを拠点とするあるデベロッパーは、通常マリオットやヒルトンと提携してホテルを展開するものの、ニューヨーク市内では大手ブランドと提携せずに運営している。

なかには大手ブランドの傘下であることを隠して、独立系にみせて運営する覆面独立系ホテルもあるという。そのため、市内のホテルを独立系と非独立系にホテルに分けることは容易ではない。少なくともニューヨークに関する限り、ハイエンド市場は、独立系としての独自性を提供することが条件となっているようだ。

同時にヒルトンマリオットも、別名を用いたソフト・ブランドのホテルをオープンし、より小規模で、標準化されていない部屋を提供しようとしている。

日本でも2018年の春に軽井沢にオープンする予定のキュリオ・コレクション・バイ・ヒルトン
(http://curiocollection3.hilton.com/en/index.html) や、タイムズ・スクエアとミッドタウンの2カ所にあるマリオットのオートグラフ・コレクション (https://autograph-hotels.marriott.com/) などがその例であり、既存のブランドとは距離を置く位置づけになっている。

ソフト・ブランドはブティック・ホテルとして運営しつつ、同時に大手ブランドの一部として、予約やリウォードのシステムにアクセスできる利点もある。

 
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2017年、マンハッタン31丁目にオープンしたライフ・ホテルは、かつて雑誌『ライフ・マガジン』の本社だった建物を改修したものだ。

ホスピタリティのビジネスにもテクノロジーとデータは欠かせない。
ニューヨークのホテルでは、自分でチェックインを済ませるところが増えているiPadに接続された端末を利用してチェックインする。わからなければ、必要に応じてスタッフが助けてくれる。テクノロジーの利用でコストを抑えるホテルは多い。


ホテル各社はゲストに関する大量の情報を有している。そのデータをもとに、それぞれのゲストにどんなサービスを提案するのかがビジネスを左右することから、ホテル・テクノロジーのスタートアップ企業の買収も活発になっている。

現地ツアーを予約するサイトのヴィアター (https://www.viator.com) を買収したことで、ホテルやレストランの予約サービスを提供するトリップ・アドバイザー (https://www.tripadvisor.com/) では、ホテル以外の売上が31%増加した。マリオットは、データに基づいて、それぞれのゲストが気に入りそうな体験を個別に提案している。


ローカルな体験を提案するホテルは多い。マリオットが最近買収したアロフト・ホテル (https://aloft-hotels.starwoodhotels.com/) は、ローカルのアーチストによる音楽の演奏をスポンサーしている。ホステル感覚のブティック・ホテルを謳うモキシーは、部屋は狭くそれ自体がニューヨークの経験だという。

こうした動向の背景には、ホテルの競合はairbnbだという認識がある。airbnbがマーケットする、これまでのような観光客ではないローカルとしての体験をとりこむべく、宿泊に付随するローカル性をホテルが重視し始めていることが、現地ツアーやアクティビティの予約サイトの買収を後押ししている。ホテル周りのビジネスをいかにして取り込むのかは、これからも大きな課題だ。

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アーチ状の構造を多く手がけた建築家、エーロ・サーリネンによって1962年にTWA航空のターミナル4をホテルに改修したTWAホテル。
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TWAホテルのHPより。独特のレトロモダンな内装はある層にとっては宿泊することが目的となりそう。


新しいホテルを見て回ることで気づくことのひとつは、かつてのように、入口を入ると目の前に巨大なレセプションが広がっているという光景を目にすることはないということだ。ハイエンドのホテルにその傾向が強く、大きなデスクの背後に何人ものスタッフが立って待ち構えているという光景は過去のものになりつつある。

自分でチェックインするためのiPadが並んでいる以外には、入口のフロアにはソファが並ぶくつろぐ場所があったり、レストランがあったりする。2017年にマンハッタンの31丁目にオープンしたライフ・ホテル (https://lifehotel.com/
) のように、入口を入ってもどこにレセプションがあるのかすぐにはわからない、むしろレセプションをできるだけ見せないようしているようにさえ思えるところもある。

ライフ・ホテルはかつての雑誌の『ライフ・マガジン』本社だった建物をホテルに改修している。商品をマーケットする際に、それにまつわる物語を付加する物語マーケティングが一般化しつつあるが、ライフ・ホテルは既にそこにあるライフ・マガジンのレガシーの周りにホテルというビジネスを構築したのが興味深いところだ。

他の場所で再現不可能なプロジェクトには、他にはない固有性がある。オーセンティックなトーンを前面に出している内装にもそれは見てとれる。新しいコンセプトやデザインを考えたところで、ひとたび注目されたらそれはすぐに模倣され、あっという間に世界中でコピーされる。模倣されることを避けるためには、他にないユニークな場所を開発するしかないということなのかもしれない。

他にはないホテルといえば、JFK空港内で工事が進んでいるTWAホテル (https://www.twahotel.com) は、かつてのTWA航空のターミナル4をホテルに改修するものだ。 エーロ・サーリネンの手によって1962年にオープンしたターミナルで、トランス・ワールド航空 (TWA) はもちろんもう存在しないが、
その歴史とアイコニックなターミナルを利用したホテルとして復活する。
 
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1980年代にブティック・ホテルのコンセプトを導入したイアン・シュレージャーが手がけるPUBLIC HOTEL。冒頭のソファーの部屋の写真もここ。日本だと結婚式の会場としてのニーズは必須だが、NYの場合はアートイベントや音楽イベントが開催できるようなスペースを設けるところが多いよう。(https://www.publichotels.com/)
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日本における近年のデザインホテル、ブティックホテルのトレンドは、2012年にブルックリンに暮らす3人のオーナーの手によって開業したこのWHYTHE HOTELが有名だ。1901年に建てられた、精糖所に納める木樽を製造する工場をリノベートしたインダストリアルな意匠は、その後の日本における“ブルックリン・ブーム”や“ポートランド・ブーム”を後押ししたが、そういった表面的なことに留まらず、小資本(インディペンデント)であることをはじめ、レストランのメニュー、バー、パブリックスペース、ジムなど、従来の都市のホテルユーザーとは異なる“新しいラグジュアリー”なライフスタイルを提案していた点こそが新しい(写真は2013年8月に撮影したもの)。
 
ホテル・ビジネスの競争の中心は、部屋よりも宿泊の周辺へと移動している。

昨今の宿泊客の半分はレストランでホテルを選ぶというデータもある。ライフ・ホテルのロビーはレストランをフィーチャーしていて、近所の人たちが立ち寄るような場所を目指しているという。同レストランは、レストラン起業家のステファン・ハンソンが所有・経営している。

ホテルの中のレストランの多くは第三者の業者が経営し、ホテルとのシナジーが欠けていることが多い。ライフ・ホテルではハンソン自身が同ホテルに投資をしており、レストランの売上の一定の率を家賃としてホテルに払う仕組みになっている。

一般的に、レストランをオープンした後、その周辺が人気の地区になったら、家賃が上がり今度は追い出されることになりかねない。不動産価格の高騰に終わりの見えないニューヨークでは頻繁に耳にする話だ。ビジネス面での新しい取り組みは、その防止策でもある。

2017年にロウワー・イースト・サイドにオープンしたパブリック (https://www.publichotels.com/) は、1980年代にブティック・ホテルのコンセプトを導入したイアン・シュレージャーが手がけるホテルだ。

その名が示す通り、誰もが立ち寄ることができるように、コワーキング・スペースパブリックの場所があり、仕事をしたり、打ち合わせをしたりしている人たちが多い。上層階にはフード・ホールバーがあり、地下にはコンサート・ホールもある。エンターテイメントは利益が出せるものの、ホテル産業にノウハウがない部分でもある。その開発の意図がある。

こうしてみると、新しいホテルにはいくつかの傾向がある。宿泊周りの体験をとりこむこと。他にない固有性を求めるところもある。そしてテクノロジーとデータがホテル産業の未来に欠かせないコアであることも間違いのだろう。

[取材・データ/文:Yoshi(在NY・コンサルタント)]

 

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観光、フライト、コモディティ化
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観光、フライト、コモディティ化

ただでさえ人が多いこの都市に、あたかもまだ人が足りないとでもいうように、毎日観光客が大挙して押し寄せる。2017年にニューヨーク市を訪れた人の数は6,280万人に達し、その数は7年連続で過去最高記録を更新した。トランプ大統領のアメリカ・ファーストのレトリックも、特定の国からの入国を禁止する大統領令も、観光客に二の足を踏ませるには至らなかったということらしい。平均すると約17万人が毎日ニューヨークに降り立っていることになり、その多くは市内に数日間滞在する。860万人の人口の都市にしてはずいぶん多くの訪問客を受け入れていることになる。 20年前の3,300万人、2010年の4,880万人と比べても大変な膨張ぶりだ。歩道や地下鉄は一層混雑し、住民は観光客が多すぎると文句を言うものの、市にとってはマネーをもたらしてくれる大事なお客様。マネーを落としていくだけでなく、雇用ももたらしてくれる観光客は市の経済には欠かせない。ニューヨーク市内で観光に直結する仕事に就いている人の数はいまや29万人を上回り、その雇用数は金融を超えて市の経済を牽引する急成長産業の地位を得た。観光に関連するサービス業は、知識経済化が進むニューヨークにあって低スキルの労働者に雇用機会を与える数少ない職種でもある。 観光客の恩恵に与るのはタイムズ・スクエアや自由の女神などのランドマークだけではない。調査によると、市内の全レストランとバーでのカード支払の24%はニューヨーク都市圏以外に住む人によるもので、市内小売店でのカード支払の5分の1、百貨店でのカード支払の48%は観光客によるものだという。メイシーズなど店舗閉鎖が相次ぎ、その凋落ぶりが深まる小売にとって、観光客は頼みの綱というわけだ。そしてMoMAの来館者の73%、ホイットニー・ミュージアムの70%、メトロポリタン美術館の60%は観光客が占めている。こうしたレストラン、小売店、文化施設は上記29万人の雇用数には含まれていない。市の集客キャンペーンが過熱する理由は容易に理解できる。 ニューヨーク市は市を訪れる人の目標値を毎年ひき上げ、市の観光マーケティングを担うNYC & カンパニーを通じてあれこれマーケティング策を打ち出すのに忙しい。集客に熱心なのはニューヨークだけではなく、観光客を少しでも多く取り込もうと世界の都市が鎬を削っている。 1. ニューヨーク・タイムズは、毎年1月に「今年行くべき52の場所」を発表している。2018年の1月には、今年のうちに訪れることを推奨する52ヶ所として、ニューオーリンズ (#1) やスコットランドのグラスゴー (#10)、ノルウェイのオスロ (#26) など、国内外の注目される場所を発表した。2017年に1月に発表された時には、ニューヨーク市のサウス・ブロンクスがそのリストに入っていた (#51) ことが話題になった。かつての犯罪のイメージを払拭しつつ、デベロパーの食指も動き始め、2017年の市内での家賃上昇率の上位をブロンクスが占めたことを考えれば、2017年の注目株としてサウス・ブロンクスを早々に推したニューヨーク・タイムズのガイドには先見の明を認めるべきなのかもしれない。 ニューヨーク・タイムズだけでなく、多くの旅行ガイドが注目の都市を毎年紹介していて、そうしたガイドの類は休暇先を選ぶ旅行者に大きな影響を与える。そう考えると、ニューヨーク・タイムズがとりあげたことからブロンクスを訪れる人が増えたのかもしれず、ニューヨーク・タイムズが長けているのは先を見る目というよりも自身の見通しの自己実現力というべきなのかもしれない。その「今年行くべき52の場所」を選定する際の基準のひとつは、新しいミュージアムや公園などの完成があるかどうかだ。一度行った場所をもう一度訪れるには、以前なかったものが追加されていなければいけない。とはいえこの選定基準に従えば、新しい建造物があればガイドにとりあげられることになり、延いてはなにか新しいものを建てれば人がやってくるはずだという転倒も起こりうる。 1997年にグッゲンハイムがオープンしたことで、衰退していた工業都市のビルバオに多くの観光客がやってくるようになり市が復活したとビルバオ効果が喧伝された。スター・アーキテクトを使ってミュージアムをつくれば世界の観光マップのレーダーに入る。オープンから20年以上が経過した今も、そのフォーミュラは世界中でコピーされている。なかにはビルバオのグッゲンハイムとまったく同じ建物を建てることを望む市長もいるという。スペクタクルを競うようにあちこちにメガ・プロジェクトが乱立し、ミュージアムは都市のマーケティング・ツールとなり、アーキテクチャは観光を支える装飾とでもいう有様だ。なるほど人目をひく建物はロゴや土産物には都合がいい。今日のミュージアムはマス・メディアだという指摘も肯ける。 集客の秘訣を知り得たというわけか、このゲームに飛び込むプレーヤーが後を絶たない。とはいえそこで大きな利益を手にするのは最初にゲームのルールを築いたごく一部のプレーヤーだけで、多くのプレーヤーが後を追い群がるのはそのゲームが飽和した頃と相場が決まっている。成功事例とされるものをマネしても早晩飽和するだけ、人を集めるには他にはない特徴のあるユニークな都市を独自に育てる必要があると言う人もいるものの、短期的に結果を求められる集客競争の渦中で賛同を得ることは期待できそうになく、世界の都市はグローバルな文化ツーリズム・クラブの入会権を得ることに汲々としている。批判的に言及されることも多いビルバオ効果だが、その後に模倣が続いていなければ今日どう評価されていただろうかと考えてみるのも無意味ではないかもしれない。 2. 観光客の爆発的増加は都市を変えずにはいない。大きなキャリー・ケースを引いて歩く人たちの姿が都市の風景の一部になり、airbnbを利用する見知らぬ旅行客がアパートの建物に常に出入りする。 都市に観光客は必要だ。観光の存在そのものは問題ではないのだろう。問題があるとすれば、都市に占める観光の比重が過大に膨張し、それがもたらす恩恵と弊害との折り合いをつけることが不可能な地点にまで達していることだ。それは世界の観光先進都市で顕著に現れていて、多くの都市が対処策を実施し始めている。 1980年に12万人だった人口が6万人へと大きく減少しているヴェネツィアには、毎日8万人の観光客が押し寄せる。ヴェネツィアは観光客の数に上限を設定することを検討している。 アムステルダムは中心部の歴史的地区内での観光客向けの店舗数を限定し、同様に新店舗のオープンを禁止している。中心部の店舗が観光客向けのものばかりになり、住民が利用できる場所が減っていることから、住民に魅力的で住みやすい場所を維持する施策を打ち出している。 リスボンには一年に6百万人の観光客が訪れる。経済危機に見舞われたポルトガルにとって観光は貴重な収入源であり、その経済の多くは観光に関係している。その一方で、本人はポルトガルを離れて国外に住みつつ、リスボンのアパートを観光客に貸す人が増えている。住民が姿を消し観光客ばかりの場所と化す、都市の消滅が懸念されている。 多すぎる観光客が失業に次ぐ深刻な問題のバルセロナでは、住民が観光客への反対運動を続けている。数千人が住む旧市街地のランブラス通りには毎年数百万人の観光客がやってくる。市長はバルセロナを住民に取り戻すことを約束し、許可なくアパートを観光客に短期貸しすることを厳しく取り締まり、観光客向けの宿泊施設の数を制限する法律を承認した。 観光客の行き先を分散化することに努める都市は多い。市は観光客を増やしたいものの、たとえばエンパイア・ステート・ビルの収容人数には限りがある。少し前にニューヨーク市がブルックリンを熱心に売り込み、その後もマンハッタン北部のワシントン・ハイツなど、従来観光客が足を踏み入れなかったネイバーフッドをプロモーションしていることの背後には実利的な理由が控えている。ミュンヘンは観光客が特定の場所に集中しないように都市周辺の山をマーケットし、サステイナブルな観光を標榜するヴェネツィアは、観光客に多くの人が行かない場所を訪れることを促進 (“detourism”) し、文字通り寄り道することを推奨している。 とにかく多くの人を集めればよかった時代は終わりを告げている。観光に過度に依存する経済にも不安はつきまとうし、この都市を訪れる人が今後もずっと増え続けると考えられるのか。潮の流れは変わり始めている。 3. 世界中で多くの人が大量に移動している。国外を旅する人の数は、2016年に世界で12億人に達し、2015年と比べて460万人増加した。かつてない多くの人たちが世界中を旅していて、その数は今後も増えることが予想されている。 イギリス国家統計局は、イギリス人の休暇の過ごし方がここ20年で大きく変わったことを発表している。イギリスに住む人が外国で休暇を過ごした日数は、1996年から2016年の間に68%もの大きな増加を示し、一回の休暇の日数も二週間が中心だった20年前から一週間が主流へと変わっている。イギリス人がより多く、より短期の休暇に出かけるようになったことを説明し得る要因として、国家統計局は格安航空会社の誕生を示唆している。この20年間でイギリスの空港を利用した乗客数は85%増加し、欧州で格安航空会社を利用する人たちの半分はそれ以前に飛行機で旅をしていなかった人たちだという。航空運賃が下がったことで国外に行く人が大きく増え、週末を近隣国の都市で過ごすことは手軽で人気の娯楽になった。ロンドンから2時間で着くバルセロナ行きの金曜の夕方のフライトは機内ですでにパーティーが始まっている。パリ、バルセロナ、ヴェネツィアは相変わらず人気の目的地だ。より短期間でより頻繁に国外の休暇へと出かけ、その行き先がさほど変わっていないとしたら、人気の観光地の負担が大きくなるのも当然だ。 誰もが手頃に旅行できるようになり、かつてない多くの人たちが移動している。大量移動の時代に、人気の高い都市は多くの人がやってくることを手放しで喜ぶことはできなくなった。それぞれの都市が受け入れることができる観光客の数に限度があるとすれば、都市が観光客を選別したとしても不思議ではない。 ロンドンやパリは、従来とは異なるタイプの観光客を集めることに取り組み始めた。低価格なイメージを払拭し、観光収入は一定にしつつ、住民のストレスを軽減することを目的としているといわれる。欧州の他都市もこれに続くところが出てきている。大型バスで乗りつけて、数時間でランドマークを駆け足で回りまたバスに乗り込んで次の都市へと急ぐ観光客や、最低限のマナーや現地の習慣を尊重しない人たちへの風当たりはすでに強く、クオリティの低い観光客には来てもらわなくて結構だと明言し、賢い観光客にだけ訪れてもらいたいことをはっきりと述べる都市も出てきている。何人が訪れたのか —– その数字は必ずしも集客を考える上での最重要にメトリクスではなくなっている。 パリやニューヨークは長く滞在することを促すキャンペーンを打ち、リピーターを集めることに注力している。初めてパリにやってきて2日間滞在するとすればエッフェル塔には行くだろうが、パリに2週間いるからといってエッフェル塔に14回行きはしない。量から質へとシフトする集客ゲームでは、都市が観光客を選ぶ立場に立つことになる。人気の都市では誰もがお客様として歓迎されるわけではなくなり、観光へのアプローチにおいても都市間の階層が生まれつつあるのかもしれない。 4. 2017年11月7日、ユナイテッド航空は、アメリカ国内線として最後のB747機のフライトを、サンフランシスコ空港からホノルル空港まで飛んだ。フライト番号はもちろんUA747。B747機の引退を記念して、フライト・アテンダントはB747機導入時の1970年当時のユナイテッド航空の制服を着て乗り込んだ。ユナイテッド航空が最初にB747機を飛ばせたのは、1970年のやはりサンフランシスコ空港からホノルル空港までの便。ピーク時の1993年には同航空会社だけで56機ものB747機を飛ばせたという。 「空の女王」の異名をもち、JGバラードがパルテノン神殿と並ぶ地政学的世界観の具現化と評し、航空産業にひとつの時代を築いたモデルが引退したことになる。その幅広いボディの導入によって、B747機は一度に運ぶことができる乗客数を従来の2倍以上へと飛躍的に増やすことに成功した。規模の経済を活かし、一席あたりのフライトのコストを30%低下させることで、大型化の先鞭を切ったB747機が世界中の人の移動にもたらした影響は計り知れない。それまで世界の最も豊かな者にのみ許された贅沢だった空の旅がより多くの人の手の届くものになり、大陸間の大衆移動時代の幕を開けることになった。 … Continue reading

FAFSPさん


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