■都市のコード論:NYC編  vol.06
テーマ:HOTEL
レポート
2018.03.08
カルチャー|CULTURE

■都市のコード論:NYC編 vol.06
テーマ:HOTEL

在NYC17年の日本人ビジネスコンサルタント、Yoshiさんによるまち・ひと・ものとビジネスの考察を「都市のコード論:NYC編」と題し、不定期連載しています。

1年半ぶりの起稿。テーマは“HOTELと都市“です。日本でも異業種からの参入が増え、新しい展開をみせていますが、NYでは? データとともに解析します。


ニューヨーク市内で新しいホテルのオープンが相次いでいる。


2015年時点で市内には696件のホテル (107,000室) が営業していたとされているが、その後新規オープンが続き、2017年10月時点では、ホテル数はおよそ785件、 部屋数は115,000室に達したと考えられている。

ニューヨーク市のマーケティングを担うニューヨーク・シティ・アンド・カンパニーが2017年に発表したレポートによると、2017年末から2019年までに、おおよそ40-50件の新しいホテルのオープンがさらに予定されていて、27,000室が追加されることになり、その結果2019年末には900件近くのホテルが市内に存在することになる。

新しいホテルの業態はさまざまで、部屋数をみても14室のみの小規模なものから600室を超える大型のものまでそのバラエティは幅広く、ターゲットとする市場のセグメントもさまざまだ。とはいうものの、そこには共通する傾向もあり、そして新しい試みも散見される。

ということで、今回はNYマンハッタンのホテルの変化についてデータとともに解析してみることにした。



2015年以降オープンした (そして今後予定されている) ホテルの数を、ボロウ (区) ごとにみてみよう。

ニューヨーク市の中心であるマンハッタンでは、1年に20−30件のホテルが継続してオープンしていることがわかる。少し前に話題になったブルックリンも毎年5-10件ほどオープンしているもののすでにピークアウトしている。

一方、クイーンズでは2017年と2018年にそれぞれ10件前後、2019年には15件のホテルのオープンが予定されており、そのペースはブルックリンを上回っている。


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ボロウ別でなにより注目すべきことは、2017年からブロンクスにもホテルがオープンしていることだ

1980年代の犯罪のイメージから観光とは縁遠かったブロンクスが、いよいよ市内のホテル戦線に参入したことになる。確かに地下鉄に乗ればブロンクスからマンハッタンの中心部まで30分ほどで着くことができるし、近年はブロンクスの南端に位置するサウス・ブロンクスの開発も進んでいて、2017年に市内で家賃の大きな上昇率を示した地区の上位はブロンクスが占めていると報告されている。

ビジネスやエンターテイメントが圧倒的にマンハッタンに集中していた状態から、近年その重心は少しずつ隣接する他のボロウへと分散傾向にある。ブルックリンからクイーンズ、さらにはブロンクスへと、オープンするホテルのロケーションの移動は、人々の注目の移り変わりをも反映しているといえる。

ホテルの新規オープン (2015-2019年)を、マップにしたのが下のリンクである。
バブルの大きさはそれぞれのホテルの部屋数を示し、それぞれのホテル名と部屋数をインタラクティヴにみることができる。

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2017年11月に東京は錦糸町、大阪は本町にオープンしたマリオット・インターナショナルが20〜30代のミレニアル世代を対象とした家具や内装にこだわったデザイナーズホテルブランド「モクシー・ホテル」。ウエブサイトもポップで従来のホテルのイメージとは異なる。

マンハッタンをみてみると、伝統的に観光客とホテルが多いミッドタウンにひき続き新しいホテルが多くオープンしていることがわかる。

たとえば、マリオットが手がける、612室のモキシーNYCタイムズ・スクエア (http://moxy-hotels.marriott.com/en) が2017年にオープンした。

やはりミッドタウンのハドソン川近く、ハイラインの北端に位置するハドソン・ヤーズでは大規模な開発が進んでいる。最新のインフラを備えた大型オフィス・スペースが建設中で、完成と共に多くの企業がミッドタウンからハドソン・ヤーズへと移転することが予想されている。企業が移転する先にホテルができるのは当然なのだろう。ハドソン・ヤーズの隣には巨大なコンヴェンション・センターであるジャヴィッツ・センターもある。部屋数の多い大型ホテルが多いのもミッドタウンの特徴といえる。

マンハッタンの南端に近いファイナンシャル・ディストリクト (旧金融街) からバッテリー・パークにかけても新しいホテルが増えている。グラウンド・ゼロ1ワールド・トレード・センターが完成したことで、コンデナストやデイリー・ニュースなど、多くのメデイア企業がタイムズ・スクエアからダウンタウンへと移転している。そうしたビジネス向けの需要はもちろんのこと、ロウワー・マンハッタンはかつての金融街から比較的若年層の人たちが住む地区へと急速に変化している。伝統的な観光地のミッドタウンを敬遠してロウワー・マンハッタンに宿泊することを選ぶ観光客も増えているということなのだろう。


 
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ハドソンヤードの開発のようす(2018年1月撮影)


ブルックリン
はというと、ダウンタウンウィリアムズバーグからグリーンポイントにかけて、そしてクイーンズではロング・アイランド・シティのほかにジャマイカでもホテルがオープンしている。

ロング・アイランド・シティは、マンハッタンのミッドタウンまでイースト・リバーを超えてすぐの場所にあり、マンハッタンよりも手頃な宿泊料金に設定されている。さらには部屋から川の向こうにマンハッタンの眺めを楽しむことができる。マンハッタンに滞在していたら目にすることができない贅沢だ。JFK空港行きのエアトレインが発着するジャマイカは、空港と市街地との両方へのアクセスの良さからホテルができているようだ。

ホテル数が急速に増えていることから、ニューヨークのホテル需給は緩和すると予想されている。激化する競争に生き残るためのカギは、差別化にあるようだ。

ニューヨーク市シティ・プランニングのレポート
によると、市内のホテルの部屋数のおよそ38%は独立系のホテルだという。チェルシーにあるハイライン・ホテル (http://thehighlinehotel.com/)、ミッドタウンのルーズヴェルト・ホテ (http://www.theroosevelthotel.com/)ロジャー・スミ (https://www.rogersmith.com)、ブルックリンのウィリアムズバーグのウィリアム・ヴェイル (https://www.thewilliamvale.com/) などが独立系に相当する。

これらのホテルは全国展開する大手ブランドとは提携していない。戦略的な選択だ。

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市内に43,600室あるとされる独立系ホテルの部屋のうち、49%は広義のハイエンドに属し、エコノミーのセグメントに相当する部屋数はその28%にすぎない。独立系のホテルがハイエンドをターゲットとしていて、独立系
であること (大手ブランドの一部ではないこと) を高付加価値化に利用していることがわかる。実際に、大手を避けて、独立系のホテルでの宿泊を選ぶ人は増えている。


独立系のホテルは、マンハッタンではダウンタウンブルックリンの一部クイーンズのロング・アイランド・シティなどでオープンしている。典型的な観光地ではない場所の選定がその価値の欠かせない一部であり、ハイエンドのイメージとロケーションが分かちがたく結びついていることがわかる。ロケーションはそのブランドの一部といってもいい。

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トリップ・アドバイザーが買収した現地ツアーの予約ができるプラットフォーム「ヴィアター(www.viator.com)」。

興味深いのは、大手ブランドもニューヨークでは独立系のアプローチを模索していることだ。

テキサスを拠点とするあるデベロッパーは、通常マリオットやヒルトンと提携してホテルを展開するものの、ニューヨーク市内では大手ブランドと提携せずに運営している。

なかには大手ブランドの傘下であることを隠して、独立系にみせて運営する覆面独立系ホテルもあるという。そのため、市内のホテルを独立系と非独立系にホテルに分けることは容易ではない。少なくともニューヨークに関する限り、ハイエンド市場は、独立系としての独自性を提供することが条件となっているようだ。

同時にヒルトンマリオットも、別名を用いたソフト・ブランドのホテルをオープンし、より小規模で、標準化されていない部屋を提供しようとしている。

日本でも2018年の春に軽井沢にオープンする予定のキュリオ・コレクション・バイ・ヒルトン
(http://curiocollection3.hilton.com/en/index.html) や、タイムズ・スクエアとミッドタウンの2カ所にあるマリオットのオートグラフ・コレクション (https://autograph-hotels.marriott.com/) などがその例であり、既存のブランドとは距離を置く位置づけになっている。

ソフト・ブランドはブティック・ホテルとして運営しつつ、同時に大手ブランドの一部として、予約やリウォードのシステムにアクセスできる利点もある。

 
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2017年、マンハッタン31丁目にオープンしたライフ・ホテルは、かつて雑誌『ライフ・マガジン』の本社だった建物を改修したものだ。

ホスピタリティのビジネスにもテクノロジーとデータは欠かせない。
ニューヨークのホテルでは、自分でチェックインを済ませるところが増えているiPadに接続された端末を利用してチェックインする。わからなければ、必要に応じてスタッフが助けてくれる。テクノロジーの利用でコストを抑えるホテルは多い。


ホテル各社はゲストに関する大量の情報を有している。そのデータをもとに、それぞれのゲストにどんなサービスを提案するのかがビジネスを左右することから、ホテル・テクノロジーのスタートアップ企業の買収も活発になっている。

現地ツアーを予約するサイトのヴィアター (https://www.viator.com) を買収したことで、ホテルやレストランの予約サービスを提供するトリップ・アドバイザー (https://www.tripadvisor.com/) では、ホテル以外の売上が31%増加した。マリオットは、データに基づいて、それぞれのゲストが気に入りそうな体験を個別に提案している。


ローカルな体験を提案するホテルは多い。マリオットが最近買収したアロフト・ホテル (https://aloft-hotels.starwoodhotels.com/) は、ローカルのアーチストによる音楽の演奏をスポンサーしている。ホステル感覚のブティック・ホテルを謳うモキシーは、部屋は狭くそれ自体がニューヨークの経験だという。

こうした動向の背景には、ホテルの競合はairbnbだという認識がある。airbnbがマーケットする、これまでのような観光客ではないローカルとしての体験をとりこむべく、宿泊に付随するローカル性をホテルが重視し始めていることが、現地ツアーやアクティビティの予約サイトの買収を後押ししている。ホテル周りのビジネスをいかにして取り込むのかは、これからも大きな課題だ。

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アーチ状の構造を多く手がけた建築家、エーロ・サーリネンによって1962年にTWA航空のターミナル4をホテルに改修したTWAホテル。
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TWAホテルのHPより。独特のレトロモダンな内装はある層にとっては宿泊することが目的となりそう。


新しいホテルを見て回ることで気づくことのひとつは、かつてのように、入口を入ると目の前に巨大なレセプションが広がっているという光景を目にすることはないということだ。ハイエンドのホテルにその傾向が強く、大きなデスクの背後に何人ものスタッフが立って待ち構えているという光景は過去のものになりつつある。

自分でチェックインするためのiPadが並んでいる以外には、入口のフロアにはソファが並ぶくつろぐ場所があったり、レストランがあったりする。2017年にマンハッタンの31丁目にオープンしたライフ・ホテル (https://lifehotel.com/
) のように、入口を入ってもどこにレセプションがあるのかすぐにはわからない、むしろレセプションをできるだけ見せないようしているようにさえ思えるところもある。

ライフ・ホテルはかつての雑誌の『ライフ・マガジン』本社だった建物をホテルに改修している。商品をマーケットする際に、それにまつわる物語を付加する物語マーケティングが一般化しつつあるが、ライフ・ホテルは既にそこにあるライフ・マガジンのレガシーの周りにホテルというビジネスを構築したのが興味深いところだ。

他の場所で再現不可能なプロジェクトには、他にはない固有性がある。オーセンティックなトーンを前面に出している内装にもそれは見てとれる。新しいコンセプトやデザインを考えたところで、ひとたび注目されたらそれはすぐに模倣され、あっという間に世界中でコピーされる。模倣されることを避けるためには、他にないユニークな場所を開発するしかないということなのかもしれない。

他にはないホテルといえば、JFK空港内で工事が進んでいるTWAホテル (https://www.twahotel.com) は、かつてのTWA航空のターミナル4をホテルに改修するものだ。 エーロ・サーリネンの手によって1962年にオープンしたターミナルで、トランス・ワールド航空 (TWA) はもちろんもう存在しないが、
その歴史とアイコニックなターミナルを利用したホテルとして復活する。
 
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1980年代にブティック・ホテルのコンセプトを導入したイアン・シュレージャーが手がけるPUBLIC HOTEL。冒頭のソファーの部屋の写真もここ。日本だと結婚式の会場としてのニーズは必須だが、NYの場合はアートイベントや音楽イベントが開催できるようなスペースを設けるところが多いよう。(https://www.publichotels.com/)
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日本における近年のデザインホテル、ブティックホテルのトレンドは、2012年にブルックリンに暮らす3人のオーナーの手によって開業したこのWHYTHE HOTELが有名だ。1901年に建てられた、精糖所に納める木樽を製造する工場をリノベートしたインダストリアルな意匠は、その後の日本における“ブルックリン・ブーム”や“ポートランド・ブーム”を後押ししたが、そういった表面的なことに留まらず、小資本(インディペンデント)であることをはじめ、レストランのメニュー、バー、パブリックスペース、ジムなど、従来の都市のホテルユーザーとは異なる“新しいラグジュアリー”なライフスタイルを提案していた点こそが新しい(写真は2013年8月に撮影したもの)。
 
ホテル・ビジネスの競争の中心は、部屋よりも宿泊の周辺へと移動している。

昨今の宿泊客の半分はレストランでホテルを選ぶというデータもある。ライフ・ホテルのロビーはレストランをフィーチャーしていて、近所の人たちが立ち寄るような場所を目指しているという。同レストランは、レストラン起業家のステファン・ハンソンが所有・経営している。

ホテルの中のレストランの多くは第三者の業者が経営し、ホテルとのシナジーが欠けていることが多い。ライフ・ホテルではハンソン自身が同ホテルに投資をしており、レストランの売上の一定の率を家賃としてホテルに払う仕組みになっている。

一般的に、レストランをオープンした後、その周辺が人気の地区になったら、家賃が上がり今度は追い出されることになりかねない。不動産価格の高騰に終わりの見えないニューヨークでは頻繁に耳にする話だ。ビジネス面での新しい取り組みは、その防止策でもある。

2017年にロウワー・イースト・サイドにオープンしたパブリック (https://www.publichotels.com/) は、1980年代にブティック・ホテルのコンセプトを導入したイアン・シュレージャーが手がけるホテルだ。

その名が示す通り、誰もが立ち寄ることができるように、コワーキング・スペースパブリックの場所があり、仕事をしたり、打ち合わせをしたりしている人たちが多い。上層階にはフード・ホールバーがあり、地下にはコンサート・ホールもある。エンターテイメントは利益が出せるものの、ホテル産業にノウハウがない部分でもある。その開発の意図がある。

こうしてみると、新しいホテルにはいくつかの傾向がある。宿泊周りの体験をとりこむこと。他にない固有性を求めるところもある。そしてテクノロジーとデータがホテル産業の未来に欠かせないコアであることも間違いのだろう。

[取材・データ/文:Yoshi(在NY・コンサルタント)]

 

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ニューヨーク新市長のほぼ100日
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ニューヨーク新市長のほぼ100日

ニューヨークのゾーラン・マムダニ市長が一月に就任して四ヶ月近くになる。大統領であれ市長であれ、新リーダーの就任後100日をひとつの区切りとしてふりかえるのが米国メディアの慣しであり、「米国内のみならず世界中から注目されている市長」 ならなおさらである。 巷にあふれる新市長の100日評を見ていると、そのガヴァナンスを「ポットホール政治」と特徴づけるところが多いようだ。路上の陥没箇所を指す「ポットホール」は就任100日目のスピーチで市長自身が何度も繰り返した言葉だが、その射程は意外と広いようにみえる。ほぼ100日時点で目についたことを記しておこうと思う。 注目したいのは、多大な期待と疑心を背負ったこの新市長が、大きな一歩を踏み出したわけではなく、数々の小さな歩みを多方向に踏み出したことである。 選挙期間中の公約には、高額所得者や大企業への課税、バスの無料化、住民全員を対象とした無料のチャイルドケア、市営食料品店のオープンなどの難題が並んでいた。壁に等しい急坂をかけあがるような課題群なら、100日を過ぎた時点で実現に向けた道標が立ちつつあるのが、チャイルドケア、市営食料品店、非居住者を対象とする不動産税 (ピエ・ア・テール税) などのごく一部だけなのはやむを得ないというべきかもしれない。むしろ面白いと思うのは大ニュースにはならない細々とした一連の取り組みである。 そのごく一部をみてみると… 市長は4百万ドルを投じて市内に20-30ヶ所の公共トイレを新たに設置することを発表した。ニューヨークを訪れたことがある人ならわかるだろうが、市内には公共トイレが少なく、「世界の最も優れた都市では用を足すために店に入りコーヒー一杯に9ドルを使うべきではない」との市長の言である。 市内全域で学校周辺の自動車の制限速度を時速15マイル (24km) に落とすことも発表した。生徒の安全を確保するためだ。 歩道の車道に接する部分の「カーブサイド」を専門に担当する「カーブ管理室」なる部署が新たに設けられた。そんなニッチな部署が必要なのかとも思うけれど、爆発的なオンラインでの買い物の増加により市内で毎日2.4百万件もの荷物が配達されていることを考えれば、配達トラックのカーブサイド利用だけでも相当なものになり、そこに加えて並列駐車、ゴミ収集車 (収集ゴミはカーブサイドに出すのが決まり) による利用、レストランによる食事席としての歩道利用、そして歩道を歩く人たちと、その狭小な場所は著しく混雑している。なにより住民の誰もが毎日必ず利用する場所であるため管理が必要なのだという。 一方では、就任早々に、企業に責任を負うことを求め、労働者の保護を強化した。市の最低賃金の法律を守らず、「デリバリスタ」(自転車などでフードを配達する人たち) に本来支払われるべき賃金の一部を社内にとりこんでいたUberEatsなどのアプリ企業に対して、正当な支払と罰金を含む4.6百万ドルの支払いを求めた。市内では8万人がデリバリスタとして働いている。市の消費者および労働者保護局長によると、「大企業に小企業と同じように法律に従わせる」ものだという。 また各種サブスクリプション・ビジネスのキャンセル手続きが迷宮じみた複雑なものになっていることから、ワン・クリックでキャンセルできるよう各社に求めるルールを国内で初めて導入した。「ワン・クリックで購読させるなら、ワン・クリックでキャンセルできなければいけない」。ホテルの予約などに課金されていた種々のフィーやデポジットなどのいわゆる「ジャンク・フィー」の禁止も発表した。 ほかにもまだまだたくさんあるけれど、ひとまずこのくらいで。 これがいかにもまとまりのない雑多な詰め合わせにみえるとしたら、実際に雑多で全方位的だからである。新市長のほぼ100日は、その「ラディカル」な前評判とはほど遠い、些細にもみえる細々とした諸課題の対処が中心だった。とはいえいずれも住民の暮らしに直接影響するものであり、また消費者の保護という点では共通している。特に市長自身が就任後100日間の達成例として好んでとりあげるのは、100日で市内10万ヶ所のポットホール (路上の陥没箇所) を修繕したことである。市の歴史上かつてない速いペースだという。 20世紀半ばのミルウォーキーで社会主義者を自称する市長たちがインフラ建設を急いだ「下水管社会主義」に重ねて、その21世紀版としての「ポットホール政治」をマムダニ市長は主張する。市長の周りでは「ストリート社会主義」ともいうらしい。普通の人たちの目線でのインフラ改善のことだ。暮らしの支援とは必ずしも小切手を配ることではなく、優れた公共事業と公共政策によって課題のひとつひとつに対処することだというわけだ。課題に大小の区別はない。それこそすべての穴を埋めていく必要がある。 それは広義のメンテナンスともいえる。20世紀が建設だったとすれば、21世紀はメンテナンスである。実のところ、ずいぶん前から今日の都市には、飽和しきった膨張主義からメンテナンスやケアへとパラダイム変更が必要だと言われていた。言うのは簡単である。あるいは知ってはいても、やめられないとまらない。そうした言葉を用いることなく、具体的な形でそれを全面的に実行しようとしているのは、米国ではこの市長が初めてのはずだ。 公共トイレの設置計画を発表したときには、トイレは「ガヴァナンスの最も華やかな部分というわけではないが」と冗談めかした市長だが、市井の人たちの生活に直結する、断固として派手でもセクシーでもないありきたりな日常に傾注しているようにみえるのは偶然ではないだろう。なにしろポットホールである。そこには黒子としての政府を強調し、住民の信頼をとり戻そうとする意図がある。市場信仰の宿酔いが醒めきらぬ頭に「政府には人びとの暮らしを良くすることができる」と訴えかける市長に、死語に近い「公僕」という言葉を思い出した。 「マムダニが最近ニュースに出てこないけれどどうなっているんだ」と市外に住む友人から聞かれたある人が「ニュースにならないのは彼が仕事をしているということじゃないか」と答えたという。実際、市長の仕事とは実に退屈なものというべきかもしれない。妄言に等しい「イノベーション」や、不動産産業以外の誰も望んでいない再開発、住民にはもっぱら災難として降りかかる大イヴェント誘致よりも、目の前の些細にもみえる課題に具体的に取り組み改善し、住民が必要とすることを支援する、それが市長でありガヴァナンスではないか。たしかにそれはラディカルである。 なるほど「ニュースがないのはいい市長」とはひとつの考え方である。ところがこの市長は話題に事欠かない。聖パトリックの祝日にはアイルランドの歴史から植民地主義を解説し、パレスチナの状況にまで話しは及んだ。ラマダン期間中は断食明けの食事イフタールの写真を毎晩ポストし、その一夜は、2024年にコロンビア大学でのパレスチナ支援デモを率いたとして拘留されたパレスチナ人マフムード・カリルを招いた食事だったことも一部から反応を招いた。カリルの釈放を求めてマムダニ市長がトランプ大統領に働きかけて以来の縁がある。 トランプ大統領といえば、市長就任前の昨年11月にマムダニがホワイト・ハウスを初めて訪れたときには、密室での一時間の会談が終わってみると、猛獣に首輪がついてすっかり手なずけられていた様子に、マムダニの手腕に感心した向きが多かったが、ボストン市長のミシェル・ウーだけは名指しこそしなかったものの、おだては得策ではないと冷ややかだったことは覚えておきたい。いずれこのことは蒸し返すことになり、クイーンズ出身の二人の男の「ブロマンス」も必ずしも順風とはいかないだろう。 歴代市長の通例に背いて、5月にメトロポリタン美術館で開催される「メット・ガラ」に参加しないことも憶測を呼んでいる。今年のイヴェントのスポンサーはジェフ・ベゾスである。 昨年のマムダニの世帯所得は州の議員としての給与を中心に15万ドル足らずと市内の二人世帯所得の中央値に近い。アーチストである妻の所得は1万ドルに満たないというから、ある意味では市内の典型的な夫婦世帯である。公僕を務める若い夫婦にとって、セレブリティやビリオネアが富と名声を誇示する催しが場違いだと判断したとしてもおかしくはない。 この市長が与えるもうひとつの印象は、そのガヴァナンスが身体性と不可分に結びついているように感じられることである。どんなことにも自分で現場に出向き、ひとつひとつ自分で確認する。自分の身体を使い、手を汚して対処しようとしてみる。 「ミュニシパル・マッドネス」が顕著な例である。壊れた街灯やバスケットボールのコートの修復舗装など、市の対処を待つ16件の様々な案件のなかから、市の職員ではなく、市長自らが赴き、文字通り市長の手で直接解決して欲しいと願うものを、市民が投票して決めるものである。2万件を超える投票の結果、ブロンクスのサウンドヴューでのゴミの不法投棄案件が選ばれて、市長自らが作業手袋をはめて投棄物の回収撤去を行った。 もちろんそれはデモンストレーションである。ほかの数々の諸問題は市の職員が対処している。それでもメッセージは明らかだ。思想・イデオロギーよりも実行・実働であり、この市長は常に市内どこかの現場にいる印象を与える。就任式で「外にいる市長」であることを誓ったマムダニは、先日はロウワー・マンハッタンの市庁舎からアッパー・イースト・サイドの居住地まで6マイル (約10km) を歩き、すれ違う人たちに声をかけながら帰宅した。選挙期間最終日の夜にマンハッタン島の北端から南端まで歩き通して、その途上でバーなどの深夜に働く人たちと話しをしていたことを思い出す。 歩く市長であり、ヘルメットをかぶって自らマンホールの中に入り、モスクで祈る市長には、常に歩いていて体を動かしている姿が目に浮かぶ。オフィスに座りスクリーンの数字を相手にする市長とは対照的である。 2002年から2013年までニューヨーク市長を務めたマイケル・ブルームバーグには、テクノクラート、起業家、情報端末ビジネスと、2000-10年代的なアイコンが見事にそろっていることにあらためて気づく。市政のプレイブックを書き換えたと言われたりもしたブルームバーグだが、ふり返ってみると、彼が新たな時代を切り開いたというよりは、立ち上がりつつあった特有の時代に—ピーク新自由主義に—ふさわしい人がよび寄せられたといった方がいいのかもしれない。そうだとすると、マムダニ市長にはどんな時代の兆候をみるべきだろう。 選挙期間中には富裕税の導入を主張して注目を集めたが、いまとなっては大都市を内包するワシントン州やカリフォルニア州だけでなく、メイン州などの経済規模が小さな州も富裕税の導入を検討している。ウォール・ストリート・ジャーナルのようなビジネス紙でさえ税金を逃れるビリオネアたちが経済に悪影響を与えていることを指摘し始めた。「マムダニ効果」というよりも、潮目が変わりつつある時期に彼のような人がどこからともなく現れると考えた方がしっくりくる。もう忘れているかもしれないが、この市長はいまから一年前には全くの無名といっていい人物だった。 ブルームバーグ市長は、2002年に市長就任100日目の催しをゴールドマン・サックスで行い、集まったビジネスのリーダーたちに向かってスピーチを行った。2001年のテロ事件の約半年後にあたり、市の復興が喫緊の課題だった時期である。ブルームバーグ市長にとって、市の回復とはなにより企業の回復のことだったようだ。企業が回復成長すれば、市も住民も豊かになるのだと。マムダニ市長は住民を直接支援するやり方を選んだようにみえる。 住民の間では新市長の評判は概ね良好で、世論調査が伝える支持率はそこそこ高く、まずは及第点というところか。ある調査によると、支持率が最も高いのは18歳から29歳の大卒者だという。とはいえ市長を支持する人たちの間にもいろいろな意見がある。 選挙期間中にマムダニは市の予算の0.5%を公共図書館に充てることを公約したが、発表された暫定予算では0.39%相当しかなく、同様に予算の1%を公園局に充当する公約に対して、暫定予算ではその約半分しかないことに対する反発が大きい。パブリックの美徳を何より強調する市長の約束と違うではないかというわけだが、これは決着のついていない予算の行方次第かもしれない。 大企業の上層部では経済開発に熱心ではない市長との見方が広がりつつある。経済開発公社のトップがいまだ任命されていないこともある。傍目にみても資本のファシリテーターというべき公社だが、経済をめぐる公正さを実現する組織へと改編するのが市長の考えだと伝えられている。任命された都市計画局の局長が、従来のように経済開発の背景をもってはおらず、人種上の平等性に働きかけてきた人であることも注目されている。 マムダニ市長の就任によって、ビジネスは市を離れ、富裕層が大挙して税金の少ないフロリダに引越すことになるだろうと言われたものの、少なくともこれまでのところその気配はない。ウォール街は依然調子よく、マンハッタンでのオフィス建設計画は後を絶たない。むしろニューヨークを離れているのは労働者階級の人たちであり、それこそ心配すべきだというのが市長の考えのようだ。看護師などの「ニューヨークを動かし続けている」ニューヨーカーの多くが市内に住む余裕がなく、近隣のニュージャージー州やコネチカット州から通勤している状況を、ニューヨークの博物館化だと市長は懸念する。自宅から15分以内にコーヒーショップがあり、そこで働く人が自動車を一時間運転して通勤しているとしたら、それは「15分都市」ではなくテーマパークなのだとこの市長は言ったこともある。 個人的に関心をもってみているのは、市が利用するテクノロジーに関して、外注をやめてインハウスへと移行しようとしていることである。経費削減とともに有能な職員を有効活用する意図があるという。組織に欠かせない知識を外注し、タコ糸を操るような管理型テクノクラシーがいよいよ曲がり角に差しかかっているというべきか。あちこちでタコ糸が切れているわけだから当然といえるのかもしれないが。 わからないところもある。治安の問題に関して「コミュニティ安全室」を設置したが、具体的にどのように機能するのか現時点では正直よくわからない。なにしろまだほぼ100日である。 (おわり)

yoshiさん


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