そんな上海ファッションウィーク2018AWでは、約100のランウェイショーを開催。実は2年前と比較をすると約倍に増えたという。メイン会場となった上海新天地 (Shanghai Xintiandi)のオープニングを飾ったのは、ブランド立ち上げからまだ2年しか経っていない若手メンズブランド「PRONOUNCE(プロナウンス)」だった。デザイナーは、イタリア・マランゴーニ学院メンズデザイン修士課程を修了した周俊(チョウ・ジュン)さんとセントラル・セント・マーチンズ修士課程を修了した李雨山(リー・ユーシャン)さんだ。
現在、ロンドンと上海を拠点として服づくりを行なっている彼らがファーストコレクション発表の場として選んだのは、上海ファッションウィークの中に正式に組み込まれている若手ブランドの発表の場、「LABELHOOD(レーベルフッド)」だったというわけだ。
もともとデビュー前から注目のメンズブランドといわれていた「PRONOUNCE」だったが、2018年10月のファーストコレクションでは、「LABELHOOD」の「GQメンズデイ」という若手ブランドの登竜門でもあるコンペティションにて見事プライズを受賞。ロンドンコレクションでの発表の機会を得た実績がある。
そんな実力を備えた彼らが、上海ファッションウィークのメインステージ、しかもオープニングを飾るということで楽しみに会場に足を運んだ。
2018AWテーマは「INFINITY(無限)」。ミラノの旅行中に集めたという21枚の古いポストカードのトラディショナルなスーツ姿の男性の姿からインスパイアされ、テーラードスーツと中国の人民服をミックスしつつ、“無限の可能性”を探究。無限大の記号「∞(無限大)」を、チャイニーズノットやベストのステッチなどのディテールに起用。ピンクやオレンジ色のニットは、内モンゴル産のウールを使用し、現地の女性たちが編み上げたハンドメイドというように、デザインもマテリアルも「中国」を全面に出したコレクションとなった。
中国の若者が支える「LABELHOOD」
ここでPRONOUNCEがファーストコレクションを発表した「LABELHOOD」について紹介したい。実は、筆者が上海ファッションウィークの会期中に上海を訪問するきっかけとなったのが、この「LABELHOOD」だった。当時、上海在住のデザイナーの友人が、「LABELHOOD」の前身のファッションイベントに参加していて、そのときに、現「LABELHOOD」のディレクター、劉馨遐(Tasha Liu/リウ・シンシャー)さんを紹介され、「面白くなりそう!」と思ったのだった。
コンセプトは「Pioneer Fashion & Art Festival」。若手デザイナーに発表の場を与えるという位置づけで「LABELHOOD」という名称にリニューアルしてから今回で5シーズン目になる。 会期は4日間。朝から夜まで、ショー、展示、ポップアップストアなど、今どきの若手デザイナーの動向がダイレクトに感じられるプログラムで構成されているのが特徴だ。「上海ファッションウィーク」の正式なプログラムに組み込まれていることから、上海政府をはじめ、協賛企業などからのサポートも少なくなく、また、スタッフは、10代から30代のボランティアが支えているという運営方法もとても興味深い。
「LABELHOOD」のメインイベントはランウェイショー。通常、ショーはバイヤーやメディア、一部の関係者しか見られないが、「LABELHOOD」では、1ブランドにつき2ステージ、または3ステージ開催しており、1stステージはバイヤーとメディア、VIPのためのショーだが、2ndステージと3rdステージは広く一般に解放。ファンを中心に、事前に応募し、当選した人たちが見られるという、“開かれたコレクション”になっているのも特徴だ。
関係者によると、実は、応募すれば誰でもが見られるというわけではなく、会場のキャパシティも含め、「LABELHOOD」側が申込者の資料を見て、本当に見て欲しい人たちにのみその権利を与えているという話もある。ちなみに、ショーを見る権利を得られなかった人たちのために、ライブ配信も行なっていた。 つまり、「LABELHOOD」のショーを見る権利が得られたことはある意味ステイタスでもあり、上海市内はもちろんのこと、わざわざ飛行機や列車で中国各地からこのイベントのためにやって来るという、ファッション好きの中国のミレニアル世代も少なくないという。
また、「LABELHOOD」のランウェイショー参加ブランドをセレクトする審査員「ブランド・コミッティ」が毎シーズンごとに変わるというのも特徴だろう。今シーズンは、「レーン・クロフォード」のディレクターやファッション評論家のアンジェロ・フラッカヴェント、「Numero China」の編集長など6名が審査を担当し、応募数合計約100ブランドから20ブランドを選定。ランウェイショーを披露した。その他、6ブランドがポップアップストアを、4ブランドが展示を行なった。 過去に参加したブランドは、中国、香港、台湾、華僑、または中国をベースに活動しているのがほとんどだが、今シーズンは日本からの応募も増えたそうだ。
次に注目したいのは、
上海を拠点に活動する日本人とスウェーデン人のデザイナーブランド
「SIRLOIN(サーロイン)」
そんななか、次の若手ブランドとして注目しているのが、日本出身のデザイナーMao Usamiとスウェーデン出身のデザイナーAlve Lagercrantzがてがける「SIRLOIN(サーロイン)」だ。上海をベースに活動しており、「LABELHOOD」への参加は、今シーズンで2度目となる。中国国内でのファーストコレクションは、2017AW、上海のショールーム「TUBE SHOWROOM」だった。
そのファーストコレクションのインパクトが強烈で、夏になると上海の路上でよく目にする、Tシャツの裾を捲って涼んでいるお腹の出たおじさんや、シャツやスカートがパンツに挟まったままトイレから出てきてしまった女性をそのままランウェイショーで表現していたのである。そんな、思わず頬が緩む上海の日常の瞬間をデザインに落とし込んだ初コレクションは、中国・上海で暮らし、クリエーションを行なっている彼ら2人にしか考えつかない、また、彼らにしかデザインできない服となっていたのだった。
そんな彼らの2回目となった2018AWのコレクションは、まず、開催前にスタッフから、指定のQRコードを読み取るようにと指示があり、そのとおりに進むと、海辺の映像が携帯の画面に流れ、緑色の壁で囲まれた会場と一体に。音楽が流れると同時に、モデルが1人ひとり会場に入ってくる。モデルを携帯で追うと、携帯上では自然の背景の中をモデルが闊歩するという映像が映し出される。そう、実はVRを使った映像だったのだ。
「ファッションショーって、みんな、携帯で写真を撮ることに夢中でしょ。だったら、モデルたちを携帯上に載っけちゃおうっていうアイディア!」と会場にいたスタッフが話してくれた。
テーマは「リアルとヴァーチャルの狭間を探求」。白のケーブルニットの上に、別のニットの柄をプリントすることで、リアルとヴァーチャルの境界線をデフォルメしたユニークなデザインとなっていた。 ショーが終わると歓声と拍手で会場が沸いた。「最近のファッションは真面目すぎる!もっと面白くてもいいじゃない!」というSIRLOINのメッセージがストレートに表現された素晴らしいショーだった。
この他、今シーズンの「LABELHOOD」で発表したブランドとしては、一貫して東洋の女性像をテーマにコレクションを発表しているSAMUEL Gui YANG(サミュエル グイ ヤン)や、中国のストリートカルチャー、日本のカルチャーなどからインスピレーションを受けているANGEL CHEN(エンジェル チェン)、Dover Street Marketでもすでに取り扱いがあり、日本のアニメや世界各国の映画からインスプレーションを受けているSHUSHU/TONG(シュシュ トン)などが注目される。
ちなみに、今回、ショー前列には、イギリス在住のファッション・ブロガー、Susie Lau(スージー・ロウ、通称スージー・ロウ・バブル)を招聘。当局の「LABELHOOD」をはじめ、上海のファッションシーンをより海外に発信していきたいという強い思いは、東京のファッションウィークも同じだが、さて、実際にはどちらが発進力があったのか、売上はどうだったのかなど、ひきつづきリサーチしてみたい気持ちにかられた。
[取材/文:小山ひとみ]
*Vol.2では、上海ファッションウィークの会期中に開催されたショールームのようすや、合同展示会、また注目されるセレクトショップなどについて紹介したい。(後編につづく)