「Mリーグ」開幕! “ネオ麻雀ブーム”は到来するか?
レポート
2019.01.10
カルチャー|CULTURE

「Mリーグ」開幕! “ネオ麻雀ブーム”は到来するか?

ネット麻雀の普及、マインドスポーツ人気、eSportsのプロ化、女性のお一人さま需要…さまざまな要素が絡み合い、麻雀業界が新しい局面へ。

突然だが、麻雀をやったことのない人に麻雀の印象を尋ねると、いったいどんな答えが返ってくるだろうか? ギャンブル? 雀荘って暗くて汚くてタバコ臭そう! 徹夜でやるゲーム?…など、おそらくダーティーで不健康、マイナスのイメージが少なくないだろう。ましてや「プロの麻雀打ち」となったらそんなイメージはますます強まるはずだ。

ところが2018年7月、新しく「Mリーグ」という麻雀のプロリーグが発足宣言。賭け麻雀との関わりを一切断つ「ゼロギャンブル宣言」を掲げた上に、麻雀のプロスポーツ化、ひいてはオリンピック競技への採用を目指すことを標榜するなど、これまでの麻雀のイメージを大きく刷新する団体が誕生したことに実は麻雀ファンの筆者は衝撃を受け、取材することにした。

初代Mリーガーたち。©M.LEAGUE
リーグへの参加企業は(株)コナミアミューズメント、(株)サイバーエージェント、セガサミーホールディングス(株)、(株)テレビ朝日、(株)電通、(株)博報堂DYメディアパートナーズ、(株)U-NEXTの大手7社。また、大和証券(株)と3年間のスポンサー契約を締結し、最高顧問にはJリーグの立ち上げで知られる川淵三郎さんを招聘する本気ぶりだ。

「社会的なインパクトのある大企業に参加してもらい、麻雀に関わらない人にも「すごいものが立ち上がったぞ!」というイメージをつくるのが狙いだったんです」。

そう話すのは、Mリーグ機構の塚本泰隆さん。実はこれまでにも麻雀のプロ団体は数多存在していたが、各団体の活動はそれぞれバラバラ。Mリーグは、既存の5つのプロ団体から選抜された雀士が団体の垣根を越えて戦う史上初のリーグで、各企業がそれぞれプロ雀士と契約し、チームを結成して戦うというしくみだという。
 

Mリーグ機構の塚本泰隆さん。
加えてMリーグはリーグ戦の優勝賞金が5,000万円と、これまではメジャーな団体のビッグタイトルでも賞金が最高300万円ほどだったのとは桁違い。また、所属雀士の最低年俸を400万円と保証したことで“Mリーガー”たちは生活を安定させ、麻雀競技に集中することができるようになる。

Mリーグ発足の中心人物は、サイバーエージェントの藤田晋社長だ。藤田社長は2014年にプロアマ混合のタイトル戦で優勝を果たすなど、プロ顔負けの腕前の持ち主であり、麻雀のコンテンツとしての可能性を高く評価。これまでにも「Abema TV」で数々の麻雀番組を製作してきた。「Abema TV」の既存の麻雀チャンネルは、重複もカウントすれば1回の放送あたり20万〜30万視聴を記録するなど、一定数のファンはすでに獲得していた。

しかし、番組を製作してきたなかで、もっと大きな動きにしていかなければ麻雀業界が変わらない(プロが食べていけない)と考え、企業をスポンサーにしたリーグの立ち上げを構想。藤田社長自らがチェアマンとして先頭に立ち、「ゼロギャンブル」を掲げて各企業を説得したそうだ。
 
(株)サイバーエージェント社長であり、Mリーグのチェアマンも務める藤田晋氏。©M.LEAGUE
そしてなによりMリーグ立ち上げに踏み切る大きな後押しとなったのが、ネット麻雀の普及だという。実は近年、PCだけでなくスマホでのオンライン対戦やゲームセンターのアーケードゲームなどで金銭を賭けない「ノーレート麻雀」を楽しむ人が増えていることから、麻雀を賭博と切り離して“観る”コンテンツに昇華できるという確信があったという。

2018年10月のリーグ開幕に先駆け、8月7日にはMリーグに所属するプロ雀士を決める「ドラフト会議」がグランドプリンスホテル高輪を会場に実施された。7チームがそれぞれ3名ずつの指名で計21名、1巡目から指名していき、指名が重複した場合はくじ引きと、プロ野球のドラフト会議と同じシステムだ。

ドラフト指名されたのは、圧倒的な実績と実力を誇るベテラン雀士だけでなく、若手の有望株や知名度抜群の人気雀士など幅広く指名され多士済々。基本的に男性が多い業界ではあるが、女性も5名選出された。 プロ雀士で俳優の萩原聖人さんが1巡目指名されたり、屈指の実力者である鈴木たろうプロへの指名が3チーム競合となりくじ引きが行われるなど、ドラフト自体も非常に盛り上がっただけでなく、ネット麻雀のスタープレイヤーだった朝倉康心プロが指名されたように、ネット麻雀のファンも相当意識されていた。

「いままで個人競技だった麻雀をチーム競技にするにあたり、チームづくりはとても魅力的なコンテンツになり得ると思い、ドラフトという形態を採用しました」(塚本さん)。

3チーム競合となった鈴木たろうプロの指名権を獲得し、ガッツポーズの「赤坂ドリブンズ」。©M.LEAGUE
ドラフトのようすはサイバーエージェントとテレビ朝日が共同運営するインターネットテレビ局「AbemaTV」で生中継された。2年目以降は契約改更なども同様にコンテンツ化して放送することを検討中だという。また、もちろんリーグ戦は全対局「AbemaTV」で放送される予定だ。

小林剛プロ、朝倉康心プロ、石橋伸洋プロと、“デジタル派”と呼ばれるプロを指名した「U-NEXT Pirtates」陣営。3人のプロがチームになることで、個性的なチームカラーが生まれるのもMリーグの魅力。
今後はチーム数や選手の人数が増える可能性もあるし、カップ戦などの新設も検討していくとのこと。7チーム/各3人というやや中途半端な状態でのスタート(麻雀は4人で対戦するゲームのため、8チーム/各4人の方がキリはいい)となったが、万全の体制が整ってからではなく、最速で立ち上げられるタイミングでスタートし、運営しながら課題を解決していくという。

「いままで麻雀をやってきた人だけでなく、いまはやっていないけど昔好きだったよな、という方も視聴者として取り込んでいきたい。夜の19時にはMリーグを見るというのが多くの人の習慣になるような、それこそプロ野球のような大衆娯楽的な存在にしていきたいですね」(塚本さん)。
 
「TEAM RAIDEN/雷電」から1巡目指名を受けた萩原聖人プロ。Mリーガーになるため、昨年日本プロ麻雀連盟に入会した。既存の麻雀ファン以外からの知名度から、大活躍が期待される存在だ。
このところさまざまなスポーツのプロリーグ化や組織改編が盛んで、たとえばバスケットボールの「Bリーグ」(2015年)や卓球の「Tリーグ」(2018年)、バレーボールの「Vリーグ」(2018年)などがスタートしている。

そのほかにも、eSports(エレクトロニックスポーツ)のプロ化も進行しており、今年11月には日本野球機構とコナミデジタルエンタテインメントが共同で「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ」をスタート。従来のスポーツだけでなく、マインドスポーツも“観る”コンテンツとして広がりつつある。同じくマインドスポーツに分類される将棋がブームになっていることもあり、麻雀にもチャンスはありそうだ。

Mリーグの対局は、従来の麻雀番組とは一線を画すスタジオで行われる。スポーティーさやeSportsっぽさが増すような演出が新鮮。©AbemaTV
さらに、従来は男性の遊びというイメージが強かった麻雀だが、女性を意識した打ち出しもここのところ増えている。たとえば雑誌『Oggi』(2018年9月号)では「ハマるソロ女子、急増中! 麻雀&将棋を覚えたい…!」という特集が組まれ、元『non-no』モデルで現在はプロ雀士の岡田紗佳さんのインタビューが掲載された。

また、「新しい麻雀文化を創設する」という理念のもと2015年にバーカウンターつきの禁煙ラグジュアリー雀荘「Nishiazabu RTD」をオープンした有名プロ雀士の張敏賢さんは、2018年8月、広告プロデューサーの朝倉道宏さんが主催する女性限定でシャンパンを楽しみながらの麻雀教室「MAHCHAM(マーシャン)」を同店でスタート。女性のお1人さま需要や新たな社交のツールとしても麻雀に注目が集まっている

「Nishiazabu RTD」で開催されている「MAHCHAM」。獲得タイトル多数の張プロによるレクチャーを受けられる。
この日が2回目の参加という、アプリ開発会社に勤務する原田さん。手元にはシャンパングラスとテキストが。「お酒を飲みながらゲームするのはダーツやビリヤードみたいで楽しい!」と話してくださった。
“観る”コンテンツとしても“やる”コンテンツとしても新たな局面を迎えている麻雀。インターネットによるプレイヤーと観戦者の増加という大きな変化を背景に、Mリーグを中心とした“ネオ麻雀ブーム”とも呼べるような第三次麻雀ブームが到来するかもしれない

【取材・文:大西智裕(『ACROSS』編集部)】


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