COOHEM Arts & Craftsmanship(コーヘン アーツ アンド クラフトマンシップ)
レポート
2019.12.27
ファッション|FASHION

COOHEM Arts & Craftsmanship(コーヘン アーツ アンド クラフトマンシップ)

山形発、世界へ。次世代ファクトリーブランドCOOHEMのチャレンジ

2019年10月末に起こったFOEVER21(フォーエバー21)の日本撤退に象徴されるように、一世を風靡したファストファッション人気に陰りが見えだしている。その一方で、メイドインジャパンの安心感、高い技術力による品質のよさ、モノとしてのストーリー性---そういった確固たる魅力を持つ日本各地のファクトリーブランドへの注目が高まりつつある

山形発の老舗ニットメーカー米富繊維が手がけるファクトリーブランドCOOHEM(コーヘン)が、去る10月18~27日、frø(フォイ)(東京・馬喰町)にて初のポップアップイベント「COOHEM Arts and Craftsmanship」を開催。開催の背景と、2020年に10周年を迎える同ブランドの歩みについて、COOHEMディレクターで米富繊維3代目社長の大江健さんに話を聞いた
 
COOHEMディレクターで米富繊維3代目社長の大江健さん。ペイズリー柄が斬新なニットはもちろんCOOHEM。

「作り手」「伝え手」と「使い手」が交わる場

「ポップアップ開催の背景は、来年で10周年というタイミングもあり、お客様と直接コミュニケーションできる場所を作りたいと考えたから。洋服がどこでも簡単に買えるEC全盛の時代だからこそ、ただ商品を並べて世界観を伝えるだけではなく、私たち『作り手』がものづくりのプロセスや背景を伝えながら、ワークショップやリペアといった独自サービスを提供できる場をイメージしました」(大江さん)。

2010年に誕生したCOOHEMは、国内外のブランドやセレクトショップ、百貨店への卸売がメインとなり、小売は独自運営のONLINE SHOPのみ。現在はアジアを中心に海外への卸しも拡大しており、山形から世界に発信する次世代ファクトリーブランドとして評価を集めてきた
 
今回会場となった「frø」は、家具の輸入販売、空間デザインなどを手がけるhaluta(ハルタ)が「次の世代に引き継いでいきたい人や食、地域」をテーマに発信するべく今年7月にオープンしたショップ。店内にはCOOHEMを企画・生産する山形の本社工場のビジュアルとともに、2019AWのWOMEN、MEN、UNISEXを展開し、ブックカバーや財布、ファブリックパネルなどの雑貨類、バッグなどのイベント限定商品も販売された。会期中にはCOOHEMのものづくりを支えるゲストとのトークセッションのほか、ニット巾着をリンキングミシン(ニット用ミシン)で作るワークショップ、商品の修理やニットのお手入れ相談も開催。同ブランドのものづくりの背景に触れ、体験できる充実の内容となった。
 
取材時にも訪れる人が後を絶たず会場は大盛況。海外バイヤーの姿もみられた。
米富繊維の歴史や、山形の工場を写真に収めたパネル展示も。

米富繊維がもつ唯一無二の「交編 」技術

米富繊維」は、江戸時代から繊維産業が盛んな山形県山辺町(やまのべまち)で、1952年に創業した老舗ニットメーカー。同社の最大の持ち味といえるのが、自社内の編地開発室が40年以上にわたりアーカイブしてきた、2万枚を超える膨大なニットテキスタイルだ。培われた技術と複雑なプログラミングから生まれる高品質のニットは、業界内からも高い評価を得ており、現在はOEM・ODMと同ブランドを軸に、素材開発から商品開発、量産までを一貫して自社ファクトリー内にて行っている

ブランド名の由来である「交編 ( こうへん )」とは、素材や色、太さの違う複数の素材を組み合わせて織物のように仕上げる技術のこと。独自の交編の技術を展開するなかで生まれたのが、米富繊維」の代名詞といえる「ニットツウィード」だ。「このように複雑で美しい編地は、他には真似できないものだと感じた」と大江さん。ファブリックの世界にもニットの世界にもない新しいテキスタイルは、布帛(織物)のように見えて、着るとカーディガンのような軽く柔らかな着心地が魅力だ。
 
 
ニットツウィードを全面に使用したライダースやダウンジャケットはCOOHEMならではのモノづくりが詰まったアイテムだ。定番アイテムもニット素材で全く違った表情になるおもしろさもある

裏テーマ『This is not a sweater』とは?

大江さんは高校まで山形で育ち上京。大学や専門学校などでマーケティングやデザインを学び、大手セレクトショップで販売を経験したあと、2007年に実父の会社である米富繊維に入社。唯一無二のテキスタイルの強みを再認識するとともに、「生産の現場とは異なる環境で働いてきた経験から、新しいことができるのでは」と、自社ブランドの立ち上げを決意する。

「当初、COOHEMの裏テーマにあったのが『This is not a sweater』、つまりセーターでないものをニットで作るということ。うちはローゲージは日本一だけど、ハイゲージができない。できることとできないことが極端なんです。だったら皆ができないことをやろうと考えました」(大江さん)。

大江さんが構想したのは、交編の技術を生かしながら、今の時代感を取り入れた“新しいトラディショナルウェア”だ。技術はそのままに、現代に合うよう素材や配色の組み合わせ、かたちをアレンジ。試行錯誤のなか、ライダースやジャケット、Gジャン、ダウン、スニーカー(!)など、斬新なニットアイテムを次々と発表。2015年には「TOKYO FASHION AWARD 2016」を受賞し、メンズの展開もスタート。国内外にも取引先を拡大していった。
 
ワークショップのために工場から持ち込んだリンキングミシン(ニット用ミシン)。
 当初は、現場の理解を得るのにはしばらく時間がかかったというが、現在はベテランと若手の職人の混合チームが一丸となってものづくりを行なっている

「まず頭の中のイメージを職人さんに伝え、キャッチボールを行うなかで具現化していくのですが、途中で職人の知恵やアレンジが加わって、どんどんエスカレートしていく(笑)。例えばニットジャケットの袖。編み方の工夫で、もたつかず綺麗な折り返しができるのですが、こうした見えない細部までベテランの知恵が入っている。COOHEMの服は作り手と一緒に生まれるもの。”自分たちのブランド”という意識があるからこそ、創意工夫が自然に出てくるのだと思います」(大江さん)
カードケースや財布、ブックカバーなどの小物類も充実。

COOHEMの服は作り手と一緒に生まれるもの

山辺町はかつてニットの町として全国に知られたが、90年代以降には安価な海外製品が市場に流れ込み、町の工場は徐々に減少。日本ではOEM生産に徹する企業が多く、優れた技術がありながら、評価されないまま縮小していくケースが多いのだという。

「僕が小学生のときの同級生は皆ニット工場関係でしたが、山辺町に限らず日本の製造業がどんどん縮小するなか、今ではニットの町だったと知らない若い子も多いですね。特に地方の工場は、高い技術があっても自社ブランドの設立が難しい。その理由は、若い人材やアパレル業界を知る人材が少ないこと。作り手は消費者が遠すぎてリアリティがなさすぎるし、逆に、売り手は作り手を知らなすぎるのも課題です」(大江さん)。
 
こちらはCOOHEMのニットを使ったファブリックパネル。手をかけて開発した素材そのものがまさにアート作品だ。
企業の知名度を高めるとともに、多くの人にニット業界に興味を持ってもらいたい——そうした想いから、同社では昨年から山形の工場を一般に公開する「YONETOMI FACTORY TOUR」を開催している。山形ビエンナーレ(2014年の取材記事はこちらなどのイベントと開催時期を合わせたこともあり、県外からも多くのファンが集まり、就活中の学生や同業者も訪れたという。

ファトリーツアーは今回のポップアップのきっかけになったもので、“作り手”“伝え手”である私たちにとっても、お客さんを知ることができる特別な機会です。リクルートの面から見ても、ファッションが好きな若い子に興味を持ってもらい、技術を学んで将来うちでブランドを立ち上げたい、次世代に”自分もやってみよう”と感じてもらうことに、ブランドをやる意義があると思います」(大江さん)
ニットツウィードのジャケットは軽さと着心地、シワにもなりにくいなど実用性も兼ね備えたアイテムとして人気が高い。

顧客はトレンドに敏感な“体育会系”!?

COOHEMの顧客は、意外にも”体育会系”(!?)が多いと大江さん。テキスタイル好きのなかでも、定番で変わらないクラフト感を好む”文科系”と異なり、COOHEMはトレンドに則ったデザインに惹かれるアクティブでファッション好きな男女が多いのだそうだ。また、メンズは30~60歳代までと層が厚く、ファッション業界で働く男性や、社長や芸能人などのメディア露出が多いのも特徴。男性には「技術や歴史といったストーリーが刺さる」そうで、トラディショナルに忠実なかたちや着心地にはまっていくケースが多く、夫婦やカップルで着用する人も多数見られるという。

ポップアップの来場者は、COOHEMの顧客層となる30~40代の男女が中心で、都外からもファンが来店。トークセッションにはデザイナーやOEMの取引先も多数訪れた。一方、ワークショップの参加者は女性が中心で、予想以上の申し込みがあったため、急遽2台のリンキングミシンを手配したという。
 
会場となった「frø」はhalutaが扱う輸入家具が並び、「国内外から次世代に残したいもの・ことをピックアップし、発信する場」として機能している。
ものづくりをテーマにしたトークセッションでは、COOHEMのWEBサイトや全てのクリエイティブを手がけ、山形を拠点に活動するデザイン会社「アカオニ」のアートディレクター小板橋基希さん、同じく山形出身の森岡書店(銀座)の森岡督行さんが登場。初回の小板橋さんとは、ファッション専門ではない彼と、山形で一緒にものづくりをする背景や未来の展望についてのトークセッションが行われた。

山形に移ってファッションをやるうちに、東京という場所ややり方にこだわっていたのは自分だと気づきました一緒に取り組む人に重視しているのは、自分に全くないもの、ない刺激を与えてくれる人ファッション業界の人だけで固まると、トレンドを超えるものは生まれにくい独自路線を続けていくためにも、多様なジャンルの人たちとの取り組みを大切にしていきたいですね」(大江さん)。
 

山形発、世界へ

ニットに限らずファッション業界においては日本各地の高い技術を持つ製造工場や産地の縮小が危惧されて久しい。幣サイトでも取材してきたように、糸偏が運営する「産地の学校」主催の特別講座「服ができるまで」(記事はこちらや、織物産地・富士吉田の「ハタオリマチフェスティバル」記事はこちらなど、産地の技術や魅力を伝える活動も活発だ。
 
そんななか、伝統の技術と新しい感性を”交編”し、日本のものづくりの魅力を次世代に伝えるCOOHEMは、今後もファクトリーツアーやポップアップを継続しつつ、さらに直営店の出店も見据えているという。
 
最初の直営店は東京でと考えていたんですが、いまでは山形にあるほうがいいのではと思うようになって。近い未来に向けて動いていきたいですね」(大江さん)。
 
同じく山形では、寒河江にある老舗の紡績・ニットメーカーの佐藤繊維が2015年、自社ブランドと選りすぐりの国内外のブランド・雑貨を扱うセレクトショップ「GEA(ギア)」を工場敷地内にオープン。2016年にはレストランを併設するなど、独自のスタンスで山形発のブランディングを強化している事例もある。
 
大江さんの言葉にあるように、地方に軸足を置いて、サイクルの早いファッション業界や東京とはほどよく距離を保てるスタンスこそが、独自路線を貫き、世界に向かう近道なのかもしれない
 

 
【取材・文=フリーライター・エディター/渡辺満樹子+『ACROSS』編集】
 
 


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