C/NE(シーネ)
レポート
2020.03.18

C/NE(シーネ)

仕事とプライベートの中間でさまざまな自己表現をしたい人たちが集まれる“路地裏の文化会館”

東急東横線・学芸大学駅前の商店街を抜けて少し歩くと、路地裏の突き当たりにたたずむ鮮やかなグリーンの外壁が目を引く建物に遭遇する。開放的なテラスの脇には「C/NE」とだけ書かれた看板が立っており、そこがレストランなのかギャラリーなのか住宅なのか、一見しただけではわからない。
 
「ぼくたちはここを“路地裏の文化会館”って呼んでいます。端的に言うと、映画と食を軸にしたカルチャースペースですね。“路地裏”という言葉には、単純に地理的にわかりづらく迷路のようでなかなかたどり着けないことと、行政主導ではなくこの場に集う人々がインディペンデントに運営していく私設のスペースであるというニュアンスを込めました」。

そう話すのは、「C/NE」オーナーの1人であり、合同会社ウェルカムトゥドゥの上田太一さん(37)。同社にてさまざまな商業施設の内装設計・施工からイベントの企画・運営までを手掛けるうちに、自分たち自身が街にあったらいいなと思う場所をつくりたくなり、2018年の夏頃に、もとはラムとパクチー料理店だったこの物件を発見。すべてDIYで改装し、2019年2月にオープンした。
 
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オーナーの上田太一さん。

目指すのは、主客が常に逆転するような有機的なスペース

「C/NE」の使われ方はさまざまだ。カレーやビールなど食に関するイベント、映画の上映会、フリーマーケット、アーティストの展覧会、子どものダンス発表会、近所の保育園の懇親会…。

ここでいろんな文化やカルチャーを受け取った人が、今度はこの場所を使って発信する側になるというような、主客が常に逆転する有機的なスペースをつくりたかったんです。いま、仕事とプライベートの中間でいろんな自己表現をしたがっている人がどんどん増えてきていると感じていて、そういう人たちがもっと能動的に自分のやりたいことを表現できる場所が街にあったらおもしろいのでは、というのがきっかけでした」(上田さん)。

看板イベントのひとつが、年4回、季節ごとに開催されるカレーイベント「Our Curry」だ。春なら春、夏なら夏というテーマで、数組の参加者が自由にカレーを作り、お客さんに提供する。参加者はプロのカレー屋ではなく、ふだんは会社員の人々だ。カレーは特に明確な権威もなく民主的なジャンルで、プロとアマの境がなくなってきているエキサイティングなジャンルだと上田さんはいう。カレー好きが高じて自分のカレーを誰かに食べてもらいたいという人が増えており、主にそういった人々がこのイベントに出場。お客さんはニューホープたちのカレーを楽しめるし、出した側もお客さんの反応から手応えを得られるいい機会になる。実際に、イベント後に旗の台にお店をオープンした人もいる。
 
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2月にVol4が開催された人気イベント。参加費2800円で全出展者のカレーを楽しめる。ワンドリンクつき(写真提供:上田さん)。
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(写真提供:上田さん)
もちろんプロの料理人によるイベントも。たとえば先日行われた「麻婆の乱」は、イタリアン、カレー、和食、中東料理など、ふだん麻婆豆腐作らないプロの料理人を集め、そこに1人だけ中華の料理人を混ぜて、各々自由に麻婆豆腐を創作してもらうイベントだ。単に食べ比べができるだけでなく、家でおいしい麻婆豆腐を作れる教室をあわせて開催するなど、参加者にとって学びのある立体的なイベントを企画。ちなみに本企画には昼と夜でのべ100人くらい来場し、夜は売り切れ状態になったそうだ。

「やっぱり表現することでリアクションをもらえるし、いちばんのメリットは新しい仲間が増えること。そうするとまた自分の世界が広がって、どんどん生活が豊かになるというか。会社を辞めて独立するというのもいいけど、やっぱりリスクがあって皆ができることじゃない。仕事で生活の糧はちゃんと築きながら、どこかで自分の表現を続けていくやり方でいい。A面とかB面っていう言葉が好きで。続けていく中で、B面がA面になったり、A面がB面になったりすれば、しなやかで楽しい社会になると思うんです」(上田さん)。
 
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昨年9月に開催された「麻婆の乱」のようす(写真提供:上田さん)。
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「farm studio #203」の「黒毛和牛の四川風麻婆豆腐」、「sync森カレー」の「ベジカレー麻婆」、中村拓登さん(「Salmon&Trout」)の「鹿肉の麻婆豆腐」、Mizuki koshideさんの「ハーブたっぷり冷製麻婆」、レインカラーの「ラムとパクチーのビリビリ麻婆」が振る舞われた(写真提供:上田さん)。
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食や映画関係のイベント以外にもさまざまなことができる。こちらはフリーマーケットのようす(写真提供:上田さん)。

映画を暮らしの近くで観られるスペースに

食と並ぶ「C/NE」のもうひとつの軸が映画だ。実は「C/NE」という店名は、スペイン語の“cine”(映画)がその由来。毎月1回、過去の名作映画をスクリーンで上映する名画座のような企画を開催。

たとえば2019年9月には、キューバ人ミュージシャンたちの日常を描いたヴィム・ヴェンダースの『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を観る会を開催。単に映画を観て終わりではなく、映画をきっかけにして参加者がキューバの音楽、食、ファッション、政治といったさまざまなカルチャーに興味を持ってもらえる、カルチャーへの最初の扉のような作品だからチョイスしたという。

映画を観終わった後には、その場に集まった人たちと作品について語り合うことで、新しいコミュニケーションが生まれるような会になっている。

「渋谷とか新宿のような商業都市の大きな映画館で見るのもいいけど、大きな映画館で見た後すぐに満員電車で帰るのってちょっとセクシーじゃなくって、暮らしに近いところで映画を観た後に家に歩いて帰るみたいな、そういう場所、そういう習慣があったら豊かだよなと思っていたんです」(上田さん)。

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毎月恒例の映画上映会にも多くの人々が集まる(写真提供:上田さん)。

学大というまちを選んだ理由とは?

中目黒や祐天寺、都立大学など近隣にも人気の街が多々あるなか、あえて学大を選んだのは、“暮らしの近く”がキーポイントだったと話す。

「いわゆる大規模商業エリアではなく、“暮らし”がちゃんとあるところでやりたかったというのはありますね。学大は中目黒と自由ヶ丘の間ですが、中目黒は近年きらびやかで商業的なスポットへとどんどん変わりつつあるし、自由ヶ丘は昔もいまもハイクラスでアッパーな感じ。でも学大は皆が等身大。それに、個人でおもしろいことをやりたいと思っている若い世代や、デザイナーやカメラマンのような表現することが仕事というがたくさん住んでいるイメージもありますね」(上田さん)。

実際に上田さんは学芸大学駅の朝と夜のようすを“観察”。スーツだけでなくさまざまなタイプのファッションの人が行き交っており、住んでいる人が多種多様で中目黒や自由ヶ丘よりもバランスがよい街だと認識したそうだ。
 
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本当にこんなところに?と思うような住宅街の路地に「C/NE」がある。
また、平日の昼と夜に、もともと学大で営業(現在は恵比寿に移転)していた人気カレー店「sync(シンク)」が「C/NE」を間借りして営業しているのもプラスに働いている。「sync」のオーナーである森さんは地域の人々とのつながりが深く、おかげでずっと前から学大に住んでいる人がふらっと訪れることも多いとか。オープンしてまだ日の浅い「C/NE」だが、森さんのおかげで多様なお客さんがミックスされていくのが結果的によかったという。

街のおもしろさって、もちろんディベロッパーや行政主導の大きなグランドデザインも大事だけど、ボトムアップというか、その街にいる(ある)お店とか人とかスポットがおもしろいっていうのがより大事。そういう点が集積していくことで、街が面としておもしろくなっていくんだと思います」(上田さん)。
 
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「sync」オーナーの森さん。

目指すのはFCバルセロナの“ソシオ”のような場所

オープンからまだ1年が経ったばかりだが、ゆくゆくはメンバーシップ制のようなシステムを導入し、メンバー同士が繋がり合ってより多くのアクションが生まれるような環境づくりをすすめていく予定だ。

上田さんが大ファンだというサッカークラブのFCバルセロナがかつて導入していた “ソシオ”制度(スポンサーをつけずクラブの会員たちが会費を出し合って運営する)のように、「C/NE」に集まる人たちが一体感を持ってスペースを運営していくのが理想だという。

会社と家だけじゃなくて、住んでいる街や、新しい人との関わりの中で活躍したい、それで自分の暮らしをもっと豊かにしたいっていう人がいま絶対に増えていると思うんです。そういう人たちが集まって繋がっていけるような拠点になっていけたらいいですね」(上田さん)。

【取材・文:大西智裕(『ACROSS』編集部)】
 
天気のいい日には仲間たちと外で食事を楽しめる(写真提供:上田さん)。


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