中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2013
レポート
2014.02.17
カルチャー|CULTURE

中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2013

ミュージシャン・佐藤タイジさんが主宰の、ソーラー発電100%の電力で行われた野外ロックフェス

近年、野外での音楽フェスやイベントにおいてソーラー発電などを導入する流れがあり、2013年を振り返っても、「渚音楽祭2013」、「ARABAKI ROCK FEST.13」、「FUJI ROCK FESTIVAL」などが挙げられる。なかでも、2013年9月21日・22日に岐阜県中津川市の中津川公園で行われた「中津川THE SOLAR BUDOKAN 2013(ソーラー武道館)」は、すべての電気をソーラー発電で賄う初めての試みの野外フェス。観客動員数は2日間で1万1,000人となった。

主宰したのは、ロックバンド「シアターブルック」のボーカル・ギターを務める佐藤タイジさん(46歳)。1969年に「全日本フォークジャンボリー」が開催された野外音楽フェス発祥の地である中津川を舞台に、どのような縁で、どのような狙いで「中津川THE SOLAR BUDOKAN 2013」が開催されたのか。フェス2日目の様子と佐藤さんへのインタビューを交えてレポートする。

当時の様子を知ることができる写真やポスター、チラシなどが並ぶ「全日本フォークジャンボリー」の展示
会場に設置された蓄電器。イベント運営に関わるすべての電力は、グリーン電力証書を通じた太陽光発電が活用された
多くの来場者で盛り上がるソーラー発電のパネルが設置されたDJブース
フードコート内の食事には、事前測定した線量を表示。「線量表示の写真を撮るなどお客様も興味を持たれていた」と出店者からの声が聞かれた
佐藤タイジさんは自身のバンドやソロの他、幅広いアーティストへの楽曲提供なども手掛けているミュージシャンである。東日本大震災発生後は、復興支援を目的に高野哲さん(ZIGZO)、うつみようこさんと「インディーズ電力」を結成し、音楽やライブを通じて「地域ごとに適応した、地域ごとの責任でつくられる、新しいエネルギー源の確保」の啓蒙を行っている。

2012年12月20日には日本武道館で、ソーラー発電による電力のみを活用した「THE SOLAR BUDOKAN(ソーラー武道館)」のステージを成功させた。以降も、ソーラー電力を使いライブ出演を行い、中津川でのフェス実現へとつながった。

ソーラーライブ発案には、東日本大震災が大きく影響している。もともと2010年末頃からシアターブルック初の日本武道館ライブを企画していたが、そこに震災が発生。6日後には予定していたライブの内容を変更し、「LIVE FOR NIPPON(ライブフォーニッポン)」と銘打った復興支援ライブを敢行。以降、毎月行うようになる。日本武道館の話は頓挫していたが、ロックの聖地に立ちたいという佐藤さん自身の夢を諦める必要はないと感じ、6月には「ソーラーで武道館をやるぞー」とコメントを発表。実現に向けて始動した。

「原発を反対し続けるのは精神的にも色々しんどい。だからソーラー発電賛成というポジティブなことを継続していきたい」と言う佐藤さん。だが、当初はソーラー発電のメジャー企業の門を叩くも、賛同を全く得られなかったという。
その苦境を救ったのが、中津川市に本社を構え、「enenova(エネノバ)」のブランドで太陽光発電システムを手掛ける「中央物産」だ。同社が名乗り出たことで他企業からの協力も得られ、日本武道館でのライブが実現できた。そして、終演後の打ち上げで中央物産の担当者から「今度は中津川でやりましょう」と声を掛けられ、次なる開催地を中津川に決めたそうだ。

全人類共通のテーマでもあるわけやん、エネルギーのことは。世界中に原発はあるんやから、こういうコンセプトがあるのだっていうのを海外にも示していかないと。3.11が日本でなぜあったのかというのを、やっぱり肯定的な遺産にしたいやん。肯定的にするには、ここから新しい教訓と新しいマナーをどれだけ定着させられるか。しかも東京オリンピックなわけでしょ。そこに向けて、どれだけやれるかって大きくあると思うんですよね。少なくとも食品の放射線量表示とエネルギーのことは、新しい路線を提示できるような雰囲気にしていきたいですよね」(佐藤タイジさん)




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「ソーラー発電による蓄電地を使った音は、ジェネレーター(発電機)に繋いで出すより明らかに質がいいので、こっちが正解の道と確信した」とシアターブルック佐藤さん。
会場内のスケートパークで開催されていたBMXコンテストの様子。全国各地で活躍するトップライダーや地元ライダーが参加していた
プロパーカッショニスト辻コウスケ氏の太鼓(ジャンベ)ワークショップなど、会場では大人から子どまで楽しめる様々なワークショップが開催されていた
イベントについて「妊娠中なので食品の線量表示があると安心できる」「ロックイベントは、ライブハウスだと難しけど野外なら子連れでも来易い」と答えてくれた愛知県より参加のファミリー
「THE SOLAR BUDOKAN」に参加後、自宅にソーラーパネルを設置することを決めたという関東から参加のファミリー。「キッズエリアもあるので家族で参加しやすいフェス」と親子で楽しんでいた
「BUCK-TICK(バクチク)」を見に来たというアメリカ人のグループは「こういうコンセプトのイベントは素晴らしい!私たちの国でも是非やるべき」と答えてくれた
「中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2013」では、会場に設置された540枚の太陽光パネルが発電するだけでなく、事前に太陽光発電から充電した蓄電池、グリーン電力証明書を通じての太陽光発電の活用、自然油を燃料としたバイオディーゼル発電も併用された。

また、地元自治体の協力を得てフードコートに並ぶメニューの放射線量を表示したことも、最大の特徴だ。背景には、「結局、どこの食べ物が安全なのかは産地ではわからないじゃないですか。産地表記することで、福島の物が売れないということになってるわけやん。それはもう差別的なニュアンスも出てるやん。それはやっぱり違うから、情報をクリアにすることで、差別的な感情が生まれるのを阻止していくルールづくり、マナーづくりを、(国の)リーダーがやらないといけないと思う」という佐藤さんの考えがあるという。

また、“ファミリーで参加できるロックフェスティバル”というテーマも掲げられ、小学生(12歳)以下は保護者同伴に限り入場が無料。初日の夜は、キャンプを楽しめるテントスペースが用意された。ワークショップ、フリーマーケット、会場内スケートパークでのBMXコンテストなど、野外音楽フェスでは珍しい家族連れでも楽しめるプログラムも充実していた。

「これまでの野外フェスって若者のカルチャーみたいなニュアンスがあったんやけど。でも、海外のグランストンベリー(フェスティバル)とかに遊びに行くと、爺ちゃん婆ちゃんも楽しめて子供も楽しめる構成になっていて。グランストンベリーは巨大やから、本当に1個の“国”みたいなんですよね。ワークショップみたいのも充実してたし。こういうのが良いなって思いました」(佐藤さん)

会場内にはステージが3カ所用意され、21日はa flood of circleがフェスの口火を切ると、MIYAVIさん、インディーズ電力、曽我部恵一さん、フォークジャンボリーを経験した小室等さんと遠藤賢司さんも登場。22日はOKAMOTO’S、BUCK-TICK、MANNISH BOYS、birdさん、泉谷しげるさん、仲井戸“CHABO”麗市さん、シアターブルックなどなど、ジャンルも世代も超えたアーティストが歌い上げ、観客を熱狂させた。

筆者らは2日目に現地を訪れた。幼児からシニアまで幅広い世代の観客が集まっているのを目にしたが、特に印象的だったのは、他の野外音楽フェスよりも家族連れの姿が圧倒的に多かったこと。ファミリーで参加できることを謳っているからこその景色だと感じた。
来場者に感想を尋ねてみると、「フェスと言えば電気をやたら使う印象なのに、クリーンな電力でできるのは良い」(36歳・男性)、「あんなに大きなステージを本当に全部ソーラー発電で賄えるなんてビックリ」(30歳・女性)など、趣旨に好感を持ったり、エネルギーについて考えるきっかけになったりしていることが窺えた。
また、特に女性を中心に食品放射線表示に共感を持たれており、「妊娠中で食品の放射線表示は普段から気にしているので、ここでも表示されていると安心」(35歳・主婦)、「単に大丈夫と言われるよりも、数字に表れることで安心感につながる」(27歳・男性)という声も聞かれた。
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1日目には42年前に開催された全日本フォークジャンボリーに出演した小室等、我夢土下座、土着民による「中津川フォークジャンボリー」の演奏が行われた(写真提供:三浦麻旅子、岡村直昭、平野大輔)


イベント期間中、自然エネルギーをテーマに「ap bank」監事の田中優氏やジャーナリストの高橋真樹氏などをゲストに招いた「太陽のトークセッション」を開催
キッズスタディーエリアでは自転車無料体験や、再生可能エネルギー普及活動を行う「そらべあ」による太陽光発電組み立て等のキッズ向けワークショップを開催
フィナーレでは、シアターブッルックの「ありったけの愛」を、世代やジャンルを超えたおよそ30組のアーティスト達が熱唱(写真提供:三浦麻旅子、岡村直昭、平野大輔)
「中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2013 」での、2日間のパネルによる太陽光発電量は1566Kwh、蓄電池の使用電力量は230Kwh。日本武道館のステージ時の、およそ5倍の規模で行われた。電力は足りたが、エンジニアの観点では蓄電池電池の物量が足りない、「発電しながら、充電しながら、放電する」には精度をさらに高めていく必要があるなど、壮大なスケールで実施したからこそ見えた課題もあるという。
だが、その課題はクリーンなエネルギーが普及するためにも大事な部分。そこに挑もうとしているからこそ、「再生可能エネルギーで国を回そうとする意志が本当にあるのかと感じますよね。それしかないのに。民間で1万人規模のフェスをやれるんやから、もっとやれるでしょ。もっとやってください、なんやったら手伝いますよ、情報共有しましょう、みたいな気持ちはすごくありますね」と佐藤さんは話す。

観客からもエネルギーについて考えるきっかけになったという声が多かったように、佐藤さんもフェスを終えて「あそこに居たみんなが“我々は一歩踏み出して いるな、ここで”っていう実感を共有してたんだよね。こういうことが日本からバーッて広がるのが3.11の肯定的遺産だと思う」と振り返る。

1つの国のような野外音楽フェスは、どれだけプログレッシブなもの・テーマを皆で共有できるかが成功のカギ、と考える佐藤さん。新しいルールやマナーなど を創造するためにも、右脳への刺激が必要なので、今後も多彩なジャンルのアーティストを中津川に集め、色々な人が多種多様な体験ができる=右脳を刺激するフェスを続けていきたいとも話してくれた。
未来を担う子供たちへの思いも熱く、「ソーラーパネルが並ぶ壮観で感じたことを、子供たちも持って帰る。そうしたら、将来的に何かその子たちなりのアイデアが絶対に出てくるよね」(佐藤さん)。また、医療分野などの新しいテーマも盛り込んでいきたいそうだ。

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寝そべったり座ったりしながら音楽に聴き入るご年配の方の姿や、音に合わせて踊る若者、走り回って遊ぶ子ども達など、老若男女それぞれがイベントを楽しんでいた
音楽業界では、坂本龍一さんが脱原発フェス「NO NUKES」を2012年よりスタート、ASIAN KUN-FU GENERATION主催のフェス「NANO-MUGEN FES.2012」では電力の一部にソーラー発電を採用したほか、昨年7月にはHi-STANDARDの難波章浩さんが坂本龍一さんの意志を受け継いで脱原発イベント「NO MORE FUCKIN NUKES 2013」を開催。クリーンなエネルギーを支持する思いは、佐藤さんと同じである。

「皆が同じこと考えて動いていて、ハイスタの難波も、アジカンの後藤君も。だから、ガーッと集めて1個のフェスにして20万人ぐらい集めたら、いわゆる保守系の国会議員も革新系の国会議員も来れば良いじゃんって。そこの基幹システムをソーラーでやったら、その場に居る人は “I STOP NUKES”って言えるんだよ。本当は、普段の生活でも自分であの電気を使いませんって言えるんだよね。20万人がせーので“I STOP NUKES”っていうことを、Tシャツにするとかの何らかの方法で言えば必ず止まる。廃棄物をどないしますか、っていうのは止めた人で考えるみたいな。その議論まで全然到達しないから、まず止めて、世界中に廃棄物があるからそれをどないしますか、っていうことだと思うんだよね(佐藤さん)

クリーンエネルギーを支持する“ポジティブなイベント・フェス”は、今後もますます増えそうだ。


[取材・文/緒方麻希子(フリーライター/エディター)+『ACROSS』編集]




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