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■都市のコード論:NYC編  vol.02;
レポート
2014.06.03
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■都市のコード論:NYC編 vol.02; "Sittable City"

同じ大都市でありながら、決して「消費社会」「社会システム」に呑み込まれることのないまち、NYC。そこに約10年暮らすビジネスコンサルタントのYoshiさんに、日ごろのフィールドワークからの考察を、「都市のコード論:NYC編」と題して、毎月(ほぼ)1本をベースに連載することになりました。

 ニューヨーク市内にはイスやベンチがあふれていている。セントラル・パークの中だけで9千脚以上のベンチがある。ニューヨーク市が設置したものだ。

 2009年には市の政策として、タイムズ・スクエアヘラルド・スクエアの一角が歩行者向けの「プラザ」に生まれ変わった。自動車が制限されて人が歩いて行き来することができるようになったプラザには、多くのイスやテーブルが設置されており、誰でも利用できるようになっている。

 もっとも、歩道のあちこちにイスやベンチを置いているのは、なによりそこに住む住民や、ショップの店頭などだ。

 とくにコーヒーショップの前には、イスやベンチが置かれていることが多い。その店の客はもちろん、通りすがりの人たちも利用する。イスやベンチの色や形は店によってさまざまで、そこに置くために特別に用意したベンチというよりは、どこかにあったものを使い回したようなものが多い。

リーマンショック後は、個人経営の店を中心に、店頭に椅子を置くことで、人が集うようになり、結果的に、“賑わっている雰囲気”を演出することから“真の賑わい”を取り戻す事に成功したとも言われている。

 ニューヨークが「Walkable City(歩く街)」であることは前回書いたが、ベンチがいたるところにあって休めることも、ニューヨークを「Walkable(ウォーカブル)」にしているともいえる。休憩するためにわざわざセントラル・パークなどの公園に行く必要はないのである。

 なにしろニューヨーク市の面積のおよそ25%は道路が占めているので、歩道にイスやベンチを置けば、その場しのぎの「パブリック・スペース (公共空間)」になるというわけだ。
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 ニューヨーカーが屋外で腰かけるのは最近の現象ではないようだ。

 1970-1980年代のニューヨークの街を観察した社会学者のウィリアム・ホワイトは、「人は街角に座れるところがあると必ず座る」と指摘した。

 イスやベンチでなくても、座れるモノがあればなんでも座る。店舗が街のあちこちにイスを置いている今日のニューヨークは、ホワイトが観察した頃と比べると、もっと「座りやすい」街になっているはずだ。

 人がわざわざ外で腰かけるのには理由がある。私たちには太陽を追いかけて行動する習性がある。ホワイトによると、「人は屋外で座るときには太陽の方向に向かって座る」という。

 太陽の方向はビジネスにも影響する。最近の調査によると、ラグジュアリーな小売店が並ぶ五番街では、同じ通りでもより日当りの良い東側の不動産物件の方が賃料が高い。

 同様に、東西を横切る57丁目では、やはり日が当たりやすい通りの北側の方が賃料が高い。買い物客は明るい方にひきよせられる。自然光によって店内の商品もよりよくみえるからである。

 そのことを知っている小売店は通りの日が当たる側を好み、プレミアムを払って東側と北側の店舗を確保しようとする。ニューヨークの暗黙のルールのひとつだ。
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 屋外に座ることには休憩以外の「はたらき」もある。

 ニューヨークで歩道のベンチに座っていると、隣に座った人は、まず間違いなく話しかけてくる。 仕事や興味のつながりのある人が隣に座ることもある。ひょっとしたら共通の友人がいるかもしれない。ニューヨークは意外と狭い世界だ。

 家でも職場でもない「サードプレイス(第三の場所)」という考え方がある。 家族や仕事仲間といった身近な関係の人以外との、より広い社会的な交流の機会があっていい。

 「スターバックス」の戦略ではないが、とりわけコーヒーショップはサードプレイスの例にあげられることが多い。そう考えると、コーヒーショップが店の前にベンチを置くのはごく自然の行為である。

 ノンフィクション作家でジャーナリストだったジェーン・ジェイコブスは、住んでいたマンハッタンのハドソン通りの歩道で人びとが言葉を交わし、行き交うさまを観察して、それを「バレエ」に喩えた。今から半世紀も前のことである。彼女が自著『アメリカ大都市の死と生』で提唱した「大都市に必要な4つの条件」は、都市計画や建築デザインの分野では有名だ。

 その条件とは、(1)ミクスドユースの必要性(住宅、店舗、オフィス、文化施設、工場などさまざまな空間用途が混在すること) (2)小さな街区の必要性(整備された大通りだけでなく、裏通りや小路、坂などがあることによって、街の景観や見え方や変化すること) (3)古い建物の必要性(新しい建物ばかりで街を塗り替えるのではなく、歴史を持つ建物との共存すること) (4)密集の必要性(都市のさまざまな機能がコンパクトにまとまって配備されること)の4つだ。

 この都市に対する考え方が、北米を中心に、近年、再評価されているのである。“人と人が相互作用する場所”として、都市や歩道をもう一度見直そうという考えがそこにある。

 ジェイコブスは「バレエ」に喩えたが、今なら歩道のことを「ソーシャルなプラットフォーム」と言い換えてもいい。

 どういうわけか、都市には孤独で人を疎外するというイメージがあるらしい。そのイメージとは裏腹に、実は、都市はさまざまな人と行き交い、思いがけないつながりをつくることができるところでもある。

 都市には世界中から人が集まってくる。少なくとも、ニューヨークの歩道のベンチは、異なる背景の人に出くわし、ちがった考えを交換するところともいえる。
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 ニューヨークを歩くときには気をつけてみてみよう。歩道にはさまざまな色やかたちのベンチやイスが置いてあり、そこにはたいてい誰かが腰かけている。それはニューヨークのカルチャーのひとつだ。コーヒーを楽しむ人もいれば、取引先の相手と商談の続きをしている人もいるだろう。チェスを楽しむ人だっている。

 もっともホワイトによると、人びとが屋外で一番していることは、「街を行き交う人たちの観察」だという。

 「人を観察し、人に観察される (see and be seen)」---「見る、見られる」の都市空間。これもニューヨークの社会的コードのひとつであり、独特のカルチャーを生み出している。ニューヨークの歩道のベンチほど人の観察にふさわしい場所はない。


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