森の図書室
レポート
2014.09.16
カルチャー|CULTURE

森の図書室

渋谷区円山町に「図書室+バー」の新スペースがオープン

Facebookの「いいね!」は15,000件以上。立ち上げ時に参加したクラウドファウンディングサイト「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」では、目標の100,000円に対し953,0000円が集まり、日本のクラウドファウンディングでは最高の総支援者数1737人を達成。メディアでの露出も多く、今も話題となっている「森の図書室」を取材した。
隠し扉のような本棚の扉を開くと、雑居ビルの一室であることを忘れてしまうような広々とした空間が広がる。
店内奥にあるソファー席。ベッドの上にいるようなリラックスした雰囲気で読書を楽しむことが出来る。
巨大な本棚には、小説からビジネス書、写真集、絵本など様々なジャンルの本が並んでおり、読書ビギナーにも手に取り易いような話題の本も多い。
本の中には、寄贈者によるメッセージが書かれているものがあり、それを見つけるのも楽しい。

オープンしたのは、2014年7月1日。オーナーは、株式会社リクルートホールディングスから独立し起業した森俊介さん(30歳)だ。
「幼少の頃から読書が好きで、図書館や図書室によく通っていました。中学校の頃、私設図書館を開いているおじいちゃんの物語を読み、いつかは自分もそういう場所を開き、本に囲まれて暮らしたいと思っていました。あと、学生時代はバーテンダーをしていたので、お酒や本に囲まれた空間で、好きな人たちが集まるような“自分があったらいいな”という場を作りたいなという思いもありました。会社員時代は仕事が終わる時間が遅くなかなか図書館に行けなかったので、同じような思いを持っている方にも利用してもらえるものを作りたかったんです」(森さん)。

場所は、渋谷駅から道玄坂を登りきったあたりで、弊社に向かう途中の雑居ビルの3階。隠し扉のような「本棚の扉」を開くと、打ちっぱなしのコンクリートの天井に、床は無垢の木材で統一された“スタイリッシュで暖かみのある空間”が広がる。店内は100㎡。内装デザインは森さん本人が手掛けたそうで、自宅のガレージからスタートしたアップル社のような「秘密基地」をイメージしたという。壁面は、床から天井まで、幅19m+6m、高さ最大3mという巨大な本棚で埋め尽くされ、小説からビジネス書、写真集、子ども向けの絵本までと様々なジャンルの本が約10,000冊並んでいる。本は、森さんがこれまで集めてきたものや寄贈されたものだそうだ。
ふつうの図書室と異なるのは、奥に配置されたのが、貸し出しカウンターではなく、バーカウンターであることだ。高めのテーブルとスツール席がある一方、逆サイドには、リラックス感のあるソファーベッドのようなソファーもあり、まるで、シェアオフィスのサロンか飲食店のようでもある。

「この立地に決めたのは、就職してからの4年間、宇田川町や松濤などずっと渋谷に住んでいたので、馴染みの場所というのが一番です。それに、実は渋谷は現代の日本の文化というかカルチャーの発信地だと思っているんです。銀座や恵比寿のように、集まる人のカラーが決まっているエリアと比べ、渋谷は未だにいろんな人が集っているエリアなんです」と話す。





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クラウドファウンディング支援者の「お気に入りの一冊」が並ぶ本棚。新刊を沢山並べるよりも、自分が好きだったり人に読んでもらいたくなるような関係性のある本を置きたい、との意図からだそうだ。
コンセプトは、本が読めて、借りられる。お酒が飲める。音楽が楽しめる。むかし遊びに行った、友だちの家のような気軽な空間。

「友人の家にふらっと寄って、本を借りるというような感覚で来て欲しいですね。店名は“図書室”ですが、本を目的にしないお客様でも気軽に立ち寄ってもらえるような、そんな空間にしたいです。読書を楽しむのも、ただ飲みに来るのも、おしゃべりするのもあり。色んな人に来て欲しいし、好きに自由な時間を過ごしてもらいたい」と語る森さんの手掛ける店内は、人々の話声が程よく聞こえる程度に洋楽を中心としたR&Bなどの音楽が流れる。静かなイメージの図書室とは異なるが、「バー」と「図書室」が融合したような、心地の良い雰囲気だ。

取材時にも、バーカウンターでひとり読書をする女性や、友人同士やカップルで本を片手にワイワイおしゃべりをしているグループ、お酒を楽しんでいるグループなど、それぞれが自由に空間を楽しんでいた。客層の男女比は4:6。メインは20代〜30代だが、高校生からなんと80代までと幅広いそうだ。

営業時間は、18:00~25:00。通常500円の席料は、会員(年会費:年間10,000円、2年目以降1,000円)であれば無料となる。一方、図書室として店内の本を一部除き無料で貸し出している。レンタルには、ソーシャルメディア使い人々が気軽に本の検索や貸し借りができる無料サービス「リブライズ」を採用しており、本を借りるだけであれば、全く無料で利用する事ができる。

バーカウンター席。ドリンクは、生ビールやワイン、各種カクテルやソフトドリンクなどを提供している。
ドリンクコースターのデザインは、オーナーの森さんオススメの本の紹介文「森の感想文」。思わず読んでみたくなる。
「森の図書室」の外観。同店がある道玄坂界隈は、近年IT系企業が新たにオフィスを構えたり、飲食店オープンも目立つなど、賑わいをみせている。
「ふだんあまり本を読まない人が、読んでみたくなるようなきっかけの場所になればいいなと思っています。そういえば、先日、絵本作家さんから著書を頂いたのですが、たまたま来店した方が、その作家さんと旅先で出会っていた事が分かってその絵本を手に取るなど、本を通じた面白い繋がりもありました」(森さん)。

同店では、オープン時より「本と人に出会う」をテーマにした様々なイベントも開催しており、中でも毎回大人気なのは、本棚から好きな本を選び、それについて皆で話す「読書会」だ。参加者は9割が女性で、1人で参加する人がほとんどだそうだ。相席になった人同士、本の話で盛り上がる姿や、イベント後に連絡先を交換するなど、これまで1人で楽しむものだと思っていた本を、誰かと共有でき、本好きの仲間と出会えるような場所ができて嬉しい、という声が寄せられているという。

「実は、今のところ、収益は飲食のみなのでビジネスとしては難しいと思っています。でもあまり儲けようとも考えてなくて、会社を退社して、まずはやりたかったことをやろうと勢いでオープンした部分もあり、今後どうなるかは分かりません。なので、みなさん、飲食もたくさん利用して下さい(笑)」と、森さんは大らかだ。


“the across”のvol.2でもまとめたが、その後も、ブルーノートジャパンが運営する、音楽+本+食が融合したバー「Brooklyn Parlor(ブルックリンパーラー)」や、ブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんと博報堂ケトル代表の嶋浩一郎さんによるビールとお酒を楽しめる本屋「B&B」など、「本+α」という「新しいブックストア」は次々と登場している。先日リリースされた『BRUTUS』の「特別編集合本・本屋好き」や 『ケトル 』VOL.18 「旅に出たら本屋に行くのが大好き!」などを見ると、この現象は東京に限らず、全国各地で起こっている事が分かり、最近の「紙かデジタルか」といったよう な二次元での議論が盛んになる一方で、そのスキ間にあるニーズが、実はじわじわと拡大しているような気がする

取材・文 『ACROSS』編集部

森の図書室

〒150-0044 東京都渋谷区円山町5-3 萩原ビル3F
営業時間:平日・土日・祝日 18:00〜25:00
昼 13:00〜17:00(不定期で営業)
定休日:不定休



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