7インチアナログとカセットテープのコーナーには予想を上回る人気だという。ちなみにこのビルは元銀行で、ここは金庫室
カセットテープを楽しむ音楽ユーザーも増加中。若い層にとってはこれもまた新鮮な音楽体験だ
レコードバッグやコンテナ、段ボールなどはシンプルで使いやすいデザインで統一されている
ヴィンテージのジュークボックスや超高級オーディオ、ターンテーブルなどさまざまな形で音楽を楽しむための仕掛けが施されている
2階のスペースではインストアイベントを開催。リアルタイムでストリーミング中継も行なっている
HMV record shop 店長の竹野智博さん
レジ前のスペースにアナログプレイヤーなどのアクセサリーをズラリと並べるという、レコード店としてはイレギュラーな配置もその現れ。アナログレコードに関心を寄せているのはコアな音楽好きばかりではなく、むしろ、渋谷に集まる若いユーザーにとっては、アナログレコードを聴くのは新鮮な音楽体験であり、HMV渋谷の狙いはまさにそんなライトな音楽ファンたちを開拓することにある。
「ふらりと入ってこられたお客様がアナログプレイヤーに反応していますね。カップルだと男性がレコードを掘っている間に、女性がプレイヤーを触って遊んでいらっしゃることが多いです。これまでのレコードショップではあまり見られなかった光景ですね」(同店店長 竹野智博さん)。
ショップのロゴを配したレコードバッグも人気商品で、エコバッグのように気軽に使える点が女性客にも好評だそうだ。
2010年にローソングループとなったことで売上の基盤を整えたHMV。次の段階として新しいサービスや差別性のある独自商材を開発しようと考えた時に、浮上したのが中古ソフトとアナログ盤だった。
「CDの販売額減少の原因には生産量そのものの減少も反映されていて、お客様が欲しくても手に入らない音源もあることが分かりました。そんななか、中古の音楽ソフトの市場を見ると、ここ数年海外で中古/新商品含めてアナログ盤のマーケットが大きく伸びていました。そこで中古とアナログ盤を商品として新しく提案するために、発信力の高い実店舗を設けることにしました」(渡辺さん)。
90年代からは随分数が減ってしまったものの、かつては“世界一のレコードタウン”といわれた宇田川町には、今も数店舗のレコードショップが点在し、レンタルを含めたメガショップも渋谷には集まっている。情報の発信拠点を作るのであればやはり渋谷に、というところにこの物件との出会いがあったという。
週末にはインストアライブやDJなどのイベントをコンスタントに開催している。さらにDJ MUROが放出したレコードの販売のような、渋谷のレコードショップならではの企画も開催。イベントはUstreamでリアルタイムのストリーミング中継を行い、ソーシャルメディアで情報を発信している。
世界的なアナログレコード人気の象徴ともいえるのが、“レコードショップと音楽ファンのお祭り”として2008年にアメリカでスタートした「Record Store Day(レコード・ストア・デイ)」。年々その規模は拡大し、日本でも2012年から本格的に開催されている。“ライトな層”を含めた音楽ファンのゆるやかなコミュニティ化が進んでいて、そのリアルな場としてレコードショップが今、再び存在感を増しているのである。
一方、音楽の楽しみ方としてはライブ興行もここ数年活況が続いており、その両方を繋ぐシナジーの可能性を持つのがローソングループであるHMVの魅力だろう。多店舗展開も含めて今後、渋谷でのチャレンジがどのように生かされていくのか、同社が試みる新しい音楽文化の発信に期待したい。
取材・文: 本橋康治(ACROSSコントリビューティングエディター/フリーライター)