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レポート
2016.02.05
この記事のカテゴリー |  カルチャー |    | 

シンガポール・カルチャーレポート vol.2:
Cannot Be Bo(a)rdered (「どーでもいいじゃん」というタイトルのカルチャーイベント)

シンガポールのカルチャーシーンを不定期で連載していきます。取材は弊社シンガポール駐在員の柏木良介です。

「90sストリートカルチャー」へのオマージュをかたちにする80s生まれが企画するアートイベント!

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Aliwal Urban Art Festival オープニング・イベント(Photo by Asyraf Jalil)

シンガポール・カルチャー・レポート第2弾! 今回ご紹介するのは、スケートボードをモチーフにした地元アーティストの合同展示会Cannot Be Bo(a)rdered(キャンノット・)ボーダード*。今年で4年目を迎えるSingapore Art Week**の関連イベントAliwal Urban Art Festivalのメイン・エキシビションとして1月14日~2月14日まで開催中だ。

キュレーターの
Iman Ismail(イマン・イスマイル/以下I34歳)と会場となるギャラリーAliwal Arts Centre(アリワリ・センター)担当者Natalie Tan(ナタリー・タン/以下N34歳)にお話を伺った。

*Cannot be botheredは「関係ねーよ、どーでもいい」といった意味の慣用句。(スケート)ボードとかけたタイトル。

**シンガポール政府主導のアートイベント。今年は2016116日~24日開催。世界33カ国から170のギャラリーが参加するアジア最大規模のアート・フェアーArt Stage Singaporeを中心として、期間中シンガポール各地で80以上の関連イベントが開催されている。


写真は、Aliwal Urban Art Festival オープニング・イベント(
Photo by Jensen Ching)

さて、インタビュー本論に入る前にシンガポールのアート・シーンを取り巻く背景を簡単に振り返ってみよう。

劇的な経済成長の影で芸術や文化振興は後回しにしてきたシンガポール政府だが、1990年代初頭から徐々に芸術文化制度を整えてきた。20121月には芸術文化政策について大規模なレビューを行い、2025年に向けた目標として、「自らの伝統を重んじて、シンガポール人のアイデンティティに誇りを持つ文化的で優雅な国民国家」の創出を掲げ、そのための施策として「アートと文化の日常化」(Bring arts and culture to everyone, everywhere、及び「積極的な文化インフラ整備」(Develop cultural institutions, companies and offerings)を提案している(ACSRArts & Culture Strategic Review。要約するとポスト経済発展期の国民統合=アイデンティティの拠り所としての芸術文化の振興、という趣旨だがそれはあくまで国家の側の事情。市井を生きるアートや文化の当事者たちからすれば、利用できるものは利用して、あわよくばこれを機会に従来の表現規制(例えば検閲制度など)における解釈の枠を少しでも拡充して表現の自由の幅を拡充しようと虎視眈々と狙っている。

アートか猥褻か?アートか落書きか?アートか政権批判か??? そんな水面下の駆け引きが日々行われている魅力的なシンガポールのアート・シーンの一端をお伝えできれば幸いだ。

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(左) Iman Ismail、(右)Natalie Tan:背景に映っているのが今回の展示のきっかけとなったドローイング
聞き手(柏木/以下、K):オープニング・レセプションの前日という忙しい時期に時間を割いてくれてありがとうございます。まずは“Aliwal Urban Art Festival”のコンセプトについて教えて下さい。

Natalie Tan(ナタリー・タン)/以下、N):
シンガポールのアーバン・アートに敬意を表しつつ広く一般に紹介することです。アーバン・アートといえば伝統的にヒップホップ・カルチャーが主要な柱とされています。ラップやグラフィティ、ブレイクダンスなどです。これらに加えて、今年はパンクカルチャーの紹介にも力を入れています。スケボーをフィーチャーしたアート展示Cannot Be Bo(a)rderedやジン制作のワークショップもその一環です。もちろん昨年に引き続きヒップホップ・カルチャーをフィーチャーしたプログラムもあります。

K:シンガポール政府主催の“Singapore Art Week”の一環としての開催かと思いますが、“Singapore Art Week”と“Aliwal Urban Art Festival”は具体的にはどのような関係ですか? 

N):アリワルアートセンターが政府団体であるNational Arts Council からコミッションを受けて企画しているのがAliwal Urban Art Festival”です。コミッション・フィーという形で製作資金も政府から出ています。


K:政府の支援を受けて「サブカルチャー」を紹介することについて緊張関係や葛藤はありますか?

 

N):その事については私たちも仲間うちで時々議論をします。例えばグラフィティは本質的にイリーガルなものです。それを政府の支援を得て合法的に紹介することには当然矛盾がありますが、何もやらないよりはずっと良いと考えています。99%以上のシンガポーリアンはサブカルチャーに触れる機会がありません。少なくともアーバン・アートというカルチャーが存在する事を周知するという意味での教育的価値があると思います。

そもそもこれだけインターネット上に情報が偏在している現在において、ストリートに行けば本当にオリジナルなスタイルのサブカルチャーに触れることが出来るのか、という疑問もあります。現在のスタイルの違いは、オリジナル・ソースが80年代なのか90年代なのか、といったソースの出典の違いに寄るところが大きいという気もしています。もちろん大人文化への反抗としてのキッズ・カルチャーという意味でのサブカルチャーは健在ですが。

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「Cannot Be Bo(a)rdered」会場の様子 Photo by Colossal
K:スケーターにはマレー系のキッズが多いですね。中華系はほとんど見かけません。シンガポールの人口比率でいえば中華系がマジョリティですが、スケートパークでは比率が逆転しています。そういう意味では中華系のメインカルチャーに対してマレー系のサブカルチャーという構図があるのかなと思ったのですが?

N:その通りですね。人口比率の逆転という点はパンクスも同様です。あえてパンクの服装をするのはムスリム・マレー系がほとんどです。中華系はほとんどいないですね。でもそれはメイン・カルチャーとサブ・カルチャーの対立というよりも、中華系とマレー系がそれぞれ異なる家族文化を有していることに由来していると思います。中華系の子供達は、学校や塾で忙し過ぎるから。「タイガー・マザー」(*アメリカのベストセラー書籍のタイトル。厳しい英才教育を行う中華系の母親のことを指す)ってけっこうリアルな存在なんです。そういう状況だからスケートボードは私達の両親が喜んで奨めるものじゃないわね。私は14歳で鼻ピアスして16歳の時には髪をピンク色に染めていたけど、父親はめちゃくちゃに怒っていました。私が思うに中華系の子供達の方が自分達の両親を怖がっていますね。マレー系の家族はもっとリラックスしているでしょ?
 
Iman Ismail(イマン・イスマイル)/以下I): そうだね。僕の場合は、母親がスケートボードを買ってくれたので幼い頃から身近な存在でした。ある日母親が何かスポーツの趣味でも始めたら、と勧めてくれて、周りの友だちがやっていたので自分もやりたいと言ったら母親が買ってきてくれて。そういう意味では我が家にはスケートボードに対するネガティブなイメージはなかった。でもこれには後日談があって、25歳頃になって初めて知ったんだけど、母親は当時俺が太ってたのを何とかしたくてスケボーを買ってきたんだって。スケートボードでも何でもいいからとにかく運動させて痩せさせなくちゃって(笑)。
 
それはともかく、アイススケートやインラインスケートには中華系も多いよね。特にアイススケートは中華系が多いよ。お金もかかるし。そういう意味では経済的な要因もあるだろうね。これはあくまで僕の意見だけど、マレー系のキッズには「一番カッコいいスケートボードは俺たちの領域だ」って思ってる部分があるかもしれない。多分最初は偶然だったかもしれないけれど、最初にスケートボードがマレー系の間で流行って、そこにマレー語のコミュニティが出来上がって何となくそういう雰囲気になったんじゃないかな。それに、スケートボードのトリックが一番難しくて危ないから、荒っぽいキッズを惹き付けるんだろうね。

 

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Photo by Asyraf Jalil
K:2人はどんなきっかけでサブカルチャーに引かれていったんですか?

N):年長の姉とその彼氏がインディー音楽よく聞いていたので、それがきっかけかな。あまりそういう話を出来る友人もいなかったので中学校の時はお小遣いで音楽雑誌を買っていました。私が15~16歳頃かな。当時はオーチャードロード沿いのファーイースト・プラザがたまり場でした。スケートボードショップやパンクショップなど、オルタナティブなサブカルグッズを扱う店が集積していたんです。そこから道を渡ってパシフック・プラザのタワーレコーズとタワーブックスを覗いて、それからウィーロックのボーダーズに行って、最後にHMVに寄って帰るのが当時のシンガポールのサブカル・キッズの定番コースでした。音楽的にはグランジにはまって。たしか14歳の時にカート・コバーンが死んだの。その後はエレクトニックレイヴカルチャーに傾倒しました。そのうち音楽レビューを書くようになって、DJもやっていましたね。そこからThe Arts Houseに務めてミュージック・プログラムの編成を担当していました。その後Singapore Art Museum (SAM)で働いていた時にイマンと会いました。

I):僕は5歳くらいには絵描きになりたいと思っていました。昔から何か描いたり作ることが好きだったんだ。あとはやっぱり音楽に影響を受けた。10代半ばの不安定な時期にニルバーナとかメタリカを聴いて。で、格好つけてたんだけど図書館に通ってスケボー雑誌を真面目に勉強していました(笑)。高校卒業後はアートの大学に通いました。母親はすごく反対してたな。最初の3ヶ月は顔を合わせてもくれなかった。だから働きながら学費も自分で払って。そこで修士号を取得してから、Esplanade劇場のヴィジュアルアート部門で働いて、その後SAMでキュレーターとして働いていた時にナタリーと知り合いました。職場の同僚というよりもスケートボード・バディという感じだったな。

N):あの頃は色々買わされたわ。初心者だったのにウィールとか細かいギアとかね。

I):学芸員なのにアート買うんじゃなくてスケート用品ばかり買っていたね。

K:それが今回の展示につながったんですね?

N):2014年かな。仲間とロングボードでクルージングしていた時に、イマンが友人のアーティストのハンド・ドローイングのボードをいくつか持っているのに気がついたの。それどうしたのって聞いたら、アーティスト仲間とボードにドローイングして遊んでる、って。それ展示会にしたら面白いんじゃないかな、とイマンに持ちかけたらそこから話が盛り上がって、超楽しそうだねって。そういう感じで有機的に始まったの。そこから何度も企画書を書き直して2年越しに実現したのが今回の展示です。
 
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K:今回の展示を通じてどんなメッセージを伝えたいですか?

I):ステレオタイプの向こう側を見て欲しいです。スケートボード・シーンはたくさんの文化に影響しています。音楽やファッション、そしてアートにも。スケーターを嫌いな人も音楽やファッションやアートは好きでしょう?

N):99%以上のシンガポール人は、スケートボーダーに偏見を持っているわ。スケートボード・パークにあえて近寄る人はいないし。一般的にはスケートボーダーはフーリガンで公共財を壊す人達、みたいなイメージがあるから。最近では新しく出来るベンチのほとんどにスケート防止の細工がされています。小さな鉄のストッパーでね。だからストリートのスケートボーダーは減っていると思う。90年代はみんなストリートで遊んでたんだけど。立派なスケートボード・パークは増えたけれど、ストリートからは追い出されていると感じます。そういう状況だから。(ステレオタイプを打開したいという)今回の展示に対する周囲の期待をすごく感じます。

I ): これまでスケートボードに描かれたグラフィックスをそのまま提示する展示はあったけれど、スケートボード・シーンという文脈そのものをアートの対象とするというコンセプトでの展示はシンガポールで初めてだと思います。観客に対してもステレオタイプを乗り越えて欲しいと同時に、アーティストに対してもスケートボードの形状やデザインの向こう側にあるものを表現して欲しいと依頼しています。そもそも何人かのアーティストは普段スケートボードを題材にした作品を制作していませんから。
それと、アートが仲間内の遊びの延長にある感覚がスケートボード・カルチャーの特徴だと思います。今回は展示スペース内にスケートボードのランプを作るなど、少しでもスケートボード・コミュニティの雰囲気を体験してもらえるような会場構成にしているので、普段スケートボードに縁遠い人にこそ訪れて欲しいですね。
今回のインタビュー、インタビュイーのお2人と筆者はほぼ同世代ということもあり、90年代青春トークに花が咲いたのだが、インタビュー本文で「90年代シンガポール・サブカルキッズの定番コース」として紹介されているタワーレコーズ・タワーブックスボーダーズHMVは、2016年2月現在、シンガポールでの店舗展開は行なっておらず、事実上マーケットから撤退している。

とはいえ、90年代の洗礼は確実に引き継がれている。例えば、シンガポールの独立系書店兼出版社の雄でガイドブックにも必ず紹介されているBooks Actuallyの店主Kennyと、同じく独立系のレコード・CDショップ兼レーベル主催するStraits Recordsの店主Wangの2人は、実はかつてボーダーズで働いていた同僚だったりする。

今回の2人もまさにそうだが、現在シンガポールで活躍するカルチャー系・ファッション系の人の話を聞けば聞くほど、90年代のシンガポールにはある種の文化的地場のようなものがあったのだろうと推測される。そして、その地場は、案外日本の渋谷系や、ウラ原系ともつながっていたりする。

この辺りをもう少し掘り下げられれば面白いんじゃないかな、と直感的に思っているので、今後のレポートも緩やかにご期待下さい(!)。

取材・文:柏木良介/PARCO(Singapore)Pte Ltd.


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