A(Peter Sutherland、以下略) 8歳までミシガンの田舎で育ったんだけど、その頃のことでよく覚えているのは、舗装されてない道、BMXバイク、汗、アウトドア。とにかく暑かったのを覚えてる。いつも自分よりも年上の子どもに囲まれていて、彼らのことを追いかけていた。物静かで自信のない子どもだった。スポーツなんかもやったけど、何をやってもうまくなかった。夏はとにかく暑くて、冬がとにかく長い。そんな場所だった。
そのあと父親の仕事の都合で、家族でコロラドの道も舗装されているような郊外に引越して、スケートボードを始めたんだ。今振り返れば、コロラド時代で、僕に影響を与えたのは、何もないエリアの空き地で起きていたようなこと。たとえばアウトドアのパーティとか、グラフィティとかね。子どもって、何に対しても好奇心があるし、見たことや体験したことを吸収するし、そう思うと、子ども時代に体験したことが、自分の錨になっていると思う。
Q 写真を始めたのは?
A 20代に入ってから。アートに近いことをやり始めたのはずっと後のことなんだ。話が長くなるけど、普通に大学に行って、メディア学を勉強した。その頃はスノーボードに夢中になっていて、プロになりたいと思っていた。才能がないことに気がついて断念したけどね。
大学で、映画、TV、文学についての理論を勉強した。一番おもしろかったのは、テレビのコマーシャルを分析するっていう勉強。CMの内容を見て、そのなかでジェンダーや人種というような概念を分析した。学術的な理論って、人々の日々の生活とかけ離れていることが多いじゃない? でもCM分析の勉強は、自分の日々の生活にあてはめて考えられるようなことが多かったからおもしろかった。ある程度は夢中になったんだけど、それは自分の人生をどう過ごしていくかを決める助けにはならなかったんだよね。
大学を卒業したときに、友達がニューヨーク行きのチケットをくれたんだ。ニューヨークに行こうと思った唯一の理由は、他にやることがなかったから。行く前は、3週間くらい滞在したら、コロラドに戻ってスノーボードをやりながら暮らそうと思っていた。でもニューヨークにきたら、自分の頭のなかで何かが変わったんだ。何が変わったんだろうな。たとえば小さな建物のなかに、ものすごくたくさんの人が住んでるってことや、どの方向を見ても常に視界のなかで何かが動いていることとかに取り憑かれた。
お金がなかったから、仕事をしないとと思って、「アンジェリカ・キッチン(http://www.angelicakitchen.com/)」というヴィーガンのレストランで職を得た。誰も知らなかったけど、そのうちガールフレンドができて、音楽やってるヤツらと知り合ったりして、ニューヨークの暮らしに慣れ始めた。当時、人は僕のことをアート系の人間だと思ったみたいだけど、ただ単に働いてただけだった。でも、マーク・ゴンザレスやエド・テンプルトンが「アレッジド・ギャラリー」でショーをやってるを見て、アートと出会った。
23歳になったばかりの頃、父親が死んだ。弟がその頃にはアーティストになっていて、ニコンのカメラをくれて、写真を撮り始めた。父親が死んだっていう現実から逃避したかったんだと思う。仕事をするとか、公園に座ってぼうっとする以外に、自分のエネルギーを注ぐ場所を必要としていたんだろうと思う。そして、この奇妙なオブジェクトが写真を撮るっていう事実に魅せられた。
写真を撮り始めたとはいっても、コンセプトとか大したものはなくて、自分がおかしいって思うものだけを撮っていた。で、写真を初めてわりと早い段階で、ジン(zine)を作った。6部作って、「Vice Magazine(ヴァイス・マガジン)」、ギャラリー「Rivington Arms(リビングストン・アームズ)」 に持っていった。Jeff Staple(ジェフ・ステイプル)に1冊渡して、 「Trace (トランス)」と「NYLON(ナイロン)」にも送ったけど、なくされたみたいだ。
自分の写真が商業的に成功するとは思わなかった。僕は、被写体を美しく撮るタイプじゃないし、だから「Vice」に持っていったんだと思う。そうしたら「Vice」からは仕事のオファーがきて、「Rivington Arms」 は、グループ展に作品を出さないかってすすめてくれた。タイミングが良かったんだと思う。うれしかったよ。当時の僕は、人生をどうやって送っていけばいいのかわからなかったし、迷子になってような感じだったから。どうしていいのかわからずに、お金も稼げない、そんな状況に安定した気持ちを持てなかったんだろうと思う。そうか、写真をやればいいんだ、って思った。そうしたら急にどんどんアイディアが浮かんでくるようになった。
Q ビデオを撮り始めたのはいつ?
A 父親が亡くなるちょっと前なんだけど、99年頃、デジタルビデオが登場して、そのとき持っていた貯金をはたいて3000ドルくらいのカメラを買った。それでスケートボーダーたちを撮り始めたんだ。完全に遊びとしてね。でもそれが楽しくて、当時の彼女と2人でバイクメッセンジャーを題材にした「Pedal」を撮った。ほうぼうの映画祭の審査に出したんだけど、どこからも反応はなかった。フロリダの小さな街がやってるものすごく小規模の映画祭にもひっかからなかった。でも、しばらく経ってからサウス・バイ・サウス・ウェストという音楽祭の映画部門に引っかかった。それがきっかけで、サンダンス・チャンネル(サンダンス映画祭が運営するケーブルのチャンネル)が放映権を買ってくれた。ちょうど写真がうまくいき始めた頃と前後するんだけど。
Q ビデオと写真に対するアプローチはどう違う?
A 写真を撮るのは、ただひすら楽しい作業なんだけど、ビデオに対しては仕事だという意識が強いかもしれない。大きなカメラを使わないといけないし、音とかアングルとか、考えなければいけないことが多いし、編集作業は辛い作業だし。写真は人とのコミュニケーションを通じて、相手に入り込んだりできるけど、映画は相手から自分を切り離さないといけないというのも大きな違いだと思う。