世界最大級のゲイタウンとして知られる新宿二丁目。ここのところ、トレンドに敏感なファッション業界人や美容師、美容・服飾系の専門学校生などが新宿二丁目にこぞって足を運んでいることをご存知だろうか?彼らの目的は夜遊びだけではない。アパレルショップやイベントスペースなど、これまでになかったようなショップが増えているのである。
2006年12月にオープンした古着店「candy」もそのひとつ。同店は、下北沢にある老舗古着店「ヘイト&アシュバリー」の2号店で、知る人ぞ知るショップである。場所は新宿通りから1本入ったビルの地下1階だ。
「もともと弊社の社長が、ドラッグクイーンやオカマの人たちをターゲットにした古着屋をオープンしようと考え、この場所を選びました」と語るのは、店長の北澤さん(25歳)。
北澤さんは元美容師。もともと「ヘイト&アシュバリー」の常連客で社長と顔見知りだったことから、立ち上げの際に、ファッションセンスを見込まれてディレクターとして抜擢され、現在はコンセプトから商品のセレクト、運営まですべて行っている。当初の予定よりもターゲットを拡大し、性別や年齢、ファッショントライブに関係なく、ファッション感度の高い人々にむけたショップとしてオープン。同店のコンセプトである「クラブファッション」は、DJとしても活動する北澤さんのアイデアによるものだ。
「欧米ではクラブシーンとファッションシーンは密接に関係していますが、現在の日本では、分断されてしまっているように思うんです。そこで、クラブピープルの独特の感性やセンスをコンセプトにしたショップを作ろうと考えました。アパレルのショップがほとんどない新宿二丁目で、まったく新しいカルチャーをいちから生み出せるというのは魅力でした」(北澤さん)。
店舗面積は約17坪。真っ白に塗られたコンクリート壁や、配管がむき出しの天井などが、まるでアンダーグラウンドのクラブのような印象だ。床に置かれたLED蛍光灯や、大音量で流れるエレクトロミュージックのBGMが、より一層アバンギャルドな雰囲気を醸し出している。
商品数は約200点で、古着が8割、新品2割。ユニセックスなアイテムが中心で、靴やバッグなどのアクセサリーも充実している。取り扱いブランドは、ロンドンの「VINTI ANDREWS」(ヴィンティ アンドリュース)、BALMUNG(バルムンク)、「KOMAKINO」(コマキノ)など。さらにこの春からは、ドメスティックブランド「PHENOMENON」(フェノメノン)の取り扱いも開始する予定だ。
古着のセレクトでこだわっているのは、状態のよさ。老舗古着店のルートを活かし、ハイブランドのアイテムとコーディネートしても見劣りしない、コンディションのよいものだけを揃えているそうだ。80’s風の奇抜なプリントのアイテムがあるかと思えば、50’s風のクラシカルなドレスやアメカジ風のバンドTシャツがあったりと、商品の年代やデザインのテイストはかなり幅広い。というのも同店では、トレンドを先読みしていくことを心がけており、スタッフの感覚で流動的に商品のテイストを変えているそうだ。
「古着はすべて一点モノですから着る人のオリジナリティを演出できます。ファッション好きのエッジな人たちは、ハイブランドのアイテムや、それをコピーしたもので全身を統一するコーディネートにはそろそろ飽きていると思うんです」(北澤さん)。
オープン以来、ほとんどPRをしていないが、顧客がストリートスナップなどで「お気に入りのショップ」として紹介したことで、ファッション誌に取りあげられるようになり、じわじわと客数も増えていったという。そんな噂を聞きつけ、マルタン・マルジェラなど海外の著名なファッションデザイナーも視察に訪れるそうだ。客層は10代後半〜20代が中心で、男女比は7:3。来店者の7割がリピートしており、なんと8割が何かしら購入しているというから驚く。23時まで営業しており、21時以降に込み合うというのも、新宿二丁目という土地柄だろう。
「コアなファッション好きの方がうちだけを目当てにわざわざ来て頂けるのはうれしいですね。最近はこの辺りでファッションピープルをターゲットにしたクラブイベントも増えているようですし、渋谷や原宿に飽きた人たちが、新しさを求めて新宿二丁目に移ってきているのではないでしょうか」(北澤さん)。
ここ数年、都心部では、若者の間でもアクセスがよくて利便性の高い駅ビルやファッションビル、インタ−ネットなどで買い物をする傾向が強まっており、街を回遊して隠れ家的ショップを探すという志向性は薄くなっている。そういった背景から、渋谷〜原宿エリアでは個人オーナー系のショップや小規模の古着屋が相次いで閉店するという状況が続いていた。しかし『定点観測』では07年末あたりから、千駄ヶ谷の『OTOE(オトエ)』や原宿の『DOG(ドッグ)』、渋谷・神南の『BIRTHDEATH(バースデス)』など個性的なセレクトの古着店をお気に入りショップとしてあげる男女が再び増えているのだ。05年以降、東京のストリートでは欧米のビッグメゾンが提唱するアイテムがそのまま流行る、という動きが続いているが、そんなトップダウントレンドのアイテムばかりを扱うショップが増えるなかで、1点ものやリメイク、古着などの、“ここでしか買えない“アイテムを求めるのは自然の流れだろう。と考えると、個人オーナー系のショップや古着屋の勢いが再び復権する日も近いのではないだろうか。
[取材・文/高橋まきこ(フリーライター/エディター)+『アクロス』編集部]
candy(キャンディ)
レポート
2008.03.10
ファッション|FASHION
コアなファッション好きが集う新宿二丁目の古着店
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