ナンシー関・大ハンコ展
2008.06.10
その他|OTHERS

ナンシー関・大ハンコ展

唯一無二の<消しゴム版画家&コラムニスト>ナンシー関の大ハンコ展

性別も年齢も様々な人ばかり。
5,000個以上にも及ぶ作品が閲覧できる
貴重な展覧会となっている。
消しゴム版画以外にも、彼女が愛用していた
グッズも展示。
唯一無二の<消しゴム版画家&コラムニスト>ナンシー関が02年6月12日、虚血性心不全のため急逝してから6年が経つ。39年の生涯で彫った消しゴム版画は8,000個以上とも言われているが、そのうち現存する5,147個の消しゴムハンコを(ほぼ全て)集めた回顧展「ナンシー関大ハンコ展 —見た! 彫った! 書いた! 39年の人生と全仕事—」が、パルコファクトリー(渋谷パルコPART1・6階)で開催されている。

会場に展示されている作品は、ナンシー関によって彫られ仕事場に残された消しゴム版画作品5,147点を友だち達が5年の歳月をかけてひとつひとつ整理してきたもので、ようやくその整理にメドがつくとともに、7回忌を迎えるにあたって今回の回顧展が実現したのである。

本展覧会のために実行委員会(安齊肇、川勝正幸、坂本志保、渡辺祐)を設立。彼女の事務所であるボン研究所と、生前彼女と親交のあった友だちの協力のもとキュレーションされたのだという。

会場は文化人、スポーツ、女優といったジャンル別にハンコ作品の原版を分類したコーナー、膨大なコラムの中から選ばれた名言集、お気に入りの品々を集めた思い出ボックス、そして仕事場の再現コーナーなどで構成されている。

公開初日には、彼女の文章をリアルタイムでは体験していないと思われる20代の若者から60代以上と思しきシニアまで、さまざまな年代の入場者が長い時間展示に見入っていた。とくに後期の作品はナンシー本人も“上手くなった”と語っていたように、カッターで彫られたという消しゴムハンコ原版そのものにも目を奪われる。

会場では、5月に六本木P−HOUSEで行われた「ナンシー関さんを偲ぶ会」の模様や、安斎肇、みうらじゅん、いとうせいこうといったナンシー関ゆかりの人々のビデオコメントも上映。ほとんどの来場者は映像が一巡するまでモニターの前を離れないのが印象的だ。若い観客はモニターに現れる面々の熱い語りから、ナンシー関というエポックメイキングな消しゴム版画家・コラムニストの存在の大きさを改めて測る事ができたのではないだろうか。

没後6年を経て“ナンシー関の不在”という事実はファンにとってますます重みを増しているといえる。洞察力と分析力で語られる切れ味鋭いコラムと、それを補強する版画の面白さに魅せられたファンは、今でもテレビを見て「これを見てナンシー関だったら何と言っていただろう?」と考えることがあるはずだ。

ナンシー関のテレビ批評は、あくまでもテレビのこちら側、視聴者という立ち位置から発信されていながら、広く同時代のテレビ視聴者を唸らせるだけの力を持っていた。そしてテレビとその周辺、時には視聴者のダメでマヌケな部分も含めてそれを斬ってみせるという画期的なものであった。
実際の作業場も会場に再現され、生前の
作業風景を垣間見る事ができる。
ナンシー関が残した、ほぼ全ての書籍の
販売も行っている。
「ナンシー関さんを偲ぶ会」
写真提供:パラダイス山元
しかしナンシー関が亡くなった02年あたりから、テレビとその視聴者をとりまく環境は急激に変化する。ちょうどこの頃から一般ユーザーがネット上のブログでテレビ評やタレント評などを気軽に書き込めるようになったのだ。インターネットの情報空間が重要性を増していくにつれ、新聞、テレビといったマスメディアの権威は相対化されていった。
 
「ナンシーさんはテレビが帝国だった最後の人で、インターネットの時代が来る前に亡くなったイメージで、もっと言及されるべき人(『TVブロス』6/7・6/20号)」と菊地成孔は語っている。
 
ナンシー関はコラムニストから作家へと向かうことなく、一貫してテレビや芸能界という、とても移ろいやすいものを批評の対象としていた。そのせいもあってか、残した仕事の大きさほどにはナンシー関という存在が後の若い世代に知られていないような気がするのだ。

展覧会の少し前、7回忌を期に開催された「ナンシー関を偲ぶ会」の挨拶で、実行委員の安齊肇はこう語ったという。

「ナンシー関を懐かしい、なんて言わせない。過去のものにしてはいけない。この大ハンコ展を成功させなきゃいけないんです。ナンシー関が過去になってしまったら、私たちも過去になってしまうんです」。

展覧会を開催したパルコ宣伝局の担当者・江本多栄子もこう語っている。

「企画段階でヒアリングをしていて、ナンシー関を知らない20代の人が予想以上に多かったことに改めてショックを受けました。やはりこれは今、パルコでやっておかなくてはいけない企画だと思いました」。

ナンシー関の存在が今なお際立っているのは、鋭いテレビ批評を、あくまでも“ハードなTVウォッチャー”という一個人の立場から行い続けた点にある。そしてこの視線の置き方は、現在の素人が発言するブログ文化においても有効なものだといえるだろう。そして彼女の残したエッセイは現在読み返しても十分面白く、なかには優れた日本社会批判となっているものも少なくない。ナンシー関の魅力が読み直され、次の世代に伝えられる一つのきっかけとなってほしいものだ。

[取材・文/本橋康治(フリーライター)+『ACROSS』編集部]
インタビュー:30歳/男性(自営業)
インタビュー:女性/29歳(自営業)
■インタビュー

・30歳/男性(自営業)
パルコに来たついでに、寄ってみました。もともとイラストが好きで、彼女の作品は雑誌などで見たことがあり、前から知っていました。実際に作品を見てみて、いつも使っているような小さいサイズの消しゴムに細かく彫っていることが分かり驚いたし、すごい上手だなと思いました。特にジャイアント馬場の作品が好きです。コラムなどは読んだことはないので、ぜひ、今度読んでみたいと思います。

・29歳/女性(会社員)
今日は渋谷に来たついでに友だちに教えてもらって見に来ました。今回の展覧会は作品数の多さにびっくりしました。入場料が300円で、逆にいいのかなと思うくらいです。4年前に彼女の本を読んでから、コラムも消しゴム版画も大好きです。毒舌な彼女のコラムはうっぷんをはらすときに読んでます。気持ちがスカッとするし、どこか自分の気持ちを代弁してくれている気がします。それに毒々しいコピーの言い回しも大好きです。
『ナンシー関・大ハンコ展』
■会場:Parco Factory(パルコファクトリー)
    渋谷パルコ パート1/6階

■期間:08年6月5日(木)〜08年6月15日(日)

■開場時間:10:00〜21:00
      (入場は閉場の30分前まで)

■入場:一般300円・学生200円・小学生以下無料

■問い合わせ:03-3477-5873(パルコファクトリー)


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