外苑駅からも表参道駅からも徒歩10分程の閑静な住宅街の一角に、ファッションとアートのギャラリーショップ「homo-faber(ホモフェイバー)」がある。2008年7月20日にオープンした同店は、武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科で、「YAB−YAM(ヤブヤム)」デザイナーのパトリック・ライアンさんが教授を務める、ファッションデザインゼミを専攻していた若手クリエーター5人の共同運営によるものだ。
同店を共同運営するのは、藤井隆雄さん、坂倉弘祐さん、北坊卓人さん、堤由佳さん、ERICAさん。2006年7月まで「YAB−YAM」の直営店だったところを、クリエーターが活動する場として提供したいと考えていたパトリックさんが、2008年3月に同大学を卒業し、卒業制作コレクションで評価が高かったこの5人に声をかけ、約半年の時間をかけて実現した。コンセプトから店舗作りまでをメンバー主体で行い、パトリックさんと、同じく「YAB−YAM」デザイナーの吉田真実さんが、デザインから経営ノウハウまで広くアドバイスしている。
コンセプトであり店名でもある「homo−Faber」は、フランスの哲学者ベリグソンが人間の本質を定義した言葉で、“ものを作る人”という意味。大量生産、大量消費、大衆向けのプロダクトに疑問を持つメンバーが、もの作りの原点である手仕事から生まれるアイテムを発信していくことがコンセプトだ。
「手仕事だからといって昔に戻るのではなく、自分たちのクラフトを未来的な線で切り取った新しいものを発信し、それを通じてファッションをもっと楽しんでもらいたいです」(プレス・デザイナー/藤井さん)。
商品はほとんどすべて1点もので、メンズとレディースの比率は5:5。取扱ブランドは、運営メンバーそれぞれが独自に展開するブランド「fiiju(フィジュ)」「YANTOR(ヤントル)」「jantar mantar viator(ジャンタルマンタルヴィアトール)」「ballonne(バローネ)」、運営メンバーが共同で進める「homo−Faber」、武蔵野美術大学出身クリエーターのブランド。ウェアの他、バッグやブレスレット、キーホルダー、オリジナルブック等の小物、セレクトショップ「LOVELES(ラブレス)青山」のウィンドウディスプレイで使用されたERICAさん制作のぬいぐるみ等が揃う。価格帯は、Tシャツやタンクトップが7,000円〜、ジャケットが3万円〜。
実際にデザイナーが順番に店頭に立ち、接客することで作品への思いを直接伝えているのも特徴だ。
「お客様とコミュニケーションを図ることで、どんな人の手に渡るか分かるし、自分の作品に対する感想や、お客様が求めているニーズを知ることもできます。もし企業のデザイナーとして就職していたらこういう体験はできなかったと思うので、とてもありがたい機会だと思います」(藤井さん)。
客層は「YAB−YAM(ヤブヤム)」の顧客やギャラリーに訪れた目的客が中心。また、同ギャラリーショップのオープニングイベントとして、3月末にホテルクラスカでファッションショーを開催した。
2階建ての建物の1階がショップで、2階がギャラリーという構成。内装はメンバーによる手作りで、遊牧民のテントをイメージしたという。鉄骨がむき出しの店内にクラフト感を出すため、染めて縫い合わせ、石膏をかけたシーチングで壁を覆った。
2階のギャラリーは、クリエーターが集い、コミュニケーションを図る場として一般にも門戸を広げている。
「今後も、武蔵野美術大学を卒業するクリエーターがメンバーに加わっていきます。同時に、ここでの経験をステップに、各クリエーターが独立していく。パトリックさんと吉田さんは、メンバーがどんどん育って入れ替わっていくようなサイクルを構想しています」(藤井さん)。
学卒直後の独立はノウハウや資金の面からも難しいため、企業就職を経てから独立への道を歩むクリエーターは少なくない。しかし同店では、企業にある組織や商業前提のデザインといった枠に縛られずに、「YAB−YAM」が持つ活きたノウハウ、消費者からの生の声を吸収できる。作品を発信したい強い気持ちと社会への入口との間に戸惑う学生との、直接の接点があるからこその発想だ。クリエーターの独立に向けた、インターンシップの場所ともいえるだろう。
今後は、ネット販売のほか、さまざまなクリエーターとのコラボレーションも展開していくそうだ。
[取材・文/緒方 麻希子(フリーライター)]
レポート
2009.05.11
ファッション|FASHION
homo-faber(ホモ・フェイバー)
YAB-YAMがアドバイザーを務める若手クリエーター5人のギャラリーショップ
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