「FEVER(フィーバー)」
レポート
2009.08.28
カルチャー|CULTURE

「FEVER(フィーバー)」

カフェ&ギャラリー併設・オールナイトも可能。新代田に出現した多機能ライブハウス

同店は井の頭線新代田駅の目の前にある
物件の半地下にある。環七沿い、渋谷から
電車で約7分、下北沢駅西口からも
徒歩約10分というアクセスの良さ。
“ギュッと詰まった空気感”を大事にした
というライブハウスは、アーティストと
客との距離も近い。
ライブハウス内の壁面はブラックで統一した
オーソドックスな空間。
こちらはリハーサル風景。
奥にL字型に広がるバー&ギャラリー
「PoPo(ポポ)」ゾーン。
飲食のみの利用もOKだ。
剥き出しになった壁面など無骨な内装が
逆にアーティスティックな印象。
オーナーの西村等さん(33歳)。
下北沢の一つ隣の京王井の頭線・新代田駅。改札のすぐ前を環状七号線が通るが商店街はなく、近隣住民以外からはほとんど注目を集めることのない地味な駅だが、ここに09年3月23日、新しくオープンしたライブハウス「FEVER(フィーバー)」(住所:東京都世田谷区羽根木)が注目を集めている。運営は株式会社ビルド。

駅改札からは環七をはさんでほぼ向かいの駅近という、ライブハウスとしてはかなり珍しいロケーション。入口は全面ガラスの自動ドアで、その向こうにはスケルトンの広い空間が広がり、長テーブルが並んでいる。自然光も入る店内壁面には写真の作品も見える。時折通行人が覗いていくが、一見しただけではここがライブハウスとはなかなか気づかないだろう。

しかし、下北沢の名門ライブハウス「SHELTER(シェルター)」の店長を10年に渡って務めてきた西村等さんが独立してスタートしたこともあって、東京のライブハウスシーンのなかでも注目度は高い。

ライブハウスの収容人数はスタンディングで約300人。店舗面積(90坪)からすると、ステージと客席スペース(PA、バーカウンター含む約40坪)の占める割合は1/2にも満たないほどだ。都心部にある中規模のライブハウスとしては例外的な、ゆとりのあるスペース構成である。

 新代田、それも環七沿いという立地を選んだ経緯について、代表の西村さんはこう語る。

「きっかけは『SHELTER』を08年3月に退職した後、遊びに行ったロンドンでした。独立して自分でライブハウスをやってみようと思っていたこともあり、いろいろとまわりましたが、状況は東京と似ていて人気のある駅はやはり賃料が高い。でも、少し中心部から外れていたり、街としての人気はなくても駅前にあるアクセスの良い店が人気になりつつあるという現象があることに気付いたんです」(西村さん)。

東京に戻ってから、同じような駅に近い物件でライブハウスができないだろうかと考え、都内を探すうちに偶然見つけたのが現在の物件だという。駅から30秒という環境に加えて、魅力的だったのが車でのアクセスの良さだった。

「駅前、しかも環七というこれだけ大きい道路沿いのライブハウスはあまりない、という点にも面白さを感じました。新代田という立地が敢えていえばマイナス要素にはなるだろうと思いましたが、この利便性に加えて内容が面白ければ勝算はあると思ったんです。出店に合わせて立ち上げた、実績がない会社に物件を貸してくれた大家さんの存在も大きかったですね」(西村さん)。

環七沿いという立地は、楽器や機材を運ぶ必要から車で移動するケースの多い出演バンドにとってもメリットは大きい。また、同店が入居するビルはそもそも、2Fにプール、1Fにスーパー(現在は退店)が入居することを想定して設計されており、そうした部分がライブハウスを運営するのにぴったりハマった。地下の搬出入口から1Fの店舗部分に商品を運搬する経路には貨物用の大きなエレベーターがあり、重くて嵩張る機材を搬入するのにも最適なのだ。また、一般客からは見えないが、アーティストの楽屋スペースも通常よりかなり広く(約25坪)取られており、出演アーティストのケアにもこだわった空間作りが非常に好評だという。

店内の壁面や柱にはスーパー時代の名残を示す跡がラフに残されている。壁面には壁材を剥がしたボンドの跡が残り、床もタイルは貼らずにそのまま。ガラスドアや、灯りとりの窓もスーパーマーケット時代からのまま使われている。もともとは費用を最小限に抑えるためだったが、それがかえって同店の独特の魅力になった。

全部ぶち抜きにすれば、7〜800人のキャパシティのライブハウスを作れるだけの広さではあるが、あえて300人程度というサイズにこだわったのには、“ライブハウス”に対する西村さんのこだわりがある。

「それ以上では貸しホール/イベントスペースのようになる恐れもありますし、『SHELTER』での経験を生かすと同時に、出演者の肉声が聞こえるような“ギュッとつまった空気感”を大切にしたかったんです」(西村さん)。

ライブスペース以外にもロビースペースをバー&ギャラリー「PoPo(ポポ)」として別に運営しているのが、同店の特徴だ。「PoPo」はライブ客以外の利用も可能で、エントランスフリーとなっている。現在はドリンク中心だが、最終的にはキッチン設備を整えて食事のメニューを充実させ、多様なニーズを賄えるようにする予定。「お客さまにストレスなく楽しんで貰いたい」(西村さん)という思いから、グラスワインやウーロンハイ等のアルコール類は300円〜、フードはミックスナッツ300円、ひき肉とひよこ豆のカレーが700円など、できる限り価格を抑えている。
現在は、DJイベントなどオールナイト営業もスタート。初回は「Crue‐L Records(クルーエル・レコード)」主催でのイベントを開催し、盛況だったそうだ。

「僕自身、夜中の文化に憧れと思い入れがあって、自分が店をやる時にはライブハウスでありながら、以前下北沢にあった小さいクラブ『SLITS(スリッツ)』のように夜中の文化も発信したいと思っていたんです。Crue‐Lさんのイベントでは、遊び慣れた“大人の不良”のようなお客さんも多く、他の店から夜中にタクシーでいらっしゃる方も多かった。そういう方にも、環七沿いというロケーションは喜ばれました」(西村さん)。

ライブハウスがクローズしている場合でも「PoPo」でアコースティックライブなどが可能なほか、ライブなし/DJオンリーのイベントなど、今後は多様なスタイルのイベントを検討していくそうだ。

「いざ初めてみたら、立地のハンデについてはほとんど気にならなくなりました。やはりまだお客さまからは“新代田ってどこですか?”という問い合わせは多いですが、『FEVER』は新代田にある、むしろ新代田といえば『FEVER』だよね、というところまでにしたい。出演バンドらが周囲の店で食事をしたりすることも多く、まだオープン半年くらいですが地元の方は“街が変わった”と歓迎して下さっています」(西村さん)。

また同店では、ライブスペース以外に客がくつろげる場があって飲食もできる、さらにプラスαの機能として、ギャラリーを併設。なんと年内の展示予定は早々と埋まってしまったという。ギャラリーの運営はまだ経験が少ないため、企画ごとに作家と相談しながら行っているが、音楽関係者を中心に、口コミでこのスペースの情報はジワジワと伝わっているようだ。

「ライブハウスとは違ったところで展示を行って、そこから何らかのケミストリー(化学反応)を起こしたいんです。今はオルタナティブで面白いギャラリースペースが都心にも増えているようですが、作品展示がまずあって、そこにライブが連動していくような企画はウチにしかできないはず。むしろ、アーティスト側からもいろいろと要望が出てくると思いますので、あまり限定せずに柔軟に考えていきたい」(西村さん)。

新宿、渋谷などからの距離感から考えると、三宿あたりと近いように思われるが、西村さんによれば新代田のような下北沢から少し離れた場所にはロック系のバンドなど関係者が多く住むようだ。隠れ家的なイメージの漂う三宿と比較すると、東京山の手ネイティブの多い土地柄もあって、よりカジュアルというか、土っぽい空気感が新代田ならではのカラーだろう。

「もっと土着的というか、土っぽいところで、カッコいいことをやっている、そういうイメージを作っていきたいですね」と西村さんは言う。ライブハウスというコアにこだわりながら、さまざまな遊び方が考えられる“のりしろ”の多さがこの「FEVER」の魅力。スーパーをほぼ居抜きでリノベーションしたハード面の面白さも含め、意外なエリアに現れた夜遊びスポットとしての今後に期待したい。


[取材・文:本橋康治+『ACROSS』編集]

FEVER(フィーバー)


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