雑誌『装苑』で執筆する“100の隙間”の連載でも知られるデザイナーのeriさんが手がけるブランド、「mother(マザー)」初の旗艦店が09年7月18日、中目黒にオープンした。
場所は中目黒駅から目黒川沿いを徒歩10分。蔦の絡まる、趣あふれる古い一軒家を改装した2階建の店舗は、まるで絵本から抜け出したかのようなノスタルジックな雰囲気を放っている。
今年10月で5周年を迎える「mother」は、同社が運営するセレクトショップ「TRASH(トラッシュ)」(中目黒)をメインに取り扱いをスタートし、序々に人気が浸透。「BEAMS(ビームス)」を中心とした各地のセレクトショップや伊勢丹、オンラインショッピングサイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」でも展開していたが、07年にはオリジナルのテキスタイルにレースや刺しゅうなどをあしらったシュシュが大ヒットし、一気に知名度が拡大した人気ブランドである。
「お客さまが増えるのにしたがって、次第にデザイナー自身も“お客さまに楽しくゆっくり見てもらえるスペースが欲しい”と考えはじめ、『mother』今年7月に旗艦店として移転オープンすることになりました」と話すのは、プレスを務める川上若奈さん。
デザイナーのeriさんは現在26歳。「mother」は21歳のときに立ち上げたブランドというから驚く。現在は雑誌『装苑』(文化出版局)、『真夜中』(リトルモア)で連載も行っているが、過去には雑誌『Olive』(マガジンハウス/現在は休刊)での連載、90年代後半にはバンド「立花ハジメとLow Powers」のボーカルとして10代から活躍するなど、早くから多彩な活動で知られる人物である。
そんな彼女が全てのデザインを行う「mother」のコンセプトは、“その人の心に仕舞った思い出のようにその人に寄り添っていける服づくり。つくることに真っ直ぐであれば伝わる事があると信じて”。オリジナルの生地を使ったワンピース、異素材を組み合わせたアイテムなど、ディテールにこだわったノスタルジック&クラフト感のあるアイテムが特徴だ。価格帯はTシャツが約9,000円〜、ワンピース約30,000円〜、ニット約17,000円〜。
オープンのタイミングで、eriさんのオリジナルブランドも新たにスタートした。既存の「mother」よりも大人の女性をイメージした「Fig femme(フィグ フェム)」は、レースやシルクなど、上質な素材使いにこだわったフェミニンなラインで、価格帯は約18,000円〜。同店でしか買うことができない「sage(セージ)」は古着のリメイクが中心で、ワンピース(20,000円〜)、インド綿のパッチワークストール(12,000円〜)などが揃う。
店舗面積は1・2階合わせて約30坪と、移転前の約4倍。もともと和菓子屋だったという店内は、日本家屋ならではの木目や梁を生かした造りが特徴。「mother」を中心に扱う明るいムードの1F、「Fig Femme」や「sage」、ジュエリーを扱う鏡張りのラグジュアリーなムードの2Fと、それぞれ異なる雰囲気に仕上げている。店舗デザインは「CA4LA(カシラ)」や「BEAMS(ビームス)」などの店舗デザインを担当したLINE INC.の勝田隆夫さんが手掛けたが、eriさんが写真やデザインの本などから集めたビジュアルイメージを元にふたりで世界観を共有していったという。店内の家具類や装飾品には、幼い頃から古いものに慣れ親しんだeriさんが集めたアンティーク類を使用。洋服同様、無国籍で、少女っぽさのなかにどこか毒っけを含んだ彼女ならではの世界観が集約された空間となっている。
セレクトアイテムはアクセサリーを中心に拡大。eriさんが海外で買い付けたアンティークのアクセサリーや、華奢なリングが揃う「OLJEI(オルジェイ)」、「mother」のイメージモデルを務めるモデル・Merii(メリー)さんが手がける刺繍小物の「norun(ノルン)」、レース編みのアイテムが人気の「KAMIORI KAORI(カミオリカオリ)」、パリ在住の日本人デザイナーによる「Junco Paris(ジュンコ・パリ)」、モロッコ在住の日本人デザイナーが作る革小物「ojaga design(オジャガデザイン)」のほか、「chico(チコ)」のアクセサリーもラインナップ。価格は約3,000円〜25,000円程度のものが中心だ。
また、eriさんが撮影した写真と「Photoback(フォトバッグ)」とのコラボレーションにより生まれた冊子『paris』(1,365円)や、今回初となるオリジナルのアロマキャンドル(5,040円)も好評だという。さらに同店では、環境問題への取り組みとして紙のショッピングバッグを廃止し、裁断の際に出た余り生地などを再利用したオリジナルエコバッグ(3サイズ/ 400〜1,200円・エコバッグのみの購入は不可)を導入するなど、新たな試みもスタートした。
シーズンごとのビジュアルイメージにもこだわっている。07年AWのコレクションからは、eriさん自身がスタイリングし、『浅田家』で木村伊兵衛賞を受賞した写真家・浅田政志さんが撮影したビジュアルイメージを製作。それらの「コレクションブック」(2,100円〜2,625円)を出版し、同店でも販売している。
客層は20代の女性が中心で、雑誌では『装苑』『FUDGE』(三栄書房)、以前の『Olive』読者など、ガーリーでナチュラルなテイストを好む層に支持が高い。服飾系の学生や地方からの来客も多く、移転後はふらりと立ち寄って初めて同ブランドを知ったという人や、40代以上の来客もあったり、なかには「eriさんの世界観が好きで、いつもブログを読んでいる」という20代の男性も訪れるそうだ。
さらに、このタイミングでHPもリニューアルし、WEBショップをオープン。そのきっかけは、「『mother』のサイトから直接購入したいというお客さまの要望が多かったため」と川上さん。「ZOZO」で展開するeriさんや川上さんのブログ、「mother」のHPのスタッフブログで紹介したアイテムへの問い合わせも多く、そのような確固としたファン層の存在も「mother」ならではといえそうだ。コレクション毎に行っている受注会(東京の他、大阪、福岡、宮崎等)では、ファンが手紙や花束を持って訪れ、なかにはeriさんと対面し泣き出す人もいるそうだ。
温もりのあるクラフト感や古着のテイストに、高いカリスマ性を持つeriさんの多彩なセンスが加わった「mother」は、まさにeriさんそのものともいえるブランド。また、「その“洋服”がどのようなプロセスを経てどのような人物が作っているのかを知って頂くことで、そのプロダクトの裏にあるストーリーを感じてもらいたい」(eriさん)との思いからはじめた自身のブログなどを通して、もの作り〜プライベートに至るまで多岐に渡る世界観を披露したことが、多くの憧れや共感に繋がり“ファン”を形成していったといえるだろう。同店のオープン、そして「次から次にやりたいことが沸いてくる」(川上さん)というeriさんのクリエイティビティ溢れる個性は、今後ますますファンを拡大していきそうだ。
[取材・文/渡辺満樹子(フリーライター/エディター)+『ACROSS』編集]
mother(マザー)
〒153-0042
東京都目黒区青葉台1-13-12
tel:03-3780-4455
営業時間:12:00〜20:00(不定休)
HP:http://www.mothermother.com
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東京都目黒区青葉台1-13-12
tel:03-3780-4455
営業時間:12:00〜20:00(不定休)
HP:http://www.mothermother.com
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