クリエイティブ・マガジン『TOKION(トキオン)』の編集長を2002〜2007年に努めたケン・ミラーが出版した写真集『SHOOT:Photography of the Moment』。90年代から現在までを代表する、そして今後の活躍を期待されている写真家26人の作品、約200点を収録した写真集だ。この出版を記念した同名の写真展が渋谷パルコファクトリー(パルコPART1・6F)で開催されている。
『SHOOT:Photography of the Moment』の出版記念イベントは、09年9月にNew Museum(アメリカ/ニューヨーク州)をスタートに、Tate Modern(イギリス/ロンドン)、FOAM Museum(オランダ/アムステルダム)と世界各地を巡回。東京での開催は、パルコ40周年記念企画の一環として開催されることとなった。
会場の渋谷パルコファクトリーに展示された写真作品は約60点。写真集に収録された200点の中から選ばれた作品に加え、新たに未収録作品からもセレクト。このプロジェクトで集められた作品は、80年代以降の写真表現において重要な役割を果たす作家ばかり。この展覧会では、写真集に収録された26人全ての作品が網羅されている。
しかも、そのうち51作品(写真集200点のうち未収録のもの含む)が購入可能。小さい作品は2〜3万円、最も高い作品でも100万円強というから、決して手が届かなくはない価格だ。
参加フォトグラファーについては一覧を参照していただきたいが、セルフ・ドキュメンタリーという表現方法の先駆的存在であるスティーブン・ショアー(1947年生まれ)のようなベテランから、ナン・ゴールディン、ヴォルフガング・ティルマンス、マーク・ボズウィックといったファッション/アートなど幅広いフィールドも活躍する有名作家たち、さらに近年新たなアートシーンを形成しつつある中国から選ばれたマディ・ジュ(1983年生まれ)など、人選はかなり幅広い。
日本からは参加しているのはHIROMIX(ヒロミックス)と長島有里枝の2人。ともに90年代以降の大きなトレンドとなったいわゆる“ガーリー・フォト”の担い手であり、パルコギャラリーでの展覧会など、パルコとの縁も深いフォトグラファーである。
このプロジェクトに集まったフォトグラファーたちは、大きな括りでいうならポストモダン以降の、“今日の写真”を表現する作家たちだといえる。ケン・ミラーは本展のリリースにおいてこう述べている。
「僕は、その場の出来事に対しシンプルにレンズを向けた写真、素直に気持ちを切り取った写真が好きだ。それらは、日常の瞬間をただ捉えただけのものに見えるかもしれないが、心に強い印象を残す、特別な力を持った写真だ。
日常生活が反映された印象的な記録になっていたり、ある部分が増感、誇張、パロディ化されていたり、あるいはささいな事象の中にロマンスが見出されていたり……。いい写真家とは、誰でも使えるツールを使って、そういった表現を可能にする人たちだと思う」
安価なカメラが普及し、写真を撮ることが日常の一部になった現在だからこそ、「アート・フォトグラフィーとは何であるか?」という問いを投げかけ、今の写真を示すことがこのプロジェクトの根底ある狙いだ。
ここに展示された写真作品は、決定的瞬間を捉えたわけでもなく、一目で分かるような大きな社会的テーマが存在するわけでもないものばかりだ。個人的な日常の中にある一瞬を写真で表し、“小さな物語”を紡いでいる作品群である。
このプロジェクトで選ばれたフォトグラファー/作品でケン・ミラーが表現しようとしているのは何だろうか。
「これは僕が手掛けた2冊目の本だが、実は1冊目に出したストリート・アートの作品集『Revisionaries:A Decade of Art in Tokion』と同時に進めてきたもの。アートが誰でもできる身近なものになり、若い世代のアーティストが増えているということを示すのが『Revisionaries:A Decade of Art in Tokion』の狙いだった。写真でもやはり同じようなことが起こっていて、このプロジェクトでもそれが基本のテーマになっている。2冊の本に登場しているアーティストたちは相互に友達だったりしていて、アートと写真は相互に密接に結びつくようになっている」
こうした誰でも作品を創る、写真を撮る、そしてそれをブログやアートイベントなどで発表する、という行為はとても敷居が低くなったのは確かだ。ここに集まった作家たちの作品も、日常の一瞬を捉えたものが多いが、こうした優れたフォトグラファーたちの作品と、普通の写真を隔てるものは何だろうか。
「答えは2つある。1つは“運”だ。その人がどこにいるのか、によって違うけれど、大きな違いはないといえるね。
もう1つ、フォトグラファーにとって大切なのは、何を撮るのかよりも何をどう見せるのか、という力だね。Flicker(フリッカー)でただ写真を見せている人たちの多くにはそういう編集能力が欠けている。一歩下がって客観的に自分の作品を観ることができなければ、どうやって人に見せれば感動するのが、ということは分からないと思う。ただ、今はそれを習えるチャンスが増えているからいいよね」
いま、写真を撮るという行為そのものはより親しみやすく、簡単になった。しかしケン・ミラーが挙げている“編集能力”、さらにいえば作品を選ぶ“キュレーション”のスキルはやはり、紙媒体で鑑賞したり、ギャラリーなどの空間で体感したり、という行為によって育まれるものだ。
“今の写真”を代表する作品群を、複数の視点からまとめて観ることができるのは貴重な機会だ。ウェブサイト等で手軽に写真を“閲覧”できる現在だからこそ、オリジナルのプリントや空間構成を含めたライブで“鑑賞”してみたい。
『TOKION』はかつて、東京のサブカルチャーをアメリカ人と日本人が編集し、日本語/英語のバイリンガルスタイルで表現する、という画期的な雑誌としてひとつのエポックを作った。ケン・ミラーは現在『City magazine』『Interview magazine』『V magazine』などの編集・ライターの仕事をし、ニューヨークに住んでいるというが、彼にいまの日本のシーンはどのように映っているのだろうか。
「僕が『TOKION』の編集長をしていた頃のような大きな動きはないように見えるけど、状況は悪くないと感じている。数年前のNYはとてもエキサイティングだったけれど、今はあまり面白いと感じなくなった。逆に東京には街に小さなギャラリーがたくさん増えていたり、数年前より新しいものが始まっているような感じがあって、楽しいと思う。そうしたいろいろなスタイルのギャラリー同士が対話し、交流することで新しいストーリーが生まれるんだ」
とケン・ミラーは語っている。
写真を撮ることは日常期な行為になり、写真を何らかの形で発表したいという “プレイヤー層”は近年、大きく拡大している実感がある。鑑賞する側も、気に入った作品、アートピースを手元に置いておきたい、というニーズも増えつつあるようだ。そんなマインドを背景に、ギャラリーが増え、シーンが新陳代謝することで、これからも新しい表現を携えたアーティストが生まれてくるはずだ。
本橋康治(フリーライター)+『ACROSS』編集
SHOOT:Photography of the Moment−カメラが捉えた一瞬が語ること−
詳細はこちら
<展覧会情報>
会 場: PARCO FACTORY パルコファクトリー
渋谷パルコ パート1 / 6F
期 間: 2009年11月26日(木)−2009年12月14日(月)
※会期中無休
10:00am - 9:00pm
※入場は閉場の30分前まで
※最終日は6:00pmにて終了
入場料: 一般500円 学生300円 小学生以下無料
お問合せ: 03-3477-5873(パルコファクトリー)
主催: パルコ
企画: Ken Miller
GALLERY TARGET
協力: RCKT/Rocket Company*
G/P Gallery、en one tokyo
展示協力: GALLERY SIDE 2
hiromiyoshii
SCAI THE BATHHOUSE
WAKO WORKS OF ART
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<展覧会情報>
会 場: PARCO FACTORY パルコファクトリー
渋谷パルコ パート1 / 6F
期 間: 2009年11月26日(木)−2009年12月14日(月)
※会期中無休
10:00am - 9:00pm
※入場は閉場の30分前まで
※最終日は6:00pmにて終了
入場料: 一般500円 学生300円 小学生以下無料
お問合せ: 03-3477-5873(パルコファクトリー)
主催: パルコ
企画: Ken Miller
GALLERY TARGET
協力: RCKT/Rocket Company*
G/P Gallery、en one tokyo
展示協力: GALLERY SIDE 2
hiromiyoshii
SCAI THE BATHHOUSE
WAKO WORKS OF ART
パルコファクトリー
〒150-8377
東京都渋谷区宇田川町15-1
渋谷パルコ パート1/6F
お問い合わせ:03-3477-5873(パルコファクトリー)
HP:http://www.parco-art.com/web/index.php
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東京都渋谷区宇田川町15-1
渋谷パルコ パート1/6F
お問い合わせ:03-3477-5873(パルコファクトリー)
HP:http://www.parco-art.com/web/index.php
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