アーティスト・村上隆が主催するアートイベント「GEISAI TAIWAN#1」(日本での「GEISAI」取材記事はこちら)が2009年12月、台湾・台北で開催された。海外では米・マイアミの2回に続く3度目、アジアでは初めての開催とのことで、初の海外現地レポートを行った。
きっかけは2007年に村上の著書『芸術起業論』(幻冬舎)が台湾で出版された際、台湾企業の日本支社AZIO ENTERTAINMENT Inc. 社長・江明玉さんが翻訳を担当したこと。同社は日本での台湾芸能人の興行、あるいは台湾での日本人アイドル興行などを手がける企業で、ここから同社が台湾での村上の1万人を集めた講演会を助力した縁もあって、さらに日本での「GEISAI」の運営をサポートするという段階へと発展。そして同社が親会社である台湾土地開発 (Taiwan Land Development Corporation)の全面的なスポンサーシップを取り付け、台湾での「GEISAI TAIWAN#1」開催へとつながったのである。
会場となったのは華山創意園區(ホァーサン クリエイティブ パーク/Huashan Creative Park)。日本統治時代に建設された酒蔵の建物をほぼそのまま再利用し、ギャラリーやカフェ、ミュージアムショップなどが入る複合アートセンターである。台北市の都心部にあり、近隣には秋葉原のような電脳系ショップが集積するエリアにある。
入場は無料。エントランス部分には芝生のスペースもありくつろぐ人の姿も見られる。夜でも露天が出ていたり、構内でストリートミュージシャンが弾き語りをしていたり、という魅力的なスペースだ。
今回参加したのは305ブース、アーティストは400名以上で、建物3棟を使用した。日本からの参加者も数組あったが、ほとんどは台湾の若いアーティストたちだ。出展者はブース使用料(台湾ドル3000元/日本円で約9,000円〜)を支払うという、日本での開催と同じフォーマットである。反響が大きかったため、当初計画よりもブース数を急遽拡大したそうだ。
会場の規模感という点では、日本で開催される「GEISAI」に匹敵するものだった。当日会場をくまなく見て回ったが、参加者の作品のレベルは想像以上に高い。作品を見せるブックや名刺、資料などを用意してプレゼンテーションをしっかり行う参加者も見受けられ、工芸的な作品を見せるアーティストも多かった。
入場者は1万8,000人を動員し、ブースの間の通路にはびっしり人がいるほどの状態。会場内の熱気のせいもあってか、出展者/来場者ともにノリがよく、この相互リアクションのよさという点では日本を上回る部分すらあったといえる。
オーディエンスは、アート系学生から一般の親子連れまで多様な客層が集まったところが日本開催との違いで、お出かけやデートで気軽にアートイベントに遊びに来た、という趣だ。これは台湾の他の美術館を見て回った時にも感じた印象である。別の1棟を使用してカイカイキキの所属アーティスト・佐藤玲のワークショップが開催されていたが、ここにもアート系学生だけでなく、ファミリーが多く参加していた。
“アートのお祭り”を名乗る「GEISAI」ならではのイベントも充実。野外の芝生広場には大きなステージが設置され、宇宙人(Cosmos People/コスモス・ピープル)/旺福(Wonfu/ワンフー)/張懸(Deserts Chang/チャン・シュエン)/廬廣仲(Crowd Lu/ルー・グァンチョン)と4組のゲストがライブを披露した。いずれも台湾のミュージック・シーンで注目を集めるアーティストたちである。
開会と表彰式、クロージングイベントもこのステージで開催された。このオープンなロケーションが大きく作用しているためだろうか、東京ビッグサイトなど屋内空間の中で開催されてきた日本の「GEISAI」よりも強く学園祭的な空気感が感じられた。
審査員は、現地でもファンの多いアーティスト・奈良美智、デザイン関連雑誌の中で台湾でもトップの人気を集める『Casa BRUTUS』の編集長・亀井誠一、そして村上隆。台湾カルチャー・シーンでも注目の3人が集まっただけあって、彼らが審査で会場内を回遊する時にはTVカメラやファンが絶えず周囲を取り囲んでいるような状況だった。
受賞作家や作品詳細については、リンク先からご覧いただきたいのだが、今回のサプライズは金賞受賞者の田秀菊(テン・ショウジー)だろう。72歳の彼女は二人の娘と一緒に「70歳のお婆ちゃんの、美しい初めてのSHOW」というタイトルで出展し、彼女自身はこの2年の間に描いた、家族の思い出を素朴に形にしたクレヨン画を展示。その作品の純粋さを奈良美智が強く支持したこともあり、見事金賞を受賞した。彼女自身はそれまで村上隆や奈良美智のことも知らなかったというが、表彰式後にはたちまちTVクルーに取り囲まれ、一躍注目の的となっていた。その後も画廊関係者やメディアからのオファーが集まっているという。
受賞者に限らず、会場に並ぶ作品の技術的レベルに関しては、日本国内の「GEISAI」参加者と大きな差は感じられない。海外での留学経験を持つアーティストや、すでにギャラリーとの契約を持っている作家も参加していた。
上位入賞者3名は、来る3月14日に東京ビッグサイトで開催される「GEISAI#14(http://www.geisai.net/g14/)」に招待参加する。台湾での成功を受けて、国内で開催されるGEISAIにさらに注目しておきたいところだ。
アートの本流だけではなく、ファッション、サブカルなど幅広いポップフィールドからチョイスされる審査員の顔ぶれが毎回注目される「GEISAI」だが、今回は日本にもファンの多い大物アーティスト、ジェフ・クーンズの参加が急遽決定、これまで以上に話題を呼ぶだろう。審査員のラインアップは下記のとおりだ。
●ジェフ・クーンズ/アーティスト
●伊藤弘/デザイングループGROOVISIONS代表
●千宗屋/武者小路千家15代家元後嗣
●中村ヒロキ/ファッションブランド visvim(ビズビム)デザイナー
●宮台真司/社会学者 映画批評家 首都大学東京教授
●森川嘉一郎/明治大学国際日本学部准教授
日本人の審査員で目を引くのがvisvimデザイナーの中村ヒロキだろう。ファッションに留まらずアート、カルチャー全般に造詣が深く、カリスマ的な魅力が漂うクリエーターだ。カイカイキキが実施している「GEISAI大学」で講義を行った際には立ち見が出るほど盛況で、外国プレスも大勢参加した。もちろん審査員は全員、当代きっての目利きばかりであり、彼らがどのようなチョイスを行うのか興味深いのはいうまでもない。
欧米のアートイベントの模倣ではない、日本における新しいアートのあり方を追い求めてきたイベント・「GEISAI」も、スタートから8年目となる。今回、「GEISAI#14」に村上は「リサイクル」というテーマをつけている。ロゴも#12のビジュアルイメージに、制作したGROOVISIONSが自らリ・アレンジを施したものだ。
「GEISAIとは、プロアーティストになるためのプラットフォームである」とチアマンの村上は語っている。この「GEISAI」というフォーマットは、日本向けのアートイベントの模索という段階から、台湾での成功というインパクトを受けて、遂にアジアへと広がっていく可能性を示し始めたといえる。台湾での継続開催、さらに台湾でのカイカイキキギャラリーのオープンなど、すでにプロジェクトは具体化しつつある。
これを受けて日本に戻っての開催となる「GEISAI」がどう変化していくのか、また海外のアーティストやマーケットとどうリンクしてゆくのか注目しておきたい。
(文中敬称略)
<取材・文・写真/本橋康治(フリーライター)>
<GEISAI#14 出店締め切り間近!>
※審査員にジェフ・クーンズの参加が急遽決定!!
GEISAI#14
会期:2010年3月14日(日)
会場:東京ビッグサイト
■参加条件について
GEISAI#14には、出展物がオリジナル作品であれば、
プロ・アマ問わずどなたでも参加できます。
※参加条件、作品の販売、注意事項についての詳細は、公式サイト をご確認下さい。
出展申込:2009年10月19日(月)〜
公式サイト http://www.geisai.net
の申込フォームからご応募下さい。
お問い合わせや詳しい内容は geisai14@geisai.net まで。
GEISAI#14
会期:2010年3月14日(日)
会場:東京ビッグサイト
■参加条件について
GEISAI#14には、出展物がオリジナル作品であれば、
プロ・アマ問わずどなたでも参加できます。
※参加条件、作品の販売、注意事項についての詳細は、公式サイト をご確認下さい。
出展申込:2009年10月19日(月)〜
公式サイト http://www.geisai.net
の申込フォームからご応募下さい。
お問い合わせや詳しい内容は geisai14@geisai.net まで。
GEISAI TAIWAN#1
2009年12月6日(日) <終了しました>
場所 台湾/華山創意園區(ホァーサン クリエイティブ パーク/Huashan Creative Park)
HP:http://tw.geisai.net
有限会社カイカイキキ
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場所 台湾/華山創意園區(ホァーサン クリエイティブ パーク/Huashan Creative Park)
HP:http://tw.geisai.net
有限会社カイカイキキ
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