メンズ用スーツのツープライスショップの先駆けとして知られ、技術力にも定評のあるスーツSPA大手の株式会社オンリー。メンズスーツで培った技術基盤で、品質のこだわりは堅持する一方、ネットを経由した受注生産を試みるなど、革新的なビジネスモデルを確立している。そんな同社が09年10月に「働く女性をターゲットにしたレディーススーツ専門の新業態「She loves suits」の直営店を青山・骨董通りにオープンしたので取材した。
小原流会館そばの骨董通り沿いに位置する同店。すぐ側には、Drawer(ドロワー)、HELMUT LANG(ヘルムートラング)、MARNI(マルニ)を始めとしたハイブランドのショップやカフェ、レストランが並び、青山・表参道エリアでも屈指の好立地だ。
「この立地を選んだのは、働く女性に対しファッションの一つとしてスーツスタイルを提案したいからです」と話してくれたのは店長の横関友美さん。
店内はスーツだけでなく、全体の4分の1をインナーや靴、アクセサリーの“非スーツアイテム”で構成している。インナーは3,900〜4900円、靴も9,800円など比較的リーズナブルな価格帯を中心に、1万円〜のグローブや4万円近いブーツなどの海外で直接買い付けたアイテムも揃え、顧客の買い周り性を重視している。
主力のスーツ価格はパンツのセットアップが1万9,950円、スカートのセットアップが1万8,900円と、百貨店のリクルートスーツよりやや低めの価格設定になっている。また、立体的で女性らしい美しいシルエットに加え、縫製や生地にこだわり、専用の洗濯ネットを用いれば家庭での丸洗いも可能という、機能と性能にこだわったのも特徴だ。テーラーが監修し、自社工場が技術指導を行うなど、スーツ専業メーカーらしく基本設計のクオリティの高さを維持しながら、上下別で着回しのきくトップスとボトムスのデザインバリエーションなどディテールにも気を配っている。
同店の最大の特徴は、“ネクストメイド”と銘打つ受注販売を取り入れたことだ。受注から引き渡しまで3ヶ月間の期間を設定する一方、顧客対象の割引サービスや、セミオーダーに近い細かなパターン指定することができ、ウエストや袖丈、裾丈の細かいサイズ調整を可能にした。既製服で5〜11号だったサイズは、ネクストメイドでは1〜23号まで幅広く選ぶことが出来る。今後はネット経由での受注体制を強化し、店頭に受け取りに来る手間を省いた自宅配送サービスの体制も整えていくという。
運営元の(株)オンリーは、業界初のスーツのツープライスショップThe @ SUPERSUITS STORE(ザ・スーパー・スーツストア)を始め、INHALE+EXHALE(インヘイル+エクスヘイル)など業態開発と技術力に優れたスーツSPAとして知られている。同社が、女性スーツという新市場に参入した背景には、メンズスーツ市場の団塊世代の引退や、女性の晩婚化に伴う働く女性の増加が起因している。
同社を含め大手のスーツSPAはこれまで、日本全国に店舗を広げながら、各店舗に商品を在庫し、販売するストック型のビジネスモデルを展開してきた。この手法は、原料を安く仕入れられ、大量販売が可能なため、商品の価格を下げ、かつタイムリーに商品を供給できるメリットがあった。しかし、最近の服装のカジュアル化に加え、スーツの主要消費者だった団塊世代の一斉退職により、ピーク時に8,000億円を超えていた日本の紳士スーツ市場は現在、3,000億円を割り込んでいると見られ、市場の縮小は、大量の店舗と在庫を基盤とするビジネスモデル自体の大幅な見直しを迫っている。また、10年3月には海老名店、池袋店ほか4店舗がオープン。ターミナル駅周辺に出店することにより、買い回り客への訴求やリクルート、フレッシャーズ需要の拡大を狙うそうだ。
その面から見ると、価格と商品のバリエーションの面で顧客にメリットを提供する一方、自らの在庫リスクや初期投資を抑えるSLSのビジネスモデルは、従来の紳士服チェーン業態とは全く正反対に位置する。革新的なビジネスモデルは、女性向けスーツという新たな市場開拓に対する強い意欲をよく表しているとも言える。「低価格が行き過ぎている今こそ、お互いのムダを省く仕組みに手応えを感じている」(横関店長)という。市場や同業他社を含め、今後どのような反響を呼ぶか、注目したい。
[取材・文/渡辺正明(フリーライター/エディター)+『ACROSS』編集]
She loves SUITS 南青山店
住所:東京都港区南青山5-4-35 青南吉川興産ビル1階
TEL:03-3499-3055
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