高円寺駅北口から徒歩約5分。阿佐ヶ谷方面へ伸びる北中通り商店街に、ひときわ存在感を放つバラック風の建物がある。現在5軒のアパレルショップと2店舗のスナックが入居する「キタコレビル」だ。ここ数年、同ビルに入居する「素人の乱はやとちり」「NINCOMPOOP CAPACITY(ニンカンプープ キャパシティ)」、「GARTER(ガーター)」「シークレットDOG」「ilil(イルイル)」の5軒のアパレルショップを目あてに、高円寺を訪れるアラウンド90年生まれの若者が増えているという。
築50年を超す木造のテナントビルである同物件は、もともとスナック等の飲食店が入居していたが、老朽化に伴い、借り主が決まらず廃墟と化した状態が続いていた。そんななか、2008年7月、同ビル1階に古着とリメイク古着を扱う「素人の乱はやとちり(以下、「はやとちり」)」がオープン。これまでに高円寺を中心に古着屋やリサイクルショップ、飲食店など幅広く展開してきた「素人の乱」の13号店である。
「はやとちり」のオーナーを務めるのは、後藤慶光さん(25歳)。専門学校卒業後、「素人の乱」系列店の「シランプリ」でアルバイトをしていたところ、素人の乱を経営する松本哉さんから話を持ちかけられ、同店をオープンした。
「『近くにおもしろい空き物件があるから、とりあえずやってみたら?』と言われて。もともと、いつかは自分の店を持ちたいと思っていたので、半ば勢いで出店を決意しました」(後藤さん)。
商品はメンズのみを取り扱い、古着が7割、後藤さんが手がけるオリジナルのリメイクアイテムが3割。古着はアメリカや国内から買い付けてきた80〜90年代のものが中心だ。色や柄、デザインが派手なものが多いのが特徴で、特にリメイクアイテムの人気が高い。「『一体、誰が着るの?』といわれるような奇抜さ」がコンセプトだという。
特に売れ筋なのが、つぎはぎ風のリメイクパンツ、マンガを貼りつけたキャップや小物入れ(防水加工済み)だという。また、無数のゼムクリップを留めたジャケットも人気で、クリスチャンディオールのアクセサリーデザイナーが視察に訪れた際に購入していったという。価格帯はリメイクジャケットが1万円〜、プリントTシャツが4,000〜6,000円ほど。
「学生の頃、90年代の古い『FRUITS』を読んで、当時の原宿カルチャーに刺激されました。特に影響を受けたのは、“シノラーファッション”。派手で装飾性が高くて、オリジナリティがあって…、『自分のやりたいことはこれだ!』と思ったんです。そこから、既製品に自分の個性をプラスする、リメイクの魅力にハマっていきました。現代版のデコラちゃんを提案したいです」(後藤さん)。
店の外装や内装はすべて後藤さんの手作業によるもの。店内は、これまで約3カ月ごとに配置換えなどを繰り返してきたが、現在はなんとマンガのページを壁紙代わりに全面に貼りつけている。後藤さん曰く「これが一番お金のかからない方法」とのことで、自由な発想で店づくりを楽しんでいる様子が伺える。
宣伝ツールにブログを活用しているという点も、00年代育ちらしいフットワークの軽さを感じさせる。「NINCOMPOOP CAPACITY(ニンカンプープ キャパシティ)」、「GARTER(ガーター)」とともに公式ブログを運営し、新商品情報をアップして集客につなげている。
主な客層は20歳前後の学生で、派手で奇抜な格好を好み、ファッションに対してチャレンジ精神が旺盛な人たち。既製品にはない「ちょっとふざけた感じ」が好評を得ているそうだ。常連客の男性(19歳大学生・英語専攻)は、約180本の色えんぴつが刺さったジャケットを、ごく日常的に着用しているという。
出店場所となった高円寺について後藤さんは、「街の持つのんびりとした雰囲気が気に入っている」と話す。
「原宿や渋谷のように大手ショップや大型のファッションビルはありませんが、店主がそれぞれ好きなことをしていて、アクの強い個人店が多いところが高円寺の魅力だと思います。人ごみに疲れたお客さんは特に、『高円寺ならゆっくり買い物ができる』と喜んでいます」(後藤さん)。
今後の目標は、独自のブランド性を築くこと。「菓子メーカーやビールメーカーとコラボして、デコレーションパッケージを手掛けてみたいですね。キタコレパッケージの商品がコンビニに並んだら最高じゃないですか?」(後藤さん)。
そんな「はやとちり」に続いて、2軒隣にオープンしたのが、「NINCOMPOOP CAPACITY(ニンカンプープ キャパシティ/以下、NPC)」だ。オーナー兼デザイナーの大橋謙太朗さん(25)ほか2名による共同経営である。
北海道の専門学校で同級生だった3人は、卒業後に東京で再会し、2006年から同名のブランドをスタート。Tシャツやパンツなどのユニセックスなアイテムを展開し、高円寺の古着店「CULT PARTY(カルトパーティ)」や、栃木のセレクトショップなどで委託販売を行っていた。徐々にファンが増えてきた2008年8月、同店をオープン。店名およびブランド名の「NINCOMPOOP(ニンカンプープ)」は英語で「マヌケ」を意味している。
出店場所を探すにあたり、原宿や渋谷、恵比寿、吉祥寺など人気のエリアを回ったが、なかなか理想的な物件には出会えなかった。そんな中、もともと交流のあった後藤さんから「はやとちり」の2軒先の空き物件を紹介され、一目で気に入ったという。決め手となったのは、「高円寺なら1人ひとりのお客さんとコミュニケーションをとりながら、自分たちの表現したいことをきちんと伝えていけると感じたから」(大橋さん)。また、内装にもこだわりたいと思っていた大橋さんにとって、自由に改装できるという条件も大きかったという。
ショップのテーマカラーはピンク×パープル。80年代のマイケル・ジャクソンのトレーディングカードのデザインが元になっている。フロアや壁、階段、家具などもすべてこの配色でペイントし、ポップでキッチュな世界観を醸し出すことに成功している。
商品はオリジナルブランドの「NPC」、古着リメイクブランドの「キャシー」、古着で構成されており、メンズとレディスの両方を取り扱う。定番として80〜90年代テイストのアイテムを扱う他、シーズンごとのテーマを設定しているそうだ。価格帯は全体を通して3,000〜2万円と幅広く、オリジナルTシャツが4,000円前後、古着は2,000円〜。
「今シーズンのテーマは『タイニー・パンクス』。80年代半ばに藤原ヒロシさんが結成したヒップホップグループの名前を借りました。ずっと藤原さんの生き方や考え方に憧れていて、いつかテーマにしたいと思っていたんです。彼が好んで身につけていたブランド『adidas』をパロディ化したジャージや、『Vivienne Westwood(ヴィヴィアンウエストウッド)』のロッキンホースシューズなどがオススメです」(大橋さん)。
取材時、店内では、チェッカーズのライブ音源がBGMとして流れていたり、マイケルジャクソンにインスパイアされた内装だったりと80年代カルチャーを感じさせる同店だが、大橋さん自身は90年代に一番魅力を感じるのだとか。その理由は、日本が他国の真似をしなくなり、自分たちの力で何かを生み出そうという想いに溢れていたからだという。そして現在、その流れがまた訪れているのでは、と分析する。
「ターゲットは、ファッションにものすごく精通している人より、おしゃれにちょっとだけ興味がある人たちです。強固なこだわりがない分、僕たちが発信するどんなファッションも、先入観なく素直に受け入れてもらえると思うんです」(大橋さん)。
また、当初は「CULT PARTY(カルトパーティ)」時代の固定客が中心だったが、最近ではブログでブランドの存在を知った新規客も増えているという。特に反応が高いのがオリジナルアイテムやリメイクアイテムで、ほとんどの客が目当てのアイテムを決めてから来店するというのが同店の特徴と言えるだろう。主な客層は10〜20代前半の男女が中心だが、常連客の中には60代の医師もいるそうで、「これも高円寺らしさ」だと大橋さんは話す。
「最近、渋谷や原宿で店をやっている人たちから、街にいる子たちのファッションが面白くない、という声をよく聞くんですが、僕は『洋服屋なんだったらそんな事言わずに、責任もっておもしろいファッションを提案しろよ!』と言いたい。特に古着は自由だし、気分次第でいろいろな年代、テイストのものをミックスできる点が楽しいと思うんです。できればもう1店舗古着店を出して、高円寺だからこそ出来る面白い提案をし続けていきたいですね」(大橋さん)。
[取材・文/皆川夕美(フリーライター)]
キタコレビル後編の記事はこちらからご覧下さい
北海道の専門学校で同級生だった3人は、卒業後に東京で再会し、2006年から同名のブランドをスタート。Tシャツやパンツなどのユニセックスなアイテムを展開し、高円寺の古着店「CULT PARTY(カルトパーティ)」や、栃木のセレクトショップなどで委託販売を行っていた。徐々にファンが増えてきた2008年8月、同店をオープン。店名およびブランド名の「NINCOMPOOP(ニンカンプープ)」は英語で「マヌケ」を意味している。
出店場所を探すにあたり、原宿や渋谷、恵比寿、吉祥寺など人気のエリアを回ったが、なかなか理想的な物件には出会えなかった。そんな中、もともと交流のあった後藤さんから「はやとちり」の2軒先の空き物件を紹介され、一目で気に入ったという。決め手となったのは、「高円寺なら1人ひとりのお客さんとコミュニケーションをとりながら、自分たちの表現したいことをきちんと伝えていけると感じたから」(大橋さん)。また、内装にもこだわりたいと思っていた大橋さんにとって、自由に改装できるという条件も大きかったという。
ショップのテーマカラーはピンク×パープル。80年代のマイケル・ジャクソンのトレーディングカードのデザインが元になっている。フロアや壁、階段、家具などもすべてこの配色でペイントし、ポップでキッチュな世界観を醸し出すことに成功している。
商品はオリジナルブランドの「NPC」、古着リメイクブランドの「キャシー」、古着で構成されており、メンズとレディスの両方を取り扱う。定番として80〜90年代テイストのアイテムを扱う他、シーズンごとのテーマを設定しているそうだ。価格帯は全体を通して3,000〜2万円と幅広く、オリジナルTシャツが4,000円前後、古着は2,000円〜。
「今シーズンのテーマは『タイニー・パンクス』。80年代半ばに藤原ヒロシさんが結成したヒップホップグループの名前を借りました。ずっと藤原さんの生き方や考え方に憧れていて、いつかテーマにしたいと思っていたんです。彼が好んで身につけていたブランド『adidas』をパロディ化したジャージや、『Vivienne Westwood(ヴィヴィアンウエストウッド)』のロッキンホースシューズなどがオススメです」(大橋さん)。
取材時、店内では、チェッカーズのライブ音源がBGMとして流れていたり、マイケルジャクソンにインスパイアされた内装だったりと80年代カルチャーを感じさせる同店だが、大橋さん自身は90年代に一番魅力を感じるのだとか。その理由は、日本が他国の真似をしなくなり、自分たちの力で何かを生み出そうという想いに溢れていたからだという。そして現在、その流れがまた訪れているのでは、と分析する。
「ターゲットは、ファッションにものすごく精通している人より、おしゃれにちょっとだけ興味がある人たちです。強固なこだわりがない分、僕たちが発信するどんなファッションも、先入観なく素直に受け入れてもらえると思うんです」(大橋さん)。
また、当初は「CULT PARTY(カルトパーティ)」時代の固定客が中心だったが、最近ではブログでブランドの存在を知った新規客も増えているという。特に反応が高いのがオリジナルアイテムやリメイクアイテムで、ほとんどの客が目当てのアイテムを決めてから来店するというのが同店の特徴と言えるだろう。主な客層は10〜20代前半の男女が中心だが、常連客の中には60代の医師もいるそうで、「これも高円寺らしさ」だと大橋さんは話す。
「最近、渋谷や原宿で店をやっている人たちから、街にいる子たちのファッションが面白くない、という声をよく聞くんですが、僕は『洋服屋なんだったらそんな事言わずに、責任もっておもしろいファッションを提案しろよ!』と言いたい。特に古着は自由だし、気分次第でいろいろな年代、テイストのものをミックスできる点が楽しいと思うんです。できればもう1店舗古着店を出して、高円寺だからこそ出来る面白い提案をし続けていきたいですね」(大橋さん)。
[取材・文/皆川夕美(フリーライター)]
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