高円寺北中通りに位置するバラック風の木造テナントビル「キタコレビル」。ここに出店する5軒のアパレルショップを目あてに、高円寺を訪れるアラウンド90年生まれの若者が増えているというので、さっそく取材を行った。
キタコレビル前編の記事で紹介した「はやとちり」、「NINCOMPOOP CAPACITY(ニンカンプープキャパシティ)」に続き3番目に出店したのが、オリジナルと古着を扱う「GARTER(ガーター)」だ。オーナーはコウシロウさん、弱冠20歳。もともとはネットで古着販売を行っていたが、2009年4月、キタコレビルの1、2階にリアルショップをオープンした。
「高校2年生の時に、不景気のあおりを受けて父親の会社が倒産したんです。両親からは就職をすすめられたのですが、ファッション系の専門学校に進学したかったので、学費を稼ぐために古着を売り始めました」(コウシロウさん)。
ネットでの販売は予想以上に好調で、月に50万円を売り上げることもしばしばだったという。高校卒業後に上京し、それまでに貯めたお金を入学金や学費にあて、専門学校へ入学。しかし、すぐに資金がつきてしまい後期の学費が払えず、1年生の夏に中退することに。ちょうどその頃、もともと交流のあった「はやとちり」の後藤さんに、キタコレビルへの出店を誘われた。
「専門学校を中退した後、ファッション一本で生きていこうと決意しました。服を作るためのアトリエも欲しかったし、自分が作った服や、それまでの古着の在庫を売る場所を作りたかったんです」(コウシロウさん)。
借りていた家を引き払い、店に寝泊りをしながら内装などの開店準備をすすめた。その間はネットの古着販売とアルバイトで開店準備金と生活費を稼いでいたという。こうして、半年間の準備期間を経て、ようやく「GARTER(ガーター)」をオープンした。
1階がオリジナルアイテム、2階は欧米やアジアなどから買い付けてきた古着で構成。古着はレディスが8割でメンズが2割、ハイブランドの衣類やバッグから民族衣装とテイストは幅広い。今期のテーマは、「80’s」だそうだ。
またオリジナルアイテムは、レディスがメイン。ターゲットは10〜20代前半の学生だが、実際の来店客には30代も多いという。
「ファッションで格好つけたいという想いを表現できればと思い、服作りを始めた」というコウシロウさん。影響を受けたのは、1920年代に活躍したフランスのファッションデザイナー、マドレーヌ・ヴィオネ。
「クリスチャン・ディオールやシャネルの前身的な存在で、革命前の革命を起こした人物です。絶対的な秘密主義者で、彼女の作った服のパターンや構造はいまだ明らかになっていないんです。そういうスタンスにも惹かれました」(コウシロウさん)
店内は、白壁とミラーで統一されており、どこか近未来的な雰囲気が漂う。いずれは、ミラーとステンレスだけで埋め尽くす予定なのだとか。「現在の店舗は、商店街から一本入ったところにあるので、秘密基地感覚で気に入っている」と話す。
上京してからずっと高円寺在住だというコウシロウさん。渋谷や原宿には、もともとあまり興味がなく、出店場所として考えなかった、という。
「両親が東京出身なので、子どもの頃から東京にしょっちゅう遊びに来ていました。その頃から高円寺にはよく足を運んでいて、街のすべてが好きです。地元・名古屋の大須という街に、雰囲気が似ているんですよ」(コウシロウさん)
続いて2009年4月にオープンしたのが、「シークレットDOG」。オーナーの佐竹海さん(36歳)は、98年に大阪で古着店「DOG」を創業。その後00年からは原宿とんちゃん通りで営業しており、今回、2号店として同店をオープン。
きっかけは、DOGの顧客だった「はやとちり」の後藤さんから、キタコレビルを紹介されたことだという。
「最初にキタコレビルを知ったときには特に新しいとは思わなくて、若い子たちが集まってボロ物件で店をやる、ありがちな感じだな、と思いました。特に物件を探していた訳ではなかったんですが、家賃が安かったので、アトリエ兼ショップを作ろうと出店を決めたんです」(佐竹さん)
商品はすべて80〜90年代の古着で、レディスとメンズが半々。原宿店と同様に店内を黒で統一し、80年代風のエッジが効いた雰囲気になっている。
現在も原宿在住で、00年から街を見続けてきた佐竹さんは、原宿と高円寺の違いについてこう語る。
「今の原宿はテーマパークみたいになっていて、すごく観光な感じです。洋服を見に来ているという感じではなくて、おもしろいと思うファッションを提案しても反応がない。とにかくフラストレーションがたまるんです。それに比べて、高円寺のお客さんは高い物には手を出さないけれど、じっくり商品を見るし、おもしろい商品から先に売れていく。そういった意味ではリハビリというか・・・やりがいがあるし、同時に息抜きに来ているって感じですね」(佐竹さん)
現在、看板は出さずに土日のみの営業だが、近々、隣の部屋との壁を抜いて店を拡大する予定。拡大後は毎日オープンし、ビジネスとしても本格的に展開する。
「やりたいことをやって、なおかつ売る、という両方をしたいですね。キタコレビルの他のショップオーナーには、『ワクワクするだけじゃ続けていけない。自分たちもレベルアップして、きれいなビルのきれいな店でも売れるような物を作らないと、これからは勝負していけないよ』って言っているんです」(佐竹さん)
きっかけは、DOGの顧客だった「はやとちり」の後藤さんから、キタコレビルを紹介されたことだという。
「最初にキタコレビルを知ったときには特に新しいとは思わなくて、若い子たちが集まってボロ物件で店をやる、ありがちな感じだな、と思いました。特に物件を探していた訳ではなかったんですが、家賃が安かったので、アトリエ兼ショップを作ろうと出店を決めたんです」(佐竹さん)
商品はすべて80〜90年代の古着で、レディスとメンズが半々。原宿店と同様に店内を黒で統一し、80年代風のエッジが効いた雰囲気になっている。
現在も原宿在住で、00年から街を見続けてきた佐竹さんは、原宿と高円寺の違いについてこう語る。
「今の原宿はテーマパークみたいになっていて、すごく観光な感じです。洋服を見に来ているという感じではなくて、おもしろいと思うファッションを提案しても反応がない。とにかくフラストレーションがたまるんです。それに比べて、高円寺のお客さんは高い物には手を出さないけれど、じっくり商品を見るし、おもしろい商品から先に売れていく。そういった意味ではリハビリというか・・・やりがいがあるし、同時に息抜きに来ているって感じですね」(佐竹さん)
現在、看板は出さずに土日のみの営業だが、近々、隣の部屋との壁を抜いて店を拡大する予定。拡大後は毎日オープンし、ビジネスとしても本格的に展開する。
「やりたいことをやって、なおかつ売る、という両方をしたいですね。キタコレビルの他のショップオーナーには、『ワクワクするだけじゃ続けていけない。自分たちもレベルアップして、きれいなビルのきれいな店でも売れるような物を作らないと、これからは勝負していけないよ』って言っているんです」(佐竹さん)
そして最後にキタコレビルに出店したのが「ilil(イルイル)」である。オーナーは、イギリス出身のレイチェルさん(31歳)。キタコレビル内で唯一の女性オーナーだ。
レイチェルさんはもともとイギリスで映画会社のアシスタントをしていたが、22歳の時に電車と船を乗り継いで世界各地を旅した後に来日。大阪で語学講師を1年間勤めた後、東京に居を移した。2005年頃からクラブイベント「meat(ミート)」を主宰し定期的に行ううちに、自然とアパレル関係者との交友が広がっていった。
その後2006年には、新宿二丁目の人気セレクトショップ「candy(キャンディ)」の立ち上げに携わり、ロゴやインテリアのデザイン、バイイングなどを担当。オープン後は販売スタッフとしても勤務していたが、立ち上げ時のクリエイティブな作業に魅力を感じ、自身のショップ「ilil(イルイル)」を立ち上げた。
2008年に、原宿のキャットストリートで週1日の営業からスタートし、その後、中目黒に移り週1日のみ営業。徐々にファンが増えてきた頃だったが、出店していたビルが老朽化により閉鎖されることになり、「ilil(イルイル)」も営業休止状態に。2009年4月頃より、セレクトショップWut berlin (ヴットベルリン)や渋谷のイベントスペース「TRUMP ROOM(トランプルーム)」などでゲリラ的に営業していたが、告知が十分にできなかったため、来店の機会を逃し残念がるファンも多かったという。
そして2009年11月、ようやく固定の店舗として出店したのが「キタコレビル」である。レイチェルさんにとっても、ファンにとっても待望のショップオープンとなった。
「知人の紹介でキタコレビルを訪れた時、とても興奮した!みんなが作ったリメイクアイテムを見て、インスピレーションが湧いたの。クリエイティビティが刺激されて、私もやりたい!もっとやりたい!って思った。今は、キタコレビルにいるみんなが私の先生よ」(レイチェルさん)。
内装はすべてレイチェルさんの手作り。店内中央には、大好きな80年代の映画をイメージしたレジカウンターを設け、試着室には友人のヘアメイクアーティストによるアートワークを施した。また電飾パーツやパチンコ台、ゴールドのピースマンなどユニークなアイテムで溢れ、狭い空間ながら独自の「ililワールド」が広がっている。
「ルールにとらわれないセレクトショップ」というコンセプト通り、商品構成は80’s、90’sの古着、リメイクアイテム、アンダーグラウンドブランド、駄菓子や性具など幅広い。セレクトの基準は、「自分が着たいものやボーイフレンドに着せたいもの。ユーモアがあって、カッコよくて面白いもの」(レイチェルさん)。
ターゲットは、スキニーでカラフル、派手な格好が好きな若い男の子。客層は原宿、中目黒時代とほとんど同じで、地方からもわざわざ訪れる人もいるという。
出店場所となった高円寺については、古い建物と新しい建物が混在しているところに魅力を感じたという。「高円寺に初めて来た時には、昔の大好きだった頃の下北沢を思い出して嬉しかった。高円寺の人たちはみんな家族みたいにアットホームで大好き」と話す。
「エリアに関係なく、ファンの子がお店に来てくれた時は本当に嬉しかった。今、若くておしゃれでファッション熱の高い子たちは、徐々に高円寺に流れて来ていると思う」(レイチェルさん)。
また、最近のファッションに関して、トレンドのサイクルが早すぎて、「STOP!」と叫びたくなる、と顔をしかめる。
「『H&M』とか大量生産された服を安く買って、すぐ捨ててしまうのはエコじゃないし、それらが何十年後に古着になるとも思えない。気に入ったものを長く着ること、古いものをカッコいい、素敵!と思うことが今、大事だと思う」(レイチェルさん)
近年、東京都心部では相次ぐ再開発にともない、大型の商業施設やファッションビルが急増。また、さらにアパレルメーカーのマーケットイン発想による弊害から、どのショップでも似たようなデザインのアイテムばかり、という「MD似すぎている問題」に陥ってしまっている。
そういった背景から、画一的なデザインの建築物や大量生産型のファッショントレンドに飽きた消費者が、既製品にはないオリジナリティ溢れるアイテムを求めて高円寺を訪れていることは間違いないだろう。さらに、今回のキタコレビルのような、派手で奇抜なテイストは、一部の90年代生まれの若者の間で浮上しているコスプレ感覚のファッションともフィットしており、彼らにとってこの有機的な街の雰囲気が逆に新鮮な「非日常」空間として映っているようにも感じた。
今後、90年代生まれがマーケットの中心に台頭するとともに、高円寺、そして、渋谷や原宿など東京の都市部がどのように変化していくのか注目したい。
ちなみに、5月20日には、キタコレビル内にルーマニア人オーナーによる喫茶店がオープンする予定だそうだ。
[取材・文/皆川夕美(フリーライター)+ACROSS編集部]
レイチェルさんはもともとイギリスで映画会社のアシスタントをしていたが、22歳の時に電車と船を乗り継いで世界各地を旅した後に来日。大阪で語学講師を1年間勤めた後、東京に居を移した。2005年頃からクラブイベント「meat(ミート)」を主宰し定期的に行ううちに、自然とアパレル関係者との交友が広がっていった。
その後2006年には、新宿二丁目の人気セレクトショップ「candy(キャンディ)」の立ち上げに携わり、ロゴやインテリアのデザイン、バイイングなどを担当。オープン後は販売スタッフとしても勤務していたが、立ち上げ時のクリエイティブな作業に魅力を感じ、自身のショップ「ilil(イルイル)」を立ち上げた。
2008年に、原宿のキャットストリートで週1日の営業からスタートし、その後、中目黒に移り週1日のみ営業。徐々にファンが増えてきた頃だったが、出店していたビルが老朽化により閉鎖されることになり、「ilil(イルイル)」も営業休止状態に。2009年4月頃より、セレクトショップWut berlin (ヴットベルリン)や渋谷のイベントスペース「TRUMP ROOM(トランプルーム)」などでゲリラ的に営業していたが、告知が十分にできなかったため、来店の機会を逃し残念がるファンも多かったという。
そして2009年11月、ようやく固定の店舗として出店したのが「キタコレビル」である。レイチェルさんにとっても、ファンにとっても待望のショップオープンとなった。
「知人の紹介でキタコレビルを訪れた時、とても興奮した!みんなが作ったリメイクアイテムを見て、インスピレーションが湧いたの。クリエイティビティが刺激されて、私もやりたい!もっとやりたい!って思った。今は、キタコレビルにいるみんなが私の先生よ」(レイチェルさん)。
内装はすべてレイチェルさんの手作り。店内中央には、大好きな80年代の映画をイメージしたレジカウンターを設け、試着室には友人のヘアメイクアーティストによるアートワークを施した。また電飾パーツやパチンコ台、ゴールドのピースマンなどユニークなアイテムで溢れ、狭い空間ながら独自の「ililワールド」が広がっている。
「ルールにとらわれないセレクトショップ」というコンセプト通り、商品構成は80’s、90’sの古着、リメイクアイテム、アンダーグラウンドブランド、駄菓子や性具など幅広い。セレクトの基準は、「自分が着たいものやボーイフレンドに着せたいもの。ユーモアがあって、カッコよくて面白いもの」(レイチェルさん)。
ターゲットは、スキニーでカラフル、派手な格好が好きな若い男の子。客層は原宿、中目黒時代とほとんど同じで、地方からもわざわざ訪れる人もいるという。
出店場所となった高円寺については、古い建物と新しい建物が混在しているところに魅力を感じたという。「高円寺に初めて来た時には、昔の大好きだった頃の下北沢を思い出して嬉しかった。高円寺の人たちはみんな家族みたいにアットホームで大好き」と話す。
「エリアに関係なく、ファンの子がお店に来てくれた時は本当に嬉しかった。今、若くておしゃれでファッション熱の高い子たちは、徐々に高円寺に流れて来ていると思う」(レイチェルさん)。
また、最近のファッションに関して、トレンドのサイクルが早すぎて、「STOP!」と叫びたくなる、と顔をしかめる。
「『H&M』とか大量生産された服を安く買って、すぐ捨ててしまうのはエコじゃないし、それらが何十年後に古着になるとも思えない。気に入ったものを長く着ること、古いものをカッコいい、素敵!と思うことが今、大事だと思う」(レイチェルさん)
近年、東京都心部では相次ぐ再開発にともない、大型の商業施設やファッションビルが急増。また、さらにアパレルメーカーのマーケットイン発想による弊害から、どのショップでも似たようなデザインのアイテムばかり、という「MD似すぎている問題」に陥ってしまっている。
そういった背景から、画一的なデザインの建築物や大量生産型のファッショントレンドに飽きた消費者が、既製品にはないオリジナリティ溢れるアイテムを求めて高円寺を訪れていることは間違いないだろう。さらに、今回のキタコレビルのような、派手で奇抜なテイストは、一部の90年代生まれの若者の間で浮上しているコスプレ感覚のファッションともフィットしており、彼らにとってこの有機的な街の雰囲気が逆に新鮮な「非日常」空間として映っているようにも感じた。
今後、90年代生まれがマーケットの中心に台頭するとともに、高円寺、そして、渋谷や原宿など東京の都市部がどのように変化していくのか注目したい。
ちなみに、5月20日には、キタコレビル内にルーマニア人オーナーによる喫茶店がオープンする予定だそうだ。
[取材・文/皆川夕美(フリーライター)+ACROSS編集部]