ドリフのファッション研究室
レポート
2010.05.10
ファッション|FASHION

ドリフのファッション研究室

〜シンポジウムスタイル=ギリシャ人は横になって酒飲んで話してたらしいよ〜

ファッション業界を横断し、漂流するトーキングセッション

 2010年4月、モードからストリート、生産、ジャーナリズムの問題まで、ファッションに関わるあらゆる局面の現在と未来について語るオープンなシンポジウム「ドリフのファッション研究室」がスタートし、注目を集めている。

このシンポジウムの面白さは、ファッション業界内に留まることなく、ファッションと同時代意識を共有したい異業種関係者やファッションを志す学生、そして一般ユーザーへと開かれているところだ。

2010年4月に2度、合計6つのセッションが開催されたが、それぞれ異なるジャンルで活躍するモデレーターたちが登壇し、ゲストパネラーや参加者とともにファッションを取り巻く現状について討議を重ねてきた。

平川武治/WWD/松下/武内/シアタープロダクツ/ファッション/ドリフ
クリエイターが作るものに知性を感じられるものが少なくなってきている、と平川武治さん(左)。『ユニクロ進化論』の著者でWWD ジャパンの松下久美さん(中)。1時間だけ駆けつけてくれたのはシアタープロダクツのデザイナー武内昭さん(右)。

運営しているのは
ドリフターズ・インターナショナルというNPO法人。シアタープロダクツ
のプロデューサーであり、いちアパレルメーカーの枠を越えた活動を展開する金森香さん、隈研吾建築都市設計事務所の設計室長で、また自らフジワラテッペイアーキテクツラボとしても活動する建築家の藤原徹平さん、そして、ダンス/演劇を中心にオルタナティヴ・カルチャー全般のプロデュースワークを行うプロダクション、プリコグ中村茜さんの3人が理事を務める。

「建築・パフォーマンス・ファッション・アートなど様々なジャンルから漂流してくる、エネルギッシュな日本のクリエーションをドンドン海外に漂流させて、あるいは海外のまだ見ぬクリエーションを日本にまで漂流させて、今までにないダイレクトかつメトロポリタンで、ポップでまじめな、万国旗的濃密さを持ったシーンを、さっさと近所の路地裏から実現させてしまいましょう」。(high fashion onlineの藤原自身のブログエントリhttp://fashionjp.net/highfashiononline/blog/fujiwara/2010/04/post.htmlより)というのが彼らの結成動機である。

彼らの活動のスタートとして開催された、この「ドリフのファッション研究所(以下ドリフと略)」は、まずはファッションをとりまく課題について、それぞれが客観的に現状を知り、問題を共有するための場を設けたい、という意識から実現したトークセッションである。金森さんによれば、シンポジウムの語源が古代ギリシャの“横になって酒を飲んで話し合うこと”にあるということをきっかけに、まずいま可能な形で問題意識を形にしてみたということだ。
シアタープロダクツ,ファッション,シンポジウム
全体を見守りつつ、ときどき鋭い質問を投げかけていた主催者の金森さん(後姿の女性)。

運営形態は、毎回会場を移しながら、およそ月1回のペースで開催される。第1回目が開催されたのは、
無人島プロダクションと吾妻橋ダンスクロッシングが共同プロデュースする新スペース「SNAC」。そして第2回がCET(セット)エリアのカフェ/定食屋「フクモリ

この会場選びからも、いわゆるファッション業界のトレンドセミナーやシンポジウムとは異なる、自分目線での場所づくりに向けた彼らの意図が感じられる。会場を点々と移りながらして開催していくという軽やかさ、ゲリラっぽさはドリフターズ=漂流者を名乗る彼・彼女ららしい個性ともいえる。
 
告知/集客やコミュニケーションには、インターネットのソーシャルメディアが中心。Webでの告知は各セッションのモデレーターやパネラー、会場のウェブサイト、そしてtwitterで行われている。

そして各セッションは毎回USTREAM(以下USTと略)で彼ら自身がリアルタイム中継を行っているのも、注目したいポイント。セッションを中継するUSTの画面上ではtwitterのタイムラインが表示され、会場で参加することのできなかった視聴者もPCからチャットに参加し、リアルタイムで質問をすることもできる。ファッションセミナーなどに参加する機会の少ない地方の関係者やユーザーにとっては嬉しい試みである。

これまでドリフが開催してきた6つのセッションは、モデレーターやパネラー、そして観客によって集まる層に若干の違いこそあるものの、いずれも発信する側と受け取る側の敷居が低い点が面白い。

既存のファッションセミナーは、たとえばトレンド解説者対リテーラー、あるいはデザイナー対学生、という風に発信者と受け手の位置関係は決まってしまいがちだが、ドリフは壇上と客席の上下関係がなく、極めてフラットだ。

また、モデレーター自身が興味を持ったゲストパネラーを呼んでくるため、近い問題意識を持ちながらも多様な観客が集まっている印象だ。質疑応答の時間にも、会場/UST視聴者を含めて質問が活発に寄せられていた。
平川武治/WWD/松下/武内/シアタープロダクツ/ファッション/ドリフ
狭い会場は熱心に聞き入る参加者で大盛況。実はほとんどがファッション・アパレル関連業界に従事している人たちだった。
会場はUst(ユースト)しつつ、模造紙にマジックでキーワードを書き出すハイテクとアナログのダブルバインド。
右から『DROP』の編集長の横田大介さん、『changefashion』の滝田雅樹さん、そして、「6月に復刊」というビッグニュースを発表してくださった元『STUDIO VOICE』の編集長加藤陽之さん。
第1回目の会場「SNAC」は、無人島プロダクションと吾妻橋ダンスクロッシングがプロデュースするギャラリースペース。清澄白河の住宅街に唐突に誕生し、連日賑やかな近隣の人たちも興味津々だった。

ドリフ
に携わるモデレーターやゲストパネラーたちに共通して感じられたのが、現在ファッション業界とその周辺に漂う危機感である。ファッションは産業としても文化としても大きなターニング・ポイントを迎えている。ざっくばらんに議論できるような会場設定や空気づくりが行われていることもあって、カジュアルではあるが、どのセッションでも突っ込んだ質問やコメントが飛び交っていた。デザイナー、メディア、学生、そして一般のファッション好きまでが、フラットに議論できる貴重な場として、今後重要な場になっていきそうな予感もある。
 
しかもUST中継があるため、セッションそのものにライブで参加できなくても、ネット環境さえあれば視聴は可能な点も重要だ。ファッションのセミナーに限らず、カルチャー分野のリアルイベントは、やはり大都市、特に東京/関西圏に集中しているのが現状。しかしドリフのようにソーシャルメディアを活用することで、時間や場所の制約を取払うこともできるのである。

トークイベントや座学の場合、観客が集中して聞くことができる時間には限りがある。どれだけ議論が深まっても、単発のトークイベントには制約があるのは否めないところだ。しかし今回、第1回目に開催された一連のセッションの中から、テキスタイル産業の現状に関する問題意識が立ち上がり、そこから第2回目のセッションへと繋がった点に注目したい。

金森さんによれば、これまで観客席の側にいた参加者からも“こんな講座を開きたい”という参加表明がすでに寄せられているという。場所や人などは変わっていきながらも、同時に議論はどんどん深めていくことができる、というのがドリフの最も面白いポイントではないだろうか。今後、その過程で浮上した問題式を共有化し、アーカイブ化していけば、より大きなうねりを生み出していくことも可能だろう。

ソーシャルメディアを背景とした新しいスタイルのシンポジウムイベントとして、ファッションのジャンルにとどまらず拡大していくことを期待したい。


取材・文:本橋康治(フリーライター)


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