PUBLIC/IMAGE.3D
レポート
2010.07.14
カルチャー|CULTURE

PUBLIC/IMAGE.3D

情報のストリームを生み出すオルタナティブスペース

3月26日〜4月14日に開催された
galaxxxy「gugenka」Exhibition
のようす。
アパレルブランドgalaxxxyがキュレー
ションした7組のアーティストによる
グラフィック作品を展示・販売した。
galaxxxyの大ヒット商品「魔法の天使
クリィミーマミ」Tシャツ。
オタクカルチャーとも積極的にリンク
しているのが同ブランドの特徴。
クリエイティブユニット「iseneehihinee」
(他社比社)」と、野外フェスティバル
の演出などを手がける空間演出チーム
THE BLUE-RAYS」のインスタレー
ション「TIMERS NOW」

 クリエイティブ・カンパニー「ANSWER(アンサー)」が運営するオルタナティブスペース「PUBLIC IMAGE 3D(パブリック・イメージ・スリーディー/以下3Dと省略)」が、オープンから多彩なジャンルの企画を連発し、注目を集めている。

 ロケーションは東急田園都市線・池尻大橋駅から徒歩2分の住宅地。0911月に同社が移転したのを期に、事務所スペースとビルの1Fフロアを共有する形で開設された。

 

 この3Dでは、展覧会やトークイベントなどのリアルイベント展覧会/展示会を月に2回、トークイベントを月に1回以上のペースで開催。外部企画への貸し出しも行っているが、基本的には同社の自主企画が中心だ。 

 運営母体となるANSWRは、アートディレクションやウェブ制作、イベント制作から建築設計まで、幅広いジャンルの仕事を手がけるクリエイティブ・カンパニーである。同社の代表取締役・針谷建二郎さん http://www.kenjiroharigai.com/ 自身もアーティストとして活動しているクリエイターだ。

 

 しかしこの3Dは、グラフィックデザインやアートに限定せず、映画『鉄男 THE BULLET MAN』とのタイアップイベントや、オタクカルチャーを含む多様なジャンルとも接点を持つカジュアルブランド「galaxxxy(ギャラクシー)」の展覧会など、ジャンルを超えた編集感のある企画を開催しているのが重要なところ。アートの世界でも注目を集めるChinPomも登場するなど、スピード感のある企画を次々に繰り出している。毎週何かしら、面白い企画がここから発信されているという印象である。

「最初から3Dをアートギャラリーとして運営するつもりはありませんでした。スピード感のある面白いイベントを、ジャンル別のソートにこだわらずにセレクトしています。アートギャラリーが乱立しているところに新しく参入するのではなく、まず業界にこだわらず面白いことをやっていく方が伝わるし、結果として世の中にも貢献できると思うんです。普通の人が見て面白いと思ってもらえるようなものに広げていきたいですね」

と針谷さんは語る。

 同社ではこの3Dだけでなく、様々な自社プロジェクトを「PUBLIC/IMAGE.LABEL」というメディアレーベルのもとで展開している。針谷さんの“自分たちのPublic Imageは自分たちで作る”という理念から名付けられたものだ。

 活動のスタートは05年創刊のフリーマガジン「Public/image.magazine」創刊。同誌は無料のインディペンデント・マガジンながら、NIKEとのコラボレーションを実現させるなど、クリエイターから注目を集める存在だった。

 07年にANSWRを設立した後はグラフィックからwebメディアへと活動のフィールドを広げ、ポータルサイト「Public-image.org」をスタート。ここをプラットホームとして、音楽レーベルの運営、アーティストのマネジメントなど、活動のフィールドを広げてきたのである。

ほぼ毎週、多彩なリアルイベントを開催。
「小さい企画を沢山、スピード感をもって
やっていく事が今の時代に合っていると
思うんです」針谷さん。
6月29日にはイラスト専用SNS「pixiv」
リニューアルを記念して「pixiv NIGHT」を
開催。
イラストレーターJNTHEDさんと、アーティ
ストの梅沢和木さんによるライブペインティ
ングトークショーを行った。
7月16日からは最先端テクノロジーの
研究や、Webのプロデュース、アート
まで幅広く活動を行うTEAMLABによる
『COORDINATION』がスタート。
ハンガーをモチーフにファッションに
おける新しい表現メディアを発表する。
同スペースがあるのは、池尻大橋駅
徒歩3分の場所。渋谷や代官山、
中目黒などのカルチャースポットから
外れていることが、むしろプラスに
なっているそうだ。
  針谷さんが多彩 なリアルイベントの重要性に注目するきっかけになったのが、088月にニコニコ動画の協賛で開催したひろゆきさん(ニワンゴ取締役etc)と宇川直弘さん(グラフィックデザイナー/美術家)のトー クショー「弾幕ないと」 だという。それまで運営してきたウェブサイトではクリエイターへのインタビューや対談を主要なコンテンツとしていたが、このイベントを外部のスペースで開 催したところ、予想を超えた動員があり、沢山のリアクションが集まった。

「面白い組み合わせのトークイベントなら、ウェブメディアでの告知だけでも人が集まる、と実感するようになりました。ただし、大きなカンファレンス形式のイベ ントを何回も続けていくのはしんどいし、いずれ供給過多になると感じました。ウェブメディアのあり方を考えれば、大きな企画を何ヶ月もかけて作るのではな くて、小さい企画を沢山、スピード感をもってやっていく方が今の時代には即しているのではないかと気づいたんです」(針谷さん)

  スペース運営における3Dの基本的なスタンスは、作品の展示/販売で成立するアートギャラリーでは なく、展示に関連した雑貨や書籍、あるいは新しく商品を作って販売するショップである。展示スペースの入り口には、開催中の企画に関連するアイテムだけで なく、彼らがセレクトした雑貨やアートグッズなどが並んでいるため、ギャラリー特有の敷居の高さがなく入りやすい。

「小さい単位でも、雑貨や本を売ることが、結果的に編集やデザインのスキルにつながっていくんです。何千/何万というロットの大量生産ではなくて、サンプルを 作るくらいの感覚でもいいんです。自分たちが面白いと思ったものが商品として具体化して、その反響を見ることができるということが、クリエイターにとって も貴重な経験になるんです」(針谷さん)

  ショップとしての側面を持つことは、周辺の地域との共存を図る上でも意味を持つ。池尻大橋周辺はごく普通の住宅地。イベントによっては音が出たり、人が集 まることもあるため、地域住民の理解は欠かせない。その点、3Dの近隣には先行してIID (Ikejiri Institute of Design/世田谷ものづくり学校)が存在している。地域住民が アートの展覧会やイベントに慣れているという面で、3Dにとってはプラスに働いたという。

  針谷さんによれば、渋谷や代官山、中目黒などのカルチャースポットからいずれも1駅程度という微妙に不便な距離感にあるロケーションは、3Dにはむしろプラスになっているそうだ。

「ウェ ブ経由で集客ができる今は、利便性がよければ場所はあまり関係ないと思うんです。むしろギリギリ面倒じゃないくらいの外れた場所にある方が逆に面白い。例 えば、イベントを告知する時にツイッターでの反応を見ていると、池尻大橋というワードが“バズる”んです。なんで池尻大橋なんだろう?ということがバズる ことで、より伝わりやすくなる」(針谷さん)


  すでにクリエイティブクラスからは認知を獲得しているPUBLIC/IMAGE.レーベルだが、 ウェブサイト、スペースそれぞれ単独で採算を取るのは難しい状態だという。しかし、ジャンルにまたがってコンテンツシェアリングを行うことで、全体のボ リューム感を出すことができる。サイトの運営、制作から3Dでのイベントや動画制作などに活動の幅 を広げるうちに、トータルでペイできるようになってきたという。

  「先行世代がやっていない、面白いことをひたすら前向きにやりまくっているうちに、ようやくマネタイズの仕組みが追いついてきた感じです。最近になって急 速に時代が変化してきて、それぞれが連動できるようになってきました。ここ(3D)で展示会などを 開催することで、例えば広告制作の仕事などで声をかけてもらったこともあります。結果として仕事につながることが増えたんです」(針谷さん)

  今後は空間としてのブラッシュアップ/バージョンアップを図りながら、この3Dから発信されるUSTREAM番組などを充実させ、独自のコンテンツを発信していく計画だ。「PUBLIC/IMAGE.」レーベルのもとで、モジュール化された情報が大量に集まるメディアのストリームを 作る、という彼らの狙いは、未公開のプロジェクトを含めて、すでにかなり具体化が進んでいるという。

  自らメディア環境を作り、ジャンルの壁を越えたキュレーションを展開する彼らの活動をリアルで体験できるスペースとして、3Dには今後も要注目である。


[取材・文/本橋康治(フリーライター)]



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