今回「CANDY」が入る3階建てのビル「FAKE(フェイク)」は、ビル一棟をひとつのアミューズメントスポットと捉え、買うだけでは終わらないファッションを楽しむスペースとして各フロアを演出。同ビルは、下北沢のヴィンテージショップ「HAIGHT&ASHBURY(ヘイトアンドアシュバリー)」が運営し、1階の「CANDY」の他にも、2階には同社が運営するドレッシーなアイテムが豊富なブティック「Sister(シスター)」(明治通りより移転)、3階には新たな試みとしてファッションを軸にした展示を行うギャラリースペース「GALLERY FAKE(ギャラリーフェイク)」を併設した。営業時間は12時~22時、店舗面積は3フロアを合計して約90坪。
ギャル系やファストファッションの店舗が軒を連ね、夜は飲み会の客でごった返す渋谷センター街に出店した理由を、同社ジェネラルマネージャーの濱中さんはこう語る。
ギャル系やファストファッションの店舗が軒を連ね、夜は飲み会の客でごった返す渋谷センター街に出店した理由を、同社ジェネラルマネージャーの濱中さんはこう語る。
「渋谷の中心に出店することで、化学反応を起こしてみたいと思ったんです。渋谷はギャルから、ストリート系の若者、サラリーマンまでが一同に集う、すごく“トーキョー”らしい場所。そんな東京のカルチャーがミックスされた場所で、今までコミュニケーションがとれていなかったお客様や、潜在的なお客様、ファッションとは違う文脈の人まで、いろんな人たちに『FAKE』に来て頂いて、ファッションって凄い!と思ってもらえるだけでも意味があると思うんです」(濱中さん)。
メインの客層は10代~20代のファッションに敏感な学生や若者。時にはセンター街を行き来するギャルや、近隣にあるフィットネス帰りのミセス世代も来店するという。また日中に原宿で遊んでいた若者が、夜は渋谷に食事に来るという流れも多いそうで、20時以降に混みはじめるそうだ。仕事終わりの美容師やショップの店員が訪れるのも、22時まで営業している同店ならでは。展示が入っていないときは3階の「GALLERY FAKE」をサロンのように開放してアルコール類の提供もしているため、ファッション業界人やファッション好きが集う情報交換の場にもなっている。
また移転後は、以前から「CANDY」に興味はありながらも、新宿2丁目という馴染みのない立地により来店しにくかったというお客さまにも足を運んでもらえるようになったという。実際に移転後の来客数は、約10倍近くにまで増えたのだそうだ。移転前には、「CANDY」と「Sister」の客層の違いから、同じビルに入居した際に、相互のイメージがうまくかみ合うかという懸念もあったそうだが、結果的には客層を広げることに成功したようだ。
「以前『Sister』では女性のお客様がほとんどでしたが、『GALLERY FAKE』と『CANDY』がひとつのビルに入ったことでカップルでの来店も増え、1階で彼が『CANDY』を見た後、彼女と一緒に2階の『Sister』を見に来られるなど、男性客が2割近くまで増えました。またギャラリーに訪れるファッションやアート系の学生などから、生地のディティールや商品の年代に関してなど、専門的な質問が増えましたね」と話すのは、「Sister」ショップスタッフFUYURIさん。
商品ラインアップでは、「CANDY」 「Sister」ともに国内外のブランドセレクトの比重を増やした。「CANDY」ではセレクトとユーズドを半々にし、 ロンドンのアンダーグラウンドシーンを沸々と盛り上げている若手ブランドからビッグメゾンまで取り扱いの幅を広げている 。「Sister」は、ヴィンテージに加え今季からセレクトを全体の半分 まで引き上げた。セレクトは、海外のアクセサリーブランド「ERICKSON BEAMON(エリクソン ビーモン)」や「Stephen Jones(スティーブン ジョーンズ)」 など、小物類が大半を占める。ヴィンテージの平均単価は1万円前後、アクセサリーは3~4万円で、ヴィンテージのドレッシーなスタイルに合う一点豪華主義のアイテムを中心にセレクト。その他にも「Sister」では「幅広い年齢層の方が日常使いできる、女性ならではのアイテムを提供したい」という想いから、スタッフがデザインしたオリジナルタイツを販売し好調だという。
また「GALLERY FAKE」では、LADY GAGA(レディー・ガガ)のコスチュームを手掛けたことでも有名なファッションデザイナーCraig Lawrence(クレイグ ローレンス)、また「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」のファッションデザイナー山縣良和が運営、講師を務めるファッションデザインの教室「ここのがっこう」の生徒達によるエキシビジョンなどを行ってきた。ライブペインティング等のパフォーマンスにも積極的に取り組む他、展示期間中はできるだけデザイナー本人がギャラリーに立つようにするなど、デザイナーと客が交流できる空間を目指している。
「ファストファッションがマス化していく中で、ファッション=ファストファッションと捉えられがちですが、それはファッションの一側面でしかありません。ファッションは『安い』『かわいい』だけでは完結しないもの。表面的な買う行為だけでなく、じっくり楽しんで深く知るファッションがあってもいいのでは?という思いから、ギャラリーを作りました。ふだんファッションデザイナー本人と直接話をする機会はあまりないですよね。非常にアナログ的ですが、これからは一瞬ではない長い関係性や繋がり、コミュニケーションの場が重要だと思っています。そして何よりもお客様に一番近い、スタッフのコミュニケーション力や人間力をよりアップさせていくことが、今後の課題ですね」(濱中さん)。
先日、幣サイトが企画し渋谷パルコでも開催した、ファッションに関わるあらゆる局面の現在と未来について考えるトークイベント「ドリフのファッション研究室」(幣サイトの取材記事はこちら)をはじめ、リアルに繋がりコミュニケーションできるイベントや場所が増えてきている。「GALLERY FAKE」を擁する「FAKE」もそのひとつとして、また渋谷におけるカルチャーの新しい発信地としても注目していきたい。
〔取材・文:『ACROSS』編集〕