ここ数年、港区・青山界隈に自転車メーカーのアンテナショップや、デザイン性の高いスポーツサイクルを取り扱うショップが続々オープンし、自転車ファン以外からも注目されている。特に、外苑西通りの南青山3丁目から神宮前2丁目にかけてのゾーンにショップが集中している。
なかでもスポーツサイクル専門店「なるしまフレンド(http://www.nalsimafrend.jp)」は、舗装路のレース用に作られた“ロードバイク(ロードレーサーとも呼ばれる)”を扱う老舗として、全国のスポーツサイクルファン憧れのショップだ。同店は、2010年4月に千駄ヶ谷店(1981年2月開業)と原宿店(2005年8月開業)の2店舗を統合し、「なるしまフレンド神宮店(http://www.nalsimafrend.jp/shop/jingu.html)」として新たに大型店をオープンした。
「普通、自転車屋は9:1で完成車を多く扱っていますが、うちは昔から自転車本体の割合が少なく、5:5、むしろ6:4の割合でパーツの方が多いくらい。常にユーザーがお店に来たくなるような提案をできるよう、パーツや雑貨を充実させています」。
と語るのは、神宮店店長の鈴木淳さん。
フレームやホイール、タイヤなどのパーツには例えば60万円のホイールのようなハイエンド・ユーザー向けの商品もあるが、一方で初心者向けのアイテムまで、店内に並ぶ商品の幅は広い。
自転車通勤者や女性ライダーなど、ロードバイクのユーザーも多様化が進んでおり、日常使いにも対応できるようなファッション性の高いウェアやバッグ類も充実している。この「なるしまフレンド神宮店」では女性向けのパーツやウェアを揃えた女性コーナーを新設。ウェアはもちろん、最近では女性の骨格や体格を考慮して作られた専用のフレームやサドルなども作られるようになってきたという。
「最近は女性にもロードバイクのユーザーが増え、現在は1〜2割が女性です。年代別では、やはり所得や時間に余裕のある30〜40代が中心ですね。移転後は初心者の来店も増えましたが、そうした方たちにスポーツとしての自転車を伝えながら、コアなユーザーに育てていきたい」(鈴木さん)。
「なるしまフレンド神宮店」のスタッフはメカニックなどを含めると計14名。店舗に比較すれば多い印象だが、サービスを充実させるためメカニックだけでも6名を擁する。販売した商品だけでなく、持ち込んだ自転車に関しても調整や修理、アドバイスなど対応してくれるという。
そして、この「なるしまフレンド神宮店」の最大の特徴といえるのは、駐輪可能な中庭を設けていること。自転車で来店したユーザーは、エントランス横に設けられたスロープからガーデンスペースに入り、自転車を置いて自由に休憩したり、ゆっくり買い物を楽しむことができる。
中庭には60台の駐輪が可能だが、休日は満車になることもあるそうだ。しかも外の通りからは隔てられた環境にあるので、路上駐輪で懸念される盗難のリスクも小さい。1台数十万円、時に100万円を超えることもあるロードバイクのユーザーにとって、この心理的な安心感は大きいだろう。同社では「なるしまフレンド立川店(http://www.nalsimafrend.jp/shop/tachikawa.html)」にも休憩所を設けるほか、八王子にも「八王子E-D」という無料の休憩所を運営している。
さらに、同社ではサイクルイベントの開催やクラブ運営なども活発に行っている。会員数は現在約600名。定期的に開催されているイベントだけでも、毎週行われるクラブラン、月3回のシニアラン(60歳以上が対象)、さらに一般参加を含めた規模の大きいイベントを春と秋・年に2回開催している。宿泊ありのツーリングにも、約150名が参加するという盛況ぶりだ。
「ロードバイクの販売だけでなく、楽しみ方などソフト面を提供するという目的で、会員を対象に活動をしています。スタッフも実業団としてレースに参加するなど、全員がなんらかの形で自転車に関わっていますから、知識も豊富なんです」
と言うのは、同社代表取締役社長の鳴嶋勇さん。現在60歳を越える鳴嶋社長ももちろん現役ライダーで、同社運営のシニアランを主催するなど積極的に活動している。このようにシニアになっても継続して楽しめるのが、スポ−ツサイクルの大きな魅力といえるだろう。
と言うのは、同社代表取締役社長の鳴嶋勇さん。現在60歳を越える鳴嶋社長ももちろん現役ライダーで、同社運営のシニアランを主催するなど積極的に活動している。このようにシニアになっても継続して楽しめるのが、スポ−ツサイクルの大きな魅力といえるだろう。
「もともと本業はモノクロ写真の現像所で、レーシングクラブは実兄でもある鳴嶋英雄会長の趣味だったんです。しかし、当時はパーツも高かったので、クラブ会員に消耗品を安く供給することを目的に、共同購入をしていたのが弊社の始まりです」(鳴嶋社長)。
81年に新宿区千駄ヶ谷に旧神宮店をオープン。当時は上野に自転車ショップが集中していたため、競合が少なく、近くに東京都体育館などスポーツ施設の多いという理由から千駄ヶ谷を選んだという。続いて都心では2店舗めとなる原宿店をオープンしたのは2005年で、こちらは当時増えはじめたロードバイクの初心者向けショップとして棲み分けを図った。今回の店舗統合は、この中庭付きの物件との出会いがあって実現したものだ。
こうして長くスポーツサイクルに関わってきた同社によれば、ロードバイクには堅実ながらも安定した基盤があり、00年前後に訪れたマウンテンバイクの大ブームの影響もなかったという。それが急速な拡がりを見せるようになったのはここ4〜5年のことだという。これには、健康、環境への関心の高まりや、トライアスロンやランニングなど、ファン層の共通するスポーツ熱の高まりなど、複合的な原因が考えられる。
スポーツとしての楽しさに加え、都市型パーソナル・モビリティとしての可能性など、自転車マーケットには今後も追い風が吹きそうだ。自転車界最高峰のレース「ツール・ド・フランス」に日本人として初めて2年連続出場、完走を果たした新城幸也選手のような、象徴的なスター選手も登場している。
「自転車ブームとは言われているけれど、まだこんなものじゃないと思うんですよ。殆どの人は自転車に乗れるわけだし、自転車さえあれば楽しめる、気楽にできるスポーツです。現在のママチャリの需要を考えれば、ロードバイクにもまだまだ成長の余地はあると思いますし、成熟する必要がある。
それに伴い、楽しみ方だけではなく、マナーやセーフティライドを伝える啓蒙活動がさらに重要になるでしょう。売って終わりではなく、スポーツとしてのマナーを伝えていくことが、次のうちの役割だと思っています」(鈴木店長)。
スポーツサイクルのファン層が急速に広がってきた現在だからこそ、自転車の楽しみ方を伝える地道な活動も重要になってくる。スポーツサイクルの頂点であるロードバイクのユーザーは、自転車文化成熟へのモデル的存在になるべき人たちでもある。「なるしまフレンド」のような専門店がシーンに果たす役割は、ますます大きくなるはずだ。
[取材・文/本橋康治(フリーライター/エディター)+『ACROSS』編集]