「sakumotto」の代表・作本潤哉さんは、1975年生まれ。セツ・モードセミナー、多摩美術大学造形表現学部卒業後、代官山のインテリアショップの勤務を経て、家具やインテリア小物の輸入・製造・卸売・小売、またデザインなどを手掛ける「トリコ・インターナショナル」に入社。2009年に退社した後は、横浜市青葉区の現代美術展「AOBA+ART」や、ディレクター個人を出展単位とするアートフェア「ULTRA002」などに参加してきた。
「sakumotto」という名前は自身の名字をもじったもので、一連の活動に参加する際、ブックショップ「ユトレヒト」のオーナー江口宏志さんが命名したもの。 「sakumotto」として独立したタイミングで「HAPPA」が入居者を探していると紹介を受けた。
ユニークなのは、作本さんが当初からここをオフィスとしてだけでなく、作品の展示や販売のための開かれたスペースにもしようと考えていたこと。
「もともと前の職場でも、ショップの脇に事務所があり、接客をしながら同時に営業をしたり、合間には展示の企画もするような環境だったので、オフィスをオープンにするのは抵抗がありませんでした。ショップは不特定多数の人が訪れる場所。訪れた人がどういう反応を示すかをリサーチして、それを営業に生かすこともできますから。ウェブで見せるだけでは使っている人の仕草も見えてこないし、リアルな場所がほしかった」(作本さん)。
そこで、すでに入居中の3社がオフィスとして使用するロフト脇の5坪のスペースに「sakumotto」のショップ、ギャラリー、オフィスをオープン。「HAPPA」というシェアオフィス兼ギャラリースペース内に、さらに多目的スペースである「sakumotto」が内包されているかたちだ。「HAPPA」を共有する他のオフィスとは、それぞれがデザインよりのアート、アートよりのデザインと違いはあれど、仕事のフィールドも近く、影響され合う間柄。
「外出するときは、ちょっと店番を頼んだり、逆に留守番を頼まれたり」(作本さん)と、シェアオフィスならではの特権もあり、現在は「sakumotto」が「HAPPA」ギャラリースペースのリース対応など運営管理の窓口業務も行っている。
ショップに訪れるのは、アート、デザイン、インテリアなどに興味を持つ20代〜40代の男女が中心。オープンしたばかりの現在は、「青山|目黒」による展覧会や「HAPPA」ギャラリーでの企画展・イベントを機に、このスペースを知る人が多いが、近隣で働く人がふらっと立ち寄ったり、口コミで少しクセのある作品を求めて訪れる人も増えているという。
アート、デザイン、インテリア、ファッションなど、国内外の約15のデザイナーやアーティストの作品を扱うが、「ちょっと変わったものが多いかもしれないけど、コンセプトがあるもの」がセレクトの基本。
デザインユニット「enamel.(エナメル)」が手掛けるバッグや、ファッションブランド「spoken words project(スポークン ワーズ プロジェクト)」のアイテム、京都を拠点に活動する「hokuro(ホクロ)」のカラフルなアクセサリー、また、家具制作や空間デザインを行う白鳥浩子さんが手掛けたシェルフなどなど、作本さん自身が作家と個人的につながりを持ち、ストーリーのある作品を選んでいるからこそ「作家の人となりまで伝えたい」という。
また、アーティスト自身がここを訪れて、そこから新しいプロジェクトが始まることもあるというのは、単なるショップの枠に収まらない「sakumotto」ならでは。オフィスをショップやギャラリーとして開放したら、仕事がしにくいのでは?という取材前の心配はまったくの杞憂で、ショップだからこそ「もの」を介して会話が始まり、多くの人と知り合うきっかけになるのだそう。
「伝えないと伝わらない商品がある。前職でそれをやっていくうちに、おもしろさに気付いたんです。ショップでの反応をフィードバックして、商品を改良することもあるし、アーティストさんやデザイナーさんにとって、何かのきっかけが生まれる場所にしたい」(作本さん)。
「sakumotto」のモットーは、「ジャンルにとらわれないクリエイティビティの創出とサポート」。インテリアやデザイン関係の企業からの依頼で営業やディストリビューション代行を行うこともあれば、ミュージアムショップの展示企画を手掛けたり、またオリジナル商品企画や気の合う仲間とアートイベント企画立案をするなど、「sakumotto」という場を拠点にしながら「自分の仕事をゼロから作る」が作本さんの仕事の特徴だ。
ショップで現在のようなジャンルを超えたユニークなセレクトが可能なのも、作本さん自身が作家と直接繋がり、一緒にプロジェクトを企画して、場合によっては営業や販売までも手掛けるなど、ものづくりのすべてのプロセスに一貫して関わっているからこそ。
「フリーランスで誰かと関わって一緒に仕事していると、別の誰かからまた声が掛かることも多いんです。ショップという場所があるというのも大きい。場所をオープンにすることで、何かが生まれてくることに興味がある。影響されたいのかも知れないですね。まわりから影響を受けたいし、誰かから求められる存在にもなりたい。矛盾していますけど、ショップだけどものを売り買いする以外のつながり方ができないかな、とも考えたりします。だから、売っているのは『もの』だけの『もの』じゃない。実は『もの』よりもアイデアを売りたいのかもしれない」(作本さん)
「HAPPA」や「sakumotto」というスペース自体や、作本さんの仕事に対する考え方、作本さんと作家との関わり方に見られる「シェアする」「オープンにする」「個人単位」「つながり」というキーワードには、FacebookやTwitterなどに代表されるソーシャルメディアでのコミュニケーションとの共通性が感じられる。自由でオープンなスペースで個人が積極的につながることで、今までにない新しい何かが生まれてくる予感が「sakumotto」にはある。
〔取材・文:佐久間成美/エコライター〕