東京都渋谷区宇田川町、東急ハンズ向いのノア渋谷ビル。90年代にはレコードショップやインディーズレーベルの事務所が多数入居していた、レコードタウン宇田川町のランドマーク的存在でもある。
その一室に、実は2009年4月からひっそりと店舗を構えるアパレル&レコードのセレクトショップ「ViOLET AND CLAiRE(バイオレットアンドクレア)」を発見。弊誌で取上げた「DROP POPUP STORE(ドロップポップアップストア)」で一日限定イベントを行うなど、20代を中心にコアなファンが訪れていることから、改めて取材することにした。
オーナーの多屋澄礼さん(25歳)は、女性6人からなるDJチーム「twee grrrls club(トウィーガールズクラブ)」やインディーズレーベルViOLET AND CLAiRE(バイオレットアンドクレア)を主宰。他にも音楽ライターとしてファッション誌『FUDGE』やライナーノーツなどでディスクレビューを執筆するなど、音楽を中心に幅広い活動を行う人物である。
小学生だった90年代半ばに、当時ブームだったブリットポップを聴いて音楽に目覚め、中学生から宇田川町のレコードショップに通ってレコードを買い集めるようになる。高校生の頃にはレコードショップでアルバイトをしながらクラブDJとしての活動をスタートした。大学卒業後は某不動産デベロッパーに就職し、働きながらDJとして活動を行っていたが、そんな時、行きつけだった宇田川町の「APPLE CRUMBLE RECORD(アップルクランブルレコード)」のオーナーから、「実店舗を閉めて、オンラインのみでの展開にしようと思っているんだけれど、この場所で店をやらない?」という話を持ちかけられ、出店を決意したそうだ。女の子に向けたレコードショップが少ないので作りたいという思いがあったこと、会社員とDJの両立が難しくなってきたことなどから、会社員生活に1年でピリオドを打ち、「APPLE CRUMBLE RECORD」閉店後のスペースにショップをオープンした。
コンセプトは、“音楽好きの女の子のクローゼット”。イギリスやアメリカなどから集めたかわいいもの、個性的なものを多屋さんがセレクトし、女の子のために発信していく。
「イギリスなどの音楽好きの女の子はとてもおしゃれ。安い洋服を工夫してかわいく着こなして、そのぶんライブに行ったり、CDを買ったりすることにお金をかけています。モノがなくても文化的に豊かな感じがして。一方、日本ではファッション好き=洋服にお金をかけることになってしまっている気がするんです。日本でももっと“カルチャー消費”をしてもらえるよう、当店は音楽もおしゃれも楽しめるアイテムが揃うショップにしたいんです」(オーナー/多屋澄礼さん)
商品構成は、レコードやCD、音楽系ZINEなど音楽に関するアイテムが3割、洋服が3割、アクセサリーが4割。洋服はTシャツやワンピースなどで、アクセサリーは1点ものが中心。女の子らしくてかわいいながらもどこかユニークさがあるものをセレクトしており、レコードが入るトートバッグなど、音楽好きならではの商品も揃う。取扱ブランドは「Tatty Divine(タティ・デヴァイン)」「Beyond The Valley (ビヨンド・ザ・バレー)」などで、「路面店ではない小さい店なので、お客様に媚びた商品選びをしなくてすむので、ここにしかない個性的な商品を集められます。アンテナを張っている方にはきっと気にかけてもらえる場所なので、そういう方の“私だけが知っているお店”にしてもらえると嬉しいです」(多屋さん)。レコードなどはイギリスやアメリカ、北欧などのインディーポップが中心。音楽にお金を費やす人でも手に取りやすい価格設定にしており、価格帯はTシャツ3,000〜4,000円程度、その他洋服1万円程度、アクセサリー500〜1万円。
メインターゲットは10代後半〜20代前半だが、年齢に関係なく、音楽好きやかわいいものが好きな層に広く発信する。実際の来客層は20代前半が中心で、男女比は2:8。音楽関係者や、多屋さんのDJを聴いて興味を持った人、これから洋楽を聴きたいと思っている10代の若者などが訪れるそうだ。また、土日は地方客も多く、同店のオンラインストアでも北海道から沖縄まで地方からの購入者が少なくないそう。
女の子らしい空間づくりに注力した、という店内は約9畳。レコードショップだった当時の内装をほぼそのまま活用し、友人からもらった食器棚を商品棚にしたり、ラックや試着室を手作りで設置するなど、DIY精神溢れる空間となっている。
「90年代後半ごろの渋谷、特に宇田川町は、レコードショップを中心に、DJやクラブ、ライブハウスなどの音楽シーンがすごく盛り上がっていました。インディーズレーベルがたくさんできたり、音楽雑誌も創刊されたり、若い人たちがカルチャーを引っ張っている感じにとても憧れたんです。渋谷でも、小さな場所なら少ないリスクで運営できるので、若い人でも出店可能だと思います。今では宇田川町はレコードタウンではなくなってしまったけれど、私たち世代の人たちが新しいことをやれたら、渋谷はもっとおもしろくなると思います」(多屋さん)。
同店や弊誌で取上げた「Xanadu(ザナドゥ)」や「Amen(アーメン)」、スナップサイト「DROP」など、アラウンド25歳が起業したり店をオープンしたり、90年代生まれの次世代の若者に向けてカルチャーやファッションを提案するケースが近年目立つ。“アラウンド25歳”のオーナーや起業家に共通しているのが、“自分がおもしろいと思えるもの、欲しいものが他に見当たらなかったので、作るしかないと決意した”という強い思いである。多屋さんのように、10代の頃に憧れていた、カルチャーをもう一度再現したい、という90年代リスペクトの意見も少なくない。
「マスに支持されるメジャーなものばかりが溢れて、インディーズやマイナーなものが絶滅しかけている状況に危機感を感じます。私が憧れていたカルチャーを次世代にも知ってもらいたい、という気持ちが強いですね」(多屋さん)。
取材・文:緒方麻希子(フリーライター)