「here and there」は、林さん独自の視点で編集する国内外のファッション/ファッションデザイナー/ライフスタイルの紹介記事と、アートディレクターの服部一成さんデザインによる日英バイリンガルのインディペンデントマガジン。02年3月に第1号を創刊、以来ほぼ年に一回のペースで発行してきた。発行元はスイスの出版社Nieves(ニーブス)。
10号という節目を迎え、林央子さんは「here and thereは私という個のネットワークと視点をベースに発行してきた。インターネットやツイッターなどの登場でメディアのあり方は大きく変わった。けれども、自由で勢いのあった90年代の『purple』や『i-D』から感じた、個の視点を大事にして“いま”の感性や空気を発見し、すくい上げ、そして切り取るのが雑誌という思いはこれからも変わらない」と述べる。
10号のテーマは「the Blue issue」。スーザン・チャンチオロさん(ファッションデザイナー)、前田征紀さん(現代美術家/コズミックワンダー)、小野塚秋良さん(ファッションデザイナー)、皆川明さん(ファッションデザイナー)ら9人による青をテーマとしたエッセーを中心に、ベルリン/島袋道浩さん(フォトグラファー)、リスボン/エレンフライスさん(編集者)、東京/大森克己さんの3人によるシティガイドを収録した。
“青”をテーマに選んだ理由を林さんは、「自然のなかに見られる色であると同時に、思春期や青春という言葉のように内面世界を象徴する色。『here and there』では、人が立ち止り、沈思黙考する時間をも含むところに青の美しさがあるととらえました」。
VACANTのCircles in Blue展では、同じく“青”を『here and there』誌面とは違った形で視覚化。テキスタイルなどの素材でアートブックを制作し、根強いファンを持つ山田愛子さんといったベテランの作家を筆頭に、伊藤さちさん、川瀬ルアさん、中島紗江さん、メルセデス・ヴィシャルバさん/ mejunje(メフンヘ)といった新鋭のアーティスト5人が、布のインスタレーションやアートブックを制作した。
これまで記憶や時間をテーマに、古着や糸、布などを使った作品を制作してきた伊藤さちさんは、林央子さんの協力を元に、here and there第10号の執筆陣から青をテーマとした衣服やテキスタイルを集め、切り刻み、縫い合わせたブローチを展示。
「世界から集めた衣服の記憶を再構成して、別の形で人の手に渡す。受け継がれる記憶を表現したかった」(伊藤さん)。このブローチは、VACANTで『here and there』10号を買った来場者に先着でプレゼントしている。
[取材・文/横山泰明(「WEAR JAPAN」)]
【概要】
・『here and there』 vol.10発売記念展 “Circles in Blue”
・開催日:2010年10月1日(金)〜 10月11日(月・祝)
・会場:Vacat(東京都渋谷区神宮前3-20-13
OPEN 13:00〜22:00(不定休)
TEL: 03-6459-2962
MAIL: vacant(a)n0idea.com)