“セントラルイースト東京”と呼ばれ賑わいを見せる一角の東神田・清洲橋通り沿いに、2010年5月、輸入ペンキ(ペイント)のショールーム且つ、”色のある暮らし”を発信する複合ビル「パレットビル」http://www.palette-bldg.com/
がオープンした。同店は築50年の地下1階、地上4階建てのビルをリノベーションし、随所にペイントを活用することで、その魅力を提案する。
運営元の(株)カラーワークス(http://www.colorworks.co.jp/top.html)は、国内塗料の卸売業を50年以上にわたって営む秋山塗料(株)の輸入部門として1994年にスタート。「色はコミュニケーションである」をコンセプトに、人と環境にやさしい環境ペイント(水性アクリルペイント)や壁紙の販売、店舗の企画提案、ペイントを使用した新築・リフォーム設計施工などを展開している。同社のペイントが使われた実績は、住宅や病院、表参道ヒルズなどの商業施設と幅広い。
「パレットビル」のプロジェクトを牽引するのは、同社の専務取締役であり、カラーデザイナーでもある秋山千惠美さん。フラワーデザイナーだったという秋山さんは、15年前に米国COLWELL社のカラーデザインスタジオにてカラーデザイナー活動をはじめたそうだ。
「例えばアメリカでは引越の話題になると必ず『壁の色は何色?壁紙は?』と聞かれるほど、ペイントが生活に浸透していますが、日本のビルや家の壁は、白、ベージュ、グレーがほとんどという状況です。カーテンを替えるように壁の色を変化させることで、生活を自分流にできるのは楽しいこと。そのためにも、いろんな人にペイントの手軽さや自由さを知って欲しいと思っています」(カラーワークス専務取締役/秋山さん)。
それを具現化したのが、この「パレットビル」だ。商品のショールーム機能はもちろんだが、国内外のさまざまな色/カラーと人が集う場であり、人と町と混じり合うことで新たなカラーや文化を発信していくという。
今年4月まで世田谷区用賀に構えていたショールームを移転したきっかけは、ガラス張りの以前ショールームでは商品を見せることは可能だが、魅力的な空間提案がしづらかったからという。
「東神田を選んだのは、もともと知り合いが多かったというのもありますが、若いクリエイターが多く、下町ならではの温かさがある街だから。彼らと交わることで、私たちだけでは思いつかない楽しい空間作りをしたいと思いました」(秋山さん)。
空間提案をするためにも、いつでも色を塗り替えて自由にリノベーションができる一軒家を探したそうだ。
築50年の地下1階、地上4階建てのビルをリノベーションした「パレットビル」のフロア構成は、地下1階は値段もコースも1つだけの“注文のいらない料理店”がコンセプトのイタリアンレストラン「Ristorante Renea(リストランテ・レーネア)」、1階にはテイクアウトもできるイタリアンデリ&カフェ「Arimentare e Bar Renea(アリメンターレ・エ・バール・レーネア)」が入居する。誰でも気軽にビルに入れるよう、1階をあえてカフェにしたそうだ。2階は、色のある暮らしを提案するショールーム。同社が取り扱うイギリスの老舗ペイントメーカー「FARROW & BALL(ファローアンドボール)」の壁紙が部屋を彩る。3階は、環境にも人にも配慮された同社のオリジナルペイント「Hip(ヒップ)」のカラーラボ。「Hip」はベースと顔料を調色することで1,488色のカラーバリエーションを実現し、2004年にはグッドデザイン賞を受賞している。専用のマシーンを使い、その場で客の希望の色を5分程度で調色して販売するほか、塗り方のレクチャーも行っているが、実際に「Hip」でのペンキ塗りを体験した人はみな、その手軽さに驚くという。
「なかには『マニキュアを塗るより簡単!』という人もいたほど。人にも環境にもやさしく、においもほとんどないため『くさい、きたない、こわい』という今までのペンキの概念を覆すぐらい、誰でも簡単に安全に、失敗なくペイントを楽しめます」(セールスマネージャー 新井美佐子さん)。
価格帯は、「Hip」0.9Lが3,465円〜、3.7Lが9,702円〜、ペイント道具一式3,129円。
最上階の4階には、ペイントに興味のない方にも「パレットビル」へ来てもらうきっかけになればと、ギャラリーを設置。“誰かの部屋”をテーマにしたギャラリー兼、若手クリエーターへの貸事務所となっている。ギャラリーは、ペイントで部屋の雰囲気を変えられることを伝えるため、展示ごとに壁の色を塗り替えるという「パレットビル」ならではの試みを行っているのが特徴だ。さらに屋上も解放しており、東神田の風景を眺めることもできる。
以前は商店と居住スペースとして活用されていたという同ビル。壁や天井はもともとの素材を活かし、同社のペイントを塗装した。フロアごとに設置されているトイレに「FARROW & BALL」の壁紙を貼ったり、階段に色のグラデーションをつけたりと、色を随所に取入れて見る者を楽しませながら、「色のある暮らし」への想像力が膨らむ提案を行っている。各フロア面積は約40平米。改装設計は、「Design For Asia Award 2009」金賞など多数の受賞歴を持つ建築家である吉村靖孝さんだ。
ターゲットは「暮らしに興味がある人」。特に、これからマイホームを手に入れたり、リノベーションに興味のある30代前半〜団塊ジュニア層や、彼らの親であり孫のために何かをしたいと思う団塊世代層を意識しているそうだ。来客層も30代の夫婦・カップルが中心で、ワークショップ参加者層は20代が多いという。前ショールームでは設計やデザイン関係に従事する客が9割を占めたが、パレットビルへ移転してからは一転。一般客が5割まで増えている。もともと欧米化が進む以前の日本の家屋には、漆喰の壁に代表されるように生活のなかに色があったため、潜在的にも色がある暮らしを求めている層は多いそうだ。
「例えば絵を描くことは上手くできないとコンプレックスになるけれど、ペイントは誰でも完成度高くできる。どの色を選んでも失敗はないし、自分の好きな色を選んで個性を出せるため、自己表現/解放にはとても良いんです。今はブログやファッションなどで自己表現のコンテンツを複数持つ人は多いですが、逆に自分らしさをまとめることに苦労しているように思います。そういうなかで暮らしの基盤となる住居に自分らしさを表現する、洋服を選ぶように壁の色を選ぶということがあってもいいのではないでしょうか」(秋山さん)。
以前弊サイトで紹介した、東コレ参加ブランド「suzuki takayuki(スズキタカユキ)」「KAMISHIMA CHINAMI(カミシマチナミ)」などの自分らしいウェディングドレスをレンタル・オーダーできるブライダルショップ「Cli’O mariage(クリオマリアージュ)」や、ビーズなどのパーツを使って洋服を自分流にデコレーションすることを提案する「マイスター by ユザワヤ 銀座店」など、“自分らしさ”をカギにした業態が30代を中心に支持を得ている。
「もうみんなモノはいらないと思っているし、価値観を、モノを売ること=お金と考えてもおもしろいことはできない。そのためにもモノを売るだけじゃない場が作りたかったんです。人と話してちゃんと伝えて心が通じ合うと、すごくおもしろい広がりになると思っています」(秋山さん)。
また「パレットビル」では随時、「色で暮らしを豊かに」をキーワードに、衣食住に関わる様々な切り口の講座「パレットカレッジ」を開催している。
インテリアセミナーやワークショップなど多様な企画で、ライフスタイルを充実させる新しい可能性を提案していくそうだ。
【取材・文/緒方麻希子】