東京・渋谷の神南、ファイヤー通り沿いにある電力館向いの雑居ビル「テルス神南」。同ビルには弊誌で昨年に取上げたファンタジー系古着ショップ「Grimoire(グリモワール)」など複数のショップが入居し、ファッションに関心の高い若者が集まるビルとして注目を集めている。なかでもセレクトショップ「Hacienda(ハシエンダ)」、古着ショップ「WAGADO(我が道)」は最近の定点観測インタビューでもお気に入りショップとして名前があがったこともあり、取材を行った。今回は、「Hacienda(ハシエンダ)」を紹介する。
セレクトショップ「Hacienda(ハシエンダ)」は2008年3月にオープン。オーナー兼バイヤーを務めるのは、フリーの美容師としても活動する杉山芳邦さん(25歳)。杉山さんは美容学校卒業後に青山の美容サロンに就職、1年後の21歳の時にはスタイリストへと昇格する。独立意識が強く、何かしらの自分の店を持ちたいという思いからサロンを退職。もともと興味があった洋服の店を立ち上げることにしたそうだ。
「同年代のなかでいつも一歩先を進んでいたいという思いがあります。だから必死になってスタイリストになりましたし、22歳で店を持つことにしました。今も昔も基盤となるのは美容師の活動。ですが、美容室を開くには当時は早すぎましたし資金も足りなかったので、元々興味があり、
比較的資金がかからない洋服屋に挑戦しました。モテたい、という気持ちも原動力です(笑)」(オーナー兼バイヤー/杉山芳邦さん)
同店では、お客さんに手頃な価格でインポートの商品を楽しんでもらうため、日本とはシーズンが逆で通貨が比較的安いオーストラリアとブラジルに注目。現地で、シーズンオフの商品を買付けることで、日本国内の流通価格の3分の1〜4分の1程度の価格で販売している。
古着も扱っており、オーストラリアなどで買付けたものに加えて、ブランド古着の買取り・委託販売も行っている。「幅広いブランドを集めると、どうじてもメジャーなものに片寄ってしまい、当店が扱いたいオーストラリアブランドが埋もれてしまう」という理由から、買い取るブランドは限定している。大手ブランド古着店で需要が低く査定額が安いオーストラリアやブラジルのブランドを、同店では査定額を高く設定することで、商品を集めているというわけだ。
商品はレディースまたはユニセックス。取扱ブランドは、インポートは「Alice McCall(アリスマッコール)」「Ksubi(スビ)」「KAREN WALKER(カレンウォーカー)」など、ドメスティックは「fission(フィション)」「H.mildblua(エイチメルドブルー)」など。価格帯は、インポートが約8,000円〜、ドメスティックはほとんどが1点もので1〜3万円程度。
また、若手デザイナーによるドメスティックブランドを扱っているのも特徴。まだデザイナーとしての道が開けていない若手の売り込みを歓迎し、発表の場として積極的に商品を取り扱っている。
「デザイナーを有名にするには露出が不可欠なので、リースは無料にしています。レベルが高い作品をつくるデザイナーがたくさんいるのに、見せられる場所がないのが残念。私自身がスポンサーもコネもなく何とかここまで来たので、若いデザイナーが成功する方法も必ずあるはず。まずは当店に若手の商品を密集させていきます」(杉山さん)
出店場所は、下北沢、渋谷、三軒茶屋を探した。渋谷・神南に出店した決め手は、インポートの価格を比較できる百貨店があることと、原宿と渋谷の中間地点のため高校生やギャル、モード好き、地方から遊びに来た人などさまざまな人が通るため、同店の服を好みそうな層も回遊しているから。面積約10坪の店内は、杉山さんが影響を受けたという1980年代イギリスのマッドチェスタームーブメントの拠点だったクラブ「ハシエンダ」がテーマ。杉山さん自身、映画や音楽をきっかけに洋服に目覚めたという経験から、洋服と音楽を楽しめる空間づくりに注力したそうだ。什器を白や黒でまとめたシンプルな店内は、壁に漆喰を塗ったり、ラックを太い鉄パイプで組立てたりと、杉山さんと友人で手掛けたという。
来客層は男女比1:9。18歳ぐらいの学生から30代半ばまで幅広く訪れる。特に、インポートが欲しくても金銭的余裕がない学生がインポート目当てに来店し、コアなファッション好きはドメスティックを買う傾向があるという。テルス神南にアパレルショップが増えたことで、来客数は増えているそうだ。
雑居ビルの最上階というわかりにくい場所にもかかわらず、コアなファッション好きやスタイリストがドメスティックブランドや、知る人ぞ知るインポートブランドを求めて来店するという同店。マーケットイン発想の弊害から大手アパレルのMDが似すぎている状況のなか、同店や弊誌で以前取上げた若手ドメスティックとオリジナルを扱う「XANADU(ザナドゥ)」のように、自由な発想でもの作りをする若手デザイナーと共に育つ若いオーナー達が、不況といわれるファッション市場に風穴を開けてくれそうだ。
2011年7月には、同じく神南に美容室をオープンするそうだ。
取材・文:緒方麻希子(フリーライター)