六本木駅の近く、麻布警察署裏に位置する六本木ピラミデビル(東京都港区六本木6-6-9)に、4つのアートギャラリーが2011年2月18日、一斉にオープン。都心部に生まれた新たなアートスポットとして関心が高まっている。
オープンしたのは、地上3F/地下1Fの飲食店やショップ、オフィスが入居するテナントビルの2Fと3F。オオタファインアーツ(中央区)、ワコウ・ワークス・オブ・アート(新宿区)、禪フォトギャラリー(渋谷区)がそれぞれ他の場所からの移転。タカ・イシイギャラリー(江東区)は新しいスペースとして「タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム」を設けた。
ビルを所有するのは、大手デベロッパーの森ビル株式会社である。同社は、六本木ヒルズの森美術館、森アートセンター、ミュージアムショップの運営に加え、森アーツセンターギャラリーで開催された「G−tokyo」、一晩で70万人を動員する日本唯一のオールナイト型アートイベント「六本木アートナイト」などにも積極的に参画し、アートをコンセプトとした街の活性化に寄与している。
さらに、今回、六本木ヒルズアート&デザインストア内に併設して「六本木ヒルズA/Dギャラリー」も同時にオープン。合わせて5つのギャラリーが一気に六本後のまちに集まったことになる。
今回のアートギャラリーのプロジェクトは大型の開発でこそないが、発信力のあるコンテンポラリーなギャラリーが集まることでさまざまな可能性を感じさせる。その中心となってきたのがヨーロッパの現代美術アーティストを中心に積極的に日本に紹介してきた「ワコウ・ワークス・オブ・アート」と、アジア各国や国内の現代美術を扱う「オオタ・ファインアーツ」だ。
「東京のコンテンポラリー・アートのギャラリーは、いろいろな場所に点在しているので、なかなか一度に何軒も回るのは難しい。なかなか行きにくいという声を私たちは以前からよく聞きました。ここに移転したのをきっかけに、久しぶりにお見えになったお客さんもかなりいらっしゃって嬉しいですね。周辺の美術館から流れてくるお客様もかなり多いようです。美術館やギャラリーが近くにいくつもあることで、お客さんも多角的にアートを楽しむことができるんじゃないでしょうか」(ワコウ・ワークス・オブ・アート 大坂直史さん)
六本木駅からも近く、アートやデザインに敏感な人が多く集い、また森美術館・国立新美術館・サントリー美術館の3館で形成される“六本木アート・トライアングル”のすぐ近くという立地は、出店するギャラリーにも、訪れる観客にとっても魅力的だろう。
また、「禪フォトギャラリー」と「タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム」は、ともに写真を専門とするギャラリーだ。2009年に写真家マーク・ピアソンが渋谷で開設した禪フォトギャラリーは、現代中国を中心にアジアの写真を専門としている。タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムは清澄白河と京都に続く3つめのギャラリーで、特に写真と映像作品を専門に扱っていくという。
「こちらのスペースではヴィンテージプリントにフォーカスした企画を開催していきます。戦前・戦後世代の写真が好きな方が見たいのはやはり写真で、現代美術はまた別の世界なんです。そこに的を絞った空間を作りたいと以前から考えていたところに、ワコウ・ワークス・オブ・アートにピラミデビルへお誘いいただきました。清澄白河と比較すると、お客さんの数は数倍という感じでしょうか。ふと立ち寄ってくださる方も多いですね」(タカ・イシイギャラリー 増山貴之さん)
また、「六本木ヒルズA/Dギャラリー」では、アートをコレクションする楽しみを提案。より気軽にアートや関連商品を買うことができる。
いくつものアートギャラリーやショップが一体となって開催する予定だった2011年の六本木アートナイト開催は、震災の影響で残念ながら見送りとなってしまったが、今後、企画面での連動だけでなく、森ビルとの連動によって告知/広報活動ができるメリットも大きい。六本木のアート情報という形で各ギャラリーがニュースを発信していることも、集客に貢献しているようだ。
コンテンポラリー・アートの魅力を伝える上で森美術館をはじめとするコマーシャル・ギャラリーの存在は重要だ。現在のところ、年に2回オープニングの時期を合わせて相乗効果を図っていくということだが、いずれは森美術館だけでなく、周辺のミュージアムや六本木ヒルズ内の施設などと連動した企画ができればさらに面白くなりそうだ。
「この10年くらいで、コンテンポラリーアートに興味を持つお客さんがずいぶん増えました。昔は30〜40歳代のコレクターなんて昔は全くいませんでしたからね。それを考えると、土壌はできつつあると思います。まだまだ作品を買うところまでの経験している人は少ないですが、その入り口として“作品を鑑賞する”という機会をどんどん提供していきたいですね」(大坂さん)
[取材/文:本橋康治(フリーライター)+「アクロス」編集部]